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あなたの知らない恋心

※先天性で女の子な猪狩守ちゃん注意
(主←)守←進


ああ、またかとげんなりする。
柔らかな日差しが差し込む心地よい朝とは裏腹にボクの気分は最悪だった。
下腹部に鈍い痛みを感じながら起き上がる。動くと下半身がぬるりと冷たかった。
この様子では下着や寝間着にまで血が付いているに違いなかった。
壁にかけてあるカレンダーを眺めて、そういえばもう一月経つのかと己のうかつさを呪う。
どういうわけか寝ている間にくることの多いボクは、日が近くなると用意をしてから寝るのが常だったからだ。
そろそろと起き上がり布団をめくるとシーツにまで赤いものが付いていた。

使用人を呼んでシーツを片付けさせる。
お嬢様お召し物を…という声を振り切ってボクは洗面所へと向かう。こんなものを他人に洗ってもらうのは絶対にイヤだった。替えの下着と服を持ってボクは洗面台の前に立った。

ひととおりキレイになったそれらを洗濯待ちの籠にぽいと入れるとボクはついでに着替えることにした。
何しろ腹が痛いので体に力が入らない。のろのろとした動作でそれらを終えると、ボクは常備してある薬を飲んだ。
他人はどうか知らないが、ボクは初日にいちばん症状が重いことが多い。何もする気になれなくてボクはもう一度布団へと横になった。

「姉さん」

ノックの音に返事をすると、進が部屋に入ってくる。
朝一番に使用人がシーツを換えていることから合点がいったらしい弟はボクの顔を心配そうに眺めている。月に一度のよくある光景だ。

「姉さん、大丈夫ですか」
「いつも通りだ。薬も飲んだし、少し横になってる」
「無理はしないでくださいね」
「今日は一緒にロードワークに出る約束をしてたのに、ごめん」
「そんなこと気にしないで」

優しい弟は困ったようなはにかんだような顔で微笑んだ。
月経の痛みとホルモンバランスの乱れからくるイライラで面白くない顔をしているボクの頬に進の指が触れた。

「姉さんこわい顔してる」
「…してないよ」

布団越しに、進の掌がボクの下腹部をなでた。
ゆっくりと腹を撫でる進の動作にある種の心地良さを覚えてボクは少しだけ目をつむる。
こうして進がボクの腹を撫でるようになったのはいつからだったろうか。

中学に入学してすぐ、ボクは初潮を迎えた。
初めて経験する下腹部の鈍痛と、あらぬ場所から血が出るという事実にボクはおののいた。
なによりも、野球に対する姿勢が変わってしまうのが苦痛で仕方がなかった。
どんなにボールを投げたくても、腹の痛みでそれが叶わない日があった。どんなに対処をしても、下半身に感じる不愉快さからは逃れられなかった。普段通りの野球ができない、がんばっても己の努力だけではどうにもならないことが歯がゆくてたまらなかった。
ボクはただ野球がしたいだけなのに。

野球には不向きな女の身体を、女である自分のことを悲観したことは何度もある。
嘆いたこともあるし、そういう内容を進にだけは零したこともあった。
そのたびに弟は悲しい顔をして、「そんなことを言わないでください」とボクをたしなめるのだ。姉弟の立場が逆転するのはこのときだけだった。

「そうだ。今日は僕が紅茶を入れましょう。姉さんはアッサムが好きでしたね」
「いいよ、使用人に任せれば」
「そんなこと言わないで、たまには僕にもやらせてくださいよ」

そう言うと弟は紅茶のセットを取り出すと嬉々として準備を始めた。
その様子はボクに気を使っているというよりは、本当に自分がやりたいからやっているという感じだった。進は昔から紅茶を入れるのが好きだったし、確かに上手かった。それは高校生になった今も変わらない。

「今日はミルクをたっぷり入れたミルクティにしましょう。体も温まりますよ」

起き上がって、渡された紅茶に口をつける。
ミルクは並々たっぷりと、砂糖はほんの少しだけ。ボクの好きな、いつもの進が入れた紅茶だった。

「おいしい」
「ふふ。それは良かった」

にこにこしながら進も同じ紅茶を飲んでいる。ミルクティよりもストレートで飲むことを好む弟だったが、今日は自分と同じものを飲んでいるようだ。
体が温まるのはもちろんのこと、心の奥がむずがゆくなるように温かくなった。

「姉さんは、僕の自慢の姉さんですよ」

紅茶を飲む合間に進はそんなことを漏らした。それは思いがけず真剣なまなざしだった。
そして、進の言わんとすることをボクは解しているつもりだった。
「姉さん」の部分を強調する弟に、ボクはにやりと微笑んでやる。

「当たり前だ。なんたってボクは天才猪狩守だからね」

微笑む弟におかわりを要求すると、進は嬉々としてボクのカップに新たな紅茶を注ぐのだった。
柔らかな日差しが差し込む午前のひとときだ。



―――――――
なまぐさい話ですいません
さりげなくシリーズになっているにょたまもちゃんです
これからも思いつく限り書いていきたいなと

いい加減書いたものの整頓がしたいところです

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晴れときどき鍋

10/カイザース


ロッカーの扉を開けると、隣にいた友沢はもうすっかり帰り支度を整え終わったようで、飯に行くなら早くしてくださいよなどと言ってオレを急かした。
年が4つも下の新人ルーキーにしては随分な物言いである。しかし、口ではいつも生意気なことを言うが、友沢が本当はとても優しい人間であることをオレは知っている。少しばかり素直じゃない、かわいい後輩である。
現に今日だって二人で居残り練習をした帰りだ。猪狩も誘ったのだが、練習するのなら友沢と自分のどちらかを選べなどと言うものだから、今日は初めに約束をしていた友沢と練習をしたのだ。
こうして友沢と練習するのも何度目かになり、一緒に飯を食べて帰るまでが一連の流れであった。

「パワプロさん、今日はいつにも増してぼけっとしてんすね」
「ああ、ごめん、ごめん。もう帰れるよ」

鞄の中へ適当に荷物を詰めていると、もうちょっとなんとかならないんですかと言って友沢は苦笑する。友沢には意外と几帳面なところがある。
そういえば、最近友沢はよく笑ってくれるようになった。初めの頃と比べれば大分仲良くなったと思う。
だから、練習だってみんなでやればいいのだ。その方が楽しいし、なにより為になるだろう。どうにもこうにも猪狩と友沢はそりが合わないようで、気が付けばしょっちゅう衝突している。猪狩はもともとあんな性格であるし、友沢も猪狩に関しては何かと競いたがるのだった。
しかし、当人らはその状況を楽しんでいる節もあるようなので、最近オレからは何も口出ししないようにしていた。

「なあ友沢」
「なんですか」
「お前、猪狩のことどう思う?」
「どうって…」

そのまま口ごもると、友沢は明後日の方向を向いてから、どういう意味の質問ですかと言って不貞腐れた顔をした。その幼い仕草に、普段は大人ぶってはいるけれど、やっぱり友沢もまだまだ子供なのだなとオレは心中で微笑んだ。なんてったってまだ10代、高卒ルーキーなのだ。

猪狩の話題はどうにも友沢の機嫌を損ねるようなので、オレは質問の方向を少しだけ変えてみることにした。

「じゃあ、進くんのことはどう思う?」
「さっきから質問ばっかりですね」
「まあ、いい機会かなと思って」
「兄弟だけど、全然似てないですよね」
「そう?野球の実力とか、顔立ちとかすごく似てると思うけどな。まさに「兄弟」って感じ」
「オレが言ってるのはそういうことじゃないですよ」

あんただって分かってるでしょ、なんて友沢はしたり顔でオレの方を見た。まあ、もちろん分かっている。猪狩と進くんは正反対の性格をしている。自信満々で高慢ともとれる態度をとる猪狩と、謙虚で素直でいつだってにこにこと微笑んでいる進くん。
確かにそうなのだが、それはいわゆる表面しか見ていないただの周りの評価でしかないということを最近オレは実感していた。当たり前だが、その一面だけを見てその人のすべてを判断してしまうことなんてできやしない。

オレが友沢にこんな話をしたのは、誰かに聞いてもらいたかったからだ。猪狩のことも、進くんのことも、どうやらオレは少し勘違いをしていたようなのだ。
猪狩のことは、カイザースにやってきたときの第一印象があんまりだったため、正直最初はあまりよく思っていなかった。だってそうだろう、やってきて早々に、自分たちが来たからには足を引っ張らないようにしろなどと猪狩は言い放ったのだ。いくら万年2軍のオレとはいえどもその言葉には反発心を覚えた。結果としてその思いが力となり今や1軍レギュラーへと定着できたのだから、今のオレとしては猪狩に感謝をしているのだが、まあそれはまた別の話である。

そういうわけで、オレは猪狩について随分と勘違いをしていた。猪狩が大きなことを言うのはそれだけ陰で努力を重ねてきた自信があるため、きついことを言うのはチームメイト、ひいてはチーム全体を思ってのこと。猪狩は誰よりも野球に対して実直で、何よりもチームの勝利について真剣に考えていた。

さらにオレは、進くんについても少し勘違いをしていた。進くんというよりは、猪狩兄弟についてである。
仲の良い兄弟だなと、オレは単純に思っていた。だって、兄弟揃って野球をしていてあまつさえ同じチームで切磋琢磨しているのだから、そう思うのが自然な流れであろう。猪狩は進くんについて自分のことのように自慢話をすることがあったし(猪狩には重度のブラコンの気があるとオレはふんでいる)、進くんも猪狩にはよく懐いているように見えた。

実際そうであるし、間違ってはいないのだろう。ただ、どうやらそれだけではないらしいということをオレは最近薄々感じとっていた。
進くんの家に遊びに行って、彼の部屋で手料理を振る舞ってもらったときのことである。そのときにはじめてオレは進くんが実家暮らしではなく一人暮らしをしているということを知った。
そのときはあまり深く考えなかったのだが、どうやらその一人暮らしについて猪狩はあまりよく思っていないようなのだ。ふとした拍子にオレが進くんの家に遊びに行ったことを話すと、猪狩にしては珍しく野球以外の話題に食いついてきて、その日のことを事細かに尋ねてきた。

なぜ猪狩が進くんの一人暮らしをよく思っていないのか、それはどうやら、猪狩が弟のマンションを尋ねることを進くんが望んでいないらしいのが原因のようだった。それがどういう意味を持つのかはよく分からないが、彼ら兄弟の中にもいろいろと事情があるのだろう。猪狩としては、一人で暮らす弟のことが心配で頻繁に顔を出しに行きたいに違いない。
加えて、オレが感じた猪狩の思いとしては、母も退院してきたことであるし、兄弟揃って実家に住みたいという気持ちが強いのではないだろうか。

「…またぼけっとしてますよ」

友沢の言葉に、沈んでいた己の思考から呼び戻される。
疲れてるんですか?と言った後に、あの程度の練習で、と付け加えるのはいかにも友沢らしくオレは笑ってしまう。
そう、つまり、オレが言いたいのは。

「みんなで仲良くできればそれがいちばんいいと思うんだ」
「いきなりなんなんですか」
「よし友沢、飯行こう、飯!」
「だからさっきからそう言ってるじゃないですか」
「猪狩と進くんも呼ぶぞ!」
「ええ?」

なんでまた急に、友沢は訝しげな顔をしているが、オレからすれば急でもなんでもなかった。ほんとうは、ずっとこうしたかったのだ。居残りの秘密特訓もみんなでやりたいし、飯だってみんなで食べたい。みんなで仲良くできるのがオレはいちばん嬉しい。

「そうと決まれば何を食べるかだな」
「もう決定事項なんですか…」
「友沢、何食べたい?」
「オレは肉がいいです」
「肉か…」

肉と猪狩と進くんを思い浮かべて、オレはピンと思いつくものがあった。これならみんなでわいわい食べられるし、なんといってもオレの好物でもある。

「よし、友沢今日は鍋にしよう。しかも、すき焼きだぞ!」
「すき焼きですか、いいですね。でも、猪狩さんってみんなで鍋つつくのとか嫌いそうですよね」
「何言ってるんだ友沢。猪狩はみんなで鍋をつつくのも大人数で食事をするのも好きだぞ」

そうなんですか?と首をかしげている友沢がかわいらしい。どうやら友沢もまだまだ猪狩のことを勘違いしているようである。これはいい機会だ。
以前、オレの部屋で鍋をやったときのことを思い出す。半ば無理やり連れてきた猪狩は文句を言いながらもおいしそうに鍋をつついていたし、猪狩が差し入れで買ってきた肉は最高に美味かった。貧乏人に恵んでやるなどとかわいくないことをのたまっていたが、それが猪狩なりの照れ隠しであることをオレは見抜いていた。

「それに、鍋は進くんの好物でもあるんだよ」

友沢はまたまた首をかしげている。この機会にチームメイトのことを知るのはとてもいいことだ。
以前、進くんと寿司と鍋を食べに行ったことを思い出す。僕のオススメですと言って紹介してくれたそのお店はどこも絶品だった。和食派の進くんのために、今日は和食のコース料理ですき焼きも出してくれるお店に行くことにしよう。

「でもオレ、猪狩さんが行くんならちょっと遠慮したいですね」
「何言ってるんだ友沢、たらふく食って猪狩におごらせればいいだろ」

オレが言うと、友沢は一瞬驚いた顔をした後、それもそうですねと言って笑った。
どうやら今日の食事についてはこれで決定したようである。
タイミングよくオレと友沢の腹がぐうと鳴ったのがおかしくて、オレたちは顔を見合わせて笑った。
ひとしきり笑い合うと、オレは携帯電話で猪狩の名前を探し出してさっそくダイヤルを押した。



―――――――
よく分からないけどカイザースは滾るよねってことをお伝えしたい
守さんとすき焼きのイベントは7でんがな!というツッコミはsoスルー
かわいいからいいんです

主人公ちゃんを中心にみんなわちゃわちゃしてればいいんじゃないかな
需要とかもう気にしない!いつものことか…

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アスピリンも効かない

主進


「じゃ、じゃあいいかな?」
「は、はい…」

ベッドに横たえた進くんの上にのしかかりながら、オレはなんとも情けない声で尋ねた。電気を消すのを忘れてしまったので、進くんの表情がありありと見える。時折ちらっと顔を上げて視線を泳がせているのはつまりそういう意味もあるかもしれない。しかしここまで来てわざわざ電気を消しに行くのも随分マヌケな行為である(先程の質問も十分にマヌケであるということは伏せておこう)。

ずっとこうしたかったはずなのに、ずっと望んでいたはずなのに、いざこういう状況になったらオレというやつはなんとも情けないことにどうしたらいいのか分からないのだった。オレも望んでいるし、進くんだって望んでいる。何も障害はないのだ。
20代も半ばを過ぎ、多くはないが何人かの女性と付き合った経験もあり、もちろん童貞ではない。進くんは男だったが、根本的にすることは同じなのでやり方が分からないというわけでもない。だいたい、勉強熱心なオレはすでにネットで予習復習も済ませているのである。もちろん欲情だってしているし、正直張り詰めた下半身は痛いほどだ。
据え膳食わぬはなんとやらというが、まさにそんな状況である。
恋人の部屋、心地の良いベッド、愛し合う二人が互いを求めるという最高に幸せな状況だった。

どうしたらいいのか分からないのは進くんも同じようで、ベッドに寝転んだまま真っ赤に熟れた顔でしきりに視線を泳がせている。前髪をさらりとかきあげると、ぴくんと反応して目をつぶってしまった。額と、震える睫毛に唇を落とす。震えているのはオレも同じだった。抑えきれない高揚感と興奮で体はふわふわしていた。
真っ白いシーツの上に散らばる進くんの髪を見て、心底愛おしいと思う。髪をほどいた彼はとても色っぽく、物欲しげに開いた唇はオレの情欲をかきたてた。
この唇から、一体どんな声が零れ落ちるのだろう。

「あの、パワプロさん…?」
「え、あ、うん!?」

彼の顔を眺めながら妄想を突っ走らせていたオレは、突然呼びかけられたことで素っ頓狂な声をあげてしまった。およそ行為中に出す声ではない。ムードが台無しだ。

「あの、もしかして、無理してませんか?」
「なんのこと?」
「やっぱり、僕なんかに欲情しないのかなって…」
「まさか!」

何言ってるの!と大きな声を出してしまったせいで、進くんはびっくりした顔でオレを見つめた。恥ずかしさで小さくなりながら謝ると、彼はホッと息をつきながら安心しましたとだけ言って瞳を伏せた。妙な沈黙が二人の間に流れる。
オレはもうお手上げの気持ちになって、なにも言わず進くんをただ抱きしめた。ぎゅうぎゅうと腕をしめつけて、彼の首筋に顔を埋める格好でぐりぐりと擦り寄る。

「あー、もう、ごめん!オレってダサすぎ!」
「パワプロさん…?」
「しばらくこうしててもいい?」

もちろんですと言って笑った進くんの腕がオレの背中にそっと回される。そのまま無言のまま二人して抱き合っていると、ようやく気持ちも落ち着いてきた。
顔を上げて進くんの鼻先にチュウと吸い付く。

「なんか、いざそのときがきたらどうしたらいいのか分からなくなっちゃって」
「はい…僕もです」
「分かると思うけど、オレ今だって結構限界なんだよ」

わざと意識させるように下半身を押し付けると、進くんの頬はぽぽぽっと染まって、さらに耳まで真っ赤にしながら「僕だってそうです」と口ごもった。

「進くんのことほしくてほしくてたまんないけど、それ以上に大切すぎて、どうしたらいいのか分かんなくなっちゃって。なんかほんとごめん、情けなくて」
「そんなこと…」
「……。進くんっていい匂いするよね」

くんくんと擦り寄って首筋に鼻を埋めると、くすぐったいのか進くんはくすくすと小さく笑った。ふんふんと甘い匂いを堪能しながら、悪戯心でべろりと舐め上げる。唐突なことにびっくりしたのか、彼は小さく声を上げると恥ずかしそうに瞳を伏せた。濡れた瞳と熱い眼差しはオレを煽るのには十分すぎるほどだった。

「あの、さっきから気になっていたんですが、電気消しませんか?」
「ダメ」

進くんのかわいい顔が見れなくなるから。言い置いて、そのまま唇を重ねる。まるで待っていたかのように薄く開かれた唇に優しく舌を差し入れる。絡まった舌は熱く、もっと深く、もっとたくさん彼を感じたくてオレは角度を変えて何度でも口付けた。
合間に紡がれる吐息すら逃すのが惜しかった。ちゅくちゅくと立てられる水音と彼の方から絡められる舌に興奮する。苦しくなって束の間唇を離すも、進くんのそれによってすぐに塞がれる。夢中で交わした口付けは、今までに経験したことのないものだった。

「僕、もう我慢できません」
「うん。オレも」
「いい子のフリは、今日でおしまいにします」
「じゃあ、悪い子になるの?」
「はい。パワプロさんの前でだけ、限定です」

真剣な顔でそう言った彼にオレは噴き出してしまって、それを見た進くんはなんで笑うんですか!と言ってオレを叱る。ぶうとむくれてしまった彼が愛しくてかわいくてどうにかなりそうだった。
慌てて、オレは良い子の進くんも悪い子の進くんも大好きだよと囁くと、少しは機嫌が直ったようだった。じっと見つめていると、キスしてくれたら許してあげますなどとかわいく言うものだから、オレは愛しい恋人の唇に再び口付けを落とした。



―――――――――――
主進しあわせになれよばかーーーーー!!
手を繋いだり触れるだけのキスをしていた二人が一線を越える夜
今夜はお赤飯ね

アスピリンは熱さましの薬です

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ロールケーキは甘いもの

2011/主守


猪狩守は困っていた。机の上に置いた一枚の紙をにらみつけながら困っていた。
さあ、どうしようかと考えていたら時間はあっという間に夜更けである。
手に持った携帯電話を見つめながら猪狩は息を吐き出した。

ことの発端は今日の午後のことである。
気に入りのロールケーキを買いに行ったところまたパワプロと出くわした。
彼とここで会うのはこれで2回目となる。
本当はここへ来るたびにパワプロの顔を探していたのだが、そんなことはもちろん秘密である。
もしかしてまた会えるのではないかという期待が、今日は落胆ではなく喜びに変わった。
ともすれば緩みそうになる顔を叱咤して猪狩はいつも通りの澄ました表情を取り繕った。

「あ、猪狩」
「やあ、また会ったね」
「あれ、今日は進くんは一緒じゃないの?」

そういうパワプロも今日は一人である。
この前一緒にいたメガネをかけた、そうだ矢部とかいうやつはいないようだ。
それにしてもだ、いのいちばんに進のことを聞いてくるのは気に入らない。このボクを目の前にしておきながらなんという無礼だろう。

「べつに進と一緒じゃなくてもケーキは買えるさ」
「そりゃそうだけどさ。それにしてもわざわざこんなところまでしょっちゅう来て、お前って実は意外と暇なの?」
「そんなわけないだろう。今日は遠征のついでに寄ったのさ」
「よっぽどここのロールケーキが好きなんだな」
「ああ、まあね…」

ロールケーキとパワプロが、理由の同列に並ぶようになってしまったのはいつからだろう。
初めは、単純にここのロールケーキの味がどうしても忘れられなくて買いに来ていた。
他のロールケーキではダメなのだ、ここのパワロールでないと。
それが前回偶然パワプロと出くわしてから、ボクはここへ来るたびにパワプロの顔を探すようになっていた。
しかし、偶然というのはそう何度もあるものではない。
ケーキが食べたい。パワプロに会いたい。
そのどちらも真っ直ぐな欲求であることに変わりはなかったが、いつしかケーキとパワプロの順位が入れ替わっていたことは否定できない。

「今日はそれほど並んでなくて良かったよ」

にこにこしながらパワプロが言うので、ボクは前方の列を眺めているふりをしながらそうだなと返事をした。
それはパワプロの言う通りで、こんな日に限って行列はいつもの半分くらいなのであった。
これではすぐに順番が来て帰らなければならない。

「なあ猪狩」
「なんだい」
「ここまで買いに来るの大変じゃない?」
「まあ、それなりにね。でも、ついでに寄っているから、そうたいしたことじゃないよ」
「ふうん」

それきりパワプロは黙ってしまってボクも隣で口を閉ざした。
何を話せばいいのか分からない。そうこうしているうちにどんどん順番は迫ってきて、もうすぐボクたちの番だ。
また勝負をしようだとか、最近調子はどうだとか、言いたいことはたくさんあるはずなのに、どうしてかボクの口からそれらの言葉が紡がれることはないのだった。
沈黙に焦れる。

「ねえ猪狩」
「ん?」
「もし良かったらさ、買いにくるとき一声かけろよ」
「どういうことだ?」
「オレだってしょっちゅう暇ってわけじゃないから、毎回買いに来れるかどうかは分かんないけどさ。もし都合が空いてたらお前が遠征に来る日、ついでにお前の分も買っといてやるよ」

でもあんまり期待すんなよ、できるときだけだからな。そう言って笑うパワプロの顔を眺めながら、ボクはなんとも返答のしようがないのだった。
そんな話をしているうちにボクたちの順番がやってきて、ボクとパワプロはひとつずつケーキを買って列を後にした。
会計をしている間にもなんだかふわふわとした心持で、渡されたケーキの箱をうっかり取り落としそうになってしまった。
なにやってるんだよとパワプロが苦笑する。

「猪狩、メアド教えて」
「あ、ああ…」
「赤外線できる?それかQRコード?」

正直に言うと、ボクにはパワプロが何を言っているのかさっぱり分からなかった。
どうやらメールアドレスを交換する手段のようであるが、どのようにすればいいのか見当もつかない。
言葉に詰まるボクに、パワプロはどこから出したのか紙の切れ端を取り出して、何か書くもの持ってない?とボクに尋ねた。
いつも持ち歩いている小ぶりのボールペンを差し出すと、パワプロはさらさらと何かを書きつけてボクの手に持たせるのだった。

「それオレのメアドだからさ、お前からメールしといてよ」
「ああ、分かった…」
「あっ、やべー、母さんにお遣い頼まれてたんだった!」

じゃあ、またな!あっけにとられている間にパワプロの姿はなくなっていて、ボクの手の中には一枚の紙が握られているのだった。
くしゃくしゃになっている紙切れを指で伸ばす。
綺麗とも汚いとも言い難いただの走り書きだ。
そんな走り書きがどうしようもなく嬉しくて仕方のなかったボクは、人目もはばからずにっこり笑ってしまうのだった。



そういう経緯で手に入れた一枚の紙を前にして、猪狩は相変わらず唸っていた。
メールをする、それはいい。問題は文面になんと書くかである。
本文は空白のまま送ろうかとも思ったが、それではむこうにこちらが誰なのか伝わらない。
「猪狩守だ」と名乗るだけなのもおかしい気がする。
それではなんと書こう。今日は世話になったな?これからよろしく頼む?
どんな文面もしっくりこない。
だいたい、ボクたちはそんなことを言うような間柄だっただろうか。
考えれば考えるほどに分からなくなる。

自分らしくないことは重々承知していた。
ケーキを食べながら進にまで訝しがられてしまったし、兄さん最近ケーキを買う頻度が増えましたね、なんてことまで言われボクには黙ることしかできなかった。
一体なんと返答すればいいというのか。

ああ、今日はもう遅いから、明日にしよう。そうだそれがいい。
考えるのを放棄して、猪狩はくしゃくしゃの紙切れを丁寧に机の引き出しにしまった。
自分でもどうかしていると思いながら、それでも嬉しい気持ちだけはごまかしようがなくて、猪狩は軽い足取りでベッドへ向かうと早々に布団の中にもぐりこんだ。
朝起きたらメールをしよう。内容は、朝の挨拶くらいで十分だろう。
そう思ったら俄然気が楽になり、今日はいい夢が見られそうだと思いながら猪狩は目を閉じた。
その日はパワプロと一緒にケーキを食べる夢を見たが、朝起きたボクは夢の内容などなにひとつとして覚えていないのだった。


―――――――
2011のパワロールのイベントはかわいすぎないかということが言いたい
守さんお友達がいないからメアド交換の仕方とか知らなさそう…
進は兄がケーキを買いに行く理由について気が付いてるけどすっとぼけてる
そういう進がとってもツボですねー

主守だいすきです

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ハートホイップ

プロ入り後の主人公と進


ドキドキと早まる鼓動を抑えきれずに、オレは切符と携帯電話を握りしめて改札をくぐり抜けた。
ちょうどホームへと滑り込んできた電車へタイミング良く乗車する。
ここから普通電車に乗って3駅。
ガタンゴトンとのんびり走る列車に妙な安心感を覚えてオレは大きく息をついた。
最寄り駅からたったの3駅先、そこに彼の住むマンションがある。
近いような、遠いようなもどかしい距離だ。
その気にさえなればいつでも会いに行ける距離。
嬉しいような、落ち着かないような、いや、もちろん嬉しいに決まっている。

にやけそうになる顔を必死でこらえながらオレは再び携帯の画面に目を落とした。

お休みのところ突然すみません。猪狩です。
ケーキを焼いたのですが、作りすぎてしまったので良かったら食べていただけないでしょうか。
ご連絡お待ちしています。

短い文面を何度も読み返して、From欄「猪狩進」の文字に頬が綻ぶ。
携帯を眺めてはニヤニヤしているオレは傍から見れば立派な不審者に違いないのだが、初めてもらったメールがこのような嬉しい内容であるのだから喜ぶなという方が無理な話である。
メールアドレスはとうに交換していたが、実際にメールをもらうのは初めてだった。
オレの方からも、進くんにメールを送ったことは今までに一度もない。

チームメイトの彼とはここ最近で随分と仲良くなったが、どこかへ一緒に行くのはいつも決まって練習後のことであったし、チームメイトなので何かあればしょっちゅう顔を見合わせているわけでわざわざメールをする用もなかった。
もちろん、アドレスを交換してから何度もメールをしようと思ったのだが、いかんせんオレにはメールで伝えなければならないような用件を思いつくことができなかったのである。
そんな折に、先ほどのメールだ。
オフである今日一日をどう過ごそうか布団の上でごろごろしながら考えていたオレは、あまりの嬉しさから一気に目が覚めて飛び起きた。
気が付けばアドレス帳から彼の名前を探して電話をかけていた。

(でも、突然家なんかに押しかけちゃってほんとに良かったのかな~)

嬉しさのあまり勢い込んで電話してしまったオレは、気が付けばそのままのノリで今から行くよなどと言ってしまったのだった。
そこからはもう怒涛の展開で、家の場所を尋ねればなんと自宅の最寄駅からたったの3駅先、さらに「僕の予定は今日一日空いていますよ」などと彼も言うものだから、今日は進くんの家で遊ぶことになった。
ここまでとんとん拍子で話が運んでしまって大丈夫だろうかとは思うけれども、反面どうしようもない胸の高鳴りを抑える方法など分からない。
そしてここにきてようやく、オレは彼に抱いていた気持ちの正体を知ったのだった。
分かってしまえば至極単純なものである。

それにしても、少し前に本屋へ寄った時、料理をするのが好きだという話は聞いていたのだが、まさかケーキまで作れるだなんて驚いた。
進くんと手作りケーキの組み合わせ。驚くほど違和感がない。
ケーキのスポンジのようにふわふわと笑う彼を想像してオレはまたもニヤニヤしてしまうのだった。

電車は乗った時と同じように滑らかにホームへとすべり込む。
踏み出した一歩はどうしようもなく軽くて、オレは半分スキップをしながら階段を駆け下りた。





「ど、どうしよう、今からパワプロさんが来ちゃう…!」

握りしめた携帯と目の前のケーキを眺める。喉はからからで、胸はどうしようもなく早鐘を打っていた。
メールなどして大丈夫だったろうかという心配をよそに、パワプロさんからはすぐに返信があった。それも、メールではなく電話で。
ディスプレイに表示された名前にどきどきしてしまって、あとはもうずっとふわふわした心地のまま通話は終了し、気が付けば彼が自分の家に来ることになっていた。
自分は変なことを言わなかっただろうか、チームメイトとしていきすぎたことをしていないだろうか。

「部屋、片づけなくちゃ…」

あわてて部屋を見渡すも、普段からこまめに掃除をしているので別段片付けが必要なところは見つからない。
それでも落ち着かない気分のまま、進は部屋の中を行ったり来たりうろうろするのだった。

ケーキを焼こうと思ったのはほんの気まぐれだった。
たまたま買った料理の本に載っていたので、ちょうど甘いものが食べたかったのもあり作ってみた。
ショートケーキにしたのは、以前に彼が好きだと言っていたのを思い出したからだった。
そして、仕上げの生クリームをしぼり終わったところでようやく我に返った。
そこにあるのは、初めてにしては上手く出来たという喜びと、一体何をやっているんだろうという自問だった。
自分で食べるものなのでレシピもそこそこに適当に作るはずだったのだが、彼のことを思い浮かべながらの作業にはだんだんと熱が入り、気が付けばデコレーションまで完璧に施されたホールケーキがそこにはあった。
乗せられたイチゴの上には粉砂糖まで振りかけてある。
何かをする際、凝り性になってしまうのは昔からだった。

余った生クリームを舐めながらケーキを見つめること数分の後、いつしか彼にこのケーキを食べてもらいたいという思いが湧きあがっていた。
手作りを食べてもらいたいだなんてどこの女の子だと自身に突っ込みを入れながらも、自分の作ったケーキを食べてきっとおいしいと言ってくれるだろう彼のことを考えると胸が高鳴った。
おいしいよ、進くんはなんでもできるんだね。
にっこり笑うその顔はケーキよりも甘いにちがいない。

気が付くとメールをしていて、さらに気が付けば今からパワプロさんが自宅へ来ることになっていた。
まさか自分のマンションからさほど離れていない場所に住んでいるとは思わずに驚いている。
これからは練習後だけではなく、もう少し頻繁に会えるようになるだろうか。いや、それよりも今はこれからのことを考えなければならない。
来客用のお皿とカップを…、背伸びをして少し高い位置にある食器をとろうとしたところでチャイムが鳴った。
あわてた進はエプロンを外すのも忘れて玄関へと急ぐのだった。



―――――――
進がケーキ焼いてたらかわいいよねってことが言いたかっただけなので、意味も内容もありません。
オチは主人公ちゃんが食べました。
ケーキ食べたい

拍手

拍手コメントお返事です

いただいたメッセージのお返事になります。恐縮です。
お心当たりのある方はつづきからどうぞ^^
ぱちぱちのみの方もほんっとうにありがとうございます…嬉しくて禿げてます…

拍手

お気に召すまま

ぬるすぎて笑えますが、性描写があるのでたたんでおきます。
大丈夫な方は続きからどうぞ

拍手

3つ数えて

2010/主進


「ねえ、パワプロさん」

隣に座っている進くんに呼ばれてオレは顔を上げた。
熱さと闘いながら食べていたちくわをなんとか飲み込む。
熱いが食べたい、食べたいが熱い。猫舌であるオレがおでんを食べるのは一種の闘いのようなものだ。なにしろオレは今とてつもなく腹が減っている。
ともすれば火傷しそうなほどアツアツに煮込まれたおでんがそこにはいる。がっつくなという方が無理な話である。
隣を見ると、箸をおいた進くんは手元のお猪口から少しだけお酒を舐めて、満面の笑みで言った。

「僕、パワプロさんのことが好きなんですよ」

ついに言っちゃったあ、間延びした口調で言った進くんはにこにこと笑いながらお猪口の酒を一気に飲み干した。
おっ、いい飲みっぷりだねえと言いながらすかさず大将が新しい酒を注ぐ。
皿に盛られた大根をつつきながら進くんがこちらを見る。

「パワプロさん?どうかしました?」
「あ、いや、べつに、大丈夫」

もごもごと口ごもりながらオレは大将におでんの追加を頼んだ。
いつもこの時間には大繁盛している屋台が、今日はオレと進くんだけの貸切状態である。
とうに顔なじみとなった大将は手慣れた様子で次の具を皿につぐ。オレの好物のこんにゃくだ。ついでに生中も追加しておいた。

ここはオレと進くんいきつけの屋台である。元々はオレのいきつけであったのだが、2人で何度も来ているうちにオレと進くんのいきつけとなった。
最初こそ外の屋台で食事をするということに慣れない様子の進くんだったが(進くんはいいところのおぼっちゃんである)、いまではすっかり打ち解けて気軽に世間話をしているし、料理をすることが好きらしい進くんは大将とも話が合うようだ。
大将さん、大将さんと呼ぶその様子はかわいらしかったし、大将も進くんのことを気に入っているようだ。

「今日のパワプロさん、よく飲みますね」

僕も追加しちゃおうかなあ、やっぱり間延びした声で言った進くんはまたも一気に日本酒を流し込んでしまうのだった。
どうやら酔っているらしい。酒は嗜む程度、普段は決して酔うほど飲まない進くんにしては珍しいことだった。
だいたい、酒が弱いわけではない彼がここまでになるには相当の量を飲んでいるはずなのだが、おでんを食べることに一生懸命だったオレは全く気が付かなかったらしい。

こんにゃくをもごもごと咀嚼しながらオレは先ほどの話を蒸し返した。このままなんとなく流されてしまうわけにはいかない。

「ねえ進くん」
「なんですか?」
「さっきの、あれ、どういう意味なの?」
「さっきの?」

こてんと首を傾げてみせた進くんはどことなく幼い動作で考え込むと、結局は何も思い当たらなかったらしく、なんのことですか?とのたまった。
頬は血色よくピンク色に染まっており、瞳はきらきらと輝いていた。
どうやらオレの想像以上に酔っているらしい。

ちょんまげ兄ちゃんは、兄ちゃんのことが好きなんだよな!威勢よく言い放った大将がお猪口にお代わりを注ぐ。オレの止める間もなく進くんはそつなく受け取って、透明なそれをぺろりと舐めた。
そうです、僕パワプロさんのことが好きなんです!これまた大将に負けじと威勢よく言い放った進くんはお猪口を両手で持ってうふふと笑ってみせた。
それを見た大将も笑っている。

「えっと、好きってそれはなんていうか、うんオレも進くんのこと好きだけど」
「僕のはLoveですよ」

大将さんおかわりください!元気に言った進くんはほかほかの牛すじに口をつけると、熱いですねと言って笑った。
熱いのはオレの顔だ。額からはだらだらと汗が流れてくるし、めちゃくちゃ熱い。

「ラ、ラブって進くん」
「Likeじゃあなくって、Loveの方ってことですよ」

兄ちゃん、つまり愛の告白だな?けらけらと笑った大将が囃し立ててくる。それでも進くんはにこにこと笑ったままだ。
どうでもいいが、大将はオレのことを兄ちゃんと呼び、進くんのことをちょんまげ兄ちゃんと呼ぶ。
ちょんまげとは、どうやら進くんの結び髪のことを言っているらしい。その呼び名はどうなのかなあと思案したオレであったが、当の本人が全く気にしていないようなのでオレも気にするのをやめた。
ちょんまげ兄ちゃん、お代わり飲むか?大将がさらに酒を勧めていたので今度こそオレはそれを阻止した。

「進くん、今日は飲みすぎだって!」
「だって、美味しいです」
「おいしくても、もうダメ!」
「パワプロさんと食べるご飯はどうしてこんなにおいしいのかなあ」

むにゃむにゃと語尾を怪しくしながら言った進くんは唐突に机に突っ伏し、見ているとなんとそのままスヤスヤと寝息を立て始めてしまった。
あっけにとられたオレは何も言葉にならず手元にあった生中を一気に流し込んだ。ぬるい。
大将の方を見ると、新しくやってきた客の注文をとっているところだった。

こちらに顔を向けたまま眠っている進くんの顔をまじまじと眺める。
キレイな顔だ。中世的で美しいその顔立ちはともすれば女の子のようであったが、もちろん進くんは男であるし、オレだって男だ。
酔っぱらった進くんの言うことを真に受けるわけではないが、好きだと言われればいやでも意識してしまう。だってオレは男なのだ。

「…参ったなあ」

何が参ったのか分からないが、オレはいかにも困っていますという体の顔を取り繕ってビールを飲み干した。ぬるくなっていたはずのビールは喉ごしが良くとても美味しかった。
かわいらしい寝顔を眺めながら、あと3つ数えて起きなかったらチューしちゃうぞとオレは心の中で進くんに話しかける。もちろん進くんが起きることはない。
どうやらオレも酔っているみたいだ。
たまにはこんな夜もいいだろうと、オレは上機嫌のまま大将に生中のお代わりを告げた。


――――――――
いきつけ、常連、この単語だけでここまで萌えましたー主進くださいー(懇願)

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ラブイズユー

10/主進


「進くんはいつでもお嫁にいけるね」

ちょっとした軽口のつもりで言った言葉が進くんにはたいそう気に入らなかったようで、進くんにしては珍しく返事が返ってこなかった。いわゆる無視というやつだ。
進くんの作ったおいしい夕食を食べてお腹はいっぱい、極楽気分のまま二人してソファで戯れているこの時間がオレは大好きなのだった。
いつもなら食べてすぐ食器を片づけに席を立つ進くんが、真っ先にオレの胸に甘えてきたのも嬉しかった。
そういう嬉しい気分もあってついつい口が軽くなってしまったのだが、それは進くんの機嫌を損ねる結果となってしまったようだ。
オレの足の間にちょこんと収まっている進くんをがばりと抱きしめる。
後頭部にぐりぐりと顔を押し付けると、くすぐったいのか進くんは少しだけ身じろぎした。

「前に母さんが言ったこと、気にしてるんですね」
「べつに、そういうんじゃないけどさ。今日もすっごく美味しかったから」
「僕は男ですよ」

それきり進くんはまたも黙ってしまうのだった。
進くんの肩越しに食卓を見つめる。テーブルの上には食べてそのままになっている食器たちが置いてある。
箸も、カップも皿もいつの間にか揃いのものになっていた。進くんに手料理を振る舞ってもらっているうちに徐々に増えていったものだ。あるときは一緒に買いに行き、あるときは互いに買ったものを持ち込んでいた。
初めのうちこそお揃いというものに若干の気恥ずかしさを覚えていたオレではあったが、進くんの笑顔の前にいつしかそんな気持ちも消え失せていた。
進くんが笑ってくれるのならオレはなんだってする。

「進くん」

ほっぺたに口付けるのは、こっちを向いてキスしようよというオレの合図だった。
いつの間にか二人の間で承知のものになっていた、暗黙の了解だった。
当然進くんは分かっているはずであるが、オレが何度唇を寄せてもこちらを振り向くことはない。
どうやらよほど怒らせてしまったようだ。
オレは進くんのことを心からかわいいと思っているし料理の腕も一流だと思っているが、進くんのことを女の子の代わりとして扱ったことは一度もない。そして、これからもないだろう。
確かに顔を埋めた進くんの髪からは女の子のようないい匂いがするし愛らしい仕草はまさしく少女のようではあるけれども、抱きしめる体はきっちり筋肉のついた逞しいものであったし、体を張ってホームを守る進くんはまさしく男なのであった。
そして間違いなくオレは男の進くんが好きだった。

どうしたものかと思案して進くんの肩に自分の頭を乗せる。
びっくりしたらしい進くんは少しだけ体をこわばらせたが、やっぱり振り向いてくれることはなくて黙っている。
進くんは、何がそんなに気に入っているのか知らないがオレの固い膝の上がお気に入りだ。
ソファに腰掛けているといつの間にか膝の上に進くんが乗っかっていて、そのまま一緒にテレビを見たりする。
今日は帰りにDVDを借りてきたから、2人で夜更かしして一緒に見るつもりだった。進くんを足の間においたまま、その肩口に頭を乗っけてテレビ鑑賞をするのがオレのお気に入りでもあった。

「進くん」

ソファから下りて、正面から進くんを見つめる。
進くんが下を向いたまま顔を上げてくれなかったので、オレはしゃがみこんで下から掬い上げるように彼を見た。
進くんの大きな瞳はゆらゆらと揺れていた。

「オレの言い方が悪かったみたいでごめんね」
「僕の方こそ、ムキになってごめんなさい」
「いま思いついたんだけど、いっそオレがお嫁さんになろうかな?」

やっと顔を上げてくれた進くんは、それってどういう意味ですか?と言って笑ってくれた。
蕾が花開くような進くんの笑顔。やっぱりオレはこの顔が大好きだ。

「オレがお嫁さんになったら、進くんちゃんと娶ってくれる?」
「パワプロさん、それって」
「お嫁さんでもお婿さんでもいいから、オレは進くんとずっと一緒にいたいなあ」

進くんが破顔する。
オレはたまらなくなって、立ち上がるとソファに座っている進くんをそのまま抱きしめた。
抱き返してくれた進くんをぎゅうと腕に閉じ込めて、耳元にささやく。
くすぐったいのか、進くんはくすくすと笑いながらオレの耳元にも同じ言葉をささやいた。
縺れ合うようにキスを繰り返しているうちに、いつの間にかオレは進くんをソファの上で組み敷いていた。
結っていた進くんの髪がほどけてソファの上に散らばる。その一束を摘み上げてオレは唇を寄せた。

「どうしよう。このまましたくなっちゃった」
「僕もです」

視線を外しながら照れくさそうに言う進くんの唇を塞ぐ。
ついばむように繰り返される浅い口付けから徐々に深くなっていくキスが進くんのお気に入りだった。チュ、チュ、と交わされる口付けの合間に熱い吐息が絡まる。
差し出された進くんの舌をすっぽりと覆い尽くすように舐める頃には2人ともすっかりその気になっていて、こすれる下半身は共に痛いくらい張り詰めていた。

「ソファでもいい?ベッド行こうか?」
「そんなの、聞かないでください…」

オレの首に腕を絡めた進くんが唇を寄せてくる。
最初から答えは聞くまでもなくて、オレは進くんを抱き寄せると二人でソファへと沈み込んだ。


―――――――
かわいいのも怖いのも痛いのも気持ちいいのでもいいです、主進ください
主進、すごくいいと思います…

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こたつとみかん

主守


ボクは今、多大なる衝撃を以てしてある事柄に悩まされているのだった。

「猪狩、早く風呂入れよ」
「ああ」

ボクは返答をしながら、風呂へ行くつもりなど全くなかった。
じんわりと温かく居心地の良いこの空間からしばらく出られそうもない。
食器を片づけて洗い物をしているパワプロの背を眺めながらボクはこたつの中に身を埋めた。

急に寒くなったから、こたつ出したんだ。
そう言ってパワプロはこいつを指さした。
以前までテーブルだったそれには布団がかかっていて、横からはコードが伸びていた。
全体的にもっさりとしたそれはとても見た目が良いとは言い難く、もともと美しくないパワプロの部屋の外観をさらに野暮ったいものにしていた。ボクはあからさまに眉をひそめた。そもそもこれが一体何なのか分からなかった。
尋ねるとパワプロは、まさかこたつを知らないの?と驚いた顔でボクを見た。
この物体はこたつというらしい。ボクはこたつを見るのも聞くのもこれが初めてなのであった。

いいから入ってみろよとパワプロに言われるままボクはこたつに足を入れた。
予想外のことに中は温かく、出先で冷えてしまった足先がじんわりと温もっていく。
驚いたボクはパワプロの顔を見た。
「冬は、こたつにみかんなんだ」
そう言ったパワプロは、先ほど買ったばかりのみかんを嬉しそうに机の上に並べるのだった。


生まれて初めてこたつというものに遭遇したボクは、こたつの機能性と心地よさに驚いていた。
こんなにもっさりしているというのに、こたつとはなんと心地の良いものであろうか。
美しいボクに似合うとは到底思えないが、なかなかどうしてこの心地よさには逆らい難い。
このままだとうたた寝すらしてしまいそうだ。
いつもなら夕食を済ませてシャワーを浴びるボクであったが、こたつから出られる気配がなく困っていた。
目の前にあるみかんをひとつ掴む。

「気に入ったみたいで良かったよ」

洗い物を終えたらしいパワプロがキッチンから戻ってくる。
そのままボクの正面にくる格好でこたつの中にもぐり込んだ。
パワプロがこたつの中で足をくっつけてくる。冷たい。こいつは冬でも靴下をはかない。

「汚いからやめろ」
「汚いはないだろ…」
「キミは靴下もスリッパも履かないからね」
「まあそうだけど」

適当にパワプロの相手をしながらみかんの皮をむく。ひとつ口の中に入れると甘酸っぱいみかんの味が口いっぱいに広がった。甘くておいしい。
そんなボクを物欲しそうな顔で見ていたパワプロが口を開ける。

「いっこちょうだい」

あーんとだらしなく開けっ放しになっている口の中にみかんをひとつ放り込む。
もぐもぐと咀嚼すると、もうひとつと言った。

「自分でむけばいいだろ」
「いいじゃん、ちょっとくらい」

もうひとつ、もうひとつと繰り返しているうちにみかんはあっという間になくなってしまった。
せっかくむいたのにほとんど食べられなかったことを不満に思ったボクは新しいみかんを手にとる。

「猪狩に食べさせてもらうとおいしい」
「キミの気のせいだ」
「相変わらずクールだなあ」

そう言いながらパワプロはにこにこと笑ってくる。こたつの中で足を摺り寄せてきたのでボクは払いのけるように態勢を入れ替えた。
もうひとつむいたみかんは、さっきよりも少しだけ酸っぱかった。

「さっきよりも酸っぱいな」
「へえー、オレにもひとつ」
「いやだ」
「なんで」
「自分でむけばいいだろ」

今度こそ分けてやる気のないボクは、不満そうにしているパワプロの顔を横目に次々とみかんを口の中に入れていった。酸っぱいが、これはこれでおいしい。
最後の一粒を口に入れようとすると、その腕をパワプロに掴まれた。
そのまま引き寄せられてみかんは食べられてしまった。

「確かに酸っぱいけど、これはこれでおいしいね」

ボクの腕を掴んだままパワプロは言う。そのままパワプロはボクの指を口に入れるものだから、ボクはあからさまに嫌な顔をすると抗議の声を上げた。

「もうみかんはないぞ」
「うん。でもみかんよりおいしい」

ばかなことを言ったパワプロは相変わらずばかのようにボクの指を舐めている。
指先を舐めていた舌が下りてきて付け根の方をなぞり上げる。そんな動作を何度か繰り返して、とうとうボクの人差し指はパワプロの口の中にすっぽりと覆われて食べられてしまった。

「みかんより猪狩のこと食べたくなっちゃった」
「…ばかだな、キミは」

ばかだと思っているのに、ボクは無理な態勢で顔を近づけると、そのままパワプロの唇にキスをした。


――――――――
猪狩家にはこたつがなさそうだなあと思って、こたつを知らない守さんはかわいいなあと思っていたらこんなことになりました

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