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あまのがわのほとり

あまのがわのほとり (主人公と猪狩守)

 ライバルだった。友達だった。同級生だった。幼馴染みだった。恋人だった。家族だった。オレと猪狩って、たぶんそういう関係だった。

 きらり、夜空を翔る流れ星。頭の上を通り過ぎていったそれを目に入れたとき、不意にそんなことを思い付いた。走馬灯のようで、デジャビュのようで、未来のことのようにも思えた。ぽかり、口を開けたままほうけているオレを、猪狩は不思議そうな顔で見ている。正面からかち合う猪狩の瞳。青。まるで海のようで地球のようで、星のようでもあった。オレにとってはさっき見た流れ星よりも美しいものだ。それはたぶんずっと、今までも、これからもそうだった。
「さっきの流れ星。見た?」
「どこだい」
「もう見えないよ」
 空を仰いで星を探す猪狩の横顔。まあるいお月様の照らす光の下で、それはよく見えた。
「猪狩。さっきの返事」
「ボクの答えはいつだって決まってるよ」
 そんなの初耳だ。そう言うと、猪狩はくすくすと楽しそうに笑ってみせた。隣におまえがいること自体が答えであると、今夜のオレはまだ、気が付けないでいる。


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おぼえているよ

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おぼえていてね

おぼえていてね (主人公×猪狩進)

 例えば、ドラマの中で登場人物が涙を流すシーン。目尻からスッと一筋涙が流れて、旬の役者がぽろぽろと零す涙はまるで宝石のよう。オレにとって、他人が涙を流すシーンというのはそういうものだった。だから、目の前で嗚咽を漏らすその人に、オレは気の利いた一言すらも出てこない。
 進くんが、泣いている。野球部の後輩である彼と、一緒になってこっそり居残り練習をした帰りであった。あまりに驚いて、オレは直前のやり取りすら思い出せない。それでも、オレのせいで彼がこんなになってしまっていることだけは分かった。ぼろぼろと零れる雫が、彼のユニフォームを濡らしていく。流れる涙を拭って、彼が目蓋をぐいぐい擦るものだから、目元はすっかり腫れてしまっていた。
「どうして、兄さんじゃなくて、僕のことが好きなんて、言うんですか」
 嗚咽に紛れて、そんなことを言う。オレは本当に困ってしまって、何度同じことを尋ねられても同じことしか答えられない。悲しいというよりは、怒っているようなニュアンスで、彼は何度も尋ねる。会話は平行線だ。
「きみと猪狩を比べたことがないから、分からないよ」
 そう言うと、ようやく収まってきた嗚咽がまた大きくなって、とうとう彼は堰を切ったようにわんわん泣き出してしまった。いつも朗らかに微笑んでいる聡明な彼が、鼻の頭を真っ赤にして、まるで子供のようだった。
「僕のこと、嫌いになったでしょう」
「まさか」
 少し落ち着いたあと、ふて腐れたようにしながらぐずぐずと鼻を鳴らす彼は、本当に子供のようだった。一度も見たことのないその表情はあどけなくて、かわいらしかった。持っていたタオルを差し出すと、彼は素直に受け取って、しかし顔を埋めるようにして動かなくなってしまった。
「恥ずかしい、見ないでください」
「まあ、いいじゃないか。こんな日だって」
「いやだ、見ないで」
「進くん、あんな顔もするんだね」
「お願いです、忘れてください」
「忘れられるわけないよ」
「ごめんなさい、こんなみっともない」
「みっともなくはないけど、オレの前だけにしといてね。もったいないから」
「もったいない?」
「うん。それに、あんな顔を見たら、みんなきみのことが好きになっちゃう」
「そんな物好きな人、いません」
「ここにいるけど」
 そう言うと、進くんはようやくタオルに押し付けていた顔を上げてくれるのだった。泣き腫らしたその顔は今までに見たこともない表情で、オレは笑った。
「ひどい。笑いましたね」
「ごめん、つい」
「ひどいです」
「ねえ。聞くけどさ。進くんのどの辺が、猪狩に似てるの?」
「え」
「進くんは、自分のどこが猪狩に似てると思うの」
「顔、とか」
「猪狩のそんな顔、見たことないけど」
「そういうことじゃないです」
「あとは?」
「野球、してる、ところとか」
「じゃあオレもじゃん。オレも野球してるから、猪狩に似てるってことになるけど」
「だからそういうことじゃないです。違います」
「違わないよ」
 きょとんとしている彼の鼻の頭をつまんで、オレは呼び掛けた。
「進くん」
「……」
「進くん」
「はい」
「うん。進くんだ」
 鼻をつままれた進くんは、不本意そうに眉をしかめて、そのあとで困ったような顔で笑ってくれた。ほろり、最後に一筋だけ頬をすべった美しい涙は、まるでドラマのワンシーンのよう。テレビの中の役者顔負けの真剣な表情で、オレは彼を抱き寄せる。寄せた唇、勢い余って歯をぶつけてしまったのは、なるほどご愛敬である。オレの恥ずかしさなど、彼の笑顔に比べたらなんでもないものだ。
 ちょっぴりかしこまったあと、改めて目を瞑った進くんは、たぶんいまこの世界でいちばんかわいらしい。そういうことを考えながら、オレはかわいいかわいい彼の唇にそっと口付けた。




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考えるな感じてほしいし主進しあわせになってほしい
恋愛未満な二人が書きたかったのに勝手にイチャコラはじめおって!

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今日の日はさようなら

今日の日はさようなら (主人公と猪狩守)

 受け取るんじゃなかった。そうは思っても後の祭り、猪狩は半ば無理矢理渡された包みに目を落とした。応援しています、シンプルなメッセージカードが添えられたそれは、菓子か何かだろうか。手の中のそれを見つめながら、猪狩にしては珍しく溜息をつくのだった。
 廊下を歩いているところを呼び止められたのは、つい先程のことだ。あの、猪狩くん。恥じらいながらこちらを見つめる女生徒。正直なところ、猪狩にとってはそれほど珍しくもない日常であった。いつものようにファンの女生徒から声を掛けられたとばかり思った猪狩は、慣れた様子で振り返った。ファンサービス、雑誌の記者にする受け答えのように、スカウトへ人当たりの良い笑顔を見せるように、猪狩は微笑んだ。
「あの、これ、パワプロくんに渡してほしくって、あの」
 だから、女生徒の口からそんな言葉がこぼれて落ちたとき、猪狩は自分がどんな顔をしたのか分からない。きっとさぞや間の抜けた顔をしていたことだろう。ぼんやりしている猪狩に構わず、女生徒の方は半ばまくしたてるように用件を告げるのだった。要するに、自分の代わりにパワプロへ差し入れを渡してほしいと言うことらしかった。最近の猪狩くん、パワプロくんとすごく仲が良さそうだから。
 渡されたそれを猪狩が思わず受け取ってしまったときには、すでに女生徒は風のように姿を消していた。呆気にとられた猪狩は、誰もいない廊下の先を黙って見つめるほかなかった。
 経緯はどうあれ、受け取ってしまったからには、渡さないわけにはいかないだろう。苦い気持ちになりながら、猪狩は手の中のそれを改めて見る。どうして、このボクが。よりにもよって、あのパワプロに。感情の矛先は、女生徒ではなく、パワプロの方に向いていた。的外れな感情が、ふつふつと沸いては止まらなかった。あの、パワプロに!
「よお、猪狩」
 振り返らなくても、分かった。こんな風に呑気な声で自分の名前を呼ぶ男は、この学校に一人しかいない。それにしてもなんというタイミングであろう。もう少しこいつが早く現れていれば、ボクはこんな目に遭わずに済んだというのに。そんな気持ちはおくびにも出さず、猪狩はつとめていつも通りを装って振り返った。手の中のそれを、そっとパワプロの方へ差し出す。
「ほら。渡したからな」
「えっ?なにこれ?お前が、オレに?」
「そんなわけないだろう。キミのファンだという女生徒に、さっき頼まれたんだよ。確かに、渡したからな」
「えー!?オレに?」
 嬉しそうに色めき立ったパワプロは、飛び上がるようにして喜んだ。その嬉しそうな顔を見ていると、先程まで沸き上がっていた感情が煮え立つようであった。腹の底が焦げ付くような居心地のわるさは、今までに感じたことのないものだ。だから、感情そのままに言葉がついて出る。
「甲子園に出ると、キミのような人間にもファンが現れるんだな」
「いちいち引っかかる言い方だなー。でもいいや、そっか、オレのファンかー!どんな子だった?名前は?」
「知らないよ」
 本当に知らないのに、パワプロはしつこく尋ねてくる。やっぱり、受け取るんじゃなかった。後悔先に立たずとは、まさにこのことである。廊下ではしゃぎ回るパワプロを、さっきの女生徒に見せてやりたいと猪狩は思った。こんなに喜ぶのだ、やはり自分で伝えなければ、意味がない。この気持ちが、どこかの誰かに、先を越されてしまう前に。
 自分ではない他の誰かに、とられてしまう前に。
 そう思い付いたとき、猪狩は驚いて思わず声をあげていた。
「えっ?」
「猪狩?どうしたんだよ」
「いや…」
「あ、そうだ。ここで会ったついでに、数学の教科書持ってたら貸してくんない?」
「…また忘れたのかい」
「宿題ごとな!」
「胸を張るんじゃない」
 いつもの調子が戻ったことにほっとして、猪狩は人知れず息をついた。芽吹いた感情がこれからどんな変化をもたらすのか、猪狩自身すらもまだ、預かり知らぬことだ。
 吹き抜ける風は、いつの間にか夏から秋の匂いへと変わっていた。




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こんな女いる?(いねー!)
主守を主守たらしめる装置として登場してもらいましたよごめんなさいね
片思いする守さんがムーブメント

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泣いてもいいよ

主人公と猪狩守


泣いてもいいよ

 そう言うと目の前のそいつは本当に泣き出してしまったから、ボクは黙ってそれを見ていた。ぽろぽろ、ぽろぽろ。流れる涙と一緒に言葉が落ちていく。学生の頃から好きだったこと。プロ入りしてからもやっぱり諦められなかったこと。思いを告げたら振られてしまったこと。
 そういうことを一方的に話して、パワプロは泣いている。ぽろぽろ、ぽろぽろ。もっと泣けばいいと思った。そうして彼の中の悲しい、未練、慈しみ、そんなものがぜんぶぜんぶ流れてしまえばいい。

 泣いているパワプロを見ていると、不思議な既視感があった。まるで自分を見ているようだ。彼が見知らぬ誰かに抱く恋慕の情、それはそっくりそのまま、自分が彼に抱くそれであった。学生の頃から好きだった。プロ入りしてからも諦められなかった。だから、ボクも、思いを告げたら、振られてしまうのだろう。目の前の、パワプロと同じように。
 おまえには、泣いてもいいよなんて言ってくれる人間がいるのだから、いいだろう。ボクがおまえに振られて泣いたとき、ボクは誰にそれを言ってもらえばいいのかな。


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もちろんこのあとくっ付くんですけどね(情緒クラッシュ)
主人公さんはノンケなのがほんとうにさいこうに好き

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ほしぞらは粉砂糖にかわる

主人公×猪狩守


ほしぞらは粉砂糖にかわる

 夜の匂いがする。
 そういうようなことを言うと、隣を歩く猪狩は興味がなさそうに、ふうんと言った。オレも猪狩も酔っていた。居酒屋からの帰り道、頬を撫ぜる夜風がすがすがしかった。
 オレさ、猪狩のこと好きなんだ。ふうん。
 そういうような会話を繰り返して、オレと猪狩は歩いている。夜。いつか、猪狩と三球勝負をした河原は、宵の闇にまぎれて水音だけが聞こえて来る。落っこちたら危ないだろう。川べり、もう少しすれば夜には蛍が飛び交うようになるだろう。
「猪狩、結婚しようぜ」
「いいよ」
 オレも猪狩も酔っていた。だからオレは、隣を歩く猪狩の手をそっと掴んで繋いでみたし、猪狩もそれについて何も言わない。
 酔っている猪狩は、いつも眠ってしまってこんな風に歩けないことをオレは知っている。酔っているオレは、こんな風に饒舌に話さないことを猪狩は知っている。オレたちは、知っているから、酔っているのだ。
 夜空をまたたく星が、燦々と降り注ぐ太陽の光に変わるとき。オレも猪狩も今夜のことをちゃんと覚えているものだから、二人揃ってちゃんと恥ずかしい思いをするのだろう。
 夜明けはもう、そこまで来ている。



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ポエムーーーーーーー!!!!!!!!!
最大瞬間風速主守poem
いいよねだって主守だもん

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幾星霜

幾星霜 (主人公×友沢亮)

 殴られる。そう思ってきつく目を瞑ったオレに待っていたのは、予想外の衝撃だった。覚悟した衝撃が頬ではなく、唇に降ってきたのだ。それも拳ではなく、友沢自身の唇によって。オレの胸倉を掴んだままの友沢の手は、妙に熱を帯びていた。
 どうしてこんなことになったのか思い出せない。二人きりの部室、最後まで居残ったオレと友沢で取り留めのない話をしていたのがほんの少し前の話。つまらないことで言い争いになって、珍しく激昂した友沢に胸倉を掴まれた。こんなに怒った友沢を、オレは初めて見た。友沢の瞳は燃えるように瞬いている。服を掴まれたまま乱暴に引き寄せられ、間近で目が合うと不自然な沈黙が降りた。殴られる。そう思ってオレは、覚悟を決めて目を閉じたのだ。そうして降ってきたのは、唇に柔らかな感触。すぐには分からなかった。キスされている。オレが、友沢に。
「……」
 閉じられていた目蓋がゆっくりと持ち上がると、きれいなエメラルドが見えた。押し付けていた唇を離した友沢が、静かに離れる。
「お前が、くだらないことを言うからだ」
 友沢の口ぶりは、まるでオレが全部悪いみたいで、それでいて罪悪感を露わにしたなんとも言えないものだった。離れる直前、歯を立てられた唇をオレは無意識に舐めていた。もしかしたら、少し切れているかもしれない。確認するように舌を這わせる。
「お前のせいだ…」
 繰り返した友沢は、力なく項垂れた。無理矢理キスされたのはオレで、無作法に胸倉を掴まれたのはオレの方なのに、なんだかこっちが悪いような気すらしてくる。こんなにも感情を剥き出しにする友沢は、初めてだった。
 友沢はいつもいろんなことに無関心そうで、そして素っ気なかった。それはもちろん、オレと話している時でさえ。それなのに、今日の友沢は大層苛立っているようで、そしてそれと同じくらい悲しんでいるようにも見えた。
「友沢って」
「言うな」
「友沢」
「うるさい!」
 思わず、「泣くな」などと続けてしまった自分に驚く。そして驚いたのはオレだけでなく、言われた友沢の方も同じだったようだ。いつもの仏頂面に戻った友沢の顔が不機嫌そうに歪んだ。
「友沢、どうしたんだよ」
 苦虫を噛み潰したような顔で、友沢は部室の壁を睨み付けている。その眼差しはゆらゆらと揺れていた。その逸らした瞳から、涙が、滴が、何か大切なものがこぼれ落ちてしまうのではないだろうかと、オレは妙な心配をしてしまう。初めて間近で見た友沢の目は、そのくらいきれいだった。
「友沢、どうしてオレにキスしたの」
 友沢は答えない。自分で尋ねておきながら、返事は期待していなかった。
 両手で頬を挟み込むように掴んでも、友沢は嫌がらなかった。いつもの無表情、いや、熱を帯びた眼差しだけが一心にこちらを見つめていた。
 もう一度合わせてみたら、何か分かるかもしれない。言い訳は、そのくらいで十分だろう。目蓋を下ろした友沢に、オレは静かに口付けた。




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主人公ちゃん、いったい友沢に何を言ったんだ
胸倉掴んでキスをする沢がすきすぎる候

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blood night

※アプリ版ヴァンプ高校設定
主人公×猪狩守


blood night

 血が飲みたい。練習中、チームメイトが転んで擦りむいた膝小僧、それを見てまさかそんなことを思う日が来るなんて。ごくり、飲み込んだ生唾を誤魔化すように、スポーツドリンクを手に取って一気に飲み干した。
 ボールを落っことして、それを追いかけて転んで、気絶して、大きな屋敷のこれまた豪勢なベッドの上で目覚めたとき、自分は吸血鬼になっていた。そんなこと、信じられるだろうか。しかし、どれだけ否定しようともそれが真実だった。現に今の自分は、日光に弱く、血を吸わねば体調を崩す身体になってしまっていた。
 そろそろ本当に血を飲まなければ、どうにかなってしまいそうだ。自分をこんなことにした本物の吸血鬼、神良美砂が言うには、そんなものは自分で調達してこいとのことだ。理屈は分かっていたとして、簡単に出来るのなら苦労はしない。
「なんだキミ。まだ残っていたのか」
 ガチャリ、部室のドアノブを回して入って来たのは猪狩だった。今日も遅くまで自主練習していたのだろう、その額には大粒の汗が浮いている。それをタオルで拭った猪狩は、オレのことなんかちっとも気にしないそぶりで着替えを始めた。汗を吸ったアンダーシャツ、それを脱ぎ捨てると、猪狩の素肌が露わになった。ごくり。昼間と同じように、手元のドリンクを飲んでやり過ごそうとしても、渇きはちっとも収まらない。
 いよいよ限界だ。もうどうなってもいい。そう思って背後から猪狩に近付いてそこへ唇を寄せたとき、不意に猪狩が振り返った。
「キミ。何してるんだい」
「えっと、その、あはは…」
「最近キミの様子がおかしいのは気が付いていたけど、それはさすがに失礼なんじゃないのかい」
「えっ、猪狩、お前まさか気付いて」
「いいか、こうやるんだ」
「んっ?」
 猪狩の両腕が首の後ろに回されて、そのまま頭を固定される。なんだと思う間もなく、それは重なっていた。
 キスされた。そう思ったときにはもう、猪狩はすでに腕を解いて離れてしまっている。
「なっなっな、猪狩、おまっ、なに」
「キミは、キスも知らないのか?」
「そうじゃなくて!なんで、いきなり!」
「キミが物欲しそうな顔をしているから、ボクからしてやったんだろう」
 フン、と鼻をならしている猪狩がなにを考えているのかさっぱり分からないが、その顔は確かに血色良く上気していた。それを見て、あらゆる欲求が噴き出すように、身体が熱くなった。血が飲みたいどころの話ではない。火を付けたのは、お前だ。
「もう、我慢出来ない」
「……」
「猪狩、猪狩、猪狩、いかり」
「…聞こえているよ」
 手始めに、その美味そうな、ずっとむしゃぶりつきたいと思っていた首筋に噛み付いた。猪狩が、小さく呻き声のような声を上げる。やめられない。やめられるわけがない。これがどんな欲求なのか、オレにはもう分からなかった。
「ああ、猪狩…」
 物欲しそうに開いた猪狩の唇に自分のそれを押し付けて、オレはとうとう戻れない扉を開けてしまったのだった。今夜は長そうだと、それだけ思った。




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守さんの血を飲むってえっちすぎません?
私も飲みたい

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溶けるアイスクリーム

溶けるアイスクリーム (主守)

「キミって、本当にバカなんだな」
 斜向かい、二段重ねになったアイスクリームを食べている猪狩がそう言った。言いながら、アイスを食べる手はもちろん止めない。
「せめて、もう少し意義のある発言をしたらどうだい」
「オレにとっては、意義どころか超重要なことなんだけど」
 オレがむくれてみせても、猪狩はどこ吹く風である。二人で映画を見た帰り、猪狩は大層機嫌が良さそうだった。だから軽口ついでにちょっと尋ねてみただけだ。猪狩って、ほんとにオレのこと好きなの?
「このボクが、ここまでしてやってるんだぞ」
「アイス食べてるだけだろ」
「そういうことじゃない」
 猪狩の好きな、バニラとストロベリーのアイスクリーム。早く食べないと溶けてしまうのに、猪狩はいつもゆっくり食べる。オレはもう、とっくに食べ終わってしまったのに。
 少し伸びた前髪をかきあげながら、猪狩がこちらを見る。そんな仕草すらいちいち様になっていて、格好良いなあなんて見惚れてしまうオレは、確かに猪狩の言う通り馬鹿には違いなかった。仕方ない、猪狩は格好良いのだ。
「このボクが、今日はトレーニングよりもキミを優先して付き合ってやってるんだぞ」
「いや、そもそもあの映画見たいって言ったの猪狩じゃん」
「そうだったかな」
 しらじらしく言った猪狩が笑っている。やっぱり、今日は本当に機嫌が良さそうだ。何か良いことでもあったんだろうか。それをそのまま尋ねると、猪狩はどうしようもないものを見るような目でこちらを見返すのだった。
「どうしようもないな、キミは」
「何がだよ。猪狩がやけに楽しそうだから、なんかいいことあったのかって聞いただけだろ」
「そんなの、キミと一緒にいるからに決まっているだろ」
 アイスを舐めながら、猪狩はなんでもないように言う。コーンの部分に辿り着いた猪狩が、それを美味そうに齧っているのをぼんやりと見ながら、オレはようやくその言葉の意味を理解して、一気に顔に熱が集まった。
「オレ、もう一個食べようかな」
「腹を壊すぞ」
「じゃあ、それ一口ちょうだい」
「あっ、おい!」
 食べるのが遅い猪狩のせいで、アイスはすっかり溶けてしまっている。それは今まで食べたどんなアイスよりも美味しくて、オレはもう笑うしかなかった。つられて笑った猪狩の顔は、溶けたアイスクリームよりも甘かった。




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めちゃくちゃイチャイチャしてる。主守だから。

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夏が来る

夏が来る (主人公×猪狩守)

「おまえのことが、好きだ。」
 そういうことを自分に向かって言った人間が、今日も呑気な顔をして隣を歩いている。そうして話す内容は実に平々凡々代わり映えのないもので、今日も天気が良いだとか、昨日のプロ野球の結果がどうだとか、そんなことだ。そんな話に無難な相槌を打っている自分も自分であった。
「なあ、猪狩」
 そうやって自分の名前を呼ぶパワプロの顔は腑抜けた間抜け顔なのだが、なかなかどうして、その顔がボクはキライではなかった。よくもまあそんなに、嬉しそうにして笑うものだ。その顔をさせているのが他ならぬ自分自身なのだと思うと、今までに感じたことのない気持ちになる。だってパワプロは、ボクのことが好きなのだ。典型的な告白、そして模範的な回答。その結果が、現在の「これ」だった。
「そういえば、この前進くんに会ったんだけど」
 急に弟の名前が出たことに、ボクはぴくりと眉根を動かした。どうやら、休日に偶然本屋で弟に会ったようだ。その日の進は、料理の本を見ていたらしい。「進くん、料理も得意なんてすごいね」、パワプロが言う。そうだ、ボクの弟はすごいのだ。野球が出来て、料理も出来て、もちろん勉強だって出来る。自慢の弟だ。そう思うのに、ボクの口は重く閉ざされたまま、何も言うことはなかった。
 そのうち、本屋の後に二人で一緒にバッティングセンターに行った話が続いた。そんなのは、初めて聞いた。進も、そんなことは今まで一言も言っていなかった。ボクはこっそりと息をつく。何も変わらないのに、こんなところばかりが変わってしまった。変わらないというのは、交際を始めてからも今まで通りのパワプロと自分のことで、変わってしまったのは、くだらぬことに嫉妬心を覚えるようになったことを指す。大変バカらしいことだと思う。そうだとは思うのに、やめられないのもまた、バカのようだった。
 ボクとパワプロの実質的な関係性が変わらないのなら、余計なことを言わないでいて欲しかった。そう思う。そうすれば、ボクは今まで通りに過ごしていて、余計な勘ぐりもしなければ、くだらぬ嫉妬心を抱くこともなかったのに。これはぜんぶお前のせいだ。
「猪狩さ。それって、わざとやってるの?」
 なんのことだ。問おうと顔を上げたところで、パワプロが赤い顔でこちらを見つめているものだから驚いた。なんのことだ。やはり、声にはならなかった。パワプロが、覆いかぶさるようにしてこちらを覗き込む。声を上げようとした唇に、それは柔らかく重なった。ぎこちなく押し当てられただけのそれがゆっくりと離れていく。
「猪狩のばか」
「はあ?」
「ばーかばーか!」
「バカとはなんだ!」
 勝手に先を行くパワプロを追い掛ける。わけの分からぬことばかりだ。さっきのあれも、パワプロの態度も、きちんと説明してもらわなければ困る。
「おい」
「なんか、やだ」
「なんの話をしてるんだ」
「オレばっかり、猪狩のこと好きみたいで」
「はあ?」
 漏れたのは心からの声だったが、パワプロには不服であったらしい。
「そういうとこだよ」
「どういうところだ」
「猪狩、オレが告白した後もいつも通りの態度じゃん。オレが誘っても普通に断るし。野球の方が好きだし大事だし一番だし」
「当たり前だろう」
「なのに。オレが誰かと遊びに行った話とかすると、あからさまにヤキモチ焼くようになってさ。そんなのずるいよ。困る。猪狩のこと、もっと好きになっちゃうじゃんか」
「……」
「…黙るなよ」
 何も変わらないなんて、ウソだった。自分もパワプロも、こんなにも変わってしまった。
「キミこそ」
「ん?」
「勝手にああいうことをするな」
「嫌だった?」
「…イヤじゃないから、困る」
「猪狩!!」
「いちいちくっ付くな、暑苦しい、そもそもここは往来だ!」
 がばり、勢いよくこちらを抱くその腕の中に閉じ込められる。暑いのに、練習後で汗臭いのに、道端でみっともないのに、それを嬉しいと思ってしまう自分に言い訳するように目を閉じた。顔が熱いのは、夏のせいだ。そういうことにする。ぜんぶぜんぶ、夏のせいだ。だから、今度はゆっくりと降りてきたその唇に再び瞼を下ろしたのも、夏のせいに違いなかった。



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日本の夏、主守の夏
たまにはこういう主人公ちゃんもかわいいですね

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世界のまんなかで

世界のまんなかで (7/巨人)

 猪狩が泣いている。猪狩というのは、同期入団したチームメイトのことであり、落ちこぼれのオレとは違い、すでにエースナンバーを背負う器とも噂されている天才エリートの猪狩守のことである。そんな猪狩が泣いているところを、オレは見てしまった。
 自信過剰ともいえる不遜な態度、高飛車で傲慢な物言い、しかし猪狩はそれらをぴしゃりと黙らせてしまうほどの実力と実績があった。それらは、猪狩の並々ならぬ努力の結果に過ぎないことにオレはこの頃気付きつつあった。
 だから、練習が終わったあと、室内演習場で猪狩が一人で投げ込みしているのを見たオレは、別段なんとも思わなかったのだ。ああ、またやっているんだな。オレも一緒に、もう少し練習しようかな。投げ込みしている猪狩が、ぼろぼろと涙をこぼしていることに気が付かなければ、オレはそんな風に声を掛けていたに違いない。
 忘れ物の携帯を取りに戻ったことも忘れて、オレはぼんやりしていた。明かりの漏れる室内演習場、オレが戸のすぐ近くに立っていることにも猪狩は気付かない。猪狩は、ただ真っ直ぐ前を見て、ボールを投げていた。溢れる涙を拭うこともしないで、それはある種の異様な光景にも見えた。
 そのうち、投げるボールがなくなって、猪狩はその場に立ち尽くしていた。ネットに散乱するボールを拾うこともしないで、猪狩は黙って立っている。いつもは上を向いている猪狩の野球帽が、今日はなんだか下を向いて項垂れているように見える。おかげで、猪狩の表情は見えなかった。照らす照明、散らばるボールの中で猪狩は一人で立ち尽くしていた。まるで、世界の真ん中にぽっかりと一人浮かんでいるように。
 思い返せば、今日の猪狩はずいぶんと機嫌が良かった。いつもはオレや矢部くんに嫌味しか言わない猪狩が、にこにこと自ら話しかけて来たのは不気味ですらあった。「ボクの弟が、入団して来るんだよ」、そう言った猪狩はやっぱり笑っていて、弟が自分と同じ巨人軍にやって来ることを心から喜んでいるようだった。なるほど、今日はドラフトの日であり、そして結果として猪狩の弟は巨人には入団しなかった。逆指名でオリックス・ブルーウェーブ入りを決めたことをテレビは放送していた。それを見ていた猪狩の表情は、今までに見たことのないものだった。しかし、そのあとの練習では、猪狩はすっかりいつも通りであったので、オレは弟の話などほとんど忘れてさえいたのだった。
 そもそもオレは、弟どころか猪狩自身のことをよく知らない。相当な自信家であること、どうやら資産家の息子であるらしいこと、嫌味を言う割にはチームメイトに誘われたすき焼きパーティにちゃんと肉を持って来ること。オレが猪狩について知っているのはそのくらいのことで、家族のことなんて何一つ知らない。ただ、想像することは出来た。野球が好きな猪狩、猪狩と同じく野球をしている弟、兄弟揃ってプロ入りすることの意味。
 戸の向こう、猪狩は一度だけ帽子を取り上げてかぶり直すと、今度は黙って散らばるボールを拾い始めた。どれだけ投げたらこんなことになるのか、改めて見るとボールは酷く散乱していた。その横顔からは、涙はもう見えなかった。
「よお、猪狩」
「…キミかい。なんだこんな時間に」
 突然声を掛けても、猪狩はさして驚きもしなかった。いつもの猪狩のように、オレのことなんかちっとも構わないでボールの後片付けをしている。置き忘れた携帯を拾ったオレは、なんとなく猪狩の片付けを手伝うことにした。一瞬だけ意外そうな顔をしただけで、猪狩は何も言わなかった。鼻の頭はまだ赤くて、近くで見ると涙の跡がくっきり頬に残っていた。
 猪狩が投げ込んでいたのは、ネットではなく、きっと弟の構えるミットだったのだろう。ボールを拾いながら、オレはそんなことを考えていた。




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7の兄弟関係がほんとうに好きなんだ

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