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ひとつしかあげない

「キミの言うそれは、どういう意味なんだ」
 恋人の耳元で甘い愛を囁いた結果、このように真顔で問い返されるケースというのは、果たしてどの程度発生する現象なんだろうか。腕の中の猪狩は、甘ったるい雰囲気になるどころか、ごく真剣な表情だ。むしろその顔は怒っているようにさえ見えた。
「どういうって、そのままの意味だけど」
「……」
「オレは、猪狩のことが一番好きだよ」
「ふうん」
 ふうん、と来た。奥歯が凍るようなとびきり恥ずかしい殺し文句を最愛の恋人に贈った結果がこれだ。若干心が折れそうになったところでさすが猪狩、トドメを刺していくのを忘れない。
「ボクはべつに、一番じゃないけどね」
 ゲームセット。胸の真ん中にぐっさり突き刺さった猪狩の言葉が抜けるまで、オレはしばらく身動きが取れなかった。
 そういうことがあって、数日、数週間と時間が経っても、猪狩の様子は今まで通り全く変わりなかった。オレは肩透かしを食ったような、拍子抜けのような、情けないような悲しいような、不思議な気分を味わっていた。それでも猪狩から離れるなんて考えられなくて、それもまた哀愁を誘う。猪狩はもう、オレのことなんて好きじゃないのに。
「おい、パワプロ」
 あとから布団に入ってきた猪狩が、背を向けて眠るオレの背中にくっ付いてくる。珍しい動作に、嫌でも胸が跳ねた。風呂上がりらしい猪狩の体温はいつもより高くて、石鹸のいい匂いがした。返事をしないでいると、肩を揺すられる。
「キミ、最近変だぞ」
「だって猪狩は、オレのこと好きじゃないんだろ」
「誰が言ったんだ、そんなこと」
「お前じゃん!」
 あんまりびっくりしたから、オレは叫びながら勢いよく身体を起こした。突然なんだという目で猪狩がこちらを見ている。
「いや、猪狩が言ったんじゃん!この前!オレ、ほんとにショックだったんだからな!」
「何をそんなに怒っているんだ」
「だから!猪狩がオレのこと、べつに一番好きじゃないって」
「ああ、それのことかい」
 猪狩の顔を見ていると、変に高ぶって泣き出してしまいそうだった。悲しいのか、怒れるのか、でもやっぱり好きで、猪狩の顔を見ているとそれしか考えられない。だって、オレはこんなにも猪狩のことが好きだ。猪狩がオレのことを好きじゃなくなっても、オレは。
「キミは何か勘違いをしているようだね」
「なにを」
「あれは、そんな意味じゃない」
「じゃあ、なに」
「キミの他には、いないという意味だ」
「え」
「キミがボクのことを一番だのなんだのと言うから、じゃあ二番がいるのかと面白くない気持ちになって、少しイジワルをした。かもしれない」
「……」
「ボクは比べられるのが嫌いなんだ、だから」
 猪狩が言い終わる前に、オレはその身体を腕いっぱいに抱きしめた。苦しいと声を出した猪狩を無視して、オレはその胸に顔を埋める。
「猪狩のばか。好き」
「言っていることとやっていることが支離滅裂だ」
「オレ、そんなつもりで言ったんじゃないよ」
「知っている。だからちょっとしたイジワルだと言っただろ」
「全然ちょっとじゃないよ……」
「悪かった」
「ほんとに悪いと思ってる?」
「まあ」
「オレ、猪狩しか好きじゃない」
「知っている」
「やだこのままじゃ許せない」
 どうすればいい?と視線で問う猪狩に、オレは唇をねだった。キス。ゆっくり重なって、すぐに離れた。口付けのあとで猪狩がくれた言葉は砂糖菓子みたいに甘くて、オレはもっと、と言って目を閉じた。




ーーーーーーーー
いつものやつー!!をいつもよりねっとり書きました
ラブラブですね

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お返事です

以下、拍手より頂戴したメッセージへのお返事となります。お心当たりのある方は、下記よりご覧ください。
また、当ブログを見て下さっている方へ、いつも読んでくださりありがとうございます!
こんなところ誰が見てるんだ?といつも思っているので、この場をお借りして、心より御礼申し上げます。









2023.2.14にメッセージをくださった方へ

 すごく……嬉しかったです……!報われない後輩友沢が好きなので、友沢くんにはいつも申し訳ないなあと思っているのですが、でも、好きなんですよね。私も全く同じ思いで、報われてほしいけど報われない姿が魅力、でもやっぱり報われてほしい〜!!という気持ちが爆発したので、後輩友沢くんが大好きな先輩主人公とラブラブな世界線にいる話を一本書いてしまいました。とっても嬉しいメッセージを頂戴したことがすべての原動力になりました、本当にありがとうございます!良かったら、またお時間のある時にでも読んでもらえたら嬉しいです。
 私はひとさまの作品を拝見するとき、やさしくあたたかいものに触れた時には、創作者さんもきっとそういう方なのだろうなあ…とよく思うので、まさか自分がそのようにおっしゃっていただける日が来るとは思いもしませんでした。身に余る光栄です。書いてきて良かったなって、心から思いました!☺️

 おかげさまで、めちゃくちゃ元気になりました。これからもぽちぽち書いていると思うので、良かったらまた、覗いてやってください。本当に、ありがとうございました!

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ひとつもあげない

ひとつもあげない

「友沢、どうしたの」
 気遣う声がどこまでも優しくて、つまらないことで不貞腐れている自分が本当に嫌になった。練習をして、一緒に飯を食べてから帰る道。腹ごなしの散歩も兼ねて、駅からわざわざ遠回りして帰るこの道が友沢は何よりも好きだった。そうだったのに。昔はそれだけで十分満足していたのに、今の友沢はどうしても子供のように駄々をこねるのをやめられなかった。
「ずっと、猪狩さんがいいんだと思ってた」
「また言ってる」
 優しい眼差しに耐えかねて、何か言わなくてはと思った結果がこれだ。自分の口は、余計なことしか言わない。言ったそばから後悔したが、それでもやめることは出来なかった。下を向いたまま早足で歩く友沢には、今どこを歩いているのかもよく分からなくなっていた。いつもの道を外れて、ずいぶんと人通りが少なくなったことだけは分かる。月のない夜に、街灯の明かりばかりが眩しい。
「なんで猪狩さんじゃなくて、オレなんですか」
「友沢と猪狩を比べたことがないから、そんなの分かんないよ」
 優しい言葉だと思った。告白をしたのは自分の方で、彼はそれにオーケーしてくれただけ。そう思っている自分には、過ぎた言葉だと思う。そう思うのに、満足出来ない。だから何度も確認するのに、すればするほど不安になった。大好きだと思う人を手に入れてこれでようやく満たされると思ったのに、欲求には際限がなくて、次から次へと欲しくなる。本当に子供みたいで、馬鹿みたいで、幼稚な感情だ。
 彼が話す学生時代のちょっとした思い出だとか、野球にまつわるエピソードだとか、そういうものにいちいち付いて回る猪狩守の名前が気に入らない。面白くない。そうやって話を蒸し返しては、何度似たようなやり取りを繰り返したことだろう。いよいよ愛想を尽かされても、おかしくない。
「友沢って、そんな顔もするんだな」
 言われて、友沢はようやく顔を上げることができた。優しい眼差しに抱かれて、何も言えなくなる。あんまり無邪気に笑うもんだから、友沢は全身の力が抜けていくのが分かった。固く握りしめていた手の平を解いてポケットから出すと、その手をひょいと掴んで繋がれる。
「オレ、友沢のこと好きだよ」
 ぶわ、と全身の熱が顔に集まったように熱くなる。なんにも言えなくなって黙っていると、彼がまた笑う。
「友沢は、どうしたい?」
「言ってもいいんですか」
「もちろん」
 考えるよりも前に、言葉が出ていた。
「オレを、あんただけのものにして」
 言われた彼は少しだけ驚いたような顔をして、その後で繋いでいた手に力を込めた。それをぎゅうと握り返して、友沢は彼の言葉を待つ。
「家、来る?」
 返事の代わりとばかりに抱き付くと、彼の笑い声が降ってくる。友沢は、もっと言いたいこと言っていいよ。本当にそんなことになったらあんたが困るだけだと言い返したかったが、友沢はそれを飲み込み、お言葉に甘えてキスをねだることにした。




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めーっちゃ嬉しかったので、書きました!ありがとうございます!友沢くん、幸せになってくれ〜!

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おはなしはここでおわり

「そうして二人はいつまでも幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし」
「なんだ、それで終わりか」
 隣で寝転んでいる猪狩がいかにもつまらなさそうな声で言った。このままだと次を読めとでも言われそうなので、オレは先に牽制する。
「ていうか、なんでオレが猪狩に絵本の読み聞かせしてんの?おかしくない?」
「キミが、自分でも読めると言い出したからだろう」
「それはまあ、言ったけど」
 発端は本当につまらないことで、オーディオブックを聞いていた猪狩が構ってくれなくて退屈だったから、そんなものはオレにでも読めるなどと言ってしまったことが始まりだった。読書の時間を邪魔された猪狩は、それなら読んでもらおうじゃないかと、なぜだか知らないが絵本を持って来た。聞けば、わざわざ実家から取り寄せたらしい。猪狩は昔からよく分からないところがあるし、意外とお茶目だ。本人は全くそのような自覚がないところも含めて諸々と。
「ていうか、本増えてない?しかも童話ばっかりじゃん」
「最近、童話の良さに改めて気付いたんだ」
「なんで」
「うるさいな、べつにいいだろ」
 昨日は北風と太陽、その前は鶴の恩返し、今日はシンデレラだ。国もジャンルも趣味もバラバラで、猪狩の考えていることはよく分からない。本を置くと、続きをねだる目で猪狩がこちらを見ていた。
「どうした?」
 少しだけいじわるをして聞き返すと、猪狩は興味を失くしたようにぷいとそっぽを向いた。本当は分かっている。猪狩がただ甘えるための口実を得ているだけなのも、寝転んで本を読む間は黙ってそばにいられると思っているのも。だから、お話はこれでおしまい。電気を消したら、今度はオレが猪狩に甘えさせてもらう番だから。




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ギャグです!

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話がちがうじゃん

子供の頃、リトルリーグで一緒に野球をしていた女の子がいた。すごくかわいくて、茶色の短い髪がとてもよく似合っていた。かわいいのに負けず嫌いで、ずっと年上の上級生に打ち負かされるたびに本気で悔しがって泣いていたのをよく覚えている。すぐに涙を拭いて練習を始める姿は、子供心にも心の奥深くに印象付いて、今でも忘れない。
 それから間もなくして別のチームに行くことになったその子とはそれきりになってしまったけど、いつかまた一緒に野球をしようね、そのときは絶対に負けないよなんて、指切りしながら笑い合った。そんな子供の頃に交わしたかわいらしい約束と、どこかでまたあの子に会える日が来ることを信じて、オレは今日まで野球をして来た。のに。
「話がちがうじゃん!」
「キミはまだその話をしているのか」
 暇人は時間があっていいねときれいな顔で笑う隣の男こそ、オレが約束した、子供の頃の思い出の君であった。そんなことって、あるだろうか。猪狩とは高校の入学式の日に再会した。男であることはもちろんすぐに分かったが、あの日の面影も確かに残っていて、胸がときめいてしまったのもまた、事実。
「キミが勝手にボクのことを女だと勘違いしてたんだろ」
「だって、すごいかわいかった!し……」
「それは、どうも」
「タオルとか、水筒とか、持ってる物もみんなかわいくなかった?オレ、すげえ覚えてるんだけど」
「母の趣味だ。あの頃の母は、特にかわいらしいものが好きだったから。髪を伸ばしていた弟の髪は、結われていたぞ」
「そうなんだ……」
 再会した猪狩に文句を言いながら帰路を共にするのも、これまた恒例になっていた。猪狩がチームを移ったのは弟と野球を一緒にするためだったらしく、去年までは中学でも兄弟でバッテリーを組んでいたらしい。来年は弟もあかつきに入学予定とのこと、来年の今頃にはまた、猪狩と弟の兄弟バッテリーが見れることだろう。
「それで?子供の頃からの約束が叶った感想は?」
 ふてぶてしい顔で笑う猪狩の顔があんまり嫌味ったらしいもんだから、オレは手を伸ばしてその鼻先を摘んでやった。へへ、ざまあみろ、変な顔。
「なにするんだ!」
 猪狩は怒っているが、オレは全然、それどころではないのだ。だって、思い出の中のあの子より、いま隣を歩いている猪狩の方がずっとかわいいなんて、そんなこと。一体全体どうしたらそんなことが言えるっていうんだ!
「キミって、しつこいんだな」
 そうだよ、今更気付いたか。オレは普通に、女の子が好きだったのに。それなのにお前のせいで、女とか男とか関係なくて、実は猪狩だから好きだったなんて、そんなことに気付いてしまったんだ。あまりにも酷で、あまりにも話が違う。
「面倒だから、もう機嫌を直せ。今日も家で練習するぞ」
 そんなかわいい顔で笑うなんて、本当に、本当に、話がちがう!




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妄想乙!でもたまにはこんなのもよくない?
主守はなんでもいい。

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一生言わない

一生言わない

 帰って来てリビングの扉を開けた瞬間、鼻をつくその匂いに猪狩は眉を顰めた。自分を待っていたのは、酒の匂いと散らばる空き瓶や空き缶、そしてソファにひっくり返って寝ているパワプロの姿だった。換気扇を回し、窓を開けて換気する。真冬の冷たい風が吹き抜けていったが、悪臭こもった室内よりは随分とマシだ。一体いつから飲んでいたのか、赤い顔をして呑気に寝ている家主が起きることはない。
 十二月二十四日。何の日かといって、それは勿論、当然にして、猪狩の誕生日であった。一緒に誕生日を祝いたい、そういう要望を口にしたパワプロが、わざわざ猪狩を待っていてこんなことになっているのは、容易に想像がついた。だからこそ猪狩は腹を立てている。待たなくていいと、きちんと伝えていたからだ。それにパワプロも納得をしたはずで、その代わりに二十五日はキミのために一日空けておくと、猪狩にしては大層な大盤振る舞いを約束していたのだ。それなのに、パワプロは待っていたらしい。その心理が、猪狩にはどうにも分からなかった。
 パワプロの言葉をそのまま借りるのならば、猪狩の家は、金持ちだ。そんじょそこらの金持ちではない、息子が望んだという理由だけで野球球場をぽんとひとつプレゼントしてしまうくらいの金持ちだった。猪狩コンツェルン。猪狩の父たる猪狩茂が一代で築き上げたという驚くべき経歴を持つ会社であり、子会社も数えきれないほど無数に存在する。手掛ける事業は、小売・製造・インフラ・不動産・金融・農業に至るまで、挙げればキリがないほど多岐に渡る。
 そういう家の長男として、猪狩守は産まれた。世継ぎ、長男たる守の誕生を喜び、祝福するのは息をするのと同義であり、当たり前のことであった。要するに、猪狩の誕生日には、毎年盛大なパーティが開かれるのが習わしであるということだ。誕生パーティという名目から、猪狩コンツェルンの跡取り息子お披露目の場となりつつあるのは、ここ数年のことであったが。
 だから猪狩は、パワプロに待たなくて良いと言った。ボクは今夜、帰れない。そう伝えた猪狩が、普段よりも早く切り上げてここに来ていること自体が、パワプロの願う気持ちと同じであることを証明しているのだが、いかんせん猪狩は気付かない。なにせ、こんな風に過ごす二十四日は今年が初めてなのだ。パワプロも同じ思いであったが、無論猪狩は知らない。
 十二月二十四日。猪狩守の誕生日。クリスマス・イブ。イブの日には恋人同士で過ごすのが習わしなどと、そんなことを言い出したのは、どこのどいつだ。苦々しい気持ちで、猪狩は換気のために開けていた窓を閉める。そんなことがなければ、こいつはこんな風にして待っていることもなかっただろうに。
 散々冬の風が吹き込んだ室内は寒いのか、ソファで転がっていたパワプロが小さく丸まっている。そこでようやく猪狩は手袋を外し、巻いていたマフラーをとって、ソファへ近付いた。飲みすぎたせいなのか、猪狩が隣にやって来てもパワプロは全然気が付かない。
 しゃがみ込み、頬にキスをしようとして、猪狩は思い直して唇にそれを押し当てた。途端酒臭い匂いが猪狩の鼻をついて、すぐに後悔した。本当に、バカだな。寝顔にそう、言い聞かせた。
 野球が出来なくなっても、跡取り息子じゃなくなっても、キミがいればいいなんて、一生言わない。そんなこと、言わなくてもとっくに知っているだろうから。
 パワプロが起きるまで、あと少し。二十四日の寿命はまだ、残っている。




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守さん、おめでとうございます。
今年のあなたも素敵でした。来年のあなたもきっともっとずっと素敵なんだと思います。
ありがとう、おめでとう、大好き!

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これは、慈愛

これは、慈愛(カイザース/主人公と猪狩進・猪狩守・友沢亮)

 いつも朗らかに微笑んでいるその顔が、どこか陰りを帯びているように感じられたのは、いつのことだろう。その子の名前を進くんと言って、学生の頃からよく知っている猪狩の弟であった。猪狩と違って、進くんはかわいい。素直だ。料理も上手で、気立てもいい。そう言うと進くんは決まってほんのり頬を染めながら、そんなんじゃあないですよ、と謙遜する。そういうところだよ。そういう風に過ごして来たから、進くんの口からその名前を聞くようになったのも自然の成り行きであった。神童裕二郎。「日本が生んだ、世界のエース」とまで言われている人で、野球をしていて彼のことを知らない人はいない。そういう人と進くんが、バッテリーを組んでいたのも当然、知っていた。黄金バッテリーが解消されたのは、神童さんが渡米したためであった。その時のことを、進くんがぽつりぽつりと話したとき、ぽたりぽたり、一粒また一粒と涙が落ちていった。今まで誰にも言えなかった、もしかしたら進くん自身も気付いていなかった気持ちを一言ずつ絞り出すように話す声は、胸に痛かった。しばらくして落ち着いたあと、泣き腫らした目を恥ずかしがる進くんがまたいじらしかった。

 ボクは天才だから、キミみたいな凡人とは一緒に練習なんてしたくないね。いつものようにそういうことを言っているのは、もちろん猪狩だ。こいつのことは学生の頃からよく知っている。縁というよりはもはや因縁めいていて、初めて会ったのは、通っていた高校近くの河原だ。ランニングしていたらしい猪狩の方からぶつかってきたのに謝りもしないから、腹が立った。ランニング中であるのにボールを持っていた猪狩と、バットを背負っていたオレがやることはひとつ。一打席勝負で、白黒つける。それ以来、猪狩とはたびたび顔を合わせることになった。後に、同じ地区の強豪校に所属していることが分かった猪狩とは、甲子園の切符をかけて戦ったこともある。互いにプロ入りをしてからも、猪狩は良くも悪くも目立っていたから、別のチームに所属していても話はよく聞いていた。それがひょんなことからチームメイトになったのだから、驚きだ。猪狩が、学生の頃から物言いや態度が全く変わっていないことも驚きである。猪狩は、今も昔も大層な努力家で、信じられないほどの練習量をこなしていた。一人がいいなんて言いながら、一人きりで居残り練習をする猪狩と共に時間を過ごすようになるまで、そう時間はかからなかった。

 第一印象は、あんまり関わらない方がいいかもな、だった。それを言えばきっと、友沢は臍を曲げて不貞腐れるのだろう。ポーカーフェイスなどと評される彼の表情はあれで随分と分かりやすいものがあるのだが、世間と自分の評価は一致しない。入団してすぐにエースたる猪狩に喧嘩を売ったところや、生意気そうに見られがちな態度や振る舞い。その全部、一生懸命すぎるゆえの余裕のなさから来ているのだとオレが気付いたのは、友沢と出会って少し経った頃だった。普段は付き合いの悪い友沢だったが、飯を奢ると言うと目を輝かせて付いてくるものだから、初めはそれが少し面白くて、かわいらしかった。年相応のルーキーらしく、微笑ましい。しかし、食事を共にする時間の中で、彼が何を大切にしているのか、今までどんな経験をしてきたのか、断片的ではあるが、分るようになった。友沢は、誰よりも何よりも優しくて、家族思いだった。野球をしている理由もそうだと知ったとき、オレは彼に対する第一印象を詫びた。それを口にすると、友沢は分かりやすく口を尖らせて不貞腐れるものだから、オレは想像通りのそれに、思わず笑ってしまった。

「あの、パワプロさん」
「おい、パワプロ」
「ねえ、先輩」

 呼ぶ声は見事に重なっていて、オレはどうしたのと笑って、三人を振り返った。

2022.12.20「これは、慈愛」


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地獄をイメージしながらしっぽりと書き上げました
ハッピーセットだね

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エゴ・サーチ

エゴ・サーチ(友沢亮→主守)

 友沢亮には、日課がある。プロ入りしてから始まった日課だ。眠る前、好きな人の名前をインターネットで検索すること。馬鹿みたいだと思っても、一度やるとやめられなくなった。先輩であり、チームメイトであるその人の名前を今日も検索ボックスに打ち込む。そうすると、その人の写真や、プロフィール、ネットニュースなんかが目の前に一気に現れる。情報の波だ。その中で一番最初に目に飛び込んで来たニュースは、やっぱり今日のヒーローインタビューの様子だった。苦々しい気持ちで、友沢はそのニュースのトピックを開く。
 そのニュースの写真を飾るのは、先輩とチームのエース、猪狩守であった。この二人ときたら、学生の頃から因縁があるだの、甲子園決勝のカードを戦ったライバルだの、猪狩のトレードで今度はチームメイトになっただのと、常に話題には事欠かない。先発で延長まで投げ抜いた猪狩と、サヨナラを決めた先輩は、お立ち台に上がってもなお、いつもの通り仲良く喧嘩をしていた。それが面白いだの、可愛いだの、カイザース名物だのと、好き勝手書かれている。
 案の定、今夜も友沢はしっかりと不貞腐れた気持ちになって、スマホを置いて頭から布団を被った。そもそも、あの人の名前を検索すると当たり前のように隣に並んで出てくる、その名前が気に入らなかった。猪狩守。あの人の名前でインターネット検索すると、サジェストには必ず猪狩守の名前が出てくるのだった。同級生だから、甲子園で戦ったから、ヒロインに並んで立ったからって、なんだっていうんだ。
 友沢は目を閉じる。瞼の裏、あの人の名前を思って浮かぶのは、取り留めもないことばかりだ。気さくに話しかけてくる様子、笑うと年齢よりも幼く見えること、飯に誘ってくれるときの声のトーン、野球の話をするときには子供みたいな顔付きになるところ、それから。猪狩守と一緒にいるときにだけ見せる、特別な表情。
 あーあ。悔しくて、考えたくなくて、瞼の裏の景色すら見たくなくて、腕で顔を覆ってみても、友沢の頭にはどうしようもないことが浮かぶ。
 好きだ。敵わない。欲しい。好きだ。あの人の名前を浮かべては、仕様のないことばかりが並んで消える。今夜も止まない、エゴイズム・サーチ。




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俺の妄想アタックを喰らえ!!!!!!!
っていうのが二次創作なので、耐えてください
友沢くん、かわいいね

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走れ猪狩

猪狩は激怒した。必ず、かの鈍感鈍間のパワプロを解らせなければならぬと決意した。パワプロには猪狩の心がわからぬ。猪狩は、パワプロの恋人である。学生の頃より二人は白球を追い掛け、野球と共に暮らして来た。けれども猪狩の恋心に対しては、パワプロは人一倍に鈍感であった。
(今日こそは、絶対にボクの方から誘わずに向こうから押し倒させてやる!)
 要するに猪狩くんは、なかなかパワプロくんが手を出してくれないことに悶々としているだけでした。
「おい、パワプロ」
 ソファに寝転がってテレビを見ていたパワプロくんを端に追いやって、その隣に寄り添うように猪狩くんは腰掛けました。
 開けた窓からは、朝の温かな日差しと柔らかな風、そして小鳥のさえずりが聞こえてくるのでした。こんなに素晴らしい朝をだらだらと寝転びながら過ごすなど、言語道断です。わざと身体を密着させながら、猪狩くんはパワプロくんにしなだれかかりました。こちらを見る彼の視線に猪狩くんの胸は小さく飛び跳ねます。
「今日はなんだか少し暑いな」
 そう言って猪狩くんは、わざと自分の肌が見えるように、着ているシャツを引っ張りました。もちろん、ボタンは上からひとつふたつ、開けてあります。
「そうか?天気予報だと昨日より涼しくなるみたいだけど」
 猪狩くんの火照る身体…もとい火照った顔もなんのその、どこ吹く風で言うパワプロくんは本当に涼しい顔をしています。いつもならばこの辺りで怒ってしまうのですが、今日の猪狩くんは本気です。気持ちをぐっと押し込めて、パワプロくんの腿へ手を這わせました。
(これならどうだ!)
「なんだよ猪狩。ここ座りたいのか?たく、ほんとわがままだよな〜お前」
 猪狩くんの気持ちなど露ほども知らぬパワプロくんは、いつものこととさして気にもせず、ソファから降りて、それを背もたれにしてテレビを見るのでした。確かに常日頃猪狩くんは自分の好きな時にソファを占領すべくパワプロくんを退かしますが、今日は違います。違うと言ったら違うのです。
「……キミ、今日は皿洗い当番だろう」
「あっ、そうだった。忘れる前に今からやるか」
 もちろん猪狩くんにとっては皿などどうでも良く、新たな作戦に移るべくパワプロくんに席を立たせるのが目的でした。まんまと流しの前で皿を洗い始めるパワプロくんの隣に、猪狩くんもそっと並びました。
「ボクも手伝う」
「珍しいな。助かるけど」
 パワプロくんがそう言った瞬間、わざと蛇口に手をかざした猪狩くんは、勢いよく流れ出る水でびしょ濡れになってしまいました。猪狩くんどころか辺り一面水浸しになってしまいましたが、猪狩くんとしては作戦大成功です。水も滴るなんとやら。一枚だけ着ているシャツが肌に張り付いてぐっしょりと濡れそぼっています。
(さあ、ボクをよく見ろ!)
「ばっ、猪狩お前なにやってんだよ、も〜!タオル持ってくるからちょっと待ってて!」
 どうだと言わんばかりに顔を上げた猪狩くんでしたが、その時にはもうパワプロくんはタオルを取りにいなくなっていて、ぽかんとしている間に渡されたタオルで全身拭かれ、もちろん床も綺麗に清掃され、ご丁寧に着替えまでさせられているのでした。
 しかも、薄手のシャツ一枚では寒いだろうと、きちんと季節に相応なセーターを持って来られてしまいました。生地は上等なカシミヤで織られたもので、猪狩くんのお気に入りの一着でもあります。服を着せてもらった猪狩くんは万歳の姿勢から手を下ろし、ついでにそのままそっぽを向きました。猪狩くん、ここで限界を迎えました。きっとパワプロくんを睨み付け、立ち上がります。
「もういい!ボクは走ってくる!」
「え?ならちゃんとウェアに着替えた方が」
「いい!」
 言うが早いか家を飛び出して、猪狩くんは駆け出しました。初めは怒りに任せてがむしゃらに足を動かしていましたが、いったん走り出すといつもの癖でランニングコースをなぞっていました。朝露に濡れる樹木は日の光にきらきらと眩く、吹き抜ける風は爽やかで、いつしか通常のトレーニングのように走っていました。セーターを着て出てきたことを後悔しながら、いつもより少しだけ長めのコースを走り終え、猪狩くんは家に戻りました。リビングの戸を開けると、待っていたようにパワプロくんが顔を覗かせました。
「おかえり、猪狩」
「……」
「さっき頭から濡れてたし、風呂入りたいかと思って沸かしといたぞ」
 走ってきたことで頭も冷えていたので、猪狩くんは小さく御礼を言うと素直に入浴することにしました。さっぱりと汗を流したらなんだかいろんなことがどうでも良くなってしまって、気分良く風呂を上がりました。そうして身体を拭いて下着を手に取ったところで、パワプロくんが脱衣所に入って来ました。
「ちょっ…なんのつもりだ、ボクはまだ」
「いやあ、待てなくなっちゃってさ」
「は」
 猪狩くんの声はそのままパワプロくんに飲み込まれて、それ以上何も言えなくなってしまいました。パワプロくんの口はまるで猪狩くんを食べてしまうように吸ったり食んだり、時には舌べろを噛んでいくものですから、猪狩くんは何が何だか分からないまま、すっかりとろけてしまいました。
「何なんだ急に、キミは……」
「いや、猪狩が誘ったんじゃん」
「なっ、キミ知ってて」
 続きはパワプロくんの唇が重なって、猪狩くんはやっぱり何も言えないのでした。待ち望んでいたそれにうっとりと瞼を下ろした顔は、パワプロくんだけが知っていることです。

 おしまい!


ーーーーーーーーーー
ギャグですって言えばなんでも許してもらえると思ってるな?(思ってる)
守さんはかわいーなーーー

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今夜、二人のベッドで

今夜、二人のベッドで

 息を整えている猪狩の前髪をかき上げ、汗を拭き、身体をきれいにしたあとでオレはベッドサイドに置いてあった水を取った。そうしてシャツを着ようとしたところで、布団の中から猪狩の声が飛んでくる。
「おい」
 あんまりかわいくなさすぎて、オレは笑ってしまいそうになるが、なんとか堪える。オレには、猪狩の言いたいことが分かる。猪狩のそれは、なんと、たぶんオレにしか分からないと思うが、精一杯のおねだりだった。世界中のどこを探したって、絶対オレにしか分からない自信がある。
「ダーメ。猪狩、声掠れてんじゃん」
「べつに、そんなことない」
「のど飴持ってくるよ」
「そんなのいい」
「おい猪狩」
 猪狩の手が伸びてきて、そのまま布団の中に引き摺り込まれる。空になったペットボトルの容器が床に落ちて、カラリと音を立てた。
「キミは、ボクとしたくないのか」
「いや、今したじゃん」
 睨め付けるその顔はどう見ても恋人に向けるものではなかったし、まして夜のお誘いを(しかもおかわりを)する表情には到底見えなかった。不機嫌そうな頬に手をやると、大袈裟に払われた後でフンと顔を背けられる。こいつ、本当にオレのこと好きなのかな。だけど、そういう猪狩を好きなのはオレなので、結構どうしようもない。
「オレが我慢してるときに、そういうことするよな猪狩って」
「そんなの、頼んでない」
「お前が大事なんだよ」
 そうやって静かにして赤くなっているときは、かわいいのにな。両手で猪狩の頬を挟んで、キスをする。求めるまま、求められるまま深くなっていく口付けの前には、自制も我慢もまるで意味がなくなって、オレは再び猪狩を腕の中に抱いた。
「な、猪狩」
「……うるさいな」
「まだ何も言ってないんだけど」
「好きだ、キミのことが、どうしようもなく」
 世界でいちばんかわいい恋人を捕まえて、オレはぎゅうと頬擦りをした。今夜はきっと、眠れない。




ーーーーーーーー
好きだな〜

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