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辻褄

以下の文章は、キャラクターのイメージを著しく損なう可能性がございます。読後の苦情は受け付け出来かねますので、ご承知おきください。







辻褄(友進)

 進さんは浮気する。
「友沢、今日泊まっていってもいいかな?」
「いいですよ」
 夜遅く、急な来訪を告げるインターホン。当然のように連絡もなくやって来た進さんにそう答えると、彼は嬉しそうに笑ってするりと家に上がるのだった。どうやら酔っているようだったし、水でも持ってこようとキッチンへ向かおうとした背中に、後ろから抱き付かれる。その手は耳を触り、ゆっくりと首筋を撫でていく。
「ねえ、友沢」
「なんですか」
「したいな」
「ここでですか」
「うん」
 振り返ったところに唇を押し当てられ、抗議の声を上げようと口を開いたら舌を差し込まれた。彼は自分よりも体格に恵まれていないので、背伸びをした少々無理な格好でキスされる。初めのうちこそ振り解こうと思ったが、一生懸命舌を絡ませて自分をねだる様子にだんだんその気になって来て、気が付いたら抱き込むようにこちらから口付けていた。
 一瞬息を継ぐために口を離せば、もっと欲しいと物足りない顔をするものだから、ああそうだこの顔がたまらないんだと思い出して、彼の服をまさぐった。服を脱がせるのも億劫で、たくし上げたシャツの中に手を滑り込ませる。そのまま胸の突起を摘むと我慢できないらしい高い声が上がって、余計に興奮した。しかし、このままいつもの向こうのペースに乗せられているのは少々癪であったので、焦らす意味も含めて一度手を引っ込める。えっ、と分かりやすい不満の声が漏れたことに満足して、友沢はわざと緩慢な動きでシャツのボタンを外していく。露わになった首筋に唇を寄せようとしたところで、途端目が覚めた。キスマーク。
「あんた、浮気してもいいけど、分からないようにやってくれって、オレ言いましたよね」
「ごめん、跡付いてた?」
「帰ってください」
「ごめん友沢、話聞いて」
「帰ってください」
「ねえ友沢ごめん、機嫌直してよ」
 謝罪する言葉と、こちらに伸ばされる指の動きはどう考えても辻褄が合っていない。許しを乞うているのは向こうのはずなのに、結局はいつも通りあちらのペースで、友沢はもうどうでも良くなって、その手を振り解くのをやめた。自分よりもひと回り小さい身体を、鍛え抜かれた一流のスポーツ選手の身体を、ゆっくりと抱き締めた。本物のあの人も、こんな感じなのかな。腕の中にいる人と友沢が夢想する人は別人であったが、それは向こうも同じこと。自分たちは利害の一致から付き合っている。それがどれだけ不毛な傷の舐め合いであろうとも。
「ねえ友沢、好きだよ」
「オレも、好きですよ」
 今夜も進さんは、浮気する。


ーーーーーーーーー
なんでこんな話書くの………、、、?
分かんない………分かんないけど…好きなので……
友沢と進くんの好きな人ってだれなのよ

本当にこれは友沢亮くんと猪狩進くんですか?大丈夫、幻覚だよ!

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地獄の季節

地獄の季節(猪狩進)

 夏になると眩暈がする。
「さあ、今日のスポーツニュースはプロ野球からです。今夜はエース対決!巨人は先発猪」
 ブツンと切れて真っ黒な画面を晒すテレビを見ながら、僕は大きく肩で息をついた。少しは気が紛れるかと電源を入れっぱなしにしていたが、やっぱりテレビなんて見るもんじゃない。だからといって、インターネットはもっと見たくなかった。この季節、野球にまつわる話題、トピックスはどこにでも転がっている。
 横になって目を閉じると、瞼の裏にあの夏のマウンドが蘇った。考えたくない。考えたくないのに、網膜に焼き付いてしまったかのようにその光景は自然と頭の中に再生され、あの夏を蒸し返す。甲子園決勝。あのとき、あの場所で、マウンドは自分のものだった。ボールを持つ手の力が徐々に弱くなるのをごまかすように、ロジンを掴んだ。たなびく白煙。延長戦まで縺れ込み、対峙するその人は、かつての友人であり、ライバルであった。暑さのせいで蜃気楼のように映るその先に彼がいる。一球振りかぶって投げるたび、歓声は怒号のように降り注いだ。
 気が付くとうずくまるように小さくなって、肩を抱えていた。痛みはもうない。痛くないはずの肩が、肘が、膝が、未だに疼く。あの夏を最後に、僕は野球が出来なくなった。
 後悔はないのに、夏が来るたび頭が煮えたように熱くなるのは何故だろう。あの日、あの時、野球が出来ないのなら、僕が生きている意味はないと思った。この試合が終わったら死んでもいいから、どうしてもあのマウンドで投げたかった。後悔なんてあるわけない。
「進!自分の足で、ここまでこい!ピッチャーとしてマウンドを任されたからには、最後までしっかりしろ!」
 蒸し暑いのに、背を伝う汗が身体を冷やす。夏になると眩暈がする。




ーーーーーーーーーー
このイベントさ………
進くんはもちろんなんだけど、守さんがほんと守さんなんだよなあ………、、、
好きだ

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ごめんなさい

ごめんなさい

 初めは、あなたを利用するために近付きました。我ながら浅はかで軽率で救いのない理由です。僕、猪狩進という人間は、幸も不幸も、良くも悪くも、兄の猪狩守に多大な影響を受けてここまで大きくなりました。兄のことが好きなのか、嫌いなのか、大人になった今でも未だに判然としません。誰より憎んでいるような気もするし、それでいて誰より愛しいような気もするのです。兄から離れたいような、離れたくないような、とにかく僕の人生にとって兄とはそういう人でした。
 そういった折、僕の人生にひとつの転機が訪れました。父があるプロ野球球団を買収して、自分の名前を付けてしまったのです。猪狩カイザース。その日から僕と兄はチームメイトとなり、いつだったか学生の時のように共に励むようになりました。
 そのときに現れたのが、あなたです。僕にとって、あなたの存在は異質で、衝撃を与えるに十分なものでした。だって、あの兄が、野球に関しては人一倍厳しい兄が、お世辞にも実力があるとは思えないあなたに、妙に突っかかっていっては構うものですから。そもそも僕は、兄のあんな顔を今までに見たことがありません。あなたに対する態度も声も仕草も、僕にとってはセンセーショナルでした。兄が、僕を差し置いてあなたに構うことが、にわかには信じられなかったのです(兄は昔から重度のブラコンだったのですよ)。
 だからあなたに興味を持ちました。兄の気を引くために、あなたを利用しようと考えました。残念ながら僕も、極度のブラザーコンプレックスの持ち主なのです。兄が好きなあなたを好きだと言って、僕は笑いました。

「今日は、ケーキを焼いたんですよ」
「わあ、すごい!進くんって本当になんでも出来るんだね」
「大袈裟ですよ」
 恋人であるパワプロさんがそう言ったのを聞きながら、僕は淹れたばかりの紅茶を差し出しました。昼下がり、いつものように僕の家に遊びに来た彼と、穏やかなティータイムを過ごしていました。信じられないことに彼はまんまるのケーキをひとつぺろりと平らげてしまいました。だって、進くんの作ったケーキが美味しすぎるんだもん。子供のような口ぶりに、僕は笑います。
「さすがにちょっと苦しいかも……」
「ふふ、食べすぎですよ」
「生クリームがほんとに美味しかったー」
 ソファに腰掛けた彼は、お腹をさすりながら、今も僕の焼いたケーキのことを褒めてくれています。世界一美味しいなんて、あまりに大袈裟なリップサービスのように聞こえますが、彼は本気で言っているのです。そういう人でした。胸の奥が温かくなる感覚。自然と、口をついて出ていました。
「僕、あなたのことが好きです」
「うん、知ってるよ」
 柔らかく笑うその顔に、僕は違うと叫び出したくなりました。違う。違うんです。僕は本当にあなたのことが好きなんです。
「僕、パワプロさんのことが好きです」
「オレも進くんが好きだよ」
 その言葉を聞くたびに、僕はなんて馬鹿なことをしてしまったんだろうと思いました。自責の念に駆られるなどとどの口が言うのかと、深い後悔が胸を突き刺します。あなたと過ごすたび、あなたを知るたび、僕は本当にあなたのことを好きになってしまったんです。そんなこと、言えるわけがないのに。だってそんなことを言えば、あなたは僕のことを嫌いになるでしょう。あなたに嫌われる僕が、僕は嫌いです。だから言ってはいけない。なのに、あなたの顔を見ていたら、これ以上嘘をつくのはもう無理だとも思いました。
「違うんです」
僕は、
「うん?」
「僕、本当にあなたのことが好きなんです」
 やっぱりほんとのことなんて言えない卑怯な僕は、さっきと似たような言葉を繰り返しました。きょとんとした後で、パワプロさんが、優しく笑います。
「うん、知ってるよ」
 それはさっきと同じ返事でしたが、さっきとはまるで違う意味の返事でした。ああ。パワプロさんは、最初から、ぜんぶ、ぜんぶ知っていたんですね。それなのに、一度も僕のことを責めないで、僕の好きにさせてくれていたんですね。ああ。
「好きです」
 ごめんなさいと言ったつもりの僕の言葉にパワプロさんはやっぱり笑って、頭を撫でてくれました。思わず泣いてしまった僕に、パワプロさんはさっきと同じ言葉をもう一度だけ繰り返して、優しいキスをひとつ、くれました。





ーーーーーーーーー
屈折した進が好きだからすぐこういうの書くけどまじのまじのまじに好きです
ごめんなさいする進くん超゛かわいいよ
好き

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拍手お返事です

6月15日にメッセージをくださった方への返信です。お心当たりのある方は、以下よりご覧ください。
並びに、当ブログサイトをご覧くださっている方へ、いつも本当にありがとうございます。














こちらこそ、こうして温かいメッセージを頂戴したことで命が助かりました。ありがとうございます。
趣味の偏ったものばかり書いているんですが、これはいつにも増してつよつよだな!と思っていたので、反応いただけて感謝&安心&歓喜しました。本当に嬉しかったです、ありがとうございました!

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ささのはさらさら

ささのはさらさら(10/猪狩進)

 今日、近くで七夕祭りやってるみたい。
 そう言ったのはパワプロさんで、それを横で聞いていた兄さんに集中しろとたしなめられる。そばにいた友沢は、二人の様子を見るともなく眺めていた。どういう風の吹き回しか、ありそうでなかった組み合わせの四人で自主練習をしている。僕は兄さんと兄弟であるし、パワプロさんとも友沢とも親しくしているつもりだったが、このメンバーでわざわざ集まって練習をするのは今日が初めてだ。僕は握っていたバットを下ろして、いいですねと笑った。
「せっかくですから、みんなで行きましょうよ」
「さすが進くん!」
「なに言ってる。そんなことしてる場合か」
「まさかこの四人で行くんスか?」
 僕の言葉にパワプロさんは嬉しそうに声を上げて、兄さんが不服そうに眉根を寄せる一方、友沢は意外にも乗り気のように見えた。普段は生意気そうに振る舞っている友沢が、ルーキーらしくかわいらしい一面を持っていることを僕はよく知っていた。そして、いかにも不満そうな顔をしている兄さんが、実のところ一番胸を弾ませていることも分かっている。確かにペナントレースの真っ最中ではあるものの、明日はオフだ。だからこそわざわざ遅くまで居残って練習していたのだ。たまの気分転換くらい、罰も当たらないというものだろう。
「さ、行きましょう」



「友沢、短冊書かないの?」
「や、べつに、オレそういうのいいんで」
「せっかく来たんだから、書きなよ」
 せっかく祭りに来たのに、友沢はいつものポーカーフェイスを崩さないで両手をポケットに突っ込んでいる。夜も遅い時間だというのにずいぶん盛況な盛り上がりで、 祭り会場は人で溢れていた。風でたなびく七夕飾りはきらきらと瞬いて、友沢の横顔を照らした。
「ほら、一枚あげる」
 手に持った短冊を渡すと、いよいよ観念したのか、先輩の言うことは聞いておくべきとでも思ったのか、友沢は隣に来てペンを持った。前のテーブルでは、兄さんとパワプロさんが仲良く喧嘩しながら短冊を書いている。ああ、あの兄さんの嬉しそうな顔。パワプロさんは心底楽しそうだ。僕は思わず笑ってしまってから、短冊にペンを走らせた。
「友沢、書けた?」
「そんな急かさないでくださいよ」
 適当に済ませるものだとばかり思ったのに、友沢は真剣に何を書くか考えているみたいだった。かわいいな。僕もそんな風になれたら良かった。
 普段の友沢だったらこんなところに来るはずもないのに、今夜に限ってどうして黙って着いて来たのか、僕にはその理由がよく分かる。だって、好きな人とは一緒にいたいよね。僕と同じ理由だ。
「ほら友沢、結びに行こ!」
「ちょっと進さん、引っ張らないでくださいよ」
 子供が、どこかで歌を歌っている。そういえば、昔は七夕になると兄さんと一緒に家の笹に短冊を飾ったっけ。懐かしい記憶は、よく知っているその童謡を口ずさませた。

笹の葉さらさら
軒端に揺れる
お星さまきらきら
金銀砂子

 今夜のねがいごとが叶うのは、だあれ




ーーーーーーーーー
いい加減進くんを失恋させる話を書くのはやめるんだと思ったので失恋未遂になりました
進くんは誰が好きなのかな
私は本当に、本当にどの組み合わせも好きなので、もう全員もちろんカップル成立しろって思いますよね
主人公ちゃんはあまねく全人類を幸せにする男だし
守さんと進くん最高だし
守さんと友沢くん筆舌に尽くし難いですよ
進くんと友沢くんの間に流れる空気で飯が食える
なので、カイザースの皆さん、全員付き合ってください
私からの、おねがいごとです

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夏過ぎて

夏過ぎて(主守)

 なんで、手を繋いでいるんだっけ。なんで、オレは猪狩とこうしているんだったっけ?
 隣を歩く猪狩が黙ったままでいるから、オレも何も言わないでいる。夕暮れを過ぎて日が落ちた、夏の河原。こっそり横を見てみるけど、街灯の薄明かりでは猪狩の細かな表情まで窺い知ることはできなかった。
 暑くはないけれど涼しくもないぬるい風が、夏の終わりを知らせていく。もう、夏が終わるのだ。人生で一度きり、高校三年の夏。地方大会決勝戦、オレたちパワフル高校野球部は、猪狩率いるあかつき大附属高校に敗北した。甲子園行きのラストチャンスを逃したオレは、負けた悔しさと同時に、不思議な満足感も味わっていた。それは、相手が他ならぬ猪狩だったからかもしれない。
 遠くで虫の鳴く声がする。夏の終わりどころか、一気に秋がやって来てしまったようで、時の流れの早さに驚いた。猪狩とは、あの最後の試合以来に会った。顔を見たら話したいことがいくつもあったはずなのに、実際にこうして出くわしてみるとなにも出てこない。甲子園優勝、おめでとう。オレたちに勝ったんだから、そのくらい当然だよな。猪狩に会ったらそうやって軽口を叩いてやろうと思っていたのに、久しぶりに河原で会った猪狩を見たら、すっかり言う気が失せてしまった。当たり前だろうと鼻を鳴らす猪狩の表情まで、想像していたというのに。
 甲子園の決勝戦は、部室のテレビで見た。示し合わせたわけでもないのに、どこからともなくみんなやって来て、結局部員のほとんどが集まって見ていた。猪狩くん、いつも通りでやんすね。矢部くんがそう言った通り、マウンドに立つ猪狩は甲子園であっても、テレビ越しであっても、いつも通りの様子だった。好戦的な眼を見せてボールを掴むと、一度だけ帽子を被り直し、ロジンを触る。オレはテレビでそれを見ながら、その視線の先にいるのがどうしてオレじゃないんだろうと、ぼんやり考えていた。
 抜けるように青い空と、見慣れた猪狩の青いユニフォームが、やたらと目に染みた。
 川縁をゆっくりと歩く。猪狩と幾度となく三球勝負をした河原だ。あの日々が昨日のことのように思われたし、それでいてずいぶんと昔のことのようにも感じられた。夏が終わる。そういう感傷的な気持ちが、オレに猪狩の手を取らせたのかもしれない。せっかく久しぶりに会ったのに、猪狩はいつもの嫌味も言わないうちに立ち去ろうとするものだから、つい引き止めてしまった。掴んだ手をどうすればいいのか分からなくて、でも、まだ猪狩とは別れたくなくて、なんとなくそのまま歩き出した。やめろとか、なんだとか、そういうことを言うと思ったのに、猪狩は意外にも黙っている。そういえば、オレって野球以外の猪狩のこと、ほとんど知らないな。
「おい」
「ん?」
「ボクは、こっちが帰り道だから」
 ようやく喋ったと思えばそんなことで、なんとなくいつも猪狩がやって来る方向へ向かって歩いていたのだが、ここがその終わりらしい。そうなんだと答えて、オレは手を離した。たった今まで手を繋いでいたのが嘘のように、温もりはすぐに離れて消えた。
「じゃあ」
「あのさ、猪狩」
 行こうとする猪狩に、オレは声を掛けた。
「連絡先、教えてよ」
 夏が終わる。オレたちの関係性も、今までとは少しくらい変わったっていいだろう。嬉しそうに笑ってみせた猪狩の顔が想像以上にかわいくて、オレはここが外で、そして夜であることに感謝した。





ーーーーーーーーー
夏は主守の季節ですからね

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好きって言わない

好きって言わない(主守)

 オレの恋人は、わがままで、高飛車で、口も態度も特大に立派で、そういうところだけ見るととんでもないやつのように聞こえるが、その実誰よりも努力家で、自分に厳しいストイックな人間であった。そういう恋人の名前を猪狩守といって、猪狩とは学生時代からの縁である。
 オレも猪狩も野球をしているから、出会いもきっかけもすべてはそこから始まった。いつだったか歩いていた河原で肩がぶつかったのを皮切りに、猪狩とは幾度となく小競り合いを繰り返しては勝負をし、高校三年の夏には甲子園行きの切符を懸けて戦った。
 その頃から猪狩という人間は全然変わらない。いつのまにか恋人になってからも、まるで変わらない。猪狩は学生の頃からとても目立つ存在で、それこそ高校生の頃にはエースで四番、マウンドに立てば誰よりも力強く華のある投球を、打席に立てば文句なしの場外ホームランを飛ばしていたものだから、目立たない方が無理だった。
 加えて猪狩は外見も飛び抜けて綺麗だったから、当時の雑誌インタビューなんかには、「マウンドの貴公子」だの「高校野球界の王子様」なんて見出しがよく踊っていた。なんなら今でも踊っている。猪狩のスタイルはプロ入りしてからも変わらないし、口も態度も相変わらずだ。
 オレは猪狩の外見に関して特別何かを思ったことはないが、そういうことを言えば、「キミの目は節穴か?」と言って眼科に行くことを勧められるに違いないので黙っている。どうやらこだわりのあるらしい前髪だけは、もう少し切った方がいいんじゃないかと昔から思っているが、まあ、もっとよく見たい時には近くで覗き込んでやればいいのだから、問題ないだろう。
 そっと髪をかき上げて瞳を覗き込んでやると、猪狩はいつものおしゃべりをとんとやめて静かになる。そういうときの猪狩はかわいかったけれど、その口は決してオレのことを好きだなんて言わないのだ。
 そういうことに、オレは猪狩との出会いから十余年経って、ようやく気が付いた。付き合っていて、この数年は一緒に暮らしているのに、そういえば一度も好きだと言われたことがない。オレはよく猪狩にばかだの間抜けだのと言われるが、本当にそうなのかもしれないと、気付いたその日には本気で思った。
「猪狩ってさ、オレのこと好き?」
「は?なんだい、その質問」
「いやだから、オレのこと好きかって、聞いてるんだけど」
「ボクがキライな人間と一緒に過ごすわけがないだろう」
「だからそういうことじゃなくて」
 この辺りからだんだん雲行きが怪しくなってきて、最終的には本格的な喧嘩になった。なんてくだらない。くだらないが、オレにとっては重要なことだった。今回ばかりは譲る気にはなれなくて、仕様もないことにかれこれ猪狩とは一ヶ月ばかりまともに口を聞いていない。なんてこった。いつもならオレの方から適当に折れてなし崩しに仲直りしていたものだから、オレも猪狩も加減が分からなくなっていた。

 そういうわけで、猪狩とまともに口を利かなくなって一ヶ月と数日。まだ宵の口にも関わらず、オレはベッドに入っていた。不思議なもので、横になっていると自然と眠気がやって来て瞼が重くなる。遠くで猪狩がドライヤーを使って髪を乾かしている音が聞こえる。もうどのくらい猪狩の髪に触っていないだろうか。そういえば、また少し前髪が伸びていたな。
 そんなことをうつらうつらと考えていたら、寝室の戸が開いたので驚いた。くだらないことにオレたちは喧嘩を始めてからというもの、どちらかが寝室で眠っている時、もう一人はソファで眠るようになっていたのだった。
 思わず寝たふりをすると、猪狩が布団の中に潜り込んでくる。さらに驚くべきことに、そっぽを向いているオレの背中に、ぴったりと寄り添うようにくっ付いてくるではないか。オレにはそれが、「言えない」猪狩の精一杯だと十分に分かったが、どうしたらいいのかは分からなくて、やっぱり知らないふりを続けてしまった。心臓がドキドキする。背中が温かい。久しぶりの猪狩だ。顔は見えないけれど、何も聞こえないけれど、あの猪狩が出来ないなりに気持ちを伝えようとしていることがよく分かった。いよいよ振り返ろうとしたところで、背中に押し付けられた猪狩の口からくぐもった声が聞こえた。
「キミのことが、好きだ」
 思わずがばりと身体を起こして猪狩を見ると、今まで一度も見たことのない顔をしていたものだから、オレは返す言葉が見つからなかった。そういうオレの顔を見て、猪狩はいつものように、ばかだなと呟いた。恋人にこんな顔をさせているオレは、確かに馬鹿に違いなかった。布団の中、がばりと勢いよく猪狩を抱き締める。
「オレも猪狩のこと、好き。大好き」
「フン。どうだかな」
「ごめん。本当に、好きだよ」
「キミなんかより、ボクの方が、好きだ」
「オレの方が好きだよ」
「いや、ボクだ」
「オレだって」
 腕の中、耐えきれなくなったように猪狩が笑ったから、オレも笑った。布団の中でひっついたまま好きだ好きだと喧嘩をする男二人は、結構馬鹿だった。笑ってしまう。腕の中の猪狩を抱きしめ直して、柔らかく髪をかき上げる。そのまま指を絡めて、久しぶりの感触を楽しんだ。
「キスしてもいい?」
「そんなこと聞くな」
 またしてもばかだと言われてしまう前に、オレは猪狩の唇を自分のそれで塞いでしまった。やっぱり聞こえはしないけれど、猪狩の唇は、確かにオレを好きだと言っていた。




ーーーーーーーー
百回書いたっていいじゃない。主守だもの。

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行かないで

行かないで(主守)

「今日もめちゃくちゃ練習したなあ〜。もう一歩も動けないよ」
「この程度の練習で根を上げるなんて、やっぱりキミは三流だね」
 部活動を終えた後、いつものように私設球場で練習をしたあとでひっくり返ったパワプロに、ボクは言った。言われたパワプロはさして気にした様子もなく、起き上がってボールを片付け始める。慣れたものだ。いつもと同じやり取りに、ボクの口はなんら淀みなくいつもの言葉を投げ掛けていた。
「泊まっていくといいよ。今日は特別にマッサージ師も付けてあげよう」
「いや、今日は帰るよ」
 えっ。漏れた声が自分のものだったのか、はたまた心の声だったのか、判断がつかない。当然、いつものように大袈裟に喜んで泊まっていくパワプロを想像していたボクは、次に言うべき言葉が見当たらず、困惑していた。こんなことは初めてだ。そんなこととは露知らず、パワプロはいつも通り、むしろいつもよりも手際良く道具を片付けて、すでに自らの鞄を肩に下げているではないか。
「じゃあな、猪狩。道具、貸してくれてありがとう」
「ああ……いや、おい」
「どうした?」
「帰るのかい」
「うん。いつも泊めてもらってばっかで悪いし。さすがに最近は入り浸りすぎで、よくないと思って」
 よくないわけがあるか。今日もこの後は、いつものように風呂に入って、風呂から上がったら明日に差し支えのない程度の少しの夜食を食べながら、取り留めのない話をしたり、ゲームをしたり、それに明日は休みなのだから、いつもよりだらだらしたっていい。横になるとすぐに眠くなるというパワプロには特別に、ボクの部屋で眠ることも許可してやるし、今までだってこの前だってそうしてきたのに、なぜ今日は、帰るのだ。ボクは今日を、明日は久しぶりに部活動も休みである今日この日を、何より楽しみにしていたというのに。起きたら一緒に朝食を食べて軽くランニングをして、シャワーを浴びてからの時間を、そのあと一日どう過ごすのか、ずっと考えていたのに。
「じゃあな、猪狩」
「……」
 右手が出た。自分でもどうしてそうなったのか分からない。掴んだパワプロのユニフォームの裾がみっともなく伸びて、ズボンからはみ出した。背を向けて歩き始めていたパワプロが振り返る。顔は見れなかった。
 こちらを振り返ったパワプロは、「ずっと、それが聞きたかった」なんて言って笑うものだから、ボクは何も言っていないと、掴む手を黙って握り返した。




ーーーーーーーーーーー
主守ちゃんか〜わい

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讃美歌とエゴイスト

讃美歌とエゴイスト(猪狩進)

 誓いの口付け。それを参列者席から遠目に見たとき、僕はようやく目の前の現実が腹の中に落ちたような気がした。正装する新郎の隣に立つのは、白いドレスの人。新郎、神童裕二郎。新婦の名前は、もちろん招待状にも書いてあったはずだが、何度読んでも文字が頭を滑るのみで覚えることが出来なかった。よく晴れた、この春のよき日に、神童さんは結婚する。
 神父の前で永遠の愛を誓った新郎が、花嫁のベールを持ち上げる。差し込む柔らかな光がその横顔を照らして、まるで世界が、この世のすべてが、二人を祝福しているような錯覚さえ覚えた。そのくらい美しかった。愛を誓い合った二人は、静かに口付けを交わす。切り取られた絵画のように美しい二人が、幸せを惜しみなく纏って、微笑んだ。
 気が付けば、辺りは拍手に包まれていた。温かで、幸せで、柔らかな拍手の雨。僕は無意識に叩いていた手をさらに大きく鳴らして、自分の口角がきちんと上がっていることを確認して安心した。
 降り注ぐ拍手のシャワーの中を、新郎に手を引かれた花嫁が歩き出す。神童さんの隣を歩く白いドレスの人。僕はべつに、その人になりたいわけではなかった。悔しいとも悲しいとも思わなかった。湧き上がる感情はひとつだけ。好きになりたくなかった。



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神童さん見てると、××してぇ〜と無性に思う時があるので誰か助けてください
ただの逆恨みです、えへへ

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ネクストバッターズサークル

ネクストバッターズサークル

 三球目、やや甘めに入ったストレートを引っ叩かれた。二遊間を鋭く抜けた球には勢いがあり、ランナーが帰って来てしまうことを悟る。きしくもこの回は、すでに一人ランナーを許してしまっていた。滑り込んだランナーがホームベースを踏み、一点。次の打者を三球三振でぴしゃりと仕留めるも、心内が晴れることはない。九回の表、ここを抑えれば勝利を手に出来たというのに、なんたることだ。
 マウンドを下りてベンチへ戻ると、監督に声を掛けられた。九回裏、打順は八番下位打線から始まる。つまり、九番であるボクにも打席が回ってくるということだ。当然、普通であればピッチャーであるボクの打席には代打がおくられることであろう。しかし、ボクは普通ではないのだ。そういうことはボクの打率と本塁打の数を見てから、顔を洗って出直して来てほしい。形式的な確認を済ませるために監督と少ない言葉を交わし、ボクはバットを持った。バットで取られたものは、バットで取り返すのみだ。
 ネクストバッターズサークルに入り、集中を高める。九回の裏を迎えて同点、この回で得点することが出来れば、自軍の勝ちだ。先頭打者が凡退に倒れたのを見てから、ボクはネクストから打席へ向かった。
 打席に入り、一度だけ伸びをする。マウンドに立つピッチャーを見ると、不思議と心が落ち着いてくるのだった。マウンドから十八,四四メートル離れた、こちら側。ストライクだった。内角ぎりぎり、際どいコースに放たれたストレートにストライクをくれてやる。二球目、緩急付けたカーブは外に大きく外れてボールとなった。
 三球目。打った瞬間に、手応えがあった。バットの真芯で捉えたストレートは、完璧なアーチを描いて飛んでゆく。そうして瞬きにも満たない一瞬の静寂の後、怒号のような歓声が降り注ぐ。どっと降るような歓喜の声を一身に浴びながら、ボクはダイヤモンドを回った。九回の裏、サヨナラホームラン。ホームベースを踏むのと同時にチームメイトがベンチから駆け出して来る。いちばん早かったのは、ネクストに控えていたパワプロだった。あっという間に他の人間も混じってもみくちゃにされながら、パワプロが言う。
「猪狩、お前、お前さあ〜!最高!」
「当たり前だろう、ボクを誰だと思ってるんだい」
 天才猪狩守。興奮するパワプロの声とそれは見事に重なって、ボクは声を出して笑いながら、そのハイタッチに応えてやるのだった。



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野球書けねえ〜!けど野球が好き〜!だし
野球してる守さんが好き〜!

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