恋わずらうひと
恋わずらうひと(主人公×友沢亮)
「友沢くんって、かっこいい!」
幼い頃から今日に至るまで、散々聞かされてきたその言葉を友沢は思い出していた。他者から与えられる己の評価に対して興味はなく、まして自身の外見に関することとなればなおのこと。
なぜなら、そんなものは野球の技術や良し悪しに全く関係がないからだ。その態度がまたストイックだとか、クールだとか、とかく友沢の評価をうなぎのぼりにさせる要因の一つであるのだが、友沢はこれまたこれっぽっちも興味がない。
しかし、ここにきてなぜそんなことを思い出しているのかというと、隣を歩く一人の男が原因であった。呑気に笑っている、この愚鈍な恋人に対して自身が勝負できる、すなわちアプローチできるところがあるとすれば、これしかないと思ったのだ。
友沢がこんなことを考えているとはちっとも知らずに、隣を歩くパワプロはいつもの通りにこにこと笑って他愛のない話をしている。
部活動の練習が終わった帰り道、二人で歩くこの道は恒例のものとなりつつあった。時々は練習後にラーメンを食べて帰ったり、コンビニに寄ったり、公園に寄り道したりして、友沢とパワプロは清く正しい学生らしい交際を続けていた。
パワプロの話に適当な相槌を打ちながら、友沢の胸中たるやぐるぐると思惑が渦巻いている。
クールで、ストイックで、ポーカーフェイスで、かっこいい友沢亮といえども、中身は平凡な高校生、ただの健全な男子高校生なのである。付き合うようになってそこそこの時間を重ねたいま、恋人としてさらなるステップを踏みたいと思うのも当然の欲求であるだろう。平たく言うと、友沢は欲求不満なのであった。
「でさあ…友沢、聞いてる?」
聞いている。だんだんイライラしてきた友沢は、声には出さずに心の中で返事をした。友沢がこんなにも毎日、毎晩、もやもやしているにも関わらず、パワプロときたらいつもこんな調子で、にこにこ呑気に笑って世間話を続けているのだ。こっちの気持ちも知らないで、いや一度も口にしたことがないのだから伝わるわけもないのだが、恋煩いに忙しい友沢は己の正論をかざして怒っている。
もうすぐ、分かれ道の交差点に差し掛かる。あそこまで歩いたら、友沢は右に曲がって、パワプロはその反対の道に帰っていく。だから、友沢は、意を決した。勝負だ。
「えっ、なに友沢、顔近いんだけど…」
立ち止まったパワプロの顔に、ぐっと近付く。べつに何を言うこともない。今まで散々聞かされてきた「かっこいい」が武器になるのなら、これしかないだろうという確信を持っての行動だ。沈黙、そして静寂。
「なんかよく分かんないけど、友沢ってかわいいよな、急に突拍子もないことするし」
するりとかわされたパワプロにそんなことを言われて、友沢は目を瞬かせた。かわいい。かわいい?なんだろうそれは。全く意図しないことを言われ、反応が鈍くなる。ぶに、と鼻先を摘まれて友沢が目を白黒させていると、そんな様子を見たパワプロはやっぱりころころと笑っているのだった。
なんで分からないんだこの鈍感、かわいいなんて言われて嬉しいなんて嘘だ、パワプロの馬鹿、いろんな気持ちを煮詰めた友沢がパワプロの胸ぐらを掴んでその唇を奪うのは、ほんの十数秒後の話であった。
了
ーーーーーーーーーーーーー
こういう主友がどうしようもなく好きですね
今まで自分の容姿に無頓着だった美形が、恋人の気を引きたいために自分の容姿について考え直す感じ、とっても好き、かわいらしい、いじらしい
友沢くん、幸せになってね
「友沢くんって、かっこいい!」
幼い頃から今日に至るまで、散々聞かされてきたその言葉を友沢は思い出していた。他者から与えられる己の評価に対して興味はなく、まして自身の外見に関することとなればなおのこと。
なぜなら、そんなものは野球の技術や良し悪しに全く関係がないからだ。その態度がまたストイックだとか、クールだとか、とかく友沢の評価をうなぎのぼりにさせる要因の一つであるのだが、友沢はこれまたこれっぽっちも興味がない。
しかし、ここにきてなぜそんなことを思い出しているのかというと、隣を歩く一人の男が原因であった。呑気に笑っている、この愚鈍な恋人に対して自身が勝負できる、すなわちアプローチできるところがあるとすれば、これしかないと思ったのだ。
友沢がこんなことを考えているとはちっとも知らずに、隣を歩くパワプロはいつもの通りにこにこと笑って他愛のない話をしている。
部活動の練習が終わった帰り道、二人で歩くこの道は恒例のものとなりつつあった。時々は練習後にラーメンを食べて帰ったり、コンビニに寄ったり、公園に寄り道したりして、友沢とパワプロは清く正しい学生らしい交際を続けていた。
パワプロの話に適当な相槌を打ちながら、友沢の胸中たるやぐるぐると思惑が渦巻いている。
クールで、ストイックで、ポーカーフェイスで、かっこいい友沢亮といえども、中身は平凡な高校生、ただの健全な男子高校生なのである。付き合うようになってそこそこの時間を重ねたいま、恋人としてさらなるステップを踏みたいと思うのも当然の欲求であるだろう。平たく言うと、友沢は欲求不満なのであった。
「でさあ…友沢、聞いてる?」
聞いている。だんだんイライラしてきた友沢は、声には出さずに心の中で返事をした。友沢がこんなにも毎日、毎晩、もやもやしているにも関わらず、パワプロときたらいつもこんな調子で、にこにこ呑気に笑って世間話を続けているのだ。こっちの気持ちも知らないで、いや一度も口にしたことがないのだから伝わるわけもないのだが、恋煩いに忙しい友沢は己の正論をかざして怒っている。
もうすぐ、分かれ道の交差点に差し掛かる。あそこまで歩いたら、友沢は右に曲がって、パワプロはその反対の道に帰っていく。だから、友沢は、意を決した。勝負だ。
「えっ、なに友沢、顔近いんだけど…」
立ち止まったパワプロの顔に、ぐっと近付く。べつに何を言うこともない。今まで散々聞かされてきた「かっこいい」が武器になるのなら、これしかないだろうという確信を持っての行動だ。沈黙、そして静寂。
「なんかよく分かんないけど、友沢ってかわいいよな、急に突拍子もないことするし」
するりとかわされたパワプロにそんなことを言われて、友沢は目を瞬かせた。かわいい。かわいい?なんだろうそれは。全く意図しないことを言われ、反応が鈍くなる。ぶに、と鼻先を摘まれて友沢が目を白黒させていると、そんな様子を見たパワプロはやっぱりころころと笑っているのだった。
なんで分からないんだこの鈍感、かわいいなんて言われて嬉しいなんて嘘だ、パワプロの馬鹿、いろんな気持ちを煮詰めた友沢がパワプロの胸ぐらを掴んでその唇を奪うのは、ほんの十数秒後の話であった。
了
ーーーーーーーーーーーーー
こういう主友がどうしようもなく好きですね
今まで自分の容姿に無頓着だった美形が、恋人の気を引きたいために自分の容姿について考え直す感じ、とっても好き、かわいらしい、いじらしい
友沢くん、幸せになってね
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なんでもない帰り道
主人公←友沢亮
「わ、あの子かわいい〜」
隣を歩く男がそんなことを言うので、友沢は顔を上げた。少し視線を彷徨わせてみるが、しかし、どの女のことを指しているのか分からなかった。休日、部活帰りに歩く街は人でごった返していた。
「いいな〜。あんなかわいい子が彼女だったら、毎日幸せなんだろうなあ」
「ふうん」
つまらなさそうに、実際つまらない気持ちで相槌を打って、友沢は隣で話すパワプロの顔を見る。
「かわいい」だなんて言われたいわけもないのに、面白くない気持ちになるのはなぜだ。むしゃくしゃして、口には出せない感情が胸いっぱいに広がる。
この胸に膨らみがあれば。この身体がもっと小さくて柔らかければ。こいつが言う「かわいい」を手に入れることが出来るのならば。
そんな下らないことが頭に浮かんで、友沢は思わず笑ってしまった。
「友沢、なんか今日は機嫌良さそうだな」
「べつに」
「なあ、もうちょっとだけ練習してかないか?」
「もう完全に日も暮れるだろ。それに、これ以上やるのはオーバーワークだぞ」
「そうなんだけどさあ。なんか物足りないっていうか」
「うち、来るか」
「友沢の家?」
「嫌なら、べつにいい」
「いやなんて言ってないじゃん!行く行く!」
「そうか」
なにが嬉しいのか、パワプロは隣でにこにこ笑っている。それをかわいいと思ってしまった自分に、友沢はやっぱり笑ってしまった。
ーーーーーーーーーーーーーー
片思いをする友沢亮くんに夏を感じています
「わ、あの子かわいい〜」
隣を歩く男がそんなことを言うので、友沢は顔を上げた。少し視線を彷徨わせてみるが、しかし、どの女のことを指しているのか分からなかった。休日、部活帰りに歩く街は人でごった返していた。
「いいな〜。あんなかわいい子が彼女だったら、毎日幸せなんだろうなあ」
「ふうん」
つまらなさそうに、実際つまらない気持ちで相槌を打って、友沢は隣で話すパワプロの顔を見る。
「かわいい」だなんて言われたいわけもないのに、面白くない気持ちになるのはなぜだ。むしゃくしゃして、口には出せない感情が胸いっぱいに広がる。
この胸に膨らみがあれば。この身体がもっと小さくて柔らかければ。こいつが言う「かわいい」を手に入れることが出来るのならば。
そんな下らないことが頭に浮かんで、友沢は思わず笑ってしまった。
「友沢、なんか今日は機嫌良さそうだな」
「べつに」
「なあ、もうちょっとだけ練習してかないか?」
「もう完全に日も暮れるだろ。それに、これ以上やるのはオーバーワークだぞ」
「そうなんだけどさあ。なんか物足りないっていうか」
「うち、来るか」
「友沢の家?」
「嫌なら、べつにいい」
「いやなんて言ってないじゃん!行く行く!」
「そうか」
なにが嬉しいのか、パワプロは隣でにこにこ笑っている。それをかわいいと思ってしまった自分に、友沢はやっぱり笑ってしまった。
ーーーーーーーーーーーーーー
片思いをする友沢亮くんに夏を感じています
世界よこの指とまれ
世界よこの指とまれ
(10カイザース/主人公×友沢亮)
夢みたいだ。夢みたいだ。夢みたいだ。
ばかみたいに同じ言葉がぐるぐる回る。転がったオレが見上げた先には、ずっと手にしたくてたまらなかった人がいる。手を伸ばせば、触れられる。これが夢でなかったら、いったい何が夢だというのだろう?
「友沢、おまえそんな顔するんだな」
「どんな顔、ですか」
「そんな顔だよ」
ぶよ、と頬をつねられて、オレはそれすらも嬉しくて胸の奥がぎゅうと詰まった。苦しいのに嬉しい。そんなオレの顔を見て、相手は屈託なく笑っている。
「友沢、変な顔」
「うるさいですよ。ちょっと、まだ、混乱してるだけです」
練習が終わって、飯に行こうと誘われた。そんなことですらオレは内心飛び上がるほど嬉しくて、顔に出さないよう平静さを保つだけで精一杯だった。だから、それからのことはあまりよく覚えていない。酒を飲んだこの人が終電を逃してしまったことだとか、そのときの自分が何と言って自宅まで呼び込んだのか、そのあとどんな会話をして、こんなことになってしまったのか。
顔を横に背けると、皺になったシーツが目に入った。こんなことなら、新品のものに取り替えておくんだった。こんなことに、なるのなら。まさか、こんな日が来るなんて。
「友沢、なに考えてる?」
「べつに…」
「でも、意外だったな」
「何がですか」
「だって、カイザースのスーパールーキー様友沢亮とオレがこうしてるなんて、誰が想像できるの」
「それは」
こっちのセリフです。そう言いたくて声を出そうとしたのに、見上げたこの人があまりにも優しい顔でこちらを見ているものだから、それは音になることもなく喉の奥で詰まって消えてしまった。さっきから苦しくて仕方がない。苦しくなるほどの幸福など、オレは知らない。
「ん?」
「あんた、こそ」
「オレ?」
「猪狩さんが、いいんだと、思ってた」
「猪狩ぃ?確かにあいつはミョーにつっかかってくることあるけど、そんなんじゃないだろ、どう考えても。野球バカすぎなんだよな。って、それは人のこと言えないか…」
「あと、進さん、とか」
「進くん?確かに進くんはすっごくカワイイけどさあ」
「……」
「なにムスッとしてんの」
「べつに。あんたって、外面良すぎですよね」
「そっかな?」
「褒めてないです」
「オレ、べつにそんなことないと思うけど」
「ドリトン、とかも」
「ドリトン!?いや、マジでそんなこと思ったこともないけど…はは〜ん、さては友沢、妬いてるな?」
「当たり前です」
パチクリと目を丸くしたパワプロさんに、オレはどんな顔をしたらいいのか分からない。否、オレはさっきからどんな顔をしているんだ。
こんな情け無い顔を見られたくないのに、覆いかぶさるようにしてオレの上に乗っかっているこの人から逃れる術はない。ほんとうに、夢みたいだ。
「友沢、カワイイ」
「やめてください」
「かわいいよ、ほんと」
かわいいなんて言われて嬉しいわけがないのに、女みたいに喜ぶはずもないのに、オレときたら何も言えずに、それどころか顔に熱が集まるのを自覚していた。ばかみたいだけれど、今日くらいは、許してくれないか。誰に対してなのか分からぬ言い訳ばかりが脳裏によぎる。気を抜くと、だらしなく頬が緩んでしまいそうだ。ほんとうはもう、とうに緩んでいるのかもしれないが。
「なあ、友沢」
「なんですか」
「キスしていい?」
「…普通、聞きますか、それ」
「一応、ほら、な?」
「……」
「ダメ?」
そんなわけないだろう!
そう叫びたくなる気持ちを我慢して、オレはパワプロさんの胸ぐらを掴んで無理矢理引き寄せた。勢い余ったせいで歯がぶつかって痛かったが、そんなこともお構いなしにオレは貪欲に唇を求めた。初めは驚いていたらしいパワプロさんも、こちらから舌を差し入れる頃にはようやく応えてくれて、オレはますます夢中になった。欲しくてたまらなかったものの名を呼ぶと、その人は柔らかく笑ってこたえてくれるのだった。
「友沢」
返事の代わりに再びその唇を塞ぎ、オレは少しだけ目を閉じた。
2018.6.25
ーーーーーーーーーーーーーーーー
友沢くん、幸せになってね〜…!
そんな気持ちを両手いっぱい詰め込みました。
友沢くんのキレイな顔が歪むことにたまらない何かを感じる民だから、いつも泣かせたり振られたりさせてごめんね。幸せになってね。
主友が熱いです
(10カイザース/主人公×友沢亮)
夢みたいだ。夢みたいだ。夢みたいだ。
ばかみたいに同じ言葉がぐるぐる回る。転がったオレが見上げた先には、ずっと手にしたくてたまらなかった人がいる。手を伸ばせば、触れられる。これが夢でなかったら、いったい何が夢だというのだろう?
「友沢、おまえそんな顔するんだな」
「どんな顔、ですか」
「そんな顔だよ」
ぶよ、と頬をつねられて、オレはそれすらも嬉しくて胸の奥がぎゅうと詰まった。苦しいのに嬉しい。そんなオレの顔を見て、相手は屈託なく笑っている。
「友沢、変な顔」
「うるさいですよ。ちょっと、まだ、混乱してるだけです」
練習が終わって、飯に行こうと誘われた。そんなことですらオレは内心飛び上がるほど嬉しくて、顔に出さないよう平静さを保つだけで精一杯だった。だから、それからのことはあまりよく覚えていない。酒を飲んだこの人が終電を逃してしまったことだとか、そのときの自分が何と言って自宅まで呼び込んだのか、そのあとどんな会話をして、こんなことになってしまったのか。
顔を横に背けると、皺になったシーツが目に入った。こんなことなら、新品のものに取り替えておくんだった。こんなことに、なるのなら。まさか、こんな日が来るなんて。
「友沢、なに考えてる?」
「べつに…」
「でも、意外だったな」
「何がですか」
「だって、カイザースのスーパールーキー様友沢亮とオレがこうしてるなんて、誰が想像できるの」
「それは」
こっちのセリフです。そう言いたくて声を出そうとしたのに、見上げたこの人があまりにも優しい顔でこちらを見ているものだから、それは音になることもなく喉の奥で詰まって消えてしまった。さっきから苦しくて仕方がない。苦しくなるほどの幸福など、オレは知らない。
「ん?」
「あんた、こそ」
「オレ?」
「猪狩さんが、いいんだと、思ってた」
「猪狩ぃ?確かにあいつはミョーにつっかかってくることあるけど、そんなんじゃないだろ、どう考えても。野球バカすぎなんだよな。って、それは人のこと言えないか…」
「あと、進さん、とか」
「進くん?確かに進くんはすっごくカワイイけどさあ」
「……」
「なにムスッとしてんの」
「べつに。あんたって、外面良すぎですよね」
「そっかな?」
「褒めてないです」
「オレ、べつにそんなことないと思うけど」
「ドリトン、とかも」
「ドリトン!?いや、マジでそんなこと思ったこともないけど…はは〜ん、さては友沢、妬いてるな?」
「当たり前です」
パチクリと目を丸くしたパワプロさんに、オレはどんな顔をしたらいいのか分からない。否、オレはさっきからどんな顔をしているんだ。
こんな情け無い顔を見られたくないのに、覆いかぶさるようにしてオレの上に乗っかっているこの人から逃れる術はない。ほんとうに、夢みたいだ。
「友沢、カワイイ」
「やめてください」
「かわいいよ、ほんと」
かわいいなんて言われて嬉しいわけがないのに、女みたいに喜ぶはずもないのに、オレときたら何も言えずに、それどころか顔に熱が集まるのを自覚していた。ばかみたいだけれど、今日くらいは、許してくれないか。誰に対してなのか分からぬ言い訳ばかりが脳裏によぎる。気を抜くと、だらしなく頬が緩んでしまいそうだ。ほんとうはもう、とうに緩んでいるのかもしれないが。
「なあ、友沢」
「なんですか」
「キスしていい?」
「…普通、聞きますか、それ」
「一応、ほら、な?」
「……」
「ダメ?」
そんなわけないだろう!
そう叫びたくなる気持ちを我慢して、オレはパワプロさんの胸ぐらを掴んで無理矢理引き寄せた。勢い余ったせいで歯がぶつかって痛かったが、そんなこともお構いなしにオレは貪欲に唇を求めた。初めは驚いていたらしいパワプロさんも、こちらから舌を差し入れる頃にはようやく応えてくれて、オレはますます夢中になった。欲しくてたまらなかったものの名を呼ぶと、その人は柔らかく笑ってこたえてくれるのだった。
「友沢」
返事の代わりに再びその唇を塞ぎ、オレは少しだけ目を閉じた。
2018.6.25
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友沢くん、幸せになってね〜…!
そんな気持ちを両手いっぱい詰め込みました。
友沢くんのキレイな顔が歪むことにたまらない何かを感じる民だから、いつも泣かせたり振られたりさせてごめんね。幸せになってね。
主友が熱いです
幸福なゆりかごから墓場まで
11/友沢と主人公と友沢妹弟の話
わたしのおにいちゃんは、とってもがんばりやさんです。まいにちあさ早くおきて、わたしとおとうとのごはんを作ってくれます。お母さんがいえにいたときはお母さんがやっていたことを、いまはぜんぶおにいちゃんがやってくれます。
おにいちゃんは、やきゅうをします。やきゅうのれんしゅうをたくさんします。おにいちゃんはあんまりはなしてくれないけど、たぶんいっぱいいっぱいれんしゅうしているとおもいます。
おにいちゃんには、ゆめがあります。ぷろやきゅうせんしゅになるのがおにいちゃんのゆめです。そうしたら、わたしとおとうとになんでもすきなものをかってくれるって、いいました。だから、れんしゅうをたくさんするっていいました。そうしたら、お母さんもきっとびょうきがなおるからって、いいました。
お母さんは、びょうきで、いえにいません。びょういんにいます。ときどき、おにいちゃんにつれていってもらって、あいに行きます。そうすると、お母さんはいつもわらってくれるけど、そのあとはごめんねといってかなしそうなかおをするので、わたしもかなしくなります。そうすると、おにいちゃんが、だいじょうぶって、わたしとお母さんとおとうとにいってくれます。
わたしは、おにいちゃんがだいすきです。だから、おにいちゃんにはあんまりがんばりすぎてほしくありません。どうしてかっていうと、がんばりすぎることはあんまりよくないって、学校の先生がいっていたからです。がんばりすぎるのは体によくないって、先生はいいました。
でもおにいちゃんは、わたしたちのためにいっぱいがんばってしまうので、わたしはだいじょうぶだよっていいます。でもおにいちゃんは、あんまりきいてくれません。
わたしのいえには、おとうさんがいません。でも、おにいちゃんがいつもよしよしってほめてくれるから、さみしくありません。わたしもおとうとも、おにいちゃんといっしょにいるのが大すきです。
だから、おにいちゃんにも、よしよしって、ほめてくれる人がいるといいなとおもいます。
おにいちゃんに、ほしいものはある?って、きいたことがあります。おにいちゃんはちょっとびっくりしたみたいだったけど、わらって、ありがとうっていいました。
わたしはまだ子どもなので、おにいちゃんがしてくれるみたいに、おにいちゃんにいろいろしてあげることができません。
だから、かみさま、きいてください。わたしのぶんも、おにいちゃんのおねがいをきいてください。おねがいします。
朋恵ちゃんの日記帳を開いたまま、友沢はぼろぼろと泣いていた。タオルを差し出すと、今度はそのタオルと日記帳を抱きかかえたまま余計に泣いてしまうのだった。友沢の涙はあとからあとから溢れ出して、止め方を忘れてしまったみたいだった。
隣の部屋では朋恵ちゃんと翔太くんが眠っている。こんなときにまで友沢は二人を起こすまいと気遣っているようで、決して声をあげず、時々漏れる嗚咽すら我慢して泣いていた。
「勝手なことして、ごめん。この前あそびに来た時に、たまたま朋恵ちゃんの書いてた日記を見ちゃったんだ。お前があんまり無茶ばっかしてるから、どうしても見てほしくてさ。おせっかいだって分かってるけど、ごめん」
「……」
「友沢、オレも朋恵ちゃんと同じ気持ちだよ。そんなに、一人でがんばりすぎるなよ。お前を心配してる人がいること、時々でいいから、思い出してくれよ」
もちろん、オレもその一人なんだけどさ。
友沢はオレの言葉が聞こえているのか、聞こえていないのか、小さく嗚咽をこぼすばかりだ。その背中を、オレは自分に出来うる限りの優しい気持ちを込めてさすってやった。友沢に少しでもこの気持ちが伝わりますようにと念を込めながら。
この頃の友沢は、今まで以上に目に余る無茶をしていた。バイトも野球も大学もお母さんのことも家のことも、ぜんぶ完璧にこなそうとして、めちゃくちゃな生活をしていた。友沢は自分自身について、あまりに無頓着すぎる。
でも、そう思っていたのはオレだけじゃなかったみたいだ。オレが朋恵ちゃんの日記を見つけたのは偶然で、この前友沢の家にあそびに来た時に、こっそり朋恵ちゃんが見せてくれたのだった。
おにいちゃんには、ないしょだよ。
そう言った朋恵ちゃんの約束を破ってしまったことだけは申し訳ないと思っている。でもオレは、どうしてもきみのお兄ちゃんに知っていてもらいたかったんだ。
「友沢、もう泣くなよ。せっかくの男前が台無しだぞ」
「…なんだよ、それ」
「朋恵ちゃんが言ってたよ。うちのおにいちゃんは世界一かっこいい!って」
「そう、か…」
「オレも、そう思う。友沢は、世界で一番カッコイイ!」
それを聞いた友沢は顔を真っ赤にして、絶句してしまったようだ。マンガだったら、「ボン!」みたいな効果音が出てしまうほどの見事な赤面に、オレは思わず笑ってしまう。
驚いた友沢は、その拍子に涙も引っ込んでしまったようだ。
「涙、やっと止まったな」
「うるさい」
「はは、元気出てきたみたいで良かった」
「パワプロ」
「ん?」
「……」
「友沢?」
「ありがとう」
そう言った友沢の顔を、オレはこの先もきっと一生忘れることはないだろう。胸の奥に感じたこの熱さも、きっと忘れることの出来ないものなんだろう。
2018.5.24
幸福なゆりかごから墓場まで
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
友沢くんを泣かせたくなってしまう。できれば幸せな方で
友沢くん=家族の印象がとても強いです。幸せになってほしい
n年ぶりにやった11がやっぱりめちゃくちゃに良くて滾ってます
当時分からなかった友沢くんの魅力をビンビンに感じてます
かっこよすぎ!
わたしのおにいちゃんは、とってもがんばりやさんです。まいにちあさ早くおきて、わたしとおとうとのごはんを作ってくれます。お母さんがいえにいたときはお母さんがやっていたことを、いまはぜんぶおにいちゃんがやってくれます。
おにいちゃんは、やきゅうをします。やきゅうのれんしゅうをたくさんします。おにいちゃんはあんまりはなしてくれないけど、たぶんいっぱいいっぱいれんしゅうしているとおもいます。
おにいちゃんには、ゆめがあります。ぷろやきゅうせんしゅになるのがおにいちゃんのゆめです。そうしたら、わたしとおとうとになんでもすきなものをかってくれるって、いいました。だから、れんしゅうをたくさんするっていいました。そうしたら、お母さんもきっとびょうきがなおるからって、いいました。
お母さんは、びょうきで、いえにいません。びょういんにいます。ときどき、おにいちゃんにつれていってもらって、あいに行きます。そうすると、お母さんはいつもわらってくれるけど、そのあとはごめんねといってかなしそうなかおをするので、わたしもかなしくなります。そうすると、おにいちゃんが、だいじょうぶって、わたしとお母さんとおとうとにいってくれます。
わたしは、おにいちゃんがだいすきです。だから、おにいちゃんにはあんまりがんばりすぎてほしくありません。どうしてかっていうと、がんばりすぎることはあんまりよくないって、学校の先生がいっていたからです。がんばりすぎるのは体によくないって、先生はいいました。
でもおにいちゃんは、わたしたちのためにいっぱいがんばってしまうので、わたしはだいじょうぶだよっていいます。でもおにいちゃんは、あんまりきいてくれません。
わたしのいえには、おとうさんがいません。でも、おにいちゃんがいつもよしよしってほめてくれるから、さみしくありません。わたしもおとうとも、おにいちゃんといっしょにいるのが大すきです。
だから、おにいちゃんにも、よしよしって、ほめてくれる人がいるといいなとおもいます。
おにいちゃんに、ほしいものはある?って、きいたことがあります。おにいちゃんはちょっとびっくりしたみたいだったけど、わらって、ありがとうっていいました。
わたしはまだ子どもなので、おにいちゃんがしてくれるみたいに、おにいちゃんにいろいろしてあげることができません。
だから、かみさま、きいてください。わたしのぶんも、おにいちゃんのおねがいをきいてください。おねがいします。
朋恵ちゃんの日記帳を開いたまま、友沢はぼろぼろと泣いていた。タオルを差し出すと、今度はそのタオルと日記帳を抱きかかえたまま余計に泣いてしまうのだった。友沢の涙はあとからあとから溢れ出して、止め方を忘れてしまったみたいだった。
隣の部屋では朋恵ちゃんと翔太くんが眠っている。こんなときにまで友沢は二人を起こすまいと気遣っているようで、決して声をあげず、時々漏れる嗚咽すら我慢して泣いていた。
「勝手なことして、ごめん。この前あそびに来た時に、たまたま朋恵ちゃんの書いてた日記を見ちゃったんだ。お前があんまり無茶ばっかしてるから、どうしても見てほしくてさ。おせっかいだって分かってるけど、ごめん」
「……」
「友沢、オレも朋恵ちゃんと同じ気持ちだよ。そんなに、一人でがんばりすぎるなよ。お前を心配してる人がいること、時々でいいから、思い出してくれよ」
もちろん、オレもその一人なんだけどさ。
友沢はオレの言葉が聞こえているのか、聞こえていないのか、小さく嗚咽をこぼすばかりだ。その背中を、オレは自分に出来うる限りの優しい気持ちを込めてさすってやった。友沢に少しでもこの気持ちが伝わりますようにと念を込めながら。
この頃の友沢は、今まで以上に目に余る無茶をしていた。バイトも野球も大学もお母さんのことも家のことも、ぜんぶ完璧にこなそうとして、めちゃくちゃな生活をしていた。友沢は自分自身について、あまりに無頓着すぎる。
でも、そう思っていたのはオレだけじゃなかったみたいだ。オレが朋恵ちゃんの日記を見つけたのは偶然で、この前友沢の家にあそびに来た時に、こっそり朋恵ちゃんが見せてくれたのだった。
おにいちゃんには、ないしょだよ。
そう言った朋恵ちゃんの約束を破ってしまったことだけは申し訳ないと思っている。でもオレは、どうしてもきみのお兄ちゃんに知っていてもらいたかったんだ。
「友沢、もう泣くなよ。せっかくの男前が台無しだぞ」
「…なんだよ、それ」
「朋恵ちゃんが言ってたよ。うちのおにいちゃんは世界一かっこいい!って」
「そう、か…」
「オレも、そう思う。友沢は、世界で一番カッコイイ!」
それを聞いた友沢は顔を真っ赤にして、絶句してしまったようだ。マンガだったら、「ボン!」みたいな効果音が出てしまうほどの見事な赤面に、オレは思わず笑ってしまう。
驚いた友沢は、その拍子に涙も引っ込んでしまったようだ。
「涙、やっと止まったな」
「うるさい」
「はは、元気出てきたみたいで良かった」
「パワプロ」
「ん?」
「……」
「友沢?」
「ありがとう」
そう言った友沢の顔を、オレはこの先もきっと一生忘れることはないだろう。胸の奥に感じたこの熱さも、きっと忘れることの出来ないものなんだろう。
2018.5.24
幸福なゆりかごから墓場まで
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友沢くんを泣かせたくなってしまう。できれば幸せな方で
友沢くん=家族の印象がとても強いです。幸せになってほしい
n年ぶりにやった11がやっぱりめちゃくちゃに良くて滾ってます
当時分からなかった友沢くんの魅力をビンビンに感じてます
かっこよすぎ!
愛といって笑って
11/主友
「友沢!?」
「なんだパワプロか」
グラウンドに向かおうと歩いていたところ、そこの角から急に友沢が現れたものだから驚いた。ただ友沢に会っただけならオレはこんなにも驚かない、現れた友沢は足を庇うようにしてひょこひょこと歩いていたのだ。
「どうしたんだ、ケガか!?痛むのか!?」
「べつにたいしたことじゃない。ちょっと足を捻っただけだ」
「でも、お前が足をひねるなんて…」
人一倍ケガには気をつけている友沢のそんな姿を見るのは初めてで、オレは本人よりもよっぽど動揺していた。慌てふためくオレ対して、友沢はよほど冷静だ。
「たいしたことない。ただ、今日はさすがに無理だろうな。医務室で湿布をもらってオレは帰る」
「うん、それがいいよ」
「ああ。じゃあな」
「オレも付いてくよ」
「べつに、いい。練習始まるぞ」
「いいから!」
ついてくるなと言わんばかりの友沢を押し切って、オレは勝手に医務室までくっ付いていくことにした。右足を引きずるようにして歩く友沢が痛々しい。なんでもないように涼しい顔をしている友沢のせいで、オレの目には余計にそう映った。
「な、友沢。抱っこしてやろうか」
「ばーか」
そんなことを言っているうちに、医務室に着いていた。友沢よりも先にドアを開けて、オレは部屋に入る。
「誰もいない…な?」
きょろきょろしているオレを差し置いて、友沢は勝手に部屋の中を物色してそれらしい棚を開けては湿布を探しているようだった。まあいいかと勝手に納得をして、オレも友沢に倣ってその辺のものをひっくり返しながら目当てのものを捜索する。
「あ、あったぞ」
かくして発見された湿布を見せると、友沢はスッと視線を足元に下げることで返事をするのだった。なるほど、オレに貼れと言っているらしい。やれやれと思いながらもオレは友沢の言うことをきいてやることにして、その場にしゃがみこんで湿布を足首に貼ってやった。
その間友沢はじっと黙っているばかりだったが、イスに座ったまま湿布の貼られた足首をぷらぷらさせているところを見ると、満更でもなさそうだ。とても分かりにくいが、少し照れながら、それでいて結構嬉しいと思っているときの友沢の態度に違いなかった。
「じゃあ、オレはそろそろ練習に行くから、友沢は気を付けて帰れよ」
「ああ。オレは少し横になってから帰る」
「そっか。ベッド、ひとりで上がれるか?」
「……」
返事をしない友沢に、オレは心の中でハイハイと答えて、その手を引いてやることにした。ものすごく分かりにくいが、どうやら友沢なりに甘えているつもりのようだ。珍しいし、ちょっとおもしろい。
「ん、ほら、友沢」
「…?うわ、急になんだ、やめろって!」
なんだか面白くなってきてしまったオレは、友沢の制止も聞かずに勝手に抱き上げてずんずんと歩き出した。いわゆる、お姫さま抱っこというやつだった。腕の中で暴れる友沢は予想よりもずっと軽くて、オレはびっくりしていた。
いつのまにか抵抗するのをやめていた友沢を、オレは静かに布団の上に下ろす。
「へへ、たまには、サービス。びっくりした?」
「そりゃどうも」
ベッドに腰掛ける友沢に下から睨め付けられ、オレは一瞬たじろいだ。その一瞬の隙にオレは胸ぐらを掴まれていて、そのまま体制を崩してしまい、縺れるようにして友沢ごとベッドに倒れ込んだ。ごめん、そう言って起き上がろうとするオレの首の後ろにするりと腕を回した友沢は、そのままオレを引き寄せて、あろうことか唇を合わせてきた。ひとり状況に取り残されているオレが布団の上で転がっている間にも、友沢はさっさと起き上がっており、いつのまにか態勢が逆転していた。オレの上にのしかかった友沢が言う。
「まあ、お前が悪いよな」
「えっなっ、なにしてんだよ友沢、ここ医務室だぞ!」
「わざわざこんなところまで付いてきたお前が悪い。いつぶりだと思ってるんだ、ばか」
「おま…さっきからそんなこと考えてたの?」
「悪いか」
「悪くないけど。エロい」
「あ、そ」
「ここでするの?」
返事は覆いかぶさってきた友沢の蕩けるようなキスの間に消えてしまったので、合間に漏れる吐息とやらに免じて、今回ばかりは勘弁してやろうなどとオレは考えていた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
また改めて告知させてもらいますが、6月17日に東京ビッグサイトで開催されるComic city東京 142にサークル参加いたします!
パワプロのプチオンリーイベント、パワフルカップが開催されるとのことで、大変おめでたいですね(*^^*)
新刊として、主人公攻め(主友、主進、主守)の短編読み切りの本を出す予定です。いつもの!
よろしくお願いします!
この頃友沢くんのことが気になって気になって、特に大学生の友沢くんがブームです。
11を近々必ずやり直さなくてはならない謎の使命感を負って生きています。
攻略本改めて見たけど、見てないイベント多すぎでした。
どのシリーズも主人公氏は最高にイケメンだと思うのですが、11はまた格が違うの思うのですよね。
好きです。
「友沢!?」
「なんだパワプロか」
グラウンドに向かおうと歩いていたところ、そこの角から急に友沢が現れたものだから驚いた。ただ友沢に会っただけならオレはこんなにも驚かない、現れた友沢は足を庇うようにしてひょこひょこと歩いていたのだ。
「どうしたんだ、ケガか!?痛むのか!?」
「べつにたいしたことじゃない。ちょっと足を捻っただけだ」
「でも、お前が足をひねるなんて…」
人一倍ケガには気をつけている友沢のそんな姿を見るのは初めてで、オレは本人よりもよっぽど動揺していた。慌てふためくオレ対して、友沢はよほど冷静だ。
「たいしたことない。ただ、今日はさすがに無理だろうな。医務室で湿布をもらってオレは帰る」
「うん、それがいいよ」
「ああ。じゃあな」
「オレも付いてくよ」
「べつに、いい。練習始まるぞ」
「いいから!」
ついてくるなと言わんばかりの友沢を押し切って、オレは勝手に医務室までくっ付いていくことにした。右足を引きずるようにして歩く友沢が痛々しい。なんでもないように涼しい顔をしている友沢のせいで、オレの目には余計にそう映った。
「な、友沢。抱っこしてやろうか」
「ばーか」
そんなことを言っているうちに、医務室に着いていた。友沢よりも先にドアを開けて、オレは部屋に入る。
「誰もいない…な?」
きょろきょろしているオレを差し置いて、友沢は勝手に部屋の中を物色してそれらしい棚を開けては湿布を探しているようだった。まあいいかと勝手に納得をして、オレも友沢に倣ってその辺のものをひっくり返しながら目当てのものを捜索する。
「あ、あったぞ」
かくして発見された湿布を見せると、友沢はスッと視線を足元に下げることで返事をするのだった。なるほど、オレに貼れと言っているらしい。やれやれと思いながらもオレは友沢の言うことをきいてやることにして、その場にしゃがみこんで湿布を足首に貼ってやった。
その間友沢はじっと黙っているばかりだったが、イスに座ったまま湿布の貼られた足首をぷらぷらさせているところを見ると、満更でもなさそうだ。とても分かりにくいが、少し照れながら、それでいて結構嬉しいと思っているときの友沢の態度に違いなかった。
「じゃあ、オレはそろそろ練習に行くから、友沢は気を付けて帰れよ」
「ああ。オレは少し横になってから帰る」
「そっか。ベッド、ひとりで上がれるか?」
「……」
返事をしない友沢に、オレは心の中でハイハイと答えて、その手を引いてやることにした。ものすごく分かりにくいが、どうやら友沢なりに甘えているつもりのようだ。珍しいし、ちょっとおもしろい。
「ん、ほら、友沢」
「…?うわ、急になんだ、やめろって!」
なんだか面白くなってきてしまったオレは、友沢の制止も聞かずに勝手に抱き上げてずんずんと歩き出した。いわゆる、お姫さま抱っこというやつだった。腕の中で暴れる友沢は予想よりもずっと軽くて、オレはびっくりしていた。
いつのまにか抵抗するのをやめていた友沢を、オレは静かに布団の上に下ろす。
「へへ、たまには、サービス。びっくりした?」
「そりゃどうも」
ベッドに腰掛ける友沢に下から睨め付けられ、オレは一瞬たじろいだ。その一瞬の隙にオレは胸ぐらを掴まれていて、そのまま体制を崩してしまい、縺れるようにして友沢ごとベッドに倒れ込んだ。ごめん、そう言って起き上がろうとするオレの首の後ろにするりと腕を回した友沢は、そのままオレを引き寄せて、あろうことか唇を合わせてきた。ひとり状況に取り残されているオレが布団の上で転がっている間にも、友沢はさっさと起き上がっており、いつのまにか態勢が逆転していた。オレの上にのしかかった友沢が言う。
「まあ、お前が悪いよな」
「えっなっ、なにしてんだよ友沢、ここ医務室だぞ!」
「わざわざこんなところまで付いてきたお前が悪い。いつぶりだと思ってるんだ、ばか」
「おま…さっきからそんなこと考えてたの?」
「悪いか」
「悪くないけど。エロい」
「あ、そ」
「ここでするの?」
返事は覆いかぶさってきた友沢の蕩けるようなキスの間に消えてしまったので、合間に漏れる吐息とやらに免じて、今回ばかりは勘弁してやろうなどとオレは考えていた。
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また改めて告知させてもらいますが、6月17日に東京ビッグサイトで開催されるComic city東京 142にサークル参加いたします!
パワプロのプチオンリーイベント、パワフルカップが開催されるとのことで、大変おめでたいですね(*^^*)
新刊として、主人公攻め(主友、主進、主守)の短編読み切りの本を出す予定です。いつもの!
よろしくお願いします!
この頃友沢くんのことが気になって気になって、特に大学生の友沢くんがブームです。
11を近々必ずやり直さなくてはならない謎の使命感を負って生きています。
攻略本改めて見たけど、見てないイベント多すぎでした。
どのシリーズも主人公氏は最高にイケメンだと思うのですが、11はまた格が違うの思うのですよね。
好きです。
夢のおわりははじまりの鐘
10カイザース/主友
「パワプロさん。これ、お返しします」
そう言って友沢がオレに差し出したのは、ひとつのグラブだった。それはずいぶんとくたびれていて、はっきり言ってしまえばもう使えないだろうと思うほどぼろぼろのものだった。自分の方へ差し出されたグラブと友沢の顔を見比べる。友沢は眉のひとつも動かさずにオレを見ていた。そのまま思わず受け取ってしまったが、正直何も思い当たることはなく、オレは首をかしげた。
そもそも、友沢にこうして話しかけられたこと自体が初めてなのである。オレはこの頃ようやく調子を上げてきたプロ野球選手で、友沢はつい最近同じチームに入団してきた期待の大型ルーキーであった。今までに面識もなければ、あいさつ以上の話をしたこともない。
しかし、わざわざオレの自主練が終わるのを待ち構えていたかのように現れた友沢には、明らかに何か意図があるように思えた。そんなことを考えながら相変わらず首をかしげたままのオレに、友沢は焦れたように、そして半ばあきれたように口を開いた。
「まさか、なんにも覚えてないんですか?」
はあ、としらじらしく溜息をついた友沢はオレの顔をまじまじと眺めたあとにグラブを指さした。
「それ、昔あんたがオレにくれたんですよ」
そう言うと友沢は再び黙ってしまい、じっとオレの顔を眺めた。その仕草に何か記憶の端に引っ掛かるものを感じたが、しかしオレはそれ以上何も思い出すことができなかった。
どうやら友沢はオレのことを知っているようで、知っているどころかオレが渡したらしいグラブを返しにきたという。
オレは困り果てて、手の中にあるグラブに目を落とした。ずいぶんとくたびれたそれは、ぼろぼろではあるもののしっかりと手入れがされていて、何度も修復をしながら大切に使ってきたことが分かるものだった。思わずはめてしまったそれは驚くほど自分の手に馴染み、オレはグラブの感触を確かめるように何度も開けたり閉めたりを繰り返した。友沢はやっぱり黙ったままこちらを見ている。
「うーん…」
「あんたって人は…ほんとうに、何も覚えてないんですね」
「うん…悪いけど。人違いじゃない?」
「まさか。オレは、あんたにこれを返すために今日までやってきたんだ」
「そう言われても…確かに、このグラブはずいぶんオレの手に馴染むみたいだけど」
「友沢亮」
「え?」
「友沢亮。オレの名前」
「それはもちろん知ってるよ」
「…」
「…あっ?」
射抜くようにこちらを見つめる友沢の瞳の色に、オレは、ここではないいつかどこかで同じ色を見たことを思い出していた。そうだ。あれはもう何年前の話だろう。公園で、一人の中学生に会った。野球をしていたその子とは、そのあとも何度か偶然鉢合わせすることがあった。そうだ、あれは確か…
「まさか、お前があのときの中学生なのか?」
「だからそうだって言ってるでしょ。思い出すの遅すぎですよ」
「友沢…そうだ、友沢!お前、プロになったのか!」
ようやくすべてを思い出したオレは、嬉しさのあまりぐしゃぐしゃと掻き混ぜるように友沢の頭を撫でまわしたのだが、当の本人はそれが気に入らないようで、うっとうしそうな顔をしていやがるような素振りをしてみせた。しかしそれだけで、実際にオレの手を振りほどいたりやめるように言うことはなかった。すべてを思い出したオレは満面の笑みで友沢に声を掛ける。
「プロ入りおめでとう!オレは、お前なら絶対大丈夫だって、あのときから信じてたよ!」
「…うす」
「しっかし、まさか同じチームになるとはなあ!あのときの中学生と!」
どうやら照れているらしい友沢は、明後日の方を向いたまましきりにそわそわと視線を泳がせた。その様子を見ていれば見ているほど、オレの頭には数年前の記憶が鮮明に蘇ってくるのだった。
とんでもない野球センスを持っているにも関わらず、あの日偶然スポーツ用品店で再会した友沢は、もう野球をやめるとオレに言ったのだ。今でも詳しいことは分からない、しかし、家の事情でもう続けられないと確かに言っていた。野球は、金がかかる。だから、やめるのだと。そのときに、オレはふたつ持っていたグラブのうちのひとつを友沢に手渡したのだ。間違いない、はっきりと思い出した。
「でも、これはオレがお前にあげたものなんだから、べつに返してくれなくても…」
「あんたはあの日、グラブを受け取らないオレにこう言ったんだ。グラブをあげる代わりに自分の学校を応援してほしい、自分を応援するのと交換にこれをくれるって。きっと甲子園に行くから、その応援をしてほしいって」
「ああ、そういえば、そんなことを言ったような…」
「でもオレはもう、あんたを応援することは出来ないから」
「…どういうことだ?」
「オレは今まであんたを応援することしか出来なかった。でも、これからは違う」
「?」
「オレはプロになった。これからオレは、やっとあんたと同じところで野球ができる。…オレたちはもう、ライバルだから」
もうオレにあんたの応援をすることはできないから、返します。
そう言う友沢の目は、確かにオレを挑発していた。自分はオレと肩を並べて競い合うライバルなのだと、堂々と宣告しているのだ。遠目から応援するのではなく、今後は切磋琢磨し合いながら競うライバルなのだと。
思わず笑み崩れてしまったオレに、友沢はびっくりしたように瞳を瞬かせた。
「ルーキーのくせに生意気ばっかり言いやがって、こうしてやる~!」
「わっ、ちょ、やめてくださいよ、大人げない!」
オレにくすぐられた友沢は、いやそうな顔をしながら笑うという器用な芸当を披露していたが、くすぐっているオレの方こそ笑えてきてしまって仕方がなかった。他に誰もいない室内演習場に二人分の笑い声が響く。
そうして散々笑い合ったあと、友沢は生意気そうな笑みを唇に乗せて言った。
「オレ、腹が減りました。先輩なんだからなんか奢ってください」
「ったく、もっと可愛げのある誘い方はできないのか?久しぶりに再会した先輩の話を聞きたいです!とかさ」
「寝言は寝てから言ってください」
そう言って振り返った友沢の顔があんまり優しく笑っているものだから、オレはたまらず、もう一度だけその頭を撫でた。ぽふぽふと何度か撫でると、友沢は今までに見たことのない複雑な顔をしていた。その口から、「子ども扱いするな」という批判の声が聞こえてくる前に、オレは何が食いたいかと友沢に尋ねるのだった。
―――――――――――――――――――――――
2011の、高校生の主人公が中学生の友沢にグラブを渡すというイベントにしこため夢を詰め込んだ結果
かわいすぎました
「パワプロさん。これ、お返しします」
そう言って友沢がオレに差し出したのは、ひとつのグラブだった。それはずいぶんとくたびれていて、はっきり言ってしまえばもう使えないだろうと思うほどぼろぼろのものだった。自分の方へ差し出されたグラブと友沢の顔を見比べる。友沢は眉のひとつも動かさずにオレを見ていた。そのまま思わず受け取ってしまったが、正直何も思い当たることはなく、オレは首をかしげた。
そもそも、友沢にこうして話しかけられたこと自体が初めてなのである。オレはこの頃ようやく調子を上げてきたプロ野球選手で、友沢はつい最近同じチームに入団してきた期待の大型ルーキーであった。今までに面識もなければ、あいさつ以上の話をしたこともない。
しかし、わざわざオレの自主練が終わるのを待ち構えていたかのように現れた友沢には、明らかに何か意図があるように思えた。そんなことを考えながら相変わらず首をかしげたままのオレに、友沢は焦れたように、そして半ばあきれたように口を開いた。
「まさか、なんにも覚えてないんですか?」
はあ、としらじらしく溜息をついた友沢はオレの顔をまじまじと眺めたあとにグラブを指さした。
「それ、昔あんたがオレにくれたんですよ」
そう言うと友沢は再び黙ってしまい、じっとオレの顔を眺めた。その仕草に何か記憶の端に引っ掛かるものを感じたが、しかしオレはそれ以上何も思い出すことができなかった。
どうやら友沢はオレのことを知っているようで、知っているどころかオレが渡したらしいグラブを返しにきたという。
オレは困り果てて、手の中にあるグラブに目を落とした。ずいぶんとくたびれたそれは、ぼろぼろではあるもののしっかりと手入れがされていて、何度も修復をしながら大切に使ってきたことが分かるものだった。思わずはめてしまったそれは驚くほど自分の手に馴染み、オレはグラブの感触を確かめるように何度も開けたり閉めたりを繰り返した。友沢はやっぱり黙ったままこちらを見ている。
「うーん…」
「あんたって人は…ほんとうに、何も覚えてないんですね」
「うん…悪いけど。人違いじゃない?」
「まさか。オレは、あんたにこれを返すために今日までやってきたんだ」
「そう言われても…確かに、このグラブはずいぶんオレの手に馴染むみたいだけど」
「友沢亮」
「え?」
「友沢亮。オレの名前」
「それはもちろん知ってるよ」
「…」
「…あっ?」
射抜くようにこちらを見つめる友沢の瞳の色に、オレは、ここではないいつかどこかで同じ色を見たことを思い出していた。そうだ。あれはもう何年前の話だろう。公園で、一人の中学生に会った。野球をしていたその子とは、そのあとも何度か偶然鉢合わせすることがあった。そうだ、あれは確か…
「まさか、お前があのときの中学生なのか?」
「だからそうだって言ってるでしょ。思い出すの遅すぎですよ」
「友沢…そうだ、友沢!お前、プロになったのか!」
ようやくすべてを思い出したオレは、嬉しさのあまりぐしゃぐしゃと掻き混ぜるように友沢の頭を撫でまわしたのだが、当の本人はそれが気に入らないようで、うっとうしそうな顔をしていやがるような素振りをしてみせた。しかしそれだけで、実際にオレの手を振りほどいたりやめるように言うことはなかった。すべてを思い出したオレは満面の笑みで友沢に声を掛ける。
「プロ入りおめでとう!オレは、お前なら絶対大丈夫だって、あのときから信じてたよ!」
「…うす」
「しっかし、まさか同じチームになるとはなあ!あのときの中学生と!」
どうやら照れているらしい友沢は、明後日の方を向いたまましきりにそわそわと視線を泳がせた。その様子を見ていれば見ているほど、オレの頭には数年前の記憶が鮮明に蘇ってくるのだった。
とんでもない野球センスを持っているにも関わらず、あの日偶然スポーツ用品店で再会した友沢は、もう野球をやめるとオレに言ったのだ。今でも詳しいことは分からない、しかし、家の事情でもう続けられないと確かに言っていた。野球は、金がかかる。だから、やめるのだと。そのときに、オレはふたつ持っていたグラブのうちのひとつを友沢に手渡したのだ。間違いない、はっきりと思い出した。
「でも、これはオレがお前にあげたものなんだから、べつに返してくれなくても…」
「あんたはあの日、グラブを受け取らないオレにこう言ったんだ。グラブをあげる代わりに自分の学校を応援してほしい、自分を応援するのと交換にこれをくれるって。きっと甲子園に行くから、その応援をしてほしいって」
「ああ、そういえば、そんなことを言ったような…」
「でもオレはもう、あんたを応援することは出来ないから」
「…どういうことだ?」
「オレは今まであんたを応援することしか出来なかった。でも、これからは違う」
「?」
「オレはプロになった。これからオレは、やっとあんたと同じところで野球ができる。…オレたちはもう、ライバルだから」
もうオレにあんたの応援をすることはできないから、返します。
そう言う友沢の目は、確かにオレを挑発していた。自分はオレと肩を並べて競い合うライバルなのだと、堂々と宣告しているのだ。遠目から応援するのではなく、今後は切磋琢磨し合いながら競うライバルなのだと。
思わず笑み崩れてしまったオレに、友沢はびっくりしたように瞳を瞬かせた。
「ルーキーのくせに生意気ばっかり言いやがって、こうしてやる~!」
「わっ、ちょ、やめてくださいよ、大人げない!」
オレにくすぐられた友沢は、いやそうな顔をしながら笑うという器用な芸当を披露していたが、くすぐっているオレの方こそ笑えてきてしまって仕方がなかった。他に誰もいない室内演習場に二人分の笑い声が響く。
そうして散々笑い合ったあと、友沢は生意気そうな笑みを唇に乗せて言った。
「オレ、腹が減りました。先輩なんだからなんか奢ってください」
「ったく、もっと可愛げのある誘い方はできないのか?久しぶりに再会した先輩の話を聞きたいです!とかさ」
「寝言は寝てから言ってください」
そう言って振り返った友沢の顔があんまり優しく笑っているものだから、オレはたまらず、もう一度だけその頭を撫でた。ぽふぽふと何度か撫でると、友沢は今までに見たことのない複雑な顔をしていた。その口から、「子ども扱いするな」という批判の声が聞こえてくる前に、オレは何が食いたいかと友沢に尋ねるのだった。
―――――――――――――――――――――――
2011の、高校生の主人公が中学生の友沢にグラブを渡すというイベントにしこため夢を詰め込んだ結果
かわいすぎました
手を伸ばせば
ご注意
友沢兄弟の話ですが、誠に遺憾ながら私は翔太くんのことをよく知らないので、すべては妄想の産物であり脳内設定となっています。とてもこわい。とてもこわいのでワンクッション入れてあります
もはやオリキャラのようになってしまっている翔太くんでも大丈夫という方のみ続きからどうぞ
心臓の弱い方や友沢兄弟のイメージを崩されたくない方は閲覧を控えていただきますようお願い申し上げます
友沢兄弟の話ですが、誠に遺憾ながら私は翔太くんのことをよく知らないので、すべては妄想の産物であり脳内設定となっています。とてもこわい。とてもこわいのでワンクッション入れてあります
もはやオリキャラのようになってしまっている翔太くんでも大丈夫という方のみ続きからどうぞ
心臓の弱い方や友沢兄弟のイメージを崩されたくない方は閲覧を控えていただきますようお願い申し上げます
祈りの姿
10カイザース/主人公と友沢
「好きです」
ふたりきりの室内練習場で、その声はとてもよく響いた。
文字にしてたった四文字、この四文字を口にするまで自分はどれだけの苦労と葛藤、まわりみちをしてきたことであろう。しかしながら、並々ならぬ決意を持って告げられた言葉、決死の覚悟で囁かれた告白は文字にしてたったの四文字で済んでしまったということでもある。
喉元から舌先を離れるまであれほど苦かった音の羅列は零れてしまえばあとは簡単なもので、ほんの少し空気を震わせてあの人の耳へと吸い込まれていった。
なんだ、こんなに簡単なことだったのか。一度口にしてしまえばたやすいもので、オレはもう一度その言葉を囁いた。
ああ、そうだ、好きなのだ、あんたのことが、好きなのだ、どんなに鈍いあんたでもこれでようやく思い知ることが出来ただろう、ざまあみろ。
「友沢」
掠れた声で呼ばれたのは自分の名だった。これまた四文字、しかしこのたった四文字が自分をどれだけ幸せにするのかオレはよく知っていた。笑いながらだったり、怒りながらだったり、ときにびっくりした声色で、ときに優しい音色で、様々な色でこの人はオレの名を呼ぶ。その色で呼ばれるたびに、オレは自分の輪郭を新たに彩られるようなそんな心持ちがしていたのだ。
大袈裟だと馬鹿にする人間もいるだろう。少し前まで、自分もその類の人間だったのだからよく分かる。愛だの恋だの、そんなもの馬鹿げていると思っていた。
それがどうだろうか、気が付けばいつしかオレの世界は大きく変わっていた。今まで馬鹿にしていたものは輝いて見え、諦めていたものには光が射した。あの人の周りはいつだってきらきらと瞬いていたし、そんなあの人の側にいると自分までその輝きの中にいるような錯覚を起こすのだ。
自覚をしてからは早かった。今となっては、好きになった理由もそのきっかけもぜんぶ忘れてしまったが、視線が勝手に追うようになっていた。
もっと相手のことを知りたい、自分のことを見て欲しい、一緒の時間を過ごしたい、そんな女々しいことばかりを考えながらオレは一日を過ごすようになっていったのだ。
話をするだけで楽しかったし、「後輩」という特権を使って練習を見てもらえるのが嬉しかった。時折練習後に二人で食事に行くことが何よりも幸せで、今日は誘ってもらえるだろうかといらぬ期待でそわそわする気持ちを隠すだけで精一杯だった。
好きなのだと、そんな気持ちに気付いてから、オレはあっという間に変わってしまったのである。友沢亮とは、こんな人間であったのかと自分自身を疑いたくなるときがある。しかし、もう戻ることは出来ないのだし、知らなかった頃には今更帰れないのだ。
返事など期待するつもりはなかったのだが、それでも心は正直なもので、心臓はドキドキと脈を打って痛かった。ああ、格好悪い。生まれてこのかた告白などしたことがない、一体何をどうすれば「格好良い告白」になるのか知らないが、今の自分がみっともない姿をさらしていることだけは分かる。
こんな様子では、また猪狩さんに鼻で笑われてしまいそうだ。いつものキザな笑い、余裕たっぷりでこちらを見る猪狩さんの顔が自然と浮かんだ。同時に苦いものが胸に広がる。
猪狩守。チームメイトで、先輩で、球界を代表するエースピッチャーで、そして、恋敵である。わざわざ言葉にすると本当の馬鹿みたいだ。猪狩さんはオレなんて歯牙にも掛けていないし、そんなことを考えているのはオレ一人だけだ。
全部持っているくせに、オレの欲しいものすべてを手に入れているくせに、猪狩さんはいつだって自分の欲に正直で貪欲だ。あの視線が、言葉が、態度が、なにもかもがこの人をさらっていく。初めから勝負になどなりはしない。
いつだって自信満々、唇に不敵な笑みを乗せて猪狩さんはオレに言うのだ。
たかだか四文字を言うために唇を震わせ、握り拳の手の中は汗に濡れ、なによりこんな情けない顔をしている自分が選ばれないことはよく分かっていた。オレがあの人に選ばれる日は永遠にこないだろうし、猪狩さんには敵わない。
それでも、そんな理屈や理論で自分を縛るのは疲れてしまった。だから、もう、いいだろう。自分の中から、舌先から離れた言葉の行方にまで責任は取れないのだから。
「ごめんな」
パワプロさんは静かに答えた。四文字の告白は、やっぱり四文字で返されるのだ。とても申し訳ないという気持ちを隠しもせず、パワプロさんは言った。予想通りの返答ではあったが、緊張とほんの少しの期待で膨らんでいた胸がズキンと痛む。オレが口を開く前に、パワプロさんは静かに話し始めた。
「実はオレ、猪狩と付き合ってるんだ」
「知ってます」
「えっ」
さも驚いたという顔でパワプロさんは瞳を瞬かせた。そのままじっと見つめたままでいると、ばつが悪そうに目を反らしながら、なんでばれてるのかなあと零した。もしかしてあれで隠しているつもりだったのかとオレは頭を抱えたくなる。
だいたい、猪狩さん自身がそのことを周りに公言しているということをこの人は知らないのだろうか。嫌味たっぷりな余裕の表情で、それでも確かに幸せそうにパワプロさんを自慢する猪狩さんの顔は見慣れたものだった。
「…見てれば分かりますし、だいたい猪狩さんってあんたとのこと周りに話してますよ」
「うそ!」
本気で驚いているらしいパワプロさんに呆れながら、それでもまだ愛しいと思う気持ちが湧き上がってきて、なんだかもうどうしようもない。いっそ泣いてしまえば楽になるのかもしれないが、あいにくこんな場面で流す涙は持ち合わせていない。様々な意味を込めて溜息をひとつ漏らしてみせると、パワプロさんは困った顔をしながら、しかし視線は外さないままはっきりと言った。
「友沢。知ってたんならどうして、こんなこと」
「べつに猪狩さんは関係ないです。オレがあんたを好きなんだから」
「…」
「順番」
「え?」
「あんたが猪狩さんと付き合ってるのは、たまたま出会う順番が先だったから。ただそれだけのことです」
もしもの話など、くだらないことだ。それでも、どうしても頭の中から消えることのない考えだった。もしも、もしも猪狩さんよりも自分の方が先に出会っていたとしたら、オレはパワプロさんを手に入れる自信がある。口には出さなかったが、おそらくニュアンスは伝わったのだろう。その証拠に、驚いた顔をしていたパワプロさんの顔には柔らかな笑みが浮かび、ぽつりぽつりと話し始めた。
「そうかもしれない」
そのあとには、ありがとうと続いた。
そんな言葉が聞きたかったわけではないのに、それでもオレの胸は確かに満たされていておかしな感じだ。伝えることが出来て満足などと、そんなことを言うのだろうか。オレはそんな人間だっただろうか。もう、自分のことが分からない。そんなのは、この人のことを好きになってから今日までずっとのことだった。
分かっていることは、ひとつだけ。オレにこの人を奪うことはできない。
「友沢、ごめん、ありがとう」
そんな言葉はいらない。
それなのに、オレの口から落ちたのはよもや思ってもみない言葉ばかりで、パワプロさんはみかねたようにそっとオレの頭に手を置いた。その手があまりに優しく触れるものだから、オレはとうとう我慢が出来なくなってしまった。
ああ、なんと情けないことだろう。この人は優しいから、きっとこの地面にできた染みについても見て見ぬフリをしてくれるのだろう。そして、いつものようになんでもない顔をしてオレを食事に誘ってくれるのだろう。
あんたのそういうところが大嫌いで、やっぱり今日もオレはあんたのことが大好きだった。
せめて、嫌いになれれば良かったのになあ。
―――――――――――
またひとつ好きになる
「好きです」
ふたりきりの室内練習場で、その声はとてもよく響いた。
文字にしてたった四文字、この四文字を口にするまで自分はどれだけの苦労と葛藤、まわりみちをしてきたことであろう。しかしながら、並々ならぬ決意を持って告げられた言葉、決死の覚悟で囁かれた告白は文字にしてたったの四文字で済んでしまったということでもある。
喉元から舌先を離れるまであれほど苦かった音の羅列は零れてしまえばあとは簡単なもので、ほんの少し空気を震わせてあの人の耳へと吸い込まれていった。
なんだ、こんなに簡単なことだったのか。一度口にしてしまえばたやすいもので、オレはもう一度その言葉を囁いた。
ああ、そうだ、好きなのだ、あんたのことが、好きなのだ、どんなに鈍いあんたでもこれでようやく思い知ることが出来ただろう、ざまあみろ。
「友沢」
掠れた声で呼ばれたのは自分の名だった。これまた四文字、しかしこのたった四文字が自分をどれだけ幸せにするのかオレはよく知っていた。笑いながらだったり、怒りながらだったり、ときにびっくりした声色で、ときに優しい音色で、様々な色でこの人はオレの名を呼ぶ。その色で呼ばれるたびに、オレは自分の輪郭を新たに彩られるようなそんな心持ちがしていたのだ。
大袈裟だと馬鹿にする人間もいるだろう。少し前まで、自分もその類の人間だったのだからよく分かる。愛だの恋だの、そんなもの馬鹿げていると思っていた。
それがどうだろうか、気が付けばいつしかオレの世界は大きく変わっていた。今まで馬鹿にしていたものは輝いて見え、諦めていたものには光が射した。あの人の周りはいつだってきらきらと瞬いていたし、そんなあの人の側にいると自分までその輝きの中にいるような錯覚を起こすのだ。
自覚をしてからは早かった。今となっては、好きになった理由もそのきっかけもぜんぶ忘れてしまったが、視線が勝手に追うようになっていた。
もっと相手のことを知りたい、自分のことを見て欲しい、一緒の時間を過ごしたい、そんな女々しいことばかりを考えながらオレは一日を過ごすようになっていったのだ。
話をするだけで楽しかったし、「後輩」という特権を使って練習を見てもらえるのが嬉しかった。時折練習後に二人で食事に行くことが何よりも幸せで、今日は誘ってもらえるだろうかといらぬ期待でそわそわする気持ちを隠すだけで精一杯だった。
好きなのだと、そんな気持ちに気付いてから、オレはあっという間に変わってしまったのである。友沢亮とは、こんな人間であったのかと自分自身を疑いたくなるときがある。しかし、もう戻ることは出来ないのだし、知らなかった頃には今更帰れないのだ。
返事など期待するつもりはなかったのだが、それでも心は正直なもので、心臓はドキドキと脈を打って痛かった。ああ、格好悪い。生まれてこのかた告白などしたことがない、一体何をどうすれば「格好良い告白」になるのか知らないが、今の自分がみっともない姿をさらしていることだけは分かる。
こんな様子では、また猪狩さんに鼻で笑われてしまいそうだ。いつものキザな笑い、余裕たっぷりでこちらを見る猪狩さんの顔が自然と浮かんだ。同時に苦いものが胸に広がる。
猪狩守。チームメイトで、先輩で、球界を代表するエースピッチャーで、そして、恋敵である。わざわざ言葉にすると本当の馬鹿みたいだ。猪狩さんはオレなんて歯牙にも掛けていないし、そんなことを考えているのはオレ一人だけだ。
全部持っているくせに、オレの欲しいものすべてを手に入れているくせに、猪狩さんはいつだって自分の欲に正直で貪欲だ。あの視線が、言葉が、態度が、なにもかもがこの人をさらっていく。初めから勝負になどなりはしない。
いつだって自信満々、唇に不敵な笑みを乗せて猪狩さんはオレに言うのだ。
たかだか四文字を言うために唇を震わせ、握り拳の手の中は汗に濡れ、なによりこんな情けない顔をしている自分が選ばれないことはよく分かっていた。オレがあの人に選ばれる日は永遠にこないだろうし、猪狩さんには敵わない。
それでも、そんな理屈や理論で自分を縛るのは疲れてしまった。だから、もう、いいだろう。自分の中から、舌先から離れた言葉の行方にまで責任は取れないのだから。
「ごめんな」
パワプロさんは静かに答えた。四文字の告白は、やっぱり四文字で返されるのだ。とても申し訳ないという気持ちを隠しもせず、パワプロさんは言った。予想通りの返答ではあったが、緊張とほんの少しの期待で膨らんでいた胸がズキンと痛む。オレが口を開く前に、パワプロさんは静かに話し始めた。
「実はオレ、猪狩と付き合ってるんだ」
「知ってます」
「えっ」
さも驚いたという顔でパワプロさんは瞳を瞬かせた。そのままじっと見つめたままでいると、ばつが悪そうに目を反らしながら、なんでばれてるのかなあと零した。もしかしてあれで隠しているつもりだったのかとオレは頭を抱えたくなる。
だいたい、猪狩さん自身がそのことを周りに公言しているということをこの人は知らないのだろうか。嫌味たっぷりな余裕の表情で、それでも確かに幸せそうにパワプロさんを自慢する猪狩さんの顔は見慣れたものだった。
「…見てれば分かりますし、だいたい猪狩さんってあんたとのこと周りに話してますよ」
「うそ!」
本気で驚いているらしいパワプロさんに呆れながら、それでもまだ愛しいと思う気持ちが湧き上がってきて、なんだかもうどうしようもない。いっそ泣いてしまえば楽になるのかもしれないが、あいにくこんな場面で流す涙は持ち合わせていない。様々な意味を込めて溜息をひとつ漏らしてみせると、パワプロさんは困った顔をしながら、しかし視線は外さないままはっきりと言った。
「友沢。知ってたんならどうして、こんなこと」
「べつに猪狩さんは関係ないです。オレがあんたを好きなんだから」
「…」
「順番」
「え?」
「あんたが猪狩さんと付き合ってるのは、たまたま出会う順番が先だったから。ただそれだけのことです」
もしもの話など、くだらないことだ。それでも、どうしても頭の中から消えることのない考えだった。もしも、もしも猪狩さんよりも自分の方が先に出会っていたとしたら、オレはパワプロさんを手に入れる自信がある。口には出さなかったが、おそらくニュアンスは伝わったのだろう。その証拠に、驚いた顔をしていたパワプロさんの顔には柔らかな笑みが浮かび、ぽつりぽつりと話し始めた。
「そうかもしれない」
そのあとには、ありがとうと続いた。
そんな言葉が聞きたかったわけではないのに、それでもオレの胸は確かに満たされていておかしな感じだ。伝えることが出来て満足などと、そんなことを言うのだろうか。オレはそんな人間だっただろうか。もう、自分のことが分からない。そんなのは、この人のことを好きになってから今日までずっとのことだった。
分かっていることは、ひとつだけ。オレにこの人を奪うことはできない。
「友沢、ごめん、ありがとう」
そんな言葉はいらない。
それなのに、オレの口から落ちたのはよもや思ってもみない言葉ばかりで、パワプロさんはみかねたようにそっとオレの頭に手を置いた。その手があまりに優しく触れるものだから、オレはとうとう我慢が出来なくなってしまった。
ああ、なんと情けないことだろう。この人は優しいから、きっとこの地面にできた染みについても見て見ぬフリをしてくれるのだろう。そして、いつものようになんでもない顔をしてオレを食事に誘ってくれるのだろう。
あんたのそういうところが大嫌いで、やっぱり今日もオレはあんたのことが大好きだった。
せめて、嫌いになれれば良かったのになあ。
―――――――――――
またひとつ好きになる
かごめかごめ籠の外
11/主人公と友沢
「オレはお前のことが大嫌いだ」
友沢にそう言われたとき、オレは一体なんと答えたのだろうか。なんにも言わなかったような気もするし、そうなんだ、なんて適当に返してしまったような気もする。分からない。そのくらい、オレは動揺していた。喉の奥で言葉が詰まってしまったようになんにも出てこない。
そうこうしている内にも友沢の零す嗚咽はどんどん大きくなっていって、ついには声を上げて泣き出してしまった。オレはただただ面食らっているばかりでどうすることも出来ない。だって、あの友沢が泣いているのだ。こうも無防備に零れる雫は頬を伝って、いくら友沢が乱暴に手の甲で拭ってもそれは溢れんばかりに落ちてくる。小さな子供のように、友沢は泣いていた。嗚咽にまぎれて、掠れた友沢の声が混じる。
「なんでお前は、いつもそうなんだよ、オレのことなんて放っておけばいい、いいのに、わざわざ首突っ込んで、退部になって、それで、こんな」
「友沢」
「なんで、笑って、へらへらしてるんだ、オレのこと助けたせいで、なんでって言ってオレを責めろよ、嫌えよ、オレはっ…オレは今日まで惨めだった、どうしようもなく、惨めだった、ほんとうは、ほんとうはオレだって、あんな」
「友沢、もういいから」
「それでも、おれは野球をしなくちゃいけない、プロに、ならなくちゃいけない」
そこまで言って、友沢は音もなく大粒の涙をこぼした。とめどなく溢れる涙は次から次に落ちてくる。
成人男子がみっともない、そんなことオレはこれっぽっちも思わなかったし、友沢の真摯な気持ちがこれ以上ないほどに伝わってきた。分かっているから、どうかもう泣かないでほしい。友沢が一体どんな決意と使命を持って野球をしているのかオレは全然知らないけれど、友沢の真剣な気持ちは痛いほどによく分かっている。だから、もういいだろう。友沢がこんな風に泣く理由はどこにもないはずだった。
今日もいつものように下井先輩たちと練習をしたオレは、近道をするために公園を横切って帰路に着くところだった。
あの日、帝王野球部を退部になったオレは、矢部くんと一緒に旧グラウンドで練習をしていた。確かに今までの野球部と比べれば設備も練習メニューも何もかもが劣っていたが、オレは大学生になってから今がいちばん充実した時間を過ごせていると感じていた。野球をするのが楽しい。みんなと野球をしているのが楽しい。目一杯好きなことをして、オレは何不自由のない毎日を送っていた。
元の野球部に全く未練がないかと聞かれればそれはもちろん多少の心残りくらいはあったが、それも今となってはどうでもいい話である。下井先輩と、矢部くんと、みんなと、わいわい泥まみれになって練習する時間がこの上なく楽しかったからだ。順位を落とさないように、レギュラー入り出来るように、レギュラーになったらそのポジションを奪われないように、ただひたすらそんなことに固執していたあの2年間が嘘のようで、オレは高校生までの自分が抱いていた野球への気持ちを思い出したのだった。
だから、野球部を退部になったって、一軍のグラウンドを使えなくたって、何も辛いことはなかった。そんなことを考えながらへとへとの体を引きずって家へ帰る途中、友沢に出くわしたのだ。
近道になる公園を足早に抜けようとすると、外灯の下に誰か立っていた。遠目でも印象的なそのシルエットで、オレはそこに誰がいるのかすぐに分かった。友沢が顔を上げると、トレードマークのサングラスがちらりと光った。外灯に照らされた顔はいつもより元気がなく、さらに言うなら具合が悪そうにも見えた。しかし、なにぶん周りは真っ暗で、頼りない外灯の灯りだけではよく判別がつかなかった。
オレが驚いて何も言わないままでいると、明後日の方を向いていた友沢はおもむろに顔を上げいつもの仏頂面で口を開くのだった。
「よう」
「どうしたんだよ友沢、こんなところで」
「それはこっちのセリフだ」
イライラするように言った友沢は乱暴に言葉を吐き捨てた。切れ長の瞳がゆらゆらと瞬いてこちらを睨む。覗き込むようにして見てみると、友沢の瞳は燃えるように怒っているのだった。迫力に押されてオレは生唾を飲み込む。何がこうも友沢を駆り立てているのか全く見当がつかなかった。
「パワプロ」
「うん?」
「お前、旧グラウンドで練習してるんだってな」
「…」
「今まで退部になった連中と一緒に、第二野球部なんて言ってるみたいだな」
「なんでそれを」
沈黙が辺りを包み込む。どうしてそれを友沢が知っているのか、そもそもなぜそんなことを言うのか、オレには分からなかった。わざわざ帰り道に待ち伏せしているということも解せない。友沢はいつからここにいたのだろうか。
「友沢、お前こんなところにいていいのかよ。今日、バイトは。だいたい、練習にはちゃんと出たのか?」
「だから!!」
叫ぶように声を絞り出した友沢は、唐突に近づいてオレの胸倉を掴みあげた。突然のことにただ驚くばかりでオレはされるがままの状態だ。
そのまま吐息が触れるほどの距離で友沢が言う。
「なんでお前はいつもいつも人の事ばっかり気にするんだよ、目障りなんだよ、迷惑なんだよ!」
「……」
「オレのことなんか放っておけよ、どうでもいいだろ!」
「友沢」
「お前が勝手に首を突っ込んでくるから、わざわざちょっかいかけて監督を怒らせるから、それで退部になったんだろ、なのにお前は!」
「オレはあのときのことを後悔なんてしてないし、友沢が気にすることなんてなにもないんだ」
思い切りオレを突き飛ばした友沢は、今までに見たこともない顔をしていた。声を掛けようとして思いとどまり、すんでのところまで出かかった言葉もすべて引っ込んでしまった。外灯に照らされた友沢の影が揺れる。握りしめられた拳はわなわなと震えているのだった。
「オレはお前のことが大嫌いだ」
そう言ってからの友沢は、堰を切ったように泣いた。とにかく泣いた。嗚咽と一緒に零れる声は今にも消え入りそうで、なんのてらいもなく泣いているその様子はまるで子供のようだった。ぽたぽたと惜しみなく落ちるそれは友沢の衣服を濡らし、アスファルトに黒い染みを作っていった。まるで涙の分だけ友沢の本音も零れていくようだ。今まで聞くことのない、これが友沢の本当の気持ちだった。
プロにならなくちゃいけない、友沢は何度もそう繰り返し、あんなに鍛えられ逞しいと感じていた双肩は頼りなく揺れていた。その肩へ、オレは無意識に手を伸ばしていた。驚いたらしい友沢は濡れた目でこちらを見ている。
鼻の頭まで真っ赤にして泣いている友沢を見て、オレはほんの少しだけ笑ってしまった。それに面白くない顔をしたのは友沢だ。いつの間にかすっかり涙も引っ込んでしまったらしい、友沢は唇を尖らせるとこの上なく不機嫌そうな顔を作ってオレを睨んでくるのだった。
「なに笑ってんだ、ムカつく」
「だって、友沢が一生懸命で」
「は」
「しかも、なんかオレのこと大好きみたいだから」
「ばっ、ふざけるな、お前なんか嫌いだって言ってるだろ」
外灯のおぼつかない灯りでも分かるほどに、友沢は耳まで真っ赤に染めて暴言を吐いた。なんてかわいくないことだろう。そうか、友沢ってこういうやつだったんだ。第一印象からぶれることのない友沢の本質に触れてオレは少しだけ得意げな気持ちになる。やっぱりオレは間違ってなんかいなかった。
赤くなっている友沢の鼻の頭を摘まみ上げる。
「なにすんだよ!」
「大丈夫だよ、友沢。オレだってプロになりたいけど、大学野球だけがその道じゃない。社会人だってあるし、入団テストを受けたっていい。なんとでもなるんだよ」
「……」
「だから、そんな顔するなよ」
「パワプロ」
「また、一緒に野球やろうぜ。大学の部活だけが野球のできる場所じゃない。そんで、二人でプロ入ってさ」
「…オレはもちろんプロ入りするけど、お前の実力じゃどうかな」
「なんだとー!」
生意気そうに唇の端を上げて笑う、いつもの友沢だった。さっきまで泣いていたのが嘘のように自信満々だ。これで良かったのだと、オレはもう一度だけ胸の中で呟いた。
なあ、と呼び掛けた友沢はいつになくすっきりした顔をしていて、気分の良いオレは友沢をキャッチボールに誘った。こんなに暗くて出来るわけないだろと言った友沢は、そうは言いながらも照明のありそうな場所を探してきょろきょろするのだった。
なんなら、公園の外まで駆けっこ勝負でもいいぞ。友沢、オレはお前になんか負けない自信があるからさ。
―――――――――――――――
このあと紅白戦をして、またすぐ一緒に野球するんですね
11の主人公ちゃんもイケメンがすぎる…お前は退部にならなくて良かったなと言われたとき、友沢の胸は打ち抜かれたようにギュンギュンしたことでしょう…
いろいろ我慢して背負って頑張っている友沢くん格好良いです
「オレはお前のことが大嫌いだ」
友沢にそう言われたとき、オレは一体なんと答えたのだろうか。なんにも言わなかったような気もするし、そうなんだ、なんて適当に返してしまったような気もする。分からない。そのくらい、オレは動揺していた。喉の奥で言葉が詰まってしまったようになんにも出てこない。
そうこうしている内にも友沢の零す嗚咽はどんどん大きくなっていって、ついには声を上げて泣き出してしまった。オレはただただ面食らっているばかりでどうすることも出来ない。だって、あの友沢が泣いているのだ。こうも無防備に零れる雫は頬を伝って、いくら友沢が乱暴に手の甲で拭ってもそれは溢れんばかりに落ちてくる。小さな子供のように、友沢は泣いていた。嗚咽にまぎれて、掠れた友沢の声が混じる。
「なんでお前は、いつもそうなんだよ、オレのことなんて放っておけばいい、いいのに、わざわざ首突っ込んで、退部になって、それで、こんな」
「友沢」
「なんで、笑って、へらへらしてるんだ、オレのこと助けたせいで、なんでって言ってオレを責めろよ、嫌えよ、オレはっ…オレは今日まで惨めだった、どうしようもなく、惨めだった、ほんとうは、ほんとうはオレだって、あんな」
「友沢、もういいから」
「それでも、おれは野球をしなくちゃいけない、プロに、ならなくちゃいけない」
そこまで言って、友沢は音もなく大粒の涙をこぼした。とめどなく溢れる涙は次から次に落ちてくる。
成人男子がみっともない、そんなことオレはこれっぽっちも思わなかったし、友沢の真摯な気持ちがこれ以上ないほどに伝わってきた。分かっているから、どうかもう泣かないでほしい。友沢が一体どんな決意と使命を持って野球をしているのかオレは全然知らないけれど、友沢の真剣な気持ちは痛いほどによく分かっている。だから、もういいだろう。友沢がこんな風に泣く理由はどこにもないはずだった。
今日もいつものように下井先輩たちと練習をしたオレは、近道をするために公園を横切って帰路に着くところだった。
あの日、帝王野球部を退部になったオレは、矢部くんと一緒に旧グラウンドで練習をしていた。確かに今までの野球部と比べれば設備も練習メニューも何もかもが劣っていたが、オレは大学生になってから今がいちばん充実した時間を過ごせていると感じていた。野球をするのが楽しい。みんなと野球をしているのが楽しい。目一杯好きなことをして、オレは何不自由のない毎日を送っていた。
元の野球部に全く未練がないかと聞かれればそれはもちろん多少の心残りくらいはあったが、それも今となってはどうでもいい話である。下井先輩と、矢部くんと、みんなと、わいわい泥まみれになって練習する時間がこの上なく楽しかったからだ。順位を落とさないように、レギュラー入り出来るように、レギュラーになったらそのポジションを奪われないように、ただひたすらそんなことに固執していたあの2年間が嘘のようで、オレは高校生までの自分が抱いていた野球への気持ちを思い出したのだった。
だから、野球部を退部になったって、一軍のグラウンドを使えなくたって、何も辛いことはなかった。そんなことを考えながらへとへとの体を引きずって家へ帰る途中、友沢に出くわしたのだ。
近道になる公園を足早に抜けようとすると、外灯の下に誰か立っていた。遠目でも印象的なそのシルエットで、オレはそこに誰がいるのかすぐに分かった。友沢が顔を上げると、トレードマークのサングラスがちらりと光った。外灯に照らされた顔はいつもより元気がなく、さらに言うなら具合が悪そうにも見えた。しかし、なにぶん周りは真っ暗で、頼りない外灯の灯りだけではよく判別がつかなかった。
オレが驚いて何も言わないままでいると、明後日の方を向いていた友沢はおもむろに顔を上げいつもの仏頂面で口を開くのだった。
「よう」
「どうしたんだよ友沢、こんなところで」
「それはこっちのセリフだ」
イライラするように言った友沢は乱暴に言葉を吐き捨てた。切れ長の瞳がゆらゆらと瞬いてこちらを睨む。覗き込むようにして見てみると、友沢の瞳は燃えるように怒っているのだった。迫力に押されてオレは生唾を飲み込む。何がこうも友沢を駆り立てているのか全く見当がつかなかった。
「パワプロ」
「うん?」
「お前、旧グラウンドで練習してるんだってな」
「…」
「今まで退部になった連中と一緒に、第二野球部なんて言ってるみたいだな」
「なんでそれを」
沈黙が辺りを包み込む。どうしてそれを友沢が知っているのか、そもそもなぜそんなことを言うのか、オレには分からなかった。わざわざ帰り道に待ち伏せしているということも解せない。友沢はいつからここにいたのだろうか。
「友沢、お前こんなところにいていいのかよ。今日、バイトは。だいたい、練習にはちゃんと出たのか?」
「だから!!」
叫ぶように声を絞り出した友沢は、唐突に近づいてオレの胸倉を掴みあげた。突然のことにただ驚くばかりでオレはされるがままの状態だ。
そのまま吐息が触れるほどの距離で友沢が言う。
「なんでお前はいつもいつも人の事ばっかり気にするんだよ、目障りなんだよ、迷惑なんだよ!」
「……」
「オレのことなんか放っておけよ、どうでもいいだろ!」
「友沢」
「お前が勝手に首を突っ込んでくるから、わざわざちょっかいかけて監督を怒らせるから、それで退部になったんだろ、なのにお前は!」
「オレはあのときのことを後悔なんてしてないし、友沢が気にすることなんてなにもないんだ」
思い切りオレを突き飛ばした友沢は、今までに見たこともない顔をしていた。声を掛けようとして思いとどまり、すんでのところまで出かかった言葉もすべて引っ込んでしまった。外灯に照らされた友沢の影が揺れる。握りしめられた拳はわなわなと震えているのだった。
「オレはお前のことが大嫌いだ」
そう言ってからの友沢は、堰を切ったように泣いた。とにかく泣いた。嗚咽と一緒に零れる声は今にも消え入りそうで、なんのてらいもなく泣いているその様子はまるで子供のようだった。ぽたぽたと惜しみなく落ちるそれは友沢の衣服を濡らし、アスファルトに黒い染みを作っていった。まるで涙の分だけ友沢の本音も零れていくようだ。今まで聞くことのない、これが友沢の本当の気持ちだった。
プロにならなくちゃいけない、友沢は何度もそう繰り返し、あんなに鍛えられ逞しいと感じていた双肩は頼りなく揺れていた。その肩へ、オレは無意識に手を伸ばしていた。驚いたらしい友沢は濡れた目でこちらを見ている。
鼻の頭まで真っ赤にして泣いている友沢を見て、オレはほんの少しだけ笑ってしまった。それに面白くない顔をしたのは友沢だ。いつの間にかすっかり涙も引っ込んでしまったらしい、友沢は唇を尖らせるとこの上なく不機嫌そうな顔を作ってオレを睨んでくるのだった。
「なに笑ってんだ、ムカつく」
「だって、友沢が一生懸命で」
「は」
「しかも、なんかオレのこと大好きみたいだから」
「ばっ、ふざけるな、お前なんか嫌いだって言ってるだろ」
外灯のおぼつかない灯りでも分かるほどに、友沢は耳まで真っ赤に染めて暴言を吐いた。なんてかわいくないことだろう。そうか、友沢ってこういうやつだったんだ。第一印象からぶれることのない友沢の本質に触れてオレは少しだけ得意げな気持ちになる。やっぱりオレは間違ってなんかいなかった。
赤くなっている友沢の鼻の頭を摘まみ上げる。
「なにすんだよ!」
「大丈夫だよ、友沢。オレだってプロになりたいけど、大学野球だけがその道じゃない。社会人だってあるし、入団テストを受けたっていい。なんとでもなるんだよ」
「……」
「だから、そんな顔するなよ」
「パワプロ」
「また、一緒に野球やろうぜ。大学の部活だけが野球のできる場所じゃない。そんで、二人でプロ入ってさ」
「…オレはもちろんプロ入りするけど、お前の実力じゃどうかな」
「なんだとー!」
生意気そうに唇の端を上げて笑う、いつもの友沢だった。さっきまで泣いていたのが嘘のように自信満々だ。これで良かったのだと、オレはもう一度だけ胸の中で呟いた。
なあ、と呼び掛けた友沢はいつになくすっきりした顔をしていて、気分の良いオレは友沢をキャッチボールに誘った。こんなに暗くて出来るわけないだろと言った友沢は、そうは言いながらも照明のありそうな場所を探してきょろきょろするのだった。
なんなら、公園の外まで駆けっこ勝負でもいいぞ。友沢、オレはお前になんか負けない自信があるからさ。
―――――――――――――――
このあと紅白戦をして、またすぐ一緒に野球するんですね
11の主人公ちゃんもイケメンがすぎる…お前は退部にならなくて良かったなと言われたとき、友沢の胸は打ち抜かれたようにギュンギュンしたことでしょう…
いろいろ我慢して背負って頑張っている友沢くん格好良いです

