友沢くんはポーカーフェイス
友沢くんはポーカーフェイス(主友)
パワプロくんからその言葉を聞いたとき、友沢くんは嬉しいというよりも驚いたような拍子抜けしたような、そんな気分だった。監督の都合で、いつもより早く部活動が終わった夕暮れどき。並んで歩いていたパワプロくんと友沢くんは、二人とも足を止めて互いに向かい合っていた。遠くで鳥の鳴いている声がする。友沢くんが黙ったきりだったので、パワプロくんは意を決してもう一度同じことばを口にした。
「オレ、友沢のことが好きなんだ」
自分の目を真っ直ぐと見ながら言うものだから、友沢くんはさっきの告白をなかったことにも聞いていなかったことにも出来なくなってしまって、困った。だけど、友沢くんの表情は変わらない。いつも通りのはずだった。でも、どんな時でもポーカーフェイスを貫き通す、そういう友沢くんのささやかな変化に気付くのが、パワプロくんだった。いつもと同じ顔色だけれど、いつもと同じではない友沢くんの表情。それに気づいた彼は、今までずっと緊張してこわばらせていた顔をふっと緩めて微笑んだ。それに対して、おもしろくないといった面持ちで唇を尖らせたのは友沢くんだ。彼にしては珍しく、年相応の子供のような態度だった。
「なんでお前、今そういうこと言うんだよ」
「言いたくなったから?」
「なんで疑問系なんだよ」
「友沢が好きだから?」
「…疑問系やめろ」
ぶつくさと文句を言う友沢くんの顔が、夕陽だけではごまかしようがないほど染まっているのを知っていたから、パワプロくんはつられて赤くなっているだろう自分のほっぺたをかいた。それでも友沢くんはポーカーフェイスのままだ。いつものように素っ気ないふりを続ける彼が、下手な演技を続ける彼が、今日は一段といとおしくて、我慢できなくなったパワプロくんはとうとう声を出して笑ってしまった。
「なんで言うんだよ」
「迷惑だったか」
「そういう意味じゃない」
「じゃあ、どういう意味」
「言わないでいれば、オレたちはずっとこのままでいられた」
「うん。でも、このままは嫌だったから」
「オレから、言いたかった」
それは悪いことしたなあ、そう言うパワプロくんはちっとも悪いことをしたなんて思っていない顔で友沢くんを見た。友沢くんのきれいな色をした瞳が、夕焼け色に染まって輝いていたから、覗き込みたくなる。友沢くんの目には、そういうことを思わせる魅力があった。友沢くんは端正な顔立ちをしたきれいな子で、高めの鼻梁も、薄い唇も、表情の薄いところも含めてまるで彫刻されたような精巧な仕上がりだったけど、中でも宝石のようにひかる瞳が一等美しいと、パワプロくんはいつも思っていた。
「オレも、お前のことが好きだから。…ああ、オレもなんて、絶対言いたくなかった」
「なんで」
「だって、オレの方がお前を好きなんだから」
「なあんだ、それ!」
友沢くんの妙なこだわりがパワプロくんには全然分からなくて、おかしかった。友沢くんは、こんなときまでパワプロくんに張り合っている。なぜなら、二人はライバルなのだ。それが分かっているから、パワプロくんはそれ以上なにも言わなかった。言わないかわりに、パワプロくんは友沢くんの手を取って、きつく握った。
微笑んだ友沢くんは、いままで見た中でいちばんきれいな顔をしていた。
了
ーーーーーーー
読んでいるものにすぐ影響される!わーい!
最近よく読む作家さんの語り調をまねっこしてみたのでした
主友かわいいね
パワプロくんからその言葉を聞いたとき、友沢くんは嬉しいというよりも驚いたような拍子抜けしたような、そんな気分だった。監督の都合で、いつもより早く部活動が終わった夕暮れどき。並んで歩いていたパワプロくんと友沢くんは、二人とも足を止めて互いに向かい合っていた。遠くで鳥の鳴いている声がする。友沢くんが黙ったきりだったので、パワプロくんは意を決してもう一度同じことばを口にした。
「オレ、友沢のことが好きなんだ」
自分の目を真っ直ぐと見ながら言うものだから、友沢くんはさっきの告白をなかったことにも聞いていなかったことにも出来なくなってしまって、困った。だけど、友沢くんの表情は変わらない。いつも通りのはずだった。でも、どんな時でもポーカーフェイスを貫き通す、そういう友沢くんのささやかな変化に気付くのが、パワプロくんだった。いつもと同じ顔色だけれど、いつもと同じではない友沢くんの表情。それに気づいた彼は、今までずっと緊張してこわばらせていた顔をふっと緩めて微笑んだ。それに対して、おもしろくないといった面持ちで唇を尖らせたのは友沢くんだ。彼にしては珍しく、年相応の子供のような態度だった。
「なんでお前、今そういうこと言うんだよ」
「言いたくなったから?」
「なんで疑問系なんだよ」
「友沢が好きだから?」
「…疑問系やめろ」
ぶつくさと文句を言う友沢くんの顔が、夕陽だけではごまかしようがないほど染まっているのを知っていたから、パワプロくんはつられて赤くなっているだろう自分のほっぺたをかいた。それでも友沢くんはポーカーフェイスのままだ。いつものように素っ気ないふりを続ける彼が、下手な演技を続ける彼が、今日は一段といとおしくて、我慢できなくなったパワプロくんはとうとう声を出して笑ってしまった。
「なんで言うんだよ」
「迷惑だったか」
「そういう意味じゃない」
「じゃあ、どういう意味」
「言わないでいれば、オレたちはずっとこのままでいられた」
「うん。でも、このままは嫌だったから」
「オレから、言いたかった」
それは悪いことしたなあ、そう言うパワプロくんはちっとも悪いことをしたなんて思っていない顔で友沢くんを見た。友沢くんのきれいな色をした瞳が、夕焼け色に染まって輝いていたから、覗き込みたくなる。友沢くんの目には、そういうことを思わせる魅力があった。友沢くんは端正な顔立ちをしたきれいな子で、高めの鼻梁も、薄い唇も、表情の薄いところも含めてまるで彫刻されたような精巧な仕上がりだったけど、中でも宝石のようにひかる瞳が一等美しいと、パワプロくんはいつも思っていた。
「オレも、お前のことが好きだから。…ああ、オレもなんて、絶対言いたくなかった」
「なんで」
「だって、オレの方がお前を好きなんだから」
「なあんだ、それ!」
友沢くんの妙なこだわりがパワプロくんには全然分からなくて、おかしかった。友沢くんは、こんなときまでパワプロくんに張り合っている。なぜなら、二人はライバルなのだ。それが分かっているから、パワプロくんはそれ以上なにも言わなかった。言わないかわりに、パワプロくんは友沢くんの手を取って、きつく握った。
微笑んだ友沢くんは、いままで見た中でいちばんきれいな顔をしていた。
了
ーーーーーーー
読んでいるものにすぐ影響される!わーい!
最近よく読む作家さんの語り調をまねっこしてみたのでした
主友かわいいね
PR
両思いをなぞって
両思いをなぞって(主友)
「友沢、キスしてもいい?」
昼食後、隣に座るパワプロが大真面目な顔で尋ねた。パックの牛乳を飲み干した友沢は、その顔をまじまじと見返す。昼の時間帯より少し外れているからか、屋上には自分たち以外に誰もいないようだ。傍目からはいつも通りにしか見えない友沢だったが、内心ではパワプロの言葉に怒りを覚えていた。正直、めちゃくちゃ腹を立てていた。
勝手にしろ、そんなもん。付き合うようになってそこそこ経つというのに、パワプロはキスをするたびにいちいち友沢の許可を取った。それが気に入らない。気に食わない。したければ、すればいいのだ。
「したいなら、すれば」
「友沢が嫌なら、しない」
嫌なものか。自分が今までに、一度でも、嫌がる素振りを見せたことがあっただろうか。そもそも好きでもない人間と一緒になどいないだろうし、付き合うなど以ての外である。だいたいこれで何度目だと言うのだ、このやり取りも。
急転直下する友沢の機嫌悪さも、パワプロから見れば普段と何ら変わりないポーカーフェイスであったので、何も伝わらない。そう、何も。友沢は感情が表に出ない方であったし、それは都合の良い事も多かったが、ことパワプロに対しては毎度悪い方へ働いていた。友沢は、口数が少ない。余計なことは喋らない。そんなの、見ていれば分かるだろうと思ってしまう。
友沢は、パワプロのことが好きだ。うんと好きだった。かつて、監督に口答えをした自分を庇って、身代わりにパワプロが野球部を退部になったことがある。それだけでも恩があるのに、パワプロたちが所属していた第二野球部のおかげで、自分たちは本当のチームになれた。今自分がこうして野球に専念出来ているのは、パワプロのおかげと言っても過言ではない。
加えて、昼食のことや、家族のこと、バイトのこと、パワプロには並々ならぬ恩がある。パワプロはお人好しで、愛情深い。そういうパワプロのことを友沢が好きになるまで、そう時間はかからなかった。交際が始まったのも、自然のことのように思えた。
だからこそ、友沢は理解が出来ない。なぜいちいち、口と口を付けるために、許可が必要であるのか、その理由が。自分が嫌がるからかもしれないとはパワプロの言であるが、それは本気で言っているのだろうか。
「もしかして友沢、怒ってる?」
ああ、怒っている。声には出さない。おそらく、顔にも出ていない。友沢はもう、何に怒っているのかよく分からなくなっていた。キスひとつでわざわざ許可を取るパワプロには、自分の気持ちなど何一つ伝わっていないということなのだろうか。それは怒りというよりも、悲しみにも近い感情であった。
「友沢?」
友沢の怒りは続く。パワプロがあんまりにも優しくてあんまりにも気遣いをするせいで、友沢は妙な願望を持つようになってしまった。乱暴をされたいなどとは言わないが、しかし、もっと欲望に任せて、好きに振る舞って欲しいと思う。お前がしたければ、すればいい。お前がくれるものを、オレは全部欲しいと思う。そうだ、オレはお前の全部が欲しい。
顔を上げた友沢が噛み付くようなキスをして、驚いたパワプロは為す術もなくされるがままであった。口の端から垂れる唾液を舐め取ると、ようやく我に返ったらしいパワプロと目が合う。今度は向こうから重ねられた唇に満足をして、友沢はその首に腕を絡ませながら目を閉じた。
了
ーーーーーーー
友沢くんは主人公ちゃんのことめっちゃ好き
もちろん主人公ちゃんもね
「友沢、キスしてもいい?」
昼食後、隣に座るパワプロが大真面目な顔で尋ねた。パックの牛乳を飲み干した友沢は、その顔をまじまじと見返す。昼の時間帯より少し外れているからか、屋上には自分たち以外に誰もいないようだ。傍目からはいつも通りにしか見えない友沢だったが、内心ではパワプロの言葉に怒りを覚えていた。正直、めちゃくちゃ腹を立てていた。
勝手にしろ、そんなもん。付き合うようになってそこそこ経つというのに、パワプロはキスをするたびにいちいち友沢の許可を取った。それが気に入らない。気に食わない。したければ、すればいいのだ。
「したいなら、すれば」
「友沢が嫌なら、しない」
嫌なものか。自分が今までに、一度でも、嫌がる素振りを見せたことがあっただろうか。そもそも好きでもない人間と一緒になどいないだろうし、付き合うなど以ての外である。だいたいこれで何度目だと言うのだ、このやり取りも。
急転直下する友沢の機嫌悪さも、パワプロから見れば普段と何ら変わりないポーカーフェイスであったので、何も伝わらない。そう、何も。友沢は感情が表に出ない方であったし、それは都合の良い事も多かったが、ことパワプロに対しては毎度悪い方へ働いていた。友沢は、口数が少ない。余計なことは喋らない。そんなの、見ていれば分かるだろうと思ってしまう。
友沢は、パワプロのことが好きだ。うんと好きだった。かつて、監督に口答えをした自分を庇って、身代わりにパワプロが野球部を退部になったことがある。それだけでも恩があるのに、パワプロたちが所属していた第二野球部のおかげで、自分たちは本当のチームになれた。今自分がこうして野球に専念出来ているのは、パワプロのおかげと言っても過言ではない。
加えて、昼食のことや、家族のこと、バイトのこと、パワプロには並々ならぬ恩がある。パワプロはお人好しで、愛情深い。そういうパワプロのことを友沢が好きになるまで、そう時間はかからなかった。交際が始まったのも、自然のことのように思えた。
だからこそ、友沢は理解が出来ない。なぜいちいち、口と口を付けるために、許可が必要であるのか、その理由が。自分が嫌がるからかもしれないとはパワプロの言であるが、それは本気で言っているのだろうか。
「もしかして友沢、怒ってる?」
ああ、怒っている。声には出さない。おそらく、顔にも出ていない。友沢はもう、何に怒っているのかよく分からなくなっていた。キスひとつでわざわざ許可を取るパワプロには、自分の気持ちなど何一つ伝わっていないということなのだろうか。それは怒りというよりも、悲しみにも近い感情であった。
「友沢?」
友沢の怒りは続く。パワプロがあんまりにも優しくてあんまりにも気遣いをするせいで、友沢は妙な願望を持つようになってしまった。乱暴をされたいなどとは言わないが、しかし、もっと欲望に任せて、好きに振る舞って欲しいと思う。お前がしたければ、すればいい。お前がくれるものを、オレは全部欲しいと思う。そうだ、オレはお前の全部が欲しい。
顔を上げた友沢が噛み付くようなキスをして、驚いたパワプロは為す術もなくされるがままであった。口の端から垂れる唾液を舐め取ると、ようやく我に返ったらしいパワプロと目が合う。今度は向こうから重ねられた唇に満足をして、友沢はその首に腕を絡ませながら目を閉じた。
了
ーーーーーーー
友沢くんは主人公ちゃんのことめっちゃ好き
もちろん主人公ちゃんもね
幾星霜
幾星霜 (主人公×友沢亮)
殴られる。そう思ってきつく目を瞑ったオレに待っていたのは、予想外の衝撃だった。覚悟した衝撃が頬ではなく、唇に降ってきたのだ。それも拳ではなく、友沢自身の唇によって。オレの胸倉を掴んだままの友沢の手は、妙に熱を帯びていた。
どうしてこんなことになったのか思い出せない。二人きりの部室、最後まで居残ったオレと友沢で取り留めのない話をしていたのがほんの少し前の話。つまらないことで言い争いになって、珍しく激昂した友沢に胸倉を掴まれた。こんなに怒った友沢を、オレは初めて見た。友沢の瞳は燃えるように瞬いている。服を掴まれたまま乱暴に引き寄せられ、間近で目が合うと不自然な沈黙が降りた。殴られる。そう思ってオレは、覚悟を決めて目を閉じたのだ。そうして降ってきたのは、唇に柔らかな感触。すぐには分からなかった。キスされている。オレが、友沢に。
「……」
閉じられていた目蓋がゆっくりと持ち上がると、きれいなエメラルドが見えた。押し付けていた唇を離した友沢が、静かに離れる。
「お前が、くだらないことを言うからだ」
友沢の口ぶりは、まるでオレが全部悪いみたいで、それでいて罪悪感を露わにしたなんとも言えないものだった。離れる直前、歯を立てられた唇をオレは無意識に舐めていた。もしかしたら、少し切れているかもしれない。確認するように舌を這わせる。
「お前のせいだ…」
繰り返した友沢は、力なく項垂れた。無理矢理キスされたのはオレで、無作法に胸倉を掴まれたのはオレの方なのに、なんだかこっちが悪いような気すらしてくる。こんなにも感情を剥き出しにする友沢は、初めてだった。
友沢はいつもいろんなことに無関心そうで、そして素っ気なかった。それはもちろん、オレと話している時でさえ。それなのに、今日の友沢は大層苛立っているようで、そしてそれと同じくらい悲しんでいるようにも見えた。
「友沢って」
「言うな」
「友沢」
「うるさい!」
思わず、「泣くな」などと続けてしまった自分に驚く。そして驚いたのはオレだけでなく、言われた友沢の方も同じだったようだ。いつもの仏頂面に戻った友沢の顔が不機嫌そうに歪んだ。
「友沢、どうしたんだよ」
苦虫を噛み潰したような顔で、友沢は部室の壁を睨み付けている。その眼差しはゆらゆらと揺れていた。その逸らした瞳から、涙が、滴が、何か大切なものがこぼれ落ちてしまうのではないだろうかと、オレは妙な心配をしてしまう。初めて間近で見た友沢の目は、そのくらいきれいだった。
「友沢、どうしてオレにキスしたの」
友沢は答えない。自分で尋ねておきながら、返事は期待していなかった。
両手で頬を挟み込むように掴んでも、友沢は嫌がらなかった。いつもの無表情、いや、熱を帯びた眼差しだけが一心にこちらを見つめていた。
もう一度合わせてみたら、何か分かるかもしれない。言い訳は、そのくらいで十分だろう。目蓋を下ろした友沢に、オレは静かに口付けた。
了
ーーーーーーーー
主人公ちゃん、いったい友沢に何を言ったんだ
胸倉掴んでキスをする沢がすきすぎる候
殴られる。そう思ってきつく目を瞑ったオレに待っていたのは、予想外の衝撃だった。覚悟した衝撃が頬ではなく、唇に降ってきたのだ。それも拳ではなく、友沢自身の唇によって。オレの胸倉を掴んだままの友沢の手は、妙に熱を帯びていた。
どうしてこんなことになったのか思い出せない。二人きりの部室、最後まで居残ったオレと友沢で取り留めのない話をしていたのがほんの少し前の話。つまらないことで言い争いになって、珍しく激昂した友沢に胸倉を掴まれた。こんなに怒った友沢を、オレは初めて見た。友沢の瞳は燃えるように瞬いている。服を掴まれたまま乱暴に引き寄せられ、間近で目が合うと不自然な沈黙が降りた。殴られる。そう思ってオレは、覚悟を決めて目を閉じたのだ。そうして降ってきたのは、唇に柔らかな感触。すぐには分からなかった。キスされている。オレが、友沢に。
「……」
閉じられていた目蓋がゆっくりと持ち上がると、きれいなエメラルドが見えた。押し付けていた唇を離した友沢が、静かに離れる。
「お前が、くだらないことを言うからだ」
友沢の口ぶりは、まるでオレが全部悪いみたいで、それでいて罪悪感を露わにしたなんとも言えないものだった。離れる直前、歯を立てられた唇をオレは無意識に舐めていた。もしかしたら、少し切れているかもしれない。確認するように舌を這わせる。
「お前のせいだ…」
繰り返した友沢は、力なく項垂れた。無理矢理キスされたのはオレで、無作法に胸倉を掴まれたのはオレの方なのに、なんだかこっちが悪いような気すらしてくる。こんなにも感情を剥き出しにする友沢は、初めてだった。
友沢はいつもいろんなことに無関心そうで、そして素っ気なかった。それはもちろん、オレと話している時でさえ。それなのに、今日の友沢は大層苛立っているようで、そしてそれと同じくらい悲しんでいるようにも見えた。
「友沢って」
「言うな」
「友沢」
「うるさい!」
思わず、「泣くな」などと続けてしまった自分に驚く。そして驚いたのはオレだけでなく、言われた友沢の方も同じだったようだ。いつもの仏頂面に戻った友沢の顔が不機嫌そうに歪んだ。
「友沢、どうしたんだよ」
苦虫を噛み潰したような顔で、友沢は部室の壁を睨み付けている。その眼差しはゆらゆらと揺れていた。その逸らした瞳から、涙が、滴が、何か大切なものがこぼれ落ちてしまうのではないだろうかと、オレは妙な心配をしてしまう。初めて間近で見た友沢の目は、そのくらいきれいだった。
「友沢、どうしてオレにキスしたの」
友沢は答えない。自分で尋ねておきながら、返事は期待していなかった。
両手で頬を挟み込むように掴んでも、友沢は嫌がらなかった。いつもの無表情、いや、熱を帯びた眼差しだけが一心にこちらを見つめていた。
もう一度合わせてみたら、何か分かるかもしれない。言い訳は、そのくらいで十分だろう。目蓋を下ろした友沢に、オレは静かに口付けた。
了
ーーーーーーーー
主人公ちゃん、いったい友沢に何を言ったんだ
胸倉掴んでキスをする沢がすきすぎる候
ファーストキッスはレモン味
ファーストキッスはレモン味 (主友)
事実として、ファーストキスはレモン味ではなかった。というより、味なんて全然分からなかった。
友沢と居残り練習をした帰り、部室で着替えていた。他の部員はとっくに帰宅してしまっているから、二人きりだ。アンダーを脱ぎながら友沢が何か言って振り返る、首筋から汗が一筋流れて、オレはその腕を掴んだ。ほんの一瞬目が合って、唇を押し付けた。
オレは、友沢にキスをした。友沢は何も言わなかった。嫌がるどころかそのまま瞼を下ろすものだから、絶対拒否されるだろうと思っていたオレは逆に面食らってしまう。合わさる唇、重なる吐息、どれだけそうしていたのか、オレは唇を離して友沢を見た。
「もう、終わりか」
そんなことを言う。オレが黙っていると今度は友沢の方から近づいてきて、蛍光灯の下で影が重なった。おい、胸ぐらを掴むな。そう言いたかった声は友沢の口の中に呑まれて、オレも黙って目を閉じるしかなかった。
「友沢、怒んないの」
「なにを」
そのあとは二人黙って着替えをして、そっと部室を後にした。練習後の火照った身体に夜風が気持ち良い。しかし今日に限っては、火照っている原因はそれだけではなかった。秋深まり季節はまもなく冬になる、冷たい風に吹かれてもオレの顔は熱いままだった。
「いきなり、ごめん」
「謝るくらいなら、するな」
確かに。どうやら友沢は、あんまり気にしていないようだ。変なやつ。オレだったら、いきなりチームメイトからキスなんてされた日には、びっくりしちゃうけどな。
「ところでさ、友沢」
「なんだ」
「さっきは全然分かんなかったから、今度はゆっくり確認してもいい?」
「何を?」
ファーストキスはレモン味って、ほんとなのかな。笑う友沢の手を引いて、オレは慎んで交際を申し込んだ。
了
ーーーーーー
しゅ〜とも〜
事実として、ファーストキスはレモン味ではなかった。というより、味なんて全然分からなかった。
友沢と居残り練習をした帰り、部室で着替えていた。他の部員はとっくに帰宅してしまっているから、二人きりだ。アンダーを脱ぎながら友沢が何か言って振り返る、首筋から汗が一筋流れて、オレはその腕を掴んだ。ほんの一瞬目が合って、唇を押し付けた。
オレは、友沢にキスをした。友沢は何も言わなかった。嫌がるどころかそのまま瞼を下ろすものだから、絶対拒否されるだろうと思っていたオレは逆に面食らってしまう。合わさる唇、重なる吐息、どれだけそうしていたのか、オレは唇を離して友沢を見た。
「もう、終わりか」
そんなことを言う。オレが黙っていると今度は友沢の方から近づいてきて、蛍光灯の下で影が重なった。おい、胸ぐらを掴むな。そう言いたかった声は友沢の口の中に呑まれて、オレも黙って目を閉じるしかなかった。
「友沢、怒んないの」
「なにを」
そのあとは二人黙って着替えをして、そっと部室を後にした。練習後の火照った身体に夜風が気持ち良い。しかし今日に限っては、火照っている原因はそれだけではなかった。秋深まり季節はまもなく冬になる、冷たい風に吹かれてもオレの顔は熱いままだった。
「いきなり、ごめん」
「謝るくらいなら、するな」
確かに。どうやら友沢は、あんまり気にしていないようだ。変なやつ。オレだったら、いきなりチームメイトからキスなんてされた日には、びっくりしちゃうけどな。
「ところでさ、友沢」
「なんだ」
「さっきは全然分かんなかったから、今度はゆっくり確認してもいい?」
「何を?」
ファーストキスはレモン味って、ほんとなのかな。笑う友沢の手を引いて、オレは慎んで交際を申し込んだ。
了
ーーーーーー
しゅ〜とも〜
幻想
幻想 (主人公×友沢亮)
例えばの話だ。友沢は、考える。例えば、自分が念願のプロ入りを果たしたとしたら、契約金が入るだろう。その後もプロ野球選手として活躍すれば、まとまったお金を稼ぐことが出来る。そうすれば、家族が助かる。病気を患う母はこれでようやく手術を受けることが出来て、幼い弟妹たちの食い扶持を心配する必要もなくなり、安心して進学することが出来るだろう。
そのためには、幾多にも数多にも渡る苦難、試練が待っている。人生、そう上手くはいかないものだ。実際、友沢は高校生のタイミングでプロ入りの機会を逃した。理由はもちろん分かっていたが、そんなことで簡単に諦められるものならば、友沢は今日までこんな思いを抱いていない。
プロ入りと一口に言っても、そこには様々な要素が交錯する。才能だけでやっていける世界でないことはもちろん、そうかといって努力すれば足りるのかと言ったらそんなことは断じてない。才能、努力、そして、運。友沢はそのどれか、どこかがきっと欠けていて、プロ入りを逃した。大学に通いながら、友沢はようやくそんな風に自分の境遇について考えることができるようになった。
これは常に、「例えば」の話である。例えば、活躍してスカウトの目に留まりたい。そう考えたとき、チームメイトの力は必要不可欠ということになってくる。チームメイトに恵まれて試合に勝つことが出来れば、その分自分の活躍する場も増えるだろうし、そういった目に留まる機会もぐっと増すであろう。やっかいなことに、野球は一人では出来ないのだ。
だから、例えば、もしも同じ方向を向いて努力出来る友人、切磋琢磨し合えるライバルなんかがいたとしたら、それは素晴らしいことだ。互いに発奮し合い、技術を磨き合う。負けたくない、そういう気持ちが自分ではなく他者に向くことで得られるメリットを、友沢は知らなかった。友沢の世界は今までずっと閉ざされていたものだから、それが半ば無理矢理こじ開けられたときの景色など、想像も及ばなかったのだ。
だから、これは、例えばの話だ。例えば友沢が高校生の時にプロ入りを決めていたら、大学に通っていなかったら、別の学校を選んでいたら、もしくは野球を諦めていたら。まるで幻想のように浮かんでは消える世迷い事だった。
「友沢、どうした?ぼんやりして」
そう言って友沢の顔を覗き込むのは、かつてのチームメイトだった男で、そして今もまた友沢と同じチームで野球をしているのだった。今日は久々のオフで、二人して買い物に出掛けた帰り道であった。
「しょうもないこと考えてた」
「なんだよ、それ」
その笑い顔は学生の頃から変わらないもので、この男は笑うと妙に幼い顔付きになるのだった。口には出さないが、友沢はその顔を結構気に入っていた。
「休みって終わるの早いよなあ」
男の横顔を、夕焼けが照らしている。二人分の影が並んで揺らめいた。友沢は、プロになった。隣を歩く男と一緒に、念願のプロ入りを果たしたのだった。それは今まで描いてきた甘い幻想そのもので、それを思うと友沢は今でも不思議な気持ちになる。友沢が手を差し伸べると、隣の男は何も言わず握り返した。
「パワプロ」
「ん、なに?」
「なんでもない」
口にすると消えてしまいそうになる甘い気持ちを、友沢は今日も胸に秘めて黙っている。友沢の夢の続きは、今日もこの手の中にある。
了
ーーーーーーー
主友しゅげーーしゅき
例えばの話だ。友沢は、考える。例えば、自分が念願のプロ入りを果たしたとしたら、契約金が入るだろう。その後もプロ野球選手として活躍すれば、まとまったお金を稼ぐことが出来る。そうすれば、家族が助かる。病気を患う母はこれでようやく手術を受けることが出来て、幼い弟妹たちの食い扶持を心配する必要もなくなり、安心して進学することが出来るだろう。
そのためには、幾多にも数多にも渡る苦難、試練が待っている。人生、そう上手くはいかないものだ。実際、友沢は高校生のタイミングでプロ入りの機会を逃した。理由はもちろん分かっていたが、そんなことで簡単に諦められるものならば、友沢は今日までこんな思いを抱いていない。
プロ入りと一口に言っても、そこには様々な要素が交錯する。才能だけでやっていける世界でないことはもちろん、そうかといって努力すれば足りるのかと言ったらそんなことは断じてない。才能、努力、そして、運。友沢はそのどれか、どこかがきっと欠けていて、プロ入りを逃した。大学に通いながら、友沢はようやくそんな風に自分の境遇について考えることができるようになった。
これは常に、「例えば」の話である。例えば、活躍してスカウトの目に留まりたい。そう考えたとき、チームメイトの力は必要不可欠ということになってくる。チームメイトに恵まれて試合に勝つことが出来れば、その分自分の活躍する場も増えるだろうし、そういった目に留まる機会もぐっと増すであろう。やっかいなことに、野球は一人では出来ないのだ。
だから、例えば、もしも同じ方向を向いて努力出来る友人、切磋琢磨し合えるライバルなんかがいたとしたら、それは素晴らしいことだ。互いに発奮し合い、技術を磨き合う。負けたくない、そういう気持ちが自分ではなく他者に向くことで得られるメリットを、友沢は知らなかった。友沢の世界は今までずっと閉ざされていたものだから、それが半ば無理矢理こじ開けられたときの景色など、想像も及ばなかったのだ。
だから、これは、例えばの話だ。例えば友沢が高校生の時にプロ入りを決めていたら、大学に通っていなかったら、別の学校を選んでいたら、もしくは野球を諦めていたら。まるで幻想のように浮かんでは消える世迷い事だった。
「友沢、どうした?ぼんやりして」
そう言って友沢の顔を覗き込むのは、かつてのチームメイトだった男で、そして今もまた友沢と同じチームで野球をしているのだった。今日は久々のオフで、二人して買い物に出掛けた帰り道であった。
「しょうもないこと考えてた」
「なんだよ、それ」
その笑い顔は学生の頃から変わらないもので、この男は笑うと妙に幼い顔付きになるのだった。口には出さないが、友沢はその顔を結構気に入っていた。
「休みって終わるの早いよなあ」
男の横顔を、夕焼けが照らしている。二人分の影が並んで揺らめいた。友沢は、プロになった。隣を歩く男と一緒に、念願のプロ入りを果たしたのだった。それは今まで描いてきた甘い幻想そのもので、それを思うと友沢は今でも不思議な気持ちになる。友沢が手を差し伸べると、隣の男は何も言わず握り返した。
「パワプロ」
「ん、なに?」
「なんでもない」
口にすると消えてしまいそうになる甘い気持ちを、友沢は今日も胸に秘めて黙っている。友沢の夢の続きは、今日もこの手の中にある。
了
ーーーーーーー
主友しゅげーーしゅき
Happy Yellow
Happy Yellow (友沢亮)
「えっ。友沢の髪って地毛なの!?」
「そうだよ。なんだと思ってたんだ」
「てっきり、染めてるもんだと」
「どこにそんな金と時間があるんだよ」
「確かに…」
パワプロは得心顔をしながら、まじまじと自分の頭を眺めている。真剣な眼差しは友沢を落ち着かない気分にさせ、手持ち無沙汰に視線を泳がせた。逸らされることのない真っ直ぐな視線が、普段余計なことを言わない友沢の口をさらに開かせる。
「お前、朋恵や翔太も見てるだろ」
「確かに!朋恵ちゃんも翔太くんも、きれいな髪だもんな」
羨ましいなあ。隣を歩く男はそんな呑気なことを言っている。「羨ましい」、その言葉がどの意味に掛かるものなのか友沢は考える。一人っ子ゆえに兄妹が羨ましいという意味なのか、それともこの髪色のことなのか。友沢は毎日幼い兄妹の迎えに行くのだが、パワプロもたびたび幼稚園まで着いて来るのだった。今では朋恵も翔太もすっかり懐いてしまった。
それにしても、この髪で良かったことなんて今までにひとつもなかった。大袈裟に言えば、苦労の連続だ。教師や上級生には真っ先に目を付けられたし、時には不良に絡まれることもあった。あんまりそんなことが続いたので、友沢は一時期合気道を習っていたほどだ。
父も母も色素が薄く、特に髪の色は黄色に近い茶であった。その遺伝子を特に強く受け継いだらしい自分の髪は日本人離れした明るい色だ。太陽の下、日に当たるとそれはまるで金色のようにも見えた。
「いいなあ」
「何が」
「友沢の髪」
「どこが」
「だって、めっちゃ綺麗じゃん!」
真っ直ぐこちらを見て、あんまりきらきらした目で言うものだから、友沢はつい、笑ってしまった。笑われた男は、憮然とした顔で唇を突き出してみせた。
「なんで笑うの」
「いや、悪い。面白くて」
監督の都合で、早く終わった部活動の帰り道。たまの休みにお互い浮かれているのか、妙に賑やかな帰路だった。だから友沢は思わず「触ってみるか」などと言ってしまったに違いない。それに嬉々として応えた男に、友沢は自分の髪を誇らしく、幸運だと思うのだった。
了
ーーーーーーー
イエローイエローハッピー!
「えっ。友沢の髪って地毛なの!?」
「そうだよ。なんだと思ってたんだ」
「てっきり、染めてるもんだと」
「どこにそんな金と時間があるんだよ」
「確かに…」
パワプロは得心顔をしながら、まじまじと自分の頭を眺めている。真剣な眼差しは友沢を落ち着かない気分にさせ、手持ち無沙汰に視線を泳がせた。逸らされることのない真っ直ぐな視線が、普段余計なことを言わない友沢の口をさらに開かせる。
「お前、朋恵や翔太も見てるだろ」
「確かに!朋恵ちゃんも翔太くんも、きれいな髪だもんな」
羨ましいなあ。隣を歩く男はそんな呑気なことを言っている。「羨ましい」、その言葉がどの意味に掛かるものなのか友沢は考える。一人っ子ゆえに兄妹が羨ましいという意味なのか、それともこの髪色のことなのか。友沢は毎日幼い兄妹の迎えに行くのだが、パワプロもたびたび幼稚園まで着いて来るのだった。今では朋恵も翔太もすっかり懐いてしまった。
それにしても、この髪で良かったことなんて今までにひとつもなかった。大袈裟に言えば、苦労の連続だ。教師や上級生には真っ先に目を付けられたし、時には不良に絡まれることもあった。あんまりそんなことが続いたので、友沢は一時期合気道を習っていたほどだ。
父も母も色素が薄く、特に髪の色は黄色に近い茶であった。その遺伝子を特に強く受け継いだらしい自分の髪は日本人離れした明るい色だ。太陽の下、日に当たるとそれはまるで金色のようにも見えた。
「いいなあ」
「何が」
「友沢の髪」
「どこが」
「だって、めっちゃ綺麗じゃん!」
真っ直ぐこちらを見て、あんまりきらきらした目で言うものだから、友沢はつい、笑ってしまった。笑われた男は、憮然とした顔で唇を突き出してみせた。
「なんで笑うの」
「いや、悪い。面白くて」
監督の都合で、早く終わった部活動の帰り道。たまの休みにお互い浮かれているのか、妙に賑やかな帰路だった。だから友沢は思わず「触ってみるか」などと言ってしまったに違いない。それに嬉々として応えた男に、友沢は自分の髪を誇らしく、幸運だと思うのだった。
了
ーーーーーーー
イエローイエローハッピー!
空が青すぎて
空が青すぎて (主人公×友沢亮)
友沢の髪は、見た目よりも意外と柔らかい。そういうことに気付いたのは、最近になってからだ。髪が立っているのは、寝癖を直していないだけなのだということも知った。イケメンというのはこんなところまでずるいのだ、寝癖がそのまま丁寧にセットされた髪型のように見えるのだから。そんなことを考えながらこねくり回していると、うっとうしそうな顔をした友沢が言う。
「やめろ」
しかし、その声には存外に迫力がない。これも最近のオレが知ったこと。友沢は、触られることがきらいではない。むしろ、こういったスキンシップを好ましく思っているようだ。かわいいなあ。思わず、グラウンドでよく見かける犬にするみたいに顎の辺りを撫でると、さすがに友沢から抗議の声が上がった。
「やめろ。オレは犬じゃない」
でもオレは知っている。オレが犬の首元を撫でて一緒に遊んでいるとき、友沢がもの欲しそうな目でこちらを見ていることを。だからオレは、友沢に何を言われてもにこにこするほかないのだ。
髪を触って顎を撫でてその首元に手を置いたその瞬間、オレは勢いよく引っ張られて驚いた。瞬きするうちに唇が重なっている。すぐに離れて、もう一度。犬に噛まれたようなキスに、オレは目を白黒させる。
「友沢、ここ、外だぞ。あと、部活の休憩中」
友沢は知らん顔している。二人して地べたに座っているから、さながらお座りのポーズだ。オレは躾がなっていないので、そっぽを向く友沢の顔を捕まえて、その唇に噛み付いた。
了
ーーーーーー
私の書く友沢くん堪え性なさすぎるな
友沢の髪は、見た目よりも意外と柔らかい。そういうことに気付いたのは、最近になってからだ。髪が立っているのは、寝癖を直していないだけなのだということも知った。イケメンというのはこんなところまでずるいのだ、寝癖がそのまま丁寧にセットされた髪型のように見えるのだから。そんなことを考えながらこねくり回していると、うっとうしそうな顔をした友沢が言う。
「やめろ」
しかし、その声には存外に迫力がない。これも最近のオレが知ったこと。友沢は、触られることがきらいではない。むしろ、こういったスキンシップを好ましく思っているようだ。かわいいなあ。思わず、グラウンドでよく見かける犬にするみたいに顎の辺りを撫でると、さすがに友沢から抗議の声が上がった。
「やめろ。オレは犬じゃない」
でもオレは知っている。オレが犬の首元を撫でて一緒に遊んでいるとき、友沢がもの欲しそうな目でこちらを見ていることを。だからオレは、友沢に何を言われてもにこにこするほかないのだ。
髪を触って顎を撫でてその首元に手を置いたその瞬間、オレは勢いよく引っ張られて驚いた。瞬きするうちに唇が重なっている。すぐに離れて、もう一度。犬に噛まれたようなキスに、オレは目を白黒させる。
「友沢、ここ、外だぞ。あと、部活の休憩中」
友沢は知らん顔している。二人して地べたに座っているから、さながらお座りのポーズだ。オレは躾がなっていないので、そっぽを向く友沢の顔を捕まえて、その唇に噛み付いた。
了
ーーーーーー
私の書く友沢くん堪え性なさすぎるな
愛は食卓に
愛は食卓に(主人公×友沢亮)
金が、ないわけではない。一流企業に勤めていた父には、ある日突然蒸発したとしても、残った家族が生活をしていけるだけの蓄えがあった。母と自分と幼い兄妹は、それを少しずつ切り崩して生活していた。母親が入院してしまってからは、母に代わって友沢が家計の管理をするようになった。
少しずつ、しかし確実に目減りしていく貯金残高。奨学金制度を利用しているとはいえ、友沢は大学に通わせてもらっている。幼い兄妹たちは、これから本格的に学費が掛かる。そして、いつ退院出来るのかいまだ目処のつかない母親の入院費。保険に入っていたのは、幸いであった。何しろ父はエリートで、そういうところもきちんとしていた。それでも、通帳を見るたびに、友沢の心は焦燥感に苛まれるのだった。残高が減ることはあっても増えることはない。自分が、きちんとしなくては。
だから友沢は、節約、節制、倹約、とにかく無駄を省いて、切り詰められるところは少しでも努力した。自分の昼食代は、そのひとつであった。朝、夕は兄妹たちと不自由のない食卓を囲む。これから成長期を迎える兄妹たちには、決してひもじい思いなどをさせたくなかった。自分が、我慢すれば良い。それは友沢の確固たる信念のようなものだった。
「友沢?」
いつの間にか、ぼんやりしていたようだ。スーパーにあるパン売り場の棚を眺めていた友沢は、それを見ながらついつい昔のことを思い出してしまっていた。いつの間にか手に持っていたそれを、隣の男が珍しそうに見ている。
「コッペパン、買うの?」
「いや」
「あ、明日の朝は久しぶりにパンにしない?オレ、パン食べたい」
「これだけじゃ足りないだろ」
「うん、だからこれと食パンも買ってさ」
言いながら、パワプロはもうすでに籠の中へコッペパンと食パンを入れてしまっている。友沢の顔を見て、パワプロは笑った。
「なに笑ってんだよ」
ニマニマと笑っているパワプロは、きっと友沢と同じことを思い出していたに違いない。学生時代に友沢が昼食時に食べていた安いパン、それを自分の弁当と交換して欲しいなどと言ったお節介は、後にも先にもこの男だけだ。そう思う友沢の口元は緩んでいて、隣の男を見つめる眼差しは甘かった。
かつて、友沢には果たさねばならぬことがあった。必ずや実現しなければならないことがあった。それは、家族の生活を己の力で支えること。そのために、プロ野球選手になって、金を稼ぐこと。泥水をすすってでもプロになる、そう言った友沢に、隣の男はあまりにもお節介なことをつらつらと言い並べたものだ。そのお節介のお陰で、友沢は今日まで道を踏み外さずにやって来れた。今なら、そう思う。
「友沢、なんか機嫌良さそう」
「そう見えるなら、そうかもな」
どうしたら、自分がプロになった際の契約金を、他人の母親の手術代にくれてやるなどと言えるのだろう。そして、それを実行出来るのだろう。友沢とパワプロは、一緒にプロになった。その二人分の契約金を合わせて、母親は手術を受けたのだった。友沢には、信じられないことばかりだ。
「友沢、早く帰ろ」
「そんなに今夜のすき焼きが楽しみなのか」
「それも楽しみだけど、そうじゃなくて!」
早く二人きりになりたい、そんなことを言う男に、友沢は耳打ちするように返事をするのだった。それを聞いた男の顔色が、血色の良いピンクに変わる。
「友沢がそんなこと言うなんて、信じられない」
オレもだよ。そう言って友沢は、声を出して笑った。
了
ーーーーーーーーーーー
めちゃ今更なんですが、13の全日本編で沢父をこの目で確認してから、友沢くんの貧乏について心穏やかに妄想出来る様になりました
金が、ないわけではない。一流企業に勤めていた父には、ある日突然蒸発したとしても、残った家族が生活をしていけるだけの蓄えがあった。母と自分と幼い兄妹は、それを少しずつ切り崩して生活していた。母親が入院してしまってからは、母に代わって友沢が家計の管理をするようになった。
少しずつ、しかし確実に目減りしていく貯金残高。奨学金制度を利用しているとはいえ、友沢は大学に通わせてもらっている。幼い兄妹たちは、これから本格的に学費が掛かる。そして、いつ退院出来るのかいまだ目処のつかない母親の入院費。保険に入っていたのは、幸いであった。何しろ父はエリートで、そういうところもきちんとしていた。それでも、通帳を見るたびに、友沢の心は焦燥感に苛まれるのだった。残高が減ることはあっても増えることはない。自分が、きちんとしなくては。
だから友沢は、節約、節制、倹約、とにかく無駄を省いて、切り詰められるところは少しでも努力した。自分の昼食代は、そのひとつであった。朝、夕は兄妹たちと不自由のない食卓を囲む。これから成長期を迎える兄妹たちには、決してひもじい思いなどをさせたくなかった。自分が、我慢すれば良い。それは友沢の確固たる信念のようなものだった。
「友沢?」
いつの間にか、ぼんやりしていたようだ。スーパーにあるパン売り場の棚を眺めていた友沢は、それを見ながらついつい昔のことを思い出してしまっていた。いつの間にか手に持っていたそれを、隣の男が珍しそうに見ている。
「コッペパン、買うの?」
「いや」
「あ、明日の朝は久しぶりにパンにしない?オレ、パン食べたい」
「これだけじゃ足りないだろ」
「うん、だからこれと食パンも買ってさ」
言いながら、パワプロはもうすでに籠の中へコッペパンと食パンを入れてしまっている。友沢の顔を見て、パワプロは笑った。
「なに笑ってんだよ」
ニマニマと笑っているパワプロは、きっと友沢と同じことを思い出していたに違いない。学生時代に友沢が昼食時に食べていた安いパン、それを自分の弁当と交換して欲しいなどと言ったお節介は、後にも先にもこの男だけだ。そう思う友沢の口元は緩んでいて、隣の男を見つめる眼差しは甘かった。
かつて、友沢には果たさねばならぬことがあった。必ずや実現しなければならないことがあった。それは、家族の生活を己の力で支えること。そのために、プロ野球選手になって、金を稼ぐこと。泥水をすすってでもプロになる、そう言った友沢に、隣の男はあまりにもお節介なことをつらつらと言い並べたものだ。そのお節介のお陰で、友沢は今日まで道を踏み外さずにやって来れた。今なら、そう思う。
「友沢、なんか機嫌良さそう」
「そう見えるなら、そうかもな」
どうしたら、自分がプロになった際の契約金を、他人の母親の手術代にくれてやるなどと言えるのだろう。そして、それを実行出来るのだろう。友沢とパワプロは、一緒にプロになった。その二人分の契約金を合わせて、母親は手術を受けたのだった。友沢には、信じられないことばかりだ。
「友沢、早く帰ろ」
「そんなに今夜のすき焼きが楽しみなのか」
「それも楽しみだけど、そうじゃなくて!」
早く二人きりになりたい、そんなことを言う男に、友沢は耳打ちするように返事をするのだった。それを聞いた男の顔色が、血色の良いピンクに変わる。
「友沢がそんなこと言うなんて、信じられない」
オレもだよ。そう言って友沢は、声を出して笑った。
了
ーーーーーーーーーーー
めちゃ今更なんですが、13の全日本編で沢父をこの目で確認してから、友沢くんの貧乏について心穏やかに妄想出来る様になりました
こたつにみかん
こたつにみかん(主人公×友沢)
ここに一人の馬鹿者がいる。名前をパワプロ といって、こたつに入って丸まりながら、オレがみかんを剥くたびに「あーん」などと言って口を開け、要求してくるのである。それをオレは横目で眺め、時々気まぐれにその口の中へみかんを放り込んでやりながら、黙々とみかんを食べている。これで、いくつめのみかんになるだろう。
「友沢」
催促の呼び掛けだ。無視していると、また名前を呼ばれる。食べたければ、自分で剥いて食べればいいのだ。オレは知らぬ振りをする。机の上に、みかんはもうない。食べたければ、台所まで取りに行かなくてはならない。
「友沢」
足りないよ。そんな声が耳元で聞こえてきて、腕を引かれる。キス。みかんの味がする。それをそのまま言うとパワプロは何がそんなに嬉しいのかにこにこと笑って、またオレに口付けるのだった。深く重なる唇に目を閉じる。
こうなることが分かっていて、みかんがなくなると次にパワプロが何を食べるのか知っていて、オレは黙ってみかんを剥いていたわけだ。馬鹿者は、二人いる。
了
ーーーーーーーーー
冬はとりあえず推しにみかん食わそうぜ
話はそれからだ
ここに一人の馬鹿者がいる。名前をパワプロ といって、こたつに入って丸まりながら、オレがみかんを剥くたびに「あーん」などと言って口を開け、要求してくるのである。それをオレは横目で眺め、時々気まぐれにその口の中へみかんを放り込んでやりながら、黙々とみかんを食べている。これで、いくつめのみかんになるだろう。
「友沢」
催促の呼び掛けだ。無視していると、また名前を呼ばれる。食べたければ、自分で剥いて食べればいいのだ。オレは知らぬ振りをする。机の上に、みかんはもうない。食べたければ、台所まで取りに行かなくてはならない。
「友沢」
足りないよ。そんな声が耳元で聞こえてきて、腕を引かれる。キス。みかんの味がする。それをそのまま言うとパワプロは何がそんなに嬉しいのかにこにこと笑って、またオレに口付けるのだった。深く重なる唇に目を閉じる。
こうなることが分かっていて、みかんがなくなると次にパワプロが何を食べるのか知っていて、オレは黙ってみかんを剥いていたわけだ。馬鹿者は、二人いる。
了
ーーーーーーーーー
冬はとりあえず推しにみかん食わそうぜ
話はそれからだ
ハローニューワールド
主人公×友沢亮
ハローニューワールド
「友沢、なんか機嫌悪くない?」
「べつに」
機嫌が悪いわけではない。友沢は、自分自身の感情に戸惑っているだけだった。
部活動を終えた帰り道、友沢とパワプロは肩を並べて下校していた。今日は友沢のアルバイトも休みの日だ。厳しい練習、忙しいアルバイト、その合間を縫うようにしてパワプロと一緒に過ごす時間が友沢は好きだ。友沢は、パワプロのことが好きだった。パワプロも、友沢のことが好きだった。そういう二人が交際をするようになるまで、それほど時間はかからなかった。
こうして二人で過ごす時間が何より大切で大事にするべきものだと理解しているにも関わらず、この頃の友沢ときたら、不貞腐れたり素っ気ない態度を取ったり、つまらない気持ちになることが多くなっていた。それもこれも、パワプロが悪い。友沢の心中を掻き乱すのは、良くも悪くもいつもパワプロだった。
もともと友沢は、あまり他人に興味がない。それは、元来の性格によるものであったり、友沢自身の置かれた境遇のせいであったり、様々な要因はあるものの、他人に対する関心が希薄なのは昔からだった。兎角友沢には余裕がない。野球のこと、家族のこと、家計のこと、考えるべきことは山ほどあって、いちいち他人に干渉している暇はない。自分は自分、他人は他人。他人に構う余裕は、ない。そういう友沢の気質をすべてひっくり返していったのは、まさしくいま隣を歩いている男に他ならなかった。パワプロに出会ってからの友沢は、それまでの自分が思い出せなくなるほどに、変わってしまっていた。
こちらの気も知らない相変わらずお喋りな男に相槌を打ちながら、友沢は道端の石ころを蹴っ飛ばす。今日の友沢が自身の気持ちを整理出来ない理由は、隣を歩く男がチームメイトたちと妙に仲良くしていたのが面白くない、といったくだらぬ内容であった。馬鹿馬鹿しいとは思っても、湧き上がる感情を止める手立てはない。そんなに楽しそうに笑わなくてもいいのに、そんなに嬉しそうに話さなくてもいいのに、パワプロは誰にでも親しげで、そして底抜けに優しいのであった。グラウンド整備のトンボを掴みながら、友沢はその様子を眺めていた。
「なあ、友沢」
なんだ、声には出さず、視線を上げることで返事をする。友沢の態度に、パワプロは苦笑している。
こんなどうでもいいことに心を砕いているくらいだったら、素振りでもしていた方がよほど有意義だ。だらだら歩いているくらいなら、ランニングして帰った方がトレーニングにもなるだろう。そうは思うのに、今日も友沢はパワプロと並んで歩いている。野球の練習をして、早くプロ入りを決めなければ。金を稼いで、家族を助けなければ。友沢にはやるべきこと、やらなければならないことが山ほどある。それなのに、そんな理屈をすべて飛び越えてしまうのが、隣を歩く男だった。
「友沢」
パワプロがわざわざ立ち止まって名前を呼ぶので、友沢も歩みを止めて振り返った。さっきからなんだ、そう言おうとした友沢だったが、唇に触れたそれに驚いて、声になることはなかった。パワプロは、嬉しそうに笑っている。友沢が何も言わないのを良いことに、もう一度。口付けは、一瞬のことであった。人目のつく往来だ、注意をしようと思ったが、やはり声にはならなかった。
「へへ。ちょっとは、機嫌直った?」
してやったり、悪戯っぽいその笑顔を前に、友沢はやはり黙っている。それを見たパワプロが、友沢を茶化す。自然と口角が上がっていることに、自分自身でも気が付いていた。
全然、足りねえよ。今日いちばんの笑顔でそう言って、友沢はパワプロの唇に噛み付いた。夕焼けだけが、それを見ていた。
了
ーーーーーーーーーーー
来年2月のパワフルカップ3にサークル参加することとなりました!やんややんや
新刊等々全くのノープランですが、何かしら出せたらいいなと思っております。
パワプロって、いいよね
ハローニューワールド
「友沢、なんか機嫌悪くない?」
「べつに」
機嫌が悪いわけではない。友沢は、自分自身の感情に戸惑っているだけだった。
部活動を終えた帰り道、友沢とパワプロは肩を並べて下校していた。今日は友沢のアルバイトも休みの日だ。厳しい練習、忙しいアルバイト、その合間を縫うようにしてパワプロと一緒に過ごす時間が友沢は好きだ。友沢は、パワプロのことが好きだった。パワプロも、友沢のことが好きだった。そういう二人が交際をするようになるまで、それほど時間はかからなかった。
こうして二人で過ごす時間が何より大切で大事にするべきものだと理解しているにも関わらず、この頃の友沢ときたら、不貞腐れたり素っ気ない態度を取ったり、つまらない気持ちになることが多くなっていた。それもこれも、パワプロが悪い。友沢の心中を掻き乱すのは、良くも悪くもいつもパワプロだった。
もともと友沢は、あまり他人に興味がない。それは、元来の性格によるものであったり、友沢自身の置かれた境遇のせいであったり、様々な要因はあるものの、他人に対する関心が希薄なのは昔からだった。兎角友沢には余裕がない。野球のこと、家族のこと、家計のこと、考えるべきことは山ほどあって、いちいち他人に干渉している暇はない。自分は自分、他人は他人。他人に構う余裕は、ない。そういう友沢の気質をすべてひっくり返していったのは、まさしくいま隣を歩いている男に他ならなかった。パワプロに出会ってからの友沢は、それまでの自分が思い出せなくなるほどに、変わってしまっていた。
こちらの気も知らない相変わらずお喋りな男に相槌を打ちながら、友沢は道端の石ころを蹴っ飛ばす。今日の友沢が自身の気持ちを整理出来ない理由は、隣を歩く男がチームメイトたちと妙に仲良くしていたのが面白くない、といったくだらぬ内容であった。馬鹿馬鹿しいとは思っても、湧き上がる感情を止める手立てはない。そんなに楽しそうに笑わなくてもいいのに、そんなに嬉しそうに話さなくてもいいのに、パワプロは誰にでも親しげで、そして底抜けに優しいのであった。グラウンド整備のトンボを掴みながら、友沢はその様子を眺めていた。
「なあ、友沢」
なんだ、声には出さず、視線を上げることで返事をする。友沢の態度に、パワプロは苦笑している。
こんなどうでもいいことに心を砕いているくらいだったら、素振りでもしていた方がよほど有意義だ。だらだら歩いているくらいなら、ランニングして帰った方がトレーニングにもなるだろう。そうは思うのに、今日も友沢はパワプロと並んで歩いている。野球の練習をして、早くプロ入りを決めなければ。金を稼いで、家族を助けなければ。友沢にはやるべきこと、やらなければならないことが山ほどある。それなのに、そんな理屈をすべて飛び越えてしまうのが、隣を歩く男だった。
「友沢」
パワプロがわざわざ立ち止まって名前を呼ぶので、友沢も歩みを止めて振り返った。さっきからなんだ、そう言おうとした友沢だったが、唇に触れたそれに驚いて、声になることはなかった。パワプロは、嬉しそうに笑っている。友沢が何も言わないのを良いことに、もう一度。口付けは、一瞬のことであった。人目のつく往来だ、注意をしようと思ったが、やはり声にはならなかった。
「へへ。ちょっとは、機嫌直った?」
してやったり、悪戯っぽいその笑顔を前に、友沢はやはり黙っている。それを見たパワプロが、友沢を茶化す。自然と口角が上がっていることに、自分自身でも気が付いていた。
全然、足りねえよ。今日いちばんの笑顔でそう言って、友沢はパワプロの唇に噛み付いた。夕焼けだけが、それを見ていた。
了
ーーーーーーーーーーー
来年2月のパワフルカップ3にサークル参加することとなりました!やんややんや
新刊等々全くのノープランですが、何かしら出せたらいいなと思っております。
パワプロって、いいよね

