愛情欲情
主守ですが、好みのわかれる表現がありますので、なんでも大丈夫な方向けです。
愛情欲情(主守)
なるほど。この感情が、そうなのか。知識としては知っていたし認識もあったが、実際に自分が「それ」を体験したことはなくて、猪狩守はある種の感動のような、腑に落ちた実感としてそれを味わっていた。今日はなんだか普段より疲れているから、理性よりも本能的な部分の方が露になっているのかもしれない。自分のことであるのに、猪狩はどこか他人めいた視点で考察する。
よく-じょう【欲情】[名](スル)ひとつ、ものを欲しがる気持ち。ふたつ、性欲。
汗をタオルで拭いながら、思わず鞄から辞書を取り出した。なるほど。猪狩には、そんな感想しか浮かばなかった。端的で、分かりやすい。練習を終え、限界まで絞った身体で部室に戻り、ドリンクを飲み干したそのとき。猪狩は、たしかにそれを自覚していた。すぐ隣にいる人物のことを思うと、何故だかまた喉が渇いた。
「猪狩、おまえ、さっきからなにやってんの?」
「辞書を引いていただけだ」
「辞書お?なんで今そんなこと…ほんとお前って変なやつだよなあ」
まあでも、猪狩だしな。そんなことを言いながら汗をかいたアンダーシャツを脱ぎ捨てた男の名前を、パワプロという。汚れたユニフォームを脱ぎ、わざわざ新しいユニフォームに着替えるのが、この男の流儀だ。今更だが、それ以外の格好でいるところを見たことがない。クラスが違うので普段の様子は知らないが、まさか授業中までこの格好ではあるまい。しかし、以前早朝ランニングの際にたまたま見かけたパワプロがもちろんユニフォーム姿だったことを猪狩は知っている。
「あー今日も疲れた!てか、あのハードな練習のあとに自主練とか、そろそろ無理があるって」
「付き合うと言ったのはキミだろう」
「そうだけどさ」
新しいユニフォームに着替えたパワプロは、まだ汗が引かないのか、首筋から伝うそれをタオルでぞんざいにぬぐった。その様子に思わず喉が鳴りそうになって、猪狩は新しいドリンクをもう一口傾けることでやり過ごした。
「そんなに汗だくで、シャワーを浴びてきたらどうだい」
「だって、このあとお前の家行くだろ?」
「今日は私設球場での練習は誘っていないが」
「でも、行くだろ?」
にっこりと笑うその顔には全く疑いがない。誘われてもいないのに、パワプロは今日も猪狩の家の豪邸に泊まるつもりでいるようだ。そういう流れになるよう差し向けたのは確かに猪狩であったが、パワプロはあまりにも無邪気でてらいがない。その顔を見ていると、部屋に入ったときから感じていた気持ちがますます強くなる。欲情、ほしがる気持ち。性欲。未知のその先へ。
猪狩は、性欲に関してはずいぶんと淡白な方だった。この年頃の、男子高校生ならばそういうことに対する興味がいちばん盛りになる時期であるが、そんなことよりも野球の方がずっと大事で興味があった。健康な青年らしくもちろん自慰はしたが、それも朝起きたときに下着が汚れているのが煩わしいだとか、主にそういう理由からだった。教室で同級生たちが楽しげに繰り広げている猥談にも、時には自分にアプローチをかけてくる女生徒にも興味が湧かなかった。自慰とは、生きている以上必要となる排泄行為、そのくらいにしか考えていなかった。だから、今のこの状況に猪狩は戸惑っていたし、それ以上に興奮していた。新しい感情に胸が高鳴るのは、当然のことだろう。
「キミ、汗くさいぞ」
「いや、練習後だから当たり前だろ。ていうか、お前もだから」
「汗くさいのに、キミの匂いは不思議とイヤじゃない。なぜだ」
「いや、知らねえよ。ていうか、おまえさっきから何の話してんの」
「キミは、欲情したことがあるか」
「は?」
「何かを欲しいと思って、性欲を覚えることだよ」
「はあ?なに言ってんだ、急に」
「どうやらボクは、キミに欲情しているらしい」
はああああ?溜息にも似た長い息をつきながら、パワプロはあきれたような顔で猪狩を見る。その顔つきでさえ好ましいと思ってしまうのだから、猪狩のそれは相当だ。それすなわち、恋の病。無論、本人には分からない。誰かを欲する気持ち、恋慕の末からの欲情であるなどと、猪狩は夢にも思わない。欲を覚えたての好奇心旺盛な子供ほど、手に負えないものはない。無防備なパワプロに、猪狩が近付く。
「うわっ、なに」
「……」
「ちょ、おい、嗅ぐなって!離れろよ!」
「変な感じだ」
「変なのはお前だ!もうやめろって猪狩、あ」
何かを言いかけたパワプロの口を、猪狩は自分のそれで塞いでしまった。ぴったり重ねるとなんだか自分とパワプロの境界線がなくなっていくようで、未知の感覚に猪狩は唇を押さえつけることをやめられなかった。じきに息苦しくなったパワプロの方から、強引に引き剥がされた。
「ちょ、ほんとに、何!今日お前変だって」
「でも、イヤじゃないだろう」
「嫌だよ!」
「ウソをつくな」
「嘘じゃない!!」
ひとしきり騒いで疲れたらしいパワプロが、肩で息をしている。それを知らん顔で猪狩が眺めているという如何ともし難い状況だ。多感な時期の男子高校生が、むせ返るような混乱と興奮の中、ぽつんと二人取り残されている。
「…あのさあ」
「なんだ」
「猪狩って、オレのこと好きなの?」
「好きじゃない」
「はあああああああ!???!」
怒号にも似た、パワプロのため息と悲鳴と疑問とその他もろもろが爆音となって部室中をこだまする。猪狩は迷惑そうに顔を顰めて耳を塞ぐ仕草をした。それにまた怒るのはパワプロの方だ。
「な、ん、だ、そ、れ!」
「うるさいな。なんだい急に」
「お前、オレのことが好きだからキスしてきたんじゃないの?だから毎日のように練習に付き合わせて家まで呼ぶんじゃないのか?」
「キスは、してみたくなったからした。ただの好奇心だよ。練習は、キミとするのがいちばん効率がよくて都合が良いからだ。家に呼ぶのは、そのついでだよ」
「はあ。なんかオレ、馬鹿みたいだ」
「?キミはもともとバカだろう」
「こんなこと言われても、まだ猪狩のこと好きなんだもんな」
「は」
胸ぐらを掴まれたと思ったら、パワプロの唇が自分のそれを塞いでいた。むわ、と蒸せるような興奮と、汗と、熱。合わさるだけでは満足しないのか、強引に割って入ってきた舌に口内を掻き混ぜられる。未知の感覚と興奮に猪狩は自身の身体がどんどん熱くなっていくのを身を以って体感していた。もっと。もっとしてほしい。
「んっ」
「はあ…分かった?猪狩」
「……」
「お前はオレのことが、好きなんだよ」
「……」
「分かったら、もう一回キスさせて」
今まで我慢してたのが、馬鹿みたいだ。パワプロの呟いた声をどこか人ごとのように聞きながら、猪狩は行儀よく、両の目蓋を閉じてキスを待った。好きだよ、猪狩。聞こえた声は遠く、猪狩は欲望に任せて身を震わせた。
了
ーーーーーーー
猪狩守は抱かれたい
愛情欲情(主守)
なるほど。この感情が、そうなのか。知識としては知っていたし認識もあったが、実際に自分が「それ」を体験したことはなくて、猪狩守はある種の感動のような、腑に落ちた実感としてそれを味わっていた。今日はなんだか普段より疲れているから、理性よりも本能的な部分の方が露になっているのかもしれない。自分のことであるのに、猪狩はどこか他人めいた視点で考察する。
よく-じょう【欲情】[名](スル)ひとつ、ものを欲しがる気持ち。ふたつ、性欲。
汗をタオルで拭いながら、思わず鞄から辞書を取り出した。なるほど。猪狩には、そんな感想しか浮かばなかった。端的で、分かりやすい。練習を終え、限界まで絞った身体で部室に戻り、ドリンクを飲み干したそのとき。猪狩は、たしかにそれを自覚していた。すぐ隣にいる人物のことを思うと、何故だかまた喉が渇いた。
「猪狩、おまえ、さっきからなにやってんの?」
「辞書を引いていただけだ」
「辞書お?なんで今そんなこと…ほんとお前って変なやつだよなあ」
まあでも、猪狩だしな。そんなことを言いながら汗をかいたアンダーシャツを脱ぎ捨てた男の名前を、パワプロという。汚れたユニフォームを脱ぎ、わざわざ新しいユニフォームに着替えるのが、この男の流儀だ。今更だが、それ以外の格好でいるところを見たことがない。クラスが違うので普段の様子は知らないが、まさか授業中までこの格好ではあるまい。しかし、以前早朝ランニングの際にたまたま見かけたパワプロがもちろんユニフォーム姿だったことを猪狩は知っている。
「あー今日も疲れた!てか、あのハードな練習のあとに自主練とか、そろそろ無理があるって」
「付き合うと言ったのはキミだろう」
「そうだけどさ」
新しいユニフォームに着替えたパワプロは、まだ汗が引かないのか、首筋から伝うそれをタオルでぞんざいにぬぐった。その様子に思わず喉が鳴りそうになって、猪狩は新しいドリンクをもう一口傾けることでやり過ごした。
「そんなに汗だくで、シャワーを浴びてきたらどうだい」
「だって、このあとお前の家行くだろ?」
「今日は私設球場での練習は誘っていないが」
「でも、行くだろ?」
にっこりと笑うその顔には全く疑いがない。誘われてもいないのに、パワプロは今日も猪狩の家の豪邸に泊まるつもりでいるようだ。そういう流れになるよう差し向けたのは確かに猪狩であったが、パワプロはあまりにも無邪気でてらいがない。その顔を見ていると、部屋に入ったときから感じていた気持ちがますます強くなる。欲情、ほしがる気持ち。性欲。未知のその先へ。
猪狩は、性欲に関してはずいぶんと淡白な方だった。この年頃の、男子高校生ならばそういうことに対する興味がいちばん盛りになる時期であるが、そんなことよりも野球の方がずっと大事で興味があった。健康な青年らしくもちろん自慰はしたが、それも朝起きたときに下着が汚れているのが煩わしいだとか、主にそういう理由からだった。教室で同級生たちが楽しげに繰り広げている猥談にも、時には自分にアプローチをかけてくる女生徒にも興味が湧かなかった。自慰とは、生きている以上必要となる排泄行為、そのくらいにしか考えていなかった。だから、今のこの状況に猪狩は戸惑っていたし、それ以上に興奮していた。新しい感情に胸が高鳴るのは、当然のことだろう。
「キミ、汗くさいぞ」
「いや、練習後だから当たり前だろ。ていうか、お前もだから」
「汗くさいのに、キミの匂いは不思議とイヤじゃない。なぜだ」
「いや、知らねえよ。ていうか、おまえさっきから何の話してんの」
「キミは、欲情したことがあるか」
「は?」
「何かを欲しいと思って、性欲を覚えることだよ」
「はあ?なに言ってんだ、急に」
「どうやらボクは、キミに欲情しているらしい」
はああああ?溜息にも似た長い息をつきながら、パワプロはあきれたような顔で猪狩を見る。その顔つきでさえ好ましいと思ってしまうのだから、猪狩のそれは相当だ。それすなわち、恋の病。無論、本人には分からない。誰かを欲する気持ち、恋慕の末からの欲情であるなどと、猪狩は夢にも思わない。欲を覚えたての好奇心旺盛な子供ほど、手に負えないものはない。無防備なパワプロに、猪狩が近付く。
「うわっ、なに」
「……」
「ちょ、おい、嗅ぐなって!離れろよ!」
「変な感じだ」
「変なのはお前だ!もうやめろって猪狩、あ」
何かを言いかけたパワプロの口を、猪狩は自分のそれで塞いでしまった。ぴったり重ねるとなんだか自分とパワプロの境界線がなくなっていくようで、未知の感覚に猪狩は唇を押さえつけることをやめられなかった。じきに息苦しくなったパワプロの方から、強引に引き剥がされた。
「ちょ、ほんとに、何!今日お前変だって」
「でも、イヤじゃないだろう」
「嫌だよ!」
「ウソをつくな」
「嘘じゃない!!」
ひとしきり騒いで疲れたらしいパワプロが、肩で息をしている。それを知らん顔で猪狩が眺めているという如何ともし難い状況だ。多感な時期の男子高校生が、むせ返るような混乱と興奮の中、ぽつんと二人取り残されている。
「…あのさあ」
「なんだ」
「猪狩って、オレのこと好きなの?」
「好きじゃない」
「はあああああああ!???!」
怒号にも似た、パワプロのため息と悲鳴と疑問とその他もろもろが爆音となって部室中をこだまする。猪狩は迷惑そうに顔を顰めて耳を塞ぐ仕草をした。それにまた怒るのはパワプロの方だ。
「な、ん、だ、そ、れ!」
「うるさいな。なんだい急に」
「お前、オレのことが好きだからキスしてきたんじゃないの?だから毎日のように練習に付き合わせて家まで呼ぶんじゃないのか?」
「キスは、してみたくなったからした。ただの好奇心だよ。練習は、キミとするのがいちばん効率がよくて都合が良いからだ。家に呼ぶのは、そのついでだよ」
「はあ。なんかオレ、馬鹿みたいだ」
「?キミはもともとバカだろう」
「こんなこと言われても、まだ猪狩のこと好きなんだもんな」
「は」
胸ぐらを掴まれたと思ったら、パワプロの唇が自分のそれを塞いでいた。むわ、と蒸せるような興奮と、汗と、熱。合わさるだけでは満足しないのか、強引に割って入ってきた舌に口内を掻き混ぜられる。未知の感覚と興奮に猪狩は自身の身体がどんどん熱くなっていくのを身を以って体感していた。もっと。もっとしてほしい。
「んっ」
「はあ…分かった?猪狩」
「……」
「お前はオレのことが、好きなんだよ」
「……」
「分かったら、もう一回キスさせて」
今まで我慢してたのが、馬鹿みたいだ。パワプロの呟いた声をどこか人ごとのように聞きながら、猪狩は行儀よく、両の目蓋を閉じてキスを待った。好きだよ、猪狩。聞こえた声は遠く、猪狩は欲望に任せて身を震わせた。
了
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猪狩守は抱かれたい
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赤点満点
赤点満点(主守)
「お前って、ほんとにオレのこと好きだよなー」
「は?」
ポテトチップスをバリバリと食べながら、そのまま適当に服で指を拭ってからコントローラーを握ったパワプロに、ボクは間の抜けた声が出た。ボクの様子になど構うことなく、パワプロはテレビの画面だけを見ている。
「次はこのステージにしよ」
「おい」
「えっ、なに。早くしろよ」
「さっきのは、どういう意味だ」
「なにって、そのままの意味じゃん。猪狩って、ほんとにオレのこと好きだよなーって思っただけ」
進んでいく画面をよそに、ボクはパワプロの顔をまじまじと見る。さきほど負けたのがよほど悔しかったのか、パワプロは勝手に自分の得意なステージとキャラクターを選んでいる。おい、残機の設定まで勝手に変えるんじゃない。
「ボクじゃなくて、キミの方が好きなんだろう」
「んん?」
「ボクじゃなくて、キミがボクを好きなんだよ」
「いやいや待て猪狩」
「なんだ」
「なんでそうなる」
「じゃあキミは、好きでもない人間を自宅に招き入れるのか?」
「いや、それを言ったらお前こそ、好きでもないやつの家に上がるのか?」
「ああいえばこう言うじゃないか」
「お前がな」
「キミがね」
「じゃあなんでお前は、なんだかんだ悪態つきながら、オレと一緒にいるんだよ」
「何言ってる。キミが、赤点を取ったら部活動が出来なくなると言って、勉強を教えてくれとボクに泣きついてきたんだろう。一体これで何度目だい」
「そうだよ。でも、今はゲームしてるじゃん」
「それも、キミが始めたことだ」
「違うよ、これは猪狩がこの前の続きって始めたんだろ」
「キミが問題を解く間、少し息抜きをしようとしただけじゃないか」
「いや、隣でゲーム始められて、勉強なんか出来るわけないだろ!」
「それでもキミは勉強をするべきだ」
「だったら自分の家でやれよな」
「こんなもの、ボクの家にあるわけないだろう」
「そうなの?お前んち、あんなにデカいのに」
「こういうものは、キミと会うまで一度も触れたことがなかった」
「そういえば、そんなこと言ってたっけ…じゃあ、進くんともゲームで遊んだりしたことないの?」
「ない」
「そうなんだ。じゃあ、今度進くんも呼んで一緒にやろうよ」
「こんな狭いところに三人も入らないだろ」
「狭いってお前なー…てか、前に矢部くんとお泊まりしたじゃん」
「そうだった。あの日の矢部は妙な調子だったな」
「いやそれはお前だろ。人のベッドで勝手に寝てるし」
「このボクが、キミたちと一緒に雑魚寝など出来るわけないだろう」
「べつにいいけど…あー!」
「フフ…またボクの勝ちだ」
「もういっかい!」
「望むところだ…と言いたいところだが、いい加減勉強をしろ」
「うう…」
「このボクがみてやっているんだぞ、赤点なんて取ったら許さないからな」
「ほら、そういうところ。あの猪狩が、なんだかんだ面倒見てくれる」
「なんだその言い方は。まるで普段のボクが人でなしのようじゃないか」
「だいたい合ってるじゃん。だってお前、野球にしか興味ないもん」
「当然だ」
「あと…オレ?」
「いい加減しつこい。キミってやつは、よほどボクに気があるらしい」
「だからそれはお前だって」
「キミだ」
「お前!」
「キミ!」
「猪狩!」
「パワプロ!」
「…なにやってんだ、オレたち」
「さあね」
「でもさ」
「無駄話は終わりだ、さっさとペンを持て」
「オレは猪狩のこと、こんなに愛しちゃってるんだけどな」
そのとき、自分がどんな顔をしていたのか、全く想像もつかない。たぶんパワプロとお揃いの、間抜け面だったことだろう。
了
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イチャイチャしてんなあ主守だなあ
「お前って、ほんとにオレのこと好きだよなー」
「は?」
ポテトチップスをバリバリと食べながら、そのまま適当に服で指を拭ってからコントローラーを握ったパワプロに、ボクは間の抜けた声が出た。ボクの様子になど構うことなく、パワプロはテレビの画面だけを見ている。
「次はこのステージにしよ」
「おい」
「えっ、なに。早くしろよ」
「さっきのは、どういう意味だ」
「なにって、そのままの意味じゃん。猪狩って、ほんとにオレのこと好きだよなーって思っただけ」
進んでいく画面をよそに、ボクはパワプロの顔をまじまじと見る。さきほど負けたのがよほど悔しかったのか、パワプロは勝手に自分の得意なステージとキャラクターを選んでいる。おい、残機の設定まで勝手に変えるんじゃない。
「ボクじゃなくて、キミの方が好きなんだろう」
「んん?」
「ボクじゃなくて、キミがボクを好きなんだよ」
「いやいや待て猪狩」
「なんだ」
「なんでそうなる」
「じゃあキミは、好きでもない人間を自宅に招き入れるのか?」
「いや、それを言ったらお前こそ、好きでもないやつの家に上がるのか?」
「ああいえばこう言うじゃないか」
「お前がな」
「キミがね」
「じゃあなんでお前は、なんだかんだ悪態つきながら、オレと一緒にいるんだよ」
「何言ってる。キミが、赤点を取ったら部活動が出来なくなると言って、勉強を教えてくれとボクに泣きついてきたんだろう。一体これで何度目だい」
「そうだよ。でも、今はゲームしてるじゃん」
「それも、キミが始めたことだ」
「違うよ、これは猪狩がこの前の続きって始めたんだろ」
「キミが問題を解く間、少し息抜きをしようとしただけじゃないか」
「いや、隣でゲーム始められて、勉強なんか出来るわけないだろ!」
「それでもキミは勉強をするべきだ」
「だったら自分の家でやれよな」
「こんなもの、ボクの家にあるわけないだろう」
「そうなの?お前んち、あんなにデカいのに」
「こういうものは、キミと会うまで一度も触れたことがなかった」
「そういえば、そんなこと言ってたっけ…じゃあ、進くんともゲームで遊んだりしたことないの?」
「ない」
「そうなんだ。じゃあ、今度進くんも呼んで一緒にやろうよ」
「こんな狭いところに三人も入らないだろ」
「狭いってお前なー…てか、前に矢部くんとお泊まりしたじゃん」
「そうだった。あの日の矢部は妙な調子だったな」
「いやそれはお前だろ。人のベッドで勝手に寝てるし」
「このボクが、キミたちと一緒に雑魚寝など出来るわけないだろう」
「べつにいいけど…あー!」
「フフ…またボクの勝ちだ」
「もういっかい!」
「望むところだ…と言いたいところだが、いい加減勉強をしろ」
「うう…」
「このボクがみてやっているんだぞ、赤点なんて取ったら許さないからな」
「ほら、そういうところ。あの猪狩が、なんだかんだ面倒見てくれる」
「なんだその言い方は。まるで普段のボクが人でなしのようじゃないか」
「だいたい合ってるじゃん。だってお前、野球にしか興味ないもん」
「当然だ」
「あと…オレ?」
「いい加減しつこい。キミってやつは、よほどボクに気があるらしい」
「だからそれはお前だって」
「キミだ」
「お前!」
「キミ!」
「猪狩!」
「パワプロ!」
「…なにやってんだ、オレたち」
「さあね」
「でもさ」
「無駄話は終わりだ、さっさとペンを持て」
「オレは猪狩のこと、こんなに愛しちゃってるんだけどな」
そのとき、自分がどんな顔をしていたのか、全く想像もつかない。たぶんパワプロとお揃いの、間抜け面だったことだろう。
了
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イチャイチャしてんなあ主守だなあ
とっておき
とっておき (主守)
好きなものは、いちばん最初に食べる。昔からそうだった。お腹が空いているときに、いちばん美味しいものを食べたいから。難しいことはあまり考えない、したいと思ったことをしたいときにする。単純だねなんて言われることもあるけど、褒め言葉だと思って受け取っている。子供の頃から好きだった野球は続けているうちにそのまま人生の一部になったし、大人になったってお腹が空いたらいちばん好きなものから食べる。そういうふうに生きてきたオレにとって、「これ」はかなり特別なことなんじゃないかと今更ながらに思うのだ。
「…なんだい、キミ。そんなにまじまじと見て」
ベッドに横になったまま、猪狩にしては珍しく歯切れが悪そうに言った。それでもオレが答えずに黙ったままなのに耐えきれなくなったのか、猪狩は顔を背けてそっぽを向いた。少し伸びた猪狩のきれいな髪が、白いシーツの上に散らばる。細くて美しい茶色の髪は、触ってみると見た目通りに柔らかかった。ずっと見てきたのに、そんなことも今日まで知らなかった。真夏のグラウンド、蒸すような暑さの中で、吹き抜ける風に誘われるように帽子を取り、その髪が陽の光に透けて見えるのが好きだった。オレは猪狩が好きだった。
「やめるなら、今のうちだぞ」
猪狩の視線が再びこちらに向いて、挑発的な表情で言う。やめるわけが、ないだろう。大きな声で言いたかったが、あいにくそれは言葉になることはなくて、もごもごと口ごもるだけに終わった。言いたいことも思っていることもたくさんあるのに、言葉が喉に詰まってしまったような、そんな感じだ。愛なんて甘ったるものは、舌先から離れるまでがなんて苦い。
「そんなに焦るなよ、猪狩」
「フン。キミのことだから、今更怖気付いたんじゃないだろうな」
「まさか。お前は、オレにとって…」
大事すぎて、大好きすぎて、髪の毛一本すら触れられなかったなんて、そんなのなんて言えばいいの。オレの辞書にそれらを正確に表現できる言葉は存在しない。だからオレのこの気持ちは、猪狩には一生伝わらないものなんだろう。
「…早くしろ」
それが猪狩に出来るいちばんかわいいおねだりと理解したオレは、なによりも大好きで美味しそうで大切な「とっておき」に、ようやくキスをした。
了
ーーーーーーー
いいから早く抱かれたい猪狩守さん
好きなものは、いちばん最初に食べる。昔からそうだった。お腹が空いているときに、いちばん美味しいものを食べたいから。難しいことはあまり考えない、したいと思ったことをしたいときにする。単純だねなんて言われることもあるけど、褒め言葉だと思って受け取っている。子供の頃から好きだった野球は続けているうちにそのまま人生の一部になったし、大人になったってお腹が空いたらいちばん好きなものから食べる。そういうふうに生きてきたオレにとって、「これ」はかなり特別なことなんじゃないかと今更ながらに思うのだ。
「…なんだい、キミ。そんなにまじまじと見て」
ベッドに横になったまま、猪狩にしては珍しく歯切れが悪そうに言った。それでもオレが答えずに黙ったままなのに耐えきれなくなったのか、猪狩は顔を背けてそっぽを向いた。少し伸びた猪狩のきれいな髪が、白いシーツの上に散らばる。細くて美しい茶色の髪は、触ってみると見た目通りに柔らかかった。ずっと見てきたのに、そんなことも今日まで知らなかった。真夏のグラウンド、蒸すような暑さの中で、吹き抜ける風に誘われるように帽子を取り、その髪が陽の光に透けて見えるのが好きだった。オレは猪狩が好きだった。
「やめるなら、今のうちだぞ」
猪狩の視線が再びこちらに向いて、挑発的な表情で言う。やめるわけが、ないだろう。大きな声で言いたかったが、あいにくそれは言葉になることはなくて、もごもごと口ごもるだけに終わった。言いたいことも思っていることもたくさんあるのに、言葉が喉に詰まってしまったような、そんな感じだ。愛なんて甘ったるものは、舌先から離れるまでがなんて苦い。
「そんなに焦るなよ、猪狩」
「フン。キミのことだから、今更怖気付いたんじゃないだろうな」
「まさか。お前は、オレにとって…」
大事すぎて、大好きすぎて、髪の毛一本すら触れられなかったなんて、そんなのなんて言えばいいの。オレの辞書にそれらを正確に表現できる言葉は存在しない。だからオレのこの気持ちは、猪狩には一生伝わらないものなんだろう。
「…早くしろ」
それが猪狩に出来るいちばんかわいいおねだりと理解したオレは、なによりも大好きで美味しそうで大切な「とっておき」に、ようやくキスをした。
了
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いいから早く抱かれたい猪狩守さん
夜明け前
夜明け前(主人公)
自分のくしゃみで目を覚ますと、布団をぜんぶ猪狩に奪われていた。もう一度小さくくしゃみを漏らしても、当の猪狩はどこ吹く風ですやすやと寝息を立てている。その寝顔の、なんと安らかなこと。猪狩との同居を始めたとき、「キミのような寝相の人間と一緒に寝られるはずがない」と言ったのは猪狩だったが、オレから言わせて貰えば、猪狩の方こそ大概だと思う。それを言わないのは、言うと面倒になるのが分かっているのと、すべては惚れた欲目から来るものだった。
カーテンの隙間から漏れる仄かな薄明かりが、間もなく夜が明けることを知らせていた。猪狩は気持ち良さそうに眠っている。少し伸びてきた前髪が端正なその顔にかかっているのを、指でよけてやる。そうして覗いた額に、自然と唇を寄せていた。猪狩は起きない。ひとつ欠伸をしてから、オレは猪狩が起きないようにゆっくりと布団を取り返して、目を閉じた。猪狩が隣で眠っている。それだけのことがただ嬉しくて、オレはたぶんにやにやと笑ってしまいながら、目を閉じた。夜が明けるまでもう少し、おまえと一緒の夢を見ていたい。
了
夜明け前(猪狩守)
肌寒さを覚えて目を覚ますと、布団をぜんぶパワプロに奪われていた。そうかと思えば当の本人もきちんと布団を被っているわけではなくて、めくれ上がった寝巻きからは腹が見えている。なんという寝相だろう。そう思うのに、手は無意識に乱れた寝巻きを直してやっており、ずり落ちた布団をつかんで引き寄せていた。自分の方が多く被れるよう布団を掴みながら、間抜けた寝顔を眺める。その寝顔の、なんと安らかなこと。
同居を始める際に懸念していたことがまさに起こっているわけであるが、それでも猪狩が共寝をやめないのには、理由があった。良質な睡眠は一流のスポーツ選手にとって欠かせない要素であるが、猪狩にとってはパワプロと一緒に眠っている方が、調子が良い。それは体調であったりモチベーションであったり、信じられないことであるが、あらゆる面において影響力を持った。惚れた欲目とはげに恐ろしきものだと猪狩は思う。隣にあるあたたかな体温に、猪狩は身体を寄り添わせる。夜明けには、まだ時間があるだろう。それまではもう少し、キミの見ている夢に付き合うのも悪くない。
了
ーーーーーー
ラブラブか?ラブラブですね。
自分のくしゃみで目を覚ますと、布団をぜんぶ猪狩に奪われていた。もう一度小さくくしゃみを漏らしても、当の猪狩はどこ吹く風ですやすやと寝息を立てている。その寝顔の、なんと安らかなこと。猪狩との同居を始めたとき、「キミのような寝相の人間と一緒に寝られるはずがない」と言ったのは猪狩だったが、オレから言わせて貰えば、猪狩の方こそ大概だと思う。それを言わないのは、言うと面倒になるのが分かっているのと、すべては惚れた欲目から来るものだった。
カーテンの隙間から漏れる仄かな薄明かりが、間もなく夜が明けることを知らせていた。猪狩は気持ち良さそうに眠っている。少し伸びてきた前髪が端正なその顔にかかっているのを、指でよけてやる。そうして覗いた額に、自然と唇を寄せていた。猪狩は起きない。ひとつ欠伸をしてから、オレは猪狩が起きないようにゆっくりと布団を取り返して、目を閉じた。猪狩が隣で眠っている。それだけのことがただ嬉しくて、オレはたぶんにやにやと笑ってしまいながら、目を閉じた。夜が明けるまでもう少し、おまえと一緒の夢を見ていたい。
了
夜明け前(猪狩守)
肌寒さを覚えて目を覚ますと、布団をぜんぶパワプロに奪われていた。そうかと思えば当の本人もきちんと布団を被っているわけではなくて、めくれ上がった寝巻きからは腹が見えている。なんという寝相だろう。そう思うのに、手は無意識に乱れた寝巻きを直してやっており、ずり落ちた布団をつかんで引き寄せていた。自分の方が多く被れるよう布団を掴みながら、間抜けた寝顔を眺める。その寝顔の、なんと安らかなこと。
同居を始める際に懸念していたことがまさに起こっているわけであるが、それでも猪狩が共寝をやめないのには、理由があった。良質な睡眠は一流のスポーツ選手にとって欠かせない要素であるが、猪狩にとってはパワプロと一緒に眠っている方が、調子が良い。それは体調であったりモチベーションであったり、信じられないことであるが、あらゆる面において影響力を持った。惚れた欲目とはげに恐ろしきものだと猪狩は思う。隣にあるあたたかな体温に、猪狩は身体を寄り添わせる。夜明けには、まだ時間があるだろう。それまではもう少し、キミの見ている夢に付き合うのも悪くない。
了
ーーーーーー
ラブラブか?ラブラブですね。
花よりだんご
「猪狩、花見しようぜ!」
団子と酒の入った袋を持ち上げながらそんなことを言って人の家に突然押し掛け、酔っ払った挙句芝生の上で大の字になって寝てしまうような人間を、猪狩は他に知らない。庭師によって美しく剪定された芝は随分と寝心地も良いのか、ぐーすか気持ちよさそうにいびきをかいて寝ているパワプロの顔を眺めながら猪狩は息をついた。
猪狩の家は大きい。家というよりは豪邸といった装いで、当然ながら「庭」のスケールも一般家庭の認識とは大きく外れたものになる。だから確かに、自宅でありながら悠々と花見は出来るし目の前に桜も咲いているわけであるが、それにしてもこの男のやることは唐突だ。せめて事前に連絡してから来ることは出来ないのだろうか。
そういう男を横目に見ながら、猪狩はパワプロが持参した団子を一口齧った。美味い。思わず団子を持ち上げてまじまじと眺める。包んであった袋に書いてある店名を確認するも、猪狩には全く知らない店であった。もぐもぐと咀嚼しながら、無意識にもう一本取り上げる。桃白緑の三色が美しい模範的な花見団子の次は、別の容器に分けて入っているみたらし団子。これまた美味い。たっぷりと甘めのタレがかかっているのも、猪狩の好みに合っていた。猪狩は、甘いものが好きだ。
それにしても、家で花見とはよく思い付いたものだ。もう一本みたらし団子を手に取りながら、猪狩は隣で眠り続ける男を眺める。こいつはいつでもユニフォーム姿だ。いつものことなのに、なぜだか今日は無性に笑いが込み上げて来て、猪狩は誰も見ていないのをいいことに声を出して笑った。気分がいい。春の陽気と団子と桜が、猪狩を上機嫌にさせている。そうに違いなかった。
「おいパワプロ。バカは風邪を引かないとは言うが、いい加減起きないか」
猪狩が肩を揺すって起こしてやるも、パワプロは少しだけ身じろぎをして、また眠ってしまった。おい、と先程よりもすこし大きい声で呼ぶ。幼い仕草で目を擦ってみせたパワプロは、それでも起きることはなく、何を思ったのか猪狩の方へ手を伸ばした。なんだと言う間もなく、パワプロは猪狩の膝に自分の頭を乗せてしまうのだった。ちょうどいい枕を手に入れたパワプロは、再び目を瞑って寝てしまった。猪狩が声を掛けても知らないフリだ。
「……」
あまりに自由きままな様子の男に、猪狩はそれ以上なにも言葉が出て来なかった。意外にも嫌ではなかったとか、寝顔をもう少し見ていたいとか、膝に乗る重さと温もりが存外に心地良いとか、そんな理由では断じてない。決してない。ただ呆れて言葉にならなかっただけだ。そういうことにして、猪狩はいつも被っているパワプロの帽子をそっと取り上げて、その頭を撫でた。
了
ーーーーーー
たまには普通の甘いやつ(?)
主人公ちゃんが最初のひとことしか喋ってないところがみどころです。
団子と酒の入った袋を持ち上げながらそんなことを言って人の家に突然押し掛け、酔っ払った挙句芝生の上で大の字になって寝てしまうような人間を、猪狩は他に知らない。庭師によって美しく剪定された芝は随分と寝心地も良いのか、ぐーすか気持ちよさそうにいびきをかいて寝ているパワプロの顔を眺めながら猪狩は息をついた。
猪狩の家は大きい。家というよりは豪邸といった装いで、当然ながら「庭」のスケールも一般家庭の認識とは大きく外れたものになる。だから確かに、自宅でありながら悠々と花見は出来るし目の前に桜も咲いているわけであるが、それにしてもこの男のやることは唐突だ。せめて事前に連絡してから来ることは出来ないのだろうか。
そういう男を横目に見ながら、猪狩はパワプロが持参した団子を一口齧った。美味い。思わず団子を持ち上げてまじまじと眺める。包んであった袋に書いてある店名を確認するも、猪狩には全く知らない店であった。もぐもぐと咀嚼しながら、無意識にもう一本取り上げる。桃白緑の三色が美しい模範的な花見団子の次は、別の容器に分けて入っているみたらし団子。これまた美味い。たっぷりと甘めのタレがかかっているのも、猪狩の好みに合っていた。猪狩は、甘いものが好きだ。
それにしても、家で花見とはよく思い付いたものだ。もう一本みたらし団子を手に取りながら、猪狩は隣で眠り続ける男を眺める。こいつはいつでもユニフォーム姿だ。いつものことなのに、なぜだか今日は無性に笑いが込み上げて来て、猪狩は誰も見ていないのをいいことに声を出して笑った。気分がいい。春の陽気と団子と桜が、猪狩を上機嫌にさせている。そうに違いなかった。
「おいパワプロ。バカは風邪を引かないとは言うが、いい加減起きないか」
猪狩が肩を揺すって起こしてやるも、パワプロは少しだけ身じろぎをして、また眠ってしまった。おい、と先程よりもすこし大きい声で呼ぶ。幼い仕草で目を擦ってみせたパワプロは、それでも起きることはなく、何を思ったのか猪狩の方へ手を伸ばした。なんだと言う間もなく、パワプロは猪狩の膝に自分の頭を乗せてしまうのだった。ちょうどいい枕を手に入れたパワプロは、再び目を瞑って寝てしまった。猪狩が声を掛けても知らないフリだ。
「……」
あまりに自由きままな様子の男に、猪狩はそれ以上なにも言葉が出て来なかった。意外にも嫌ではなかったとか、寝顔をもう少し見ていたいとか、膝に乗る重さと温もりが存外に心地良いとか、そんな理由では断じてない。決してない。ただ呆れて言葉にならなかっただけだ。そういうことにして、猪狩はいつも被っているパワプロの帽子をそっと取り上げて、その頭を撫でた。
了
ーーーーーー
たまには普通の甘いやつ(?)
主人公ちゃんが最初のひとことしか喋ってないところがみどころです。
エクストリーム・ラバーズ
「キミはボクを好きになる」
いつだったか猪狩がそんなことを言ったあの日からあっという間に季節は巡って、また春が来た。猪狩というのは同じ部活動で野球をしている同級生のことで、同じ学校に通うようになる前から何かしら縁のある不思議なやつだった。あるときはリトルの試合で、あるときは近所の河原で、猪狩とは昔からたびたびいろんなところで遭遇した。高校生になったら、とうとう同じ学校で野球をすることになったのだから、驚きだ。そう言うと、そのときの猪狩も別段驚いた様子はなくて、オレと野球部で出会うことにも当然といった風情であった。猪狩の考えていることはよく分からない。今も、昔も。
「ていうか、好きか嫌いかで言ったら好きっていうか、そんなの当たり前じゃないか?」
「なんの話だ」
オレの話に興味がなさそうな猪狩は、隣でマグドのシェイクを啜っている。ハンバーガーを初めて食べるなどと言うものだから、最初は猪狩流のギャグなのかとも思ったが、どうやら本気のようだったので、オレは注文の仕方から食べ方まで付き合ってやるのだった。ポテトも気に入ったようだが、いちばんのお気に入りはシェイクのようだ。自分はイチゴ味を飲んでいるのに、オレの頼んだバニラまで飲んでしまうのだからよっぽどだ。腹を壊さなければいいが、それを言うと猪狩は当然だろうと鼻を鳴らした。
もうすでに桜が散り終わってしまった木々たちは、緑の葉が生い茂っていて新緑の季節を思わせる。テイクアウトして公園のベンチに並んで腰掛けながら食べるハンバーガーは、なんだかいつもより美味しいような気がした。部活動のない日は、こうして猪狩と寄り道をするのも恒例となっていた。これを食べ終わったら、キャッチボールをすることになるのがお決まりの流れだ。お互いグラブとボールはいつも持ち歩いている。
「いい天気だなあ。このあとキャッチボールする?」
「もちろんだ」
「今日はこのあとバッセンも行かない?」
「いいだろう。フッ、この前あれだけボクにしてやられたというのに、キミは懲りないらしいな」
「あれは、あの日たまたま調子が悪かっただけだろ!今日は絶対勝つ!…あ、猪狩、口のとこついてる」
「ん」
「ちがう逆。っていうか逆も」
「……」
「よしオッケー。なんかさーこういう時間っていいよな。いつもは練習超ハードだし」
「キミは、だらけすぎだ」
「それがいいんじゃんのんびりしてて。なんか、こうしてるとお前のこと好きだなーってすげえ思うし」
「ん?」
「んっ?」
「え?」
「猪狩、どうしたんだよ」
「それはこっちのセリフだろう、何がなんだって」
「いや、だから!まあいいや」
「よくない」
「いいって」
「男らしくないぞ、一度自分で言ったことはきちんと責任を持て」
「もういっかい、聞きたい?」
「なんだその顔は」
「聞きたい?」
「べつに。だからその顔はなんだ。あと近いぞ」
「じゃあ、勝負しようぜ」
「勝負?」
「バッセンで、今日オレがお前に勝ったら、もう一回言うよ」
「言うつもりないだろう、それ」
「どういう意味だよ!オレは今日、絶対お前に勝つ」
「まあせいぜいがんばることだね」
「そうと決まれば行くぞ猪狩!」
「おい引っ張るな!」
いつから好きなんて、そんな野暮なこと考えもつかないくらい、好きだったよ。昔も、今も。オレも、お前も。それでも言いたいし、聞きたいものなんだろうなと、いま知った。掴んでいた猪狩の腕を離して、かわりに手の平を握る。驚いた顔をした猪狩が、おそるおそる握り返してくる感触にオレは我慢出来ずに笑ってしまって、猪狩は怒って、オレはまた、笑ってしまった。
了
ーーーーーーーー
最近主守を書くとどうにも熟成感が出てしまって、もっと初々しい二人が見たい!という謎の葛藤があります
とか言いたかったけど熟成感のある二人が大好きですからねわたくし!しゅまも
いつだったか猪狩がそんなことを言ったあの日からあっという間に季節は巡って、また春が来た。猪狩というのは同じ部活動で野球をしている同級生のことで、同じ学校に通うようになる前から何かしら縁のある不思議なやつだった。あるときはリトルの試合で、あるときは近所の河原で、猪狩とは昔からたびたびいろんなところで遭遇した。高校生になったら、とうとう同じ学校で野球をすることになったのだから、驚きだ。そう言うと、そのときの猪狩も別段驚いた様子はなくて、オレと野球部で出会うことにも当然といった風情であった。猪狩の考えていることはよく分からない。今も、昔も。
「ていうか、好きか嫌いかで言ったら好きっていうか、そんなの当たり前じゃないか?」
「なんの話だ」
オレの話に興味がなさそうな猪狩は、隣でマグドのシェイクを啜っている。ハンバーガーを初めて食べるなどと言うものだから、最初は猪狩流のギャグなのかとも思ったが、どうやら本気のようだったので、オレは注文の仕方から食べ方まで付き合ってやるのだった。ポテトも気に入ったようだが、いちばんのお気に入りはシェイクのようだ。自分はイチゴ味を飲んでいるのに、オレの頼んだバニラまで飲んでしまうのだからよっぽどだ。腹を壊さなければいいが、それを言うと猪狩は当然だろうと鼻を鳴らした。
もうすでに桜が散り終わってしまった木々たちは、緑の葉が生い茂っていて新緑の季節を思わせる。テイクアウトして公園のベンチに並んで腰掛けながら食べるハンバーガーは、なんだかいつもより美味しいような気がした。部活動のない日は、こうして猪狩と寄り道をするのも恒例となっていた。これを食べ終わったら、キャッチボールをすることになるのがお決まりの流れだ。お互いグラブとボールはいつも持ち歩いている。
「いい天気だなあ。このあとキャッチボールする?」
「もちろんだ」
「今日はこのあとバッセンも行かない?」
「いいだろう。フッ、この前あれだけボクにしてやられたというのに、キミは懲りないらしいな」
「あれは、あの日たまたま調子が悪かっただけだろ!今日は絶対勝つ!…あ、猪狩、口のとこついてる」
「ん」
「ちがう逆。っていうか逆も」
「……」
「よしオッケー。なんかさーこういう時間っていいよな。いつもは練習超ハードだし」
「キミは、だらけすぎだ」
「それがいいんじゃんのんびりしてて。なんか、こうしてるとお前のこと好きだなーってすげえ思うし」
「ん?」
「んっ?」
「え?」
「猪狩、どうしたんだよ」
「それはこっちのセリフだろう、何がなんだって」
「いや、だから!まあいいや」
「よくない」
「いいって」
「男らしくないぞ、一度自分で言ったことはきちんと責任を持て」
「もういっかい、聞きたい?」
「なんだその顔は」
「聞きたい?」
「べつに。だからその顔はなんだ。あと近いぞ」
「じゃあ、勝負しようぜ」
「勝負?」
「バッセンで、今日オレがお前に勝ったら、もう一回言うよ」
「言うつもりないだろう、それ」
「どういう意味だよ!オレは今日、絶対お前に勝つ」
「まあせいぜいがんばることだね」
「そうと決まれば行くぞ猪狩!」
「おい引っ張るな!」
いつから好きなんて、そんな野暮なこと考えもつかないくらい、好きだったよ。昔も、今も。オレも、お前も。それでも言いたいし、聞きたいものなんだろうなと、いま知った。掴んでいた猪狩の腕を離して、かわりに手の平を握る。驚いた顔をした猪狩が、おそるおそる握り返してくる感触にオレは我慢出来ずに笑ってしまって、猪狩は怒って、オレはまた、笑ってしまった。
了
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最近主守を書くとどうにも熟成感が出てしまって、もっと初々しい二人が見たい!という謎の葛藤があります
とか言いたかったけど熟成感のある二人が大好きですからねわたくし!しゅまも
酔っぱらい賛歌
酔っぱらい賛歌(主守)
「猪狩ってキスしたことあるのかなあ」
「キミ、聞こえてるぞ」
ざわざわと騒がしい、大衆居酒屋の一席。向かいに座る猪狩の真っ赤な顔を眺めながら、オレはけらけらと笑った。
「聞こえるように言ってんだよお」
「そうかい」
答えた猪狩が唇の端を持ち上げて不敵に微笑んでみせるものだから、なに格好付けてんだよとオレはまた面白くなってしまって、ゲラゲラと笑い声を上げた。酔っている。二人して、めちゃくちゃに酔っ払っている。傾けた猪狩のグラス、もうやめろよと止めてやらないといけないのに、オレもこれ以上飲めば潰れてしまいそうなのに、今夜は止める気にならなかった。
他の友人といてもチームメイトといても、いつの間にかオレが猪狩を介抱する係になっていたのは、いつからだろうか。この頃では当人である猪狩ですら、それが当然といった風情なのだからおかしなものだ。ゴクゴクと喉を鳴らしてビールを飲む猪狩を横目に、オレは追加の酒を注文した。
「おい猪狩、ほんとに歩けるのか?」
「当然だろ」
しっかりとした声とは裏腹に、猪狩の足つきはおぼつかないように見えた。よろけた身体を支えると、猪狩は必要ないといったようにしりぞけて、歩き出してしまった。仕方がないので、オレもその後に続く。
頬を撫でる夜風が気持ち良かった。春先の、まだ少し冷たい風が火照った身体に染み渡る。真冬のように寒いわけではないので、このくらいがちょうど良いように思えた。店から出て風に当たるとほどよく酔いも醒めてきて、オレは上機嫌に鼻歌なんかを歌ってしまう。飯が美味かった。酒も美味かった。隣に猪狩がいる。オレにはそれだけで十分だった。
「ここ、もう桜が咲き始めてる」
適当に歩く猪狩について行くと、いつもは歩かない川べりにでた。街灯の頼りないあかりでもくっきりと見えるほど、今夜の月はまんまるで明るかった。今年の桜が早咲きなのか、ここの桜が早いのか、それとも酔っ払いの見間違いか。なんでもいいけれど、それはとてもきれいで、オレも猪狩も自然と足を止めていた。もう、そんな時期なのだ。猪狩と過ごすようになって、何度目の春が来たことだろう。目が合った猪狩は、なんとなく、オレと同じことを考えているような気がした。
「なあ」
「なんだい」
「猪狩ってキスしたことあるのかな」
さっきと同じ質問だった。違うのは、猪狩の回答。
「キミなら知っているんじゃないのかい」
「えっ」
猪狩は笑っている。オレは、変な声が出た。それを見てころころと笑う猪狩は、いかにも酔っ払いのそれであった。笑う猪狩を尻目に、オレは泥酔した頭をフル回転させて考えていた。猪狩は、どれのことを言っているのだろう。高校生の頃、猪狩の家へ泊まったときのことだろうか。それとも、プロ入り後、初めて二人で飲みに行った日の帰りのことだろうか。もしかして、ついこの間のあれだろうか。いや、でも、どれも絶対に気付かれていないはずだ。それは、絶対、断固、間違いなく。
「フッ」
「な、なんだよ」
「そんなにボクとキスがしたいなら、してあげるよ」
「えっ?」
瞬きしたときにはもう、唇が重なっている。口と口がくっ付いて、そして離れていった。ぼんやりしていると、猪狩が不満そうな顔で言う。
「ボクがしたのに、キミからしないのは、不公平だろう」
そういうものだろうか。猪狩が言うのだから、そうなのかもしれない。いや、そうなんだろう。そうにちがいない。そういうことにして、オレは猪狩の口に自分の口をくっ付けた。初めて互いに意識して重ねた唇はふわふわと夢心地で、どこか現実味がない。猪狩もそうなのか、大きな目でじっとこちらを見つめていた。見つめ合い、黙って、どちらからともなく瞼を下ろした時には、もう一度重なっていた。猪狩だ。そう思うと、嬉しくなった。腕の中に猪狩を抱く。
「オレ、猪狩が好きだよ」
「知っていたよ」
嬉しくなって、オレは腕の中の猪狩にもう一度、キスをした。
了
ーーーーーー
パワプロアニメ化おめでとう!
びっくりしたよ。急だもん。
ほんとうにおめでとう!!!!!
「猪狩ってキスしたことあるのかなあ」
「キミ、聞こえてるぞ」
ざわざわと騒がしい、大衆居酒屋の一席。向かいに座る猪狩の真っ赤な顔を眺めながら、オレはけらけらと笑った。
「聞こえるように言ってんだよお」
「そうかい」
答えた猪狩が唇の端を持ち上げて不敵に微笑んでみせるものだから、なに格好付けてんだよとオレはまた面白くなってしまって、ゲラゲラと笑い声を上げた。酔っている。二人して、めちゃくちゃに酔っ払っている。傾けた猪狩のグラス、もうやめろよと止めてやらないといけないのに、オレもこれ以上飲めば潰れてしまいそうなのに、今夜は止める気にならなかった。
他の友人といてもチームメイトといても、いつの間にかオレが猪狩を介抱する係になっていたのは、いつからだろうか。この頃では当人である猪狩ですら、それが当然といった風情なのだからおかしなものだ。ゴクゴクと喉を鳴らしてビールを飲む猪狩を横目に、オレは追加の酒を注文した。
「おい猪狩、ほんとに歩けるのか?」
「当然だろ」
しっかりとした声とは裏腹に、猪狩の足つきはおぼつかないように見えた。よろけた身体を支えると、猪狩は必要ないといったようにしりぞけて、歩き出してしまった。仕方がないので、オレもその後に続く。
頬を撫でる夜風が気持ち良かった。春先の、まだ少し冷たい風が火照った身体に染み渡る。真冬のように寒いわけではないので、このくらいがちょうど良いように思えた。店から出て風に当たるとほどよく酔いも醒めてきて、オレは上機嫌に鼻歌なんかを歌ってしまう。飯が美味かった。酒も美味かった。隣に猪狩がいる。オレにはそれだけで十分だった。
「ここ、もう桜が咲き始めてる」
適当に歩く猪狩について行くと、いつもは歩かない川べりにでた。街灯の頼りないあかりでもくっきりと見えるほど、今夜の月はまんまるで明るかった。今年の桜が早咲きなのか、ここの桜が早いのか、それとも酔っ払いの見間違いか。なんでもいいけれど、それはとてもきれいで、オレも猪狩も自然と足を止めていた。もう、そんな時期なのだ。猪狩と過ごすようになって、何度目の春が来たことだろう。目が合った猪狩は、なんとなく、オレと同じことを考えているような気がした。
「なあ」
「なんだい」
「猪狩ってキスしたことあるのかな」
さっきと同じ質問だった。違うのは、猪狩の回答。
「キミなら知っているんじゃないのかい」
「えっ」
猪狩は笑っている。オレは、変な声が出た。それを見てころころと笑う猪狩は、いかにも酔っ払いのそれであった。笑う猪狩を尻目に、オレは泥酔した頭をフル回転させて考えていた。猪狩は、どれのことを言っているのだろう。高校生の頃、猪狩の家へ泊まったときのことだろうか。それとも、プロ入り後、初めて二人で飲みに行った日の帰りのことだろうか。もしかして、ついこの間のあれだろうか。いや、でも、どれも絶対に気付かれていないはずだ。それは、絶対、断固、間違いなく。
「フッ」
「な、なんだよ」
「そんなにボクとキスがしたいなら、してあげるよ」
「えっ?」
瞬きしたときにはもう、唇が重なっている。口と口がくっ付いて、そして離れていった。ぼんやりしていると、猪狩が不満そうな顔で言う。
「ボクがしたのに、キミからしないのは、不公平だろう」
そういうものだろうか。猪狩が言うのだから、そうなのかもしれない。いや、そうなんだろう。そうにちがいない。そういうことにして、オレは猪狩の口に自分の口をくっ付けた。初めて互いに意識して重ねた唇はふわふわと夢心地で、どこか現実味がない。猪狩もそうなのか、大きな目でじっとこちらを見つめていた。見つめ合い、黙って、どちらからともなく瞼を下ろした時には、もう一度重なっていた。猪狩だ。そう思うと、嬉しくなった。腕の中に猪狩を抱く。
「オレ、猪狩が好きだよ」
「知っていたよ」
嬉しくなって、オレは腕の中の猪狩にもう一度、キスをした。
了
ーーーーーー
パワプロアニメ化おめでとう!
びっくりしたよ。急だもん。
ほんとうにおめでとう!!!!!
無題(主守)
(主守)
猪狩がわざとらしく溜息をついてみせたとき、パワプロは本日何杯目かのビールを飲み干し、さらにおかわりを注文していた。揚げ出し豆腐に箸を入れながら、猪狩は呟く。
「ボクは、どうしてキミと付き合っているんだろう」
「明日が久しぶりのオフだから?」
「そういうことじゃない」
がやがやと周りがうるさいここは大衆居酒屋だ。パワプロと一緒でなければ、猪狩には縁のない、もしかしたら一生来ることのなかったかもしれない場所だった。それが今ではこうして当たり前のように飲みに来ているのだから、不思議なものだ。パワプロは好物の焼き鳥を美味そうに頬張っている。塩はパワプロ、タレは猪狩の分だ。
「猪狩、どうした?」
「天才の気持ちは、キミには分からないよ」
「はいはい、始まった」
「キミと一緒にいるようになって、もう随分と経つな」
「まあ、学生の頃からだしなあ」
「ボクとしたことが、流されるまま今日まで来てしまったわけだが」
「よく言う」
「キミはデリカシーがないし、人の話を聞かないし、だらしないし」
「だらしない?」
「何度言っても脱いだ服はハンガーにかけないし、牛乳パックに口を付けてそのまま飲むし、風呂上がりに髪を乾かさない」
「最後のは、個人の自由だろ」
「キミ、そのまま布団に入るだろう、冷たいんだよ。あと、しつこい」
「しつこいって」
「覚えがないのか?この前も、もういいって言ってるのに、キミは何度も…」
「あー。でも、気持ち良かっただろ?」
「本当にデリカシーがないなキミは!ボクの話を聞け!」
「そんなに怒るなって」
「怒らせてるのは誰だ」
「昔からだけど、猪狩って、急に怒り出すことあるよな。カルシウム不足?」
「キ、ミ、が、怒らせるんだ」
「ふふ、でもさ」
「なんだ」
「オレはお前のそういうところも、好きだけどな」
にこにこと微笑むパワプロに猪狩は何も言えなくなってしまって、誤魔化すようにグラスを掴んだ。ぐいと飲み干すと、パワプロが慌てて止めに入る。お前酒が弱いんだから、無理するなよ。そう言って追加の水を頼むパワプロに、猪狩はひとり息をついた。
どうして一緒にいるのか分からなくなるくらい、その全部が好ましいと思っているなんて、口が裂けても言えるわけがない。実はとっくにばれてしまっている秘密を胸に、猪狩は追加でやって来た水を一気に飲み干した。酔いは、醒めそうにもない。
了
ーーーーーーーーーーーー
没にするつもりだったけど貧乏性なので供養
主守ひたすらイチャイチャしてるばっかでオチないよ
この文面百回見たなって感じの既視感
猪狩がわざとらしく溜息をついてみせたとき、パワプロは本日何杯目かのビールを飲み干し、さらにおかわりを注文していた。揚げ出し豆腐に箸を入れながら、猪狩は呟く。
「ボクは、どうしてキミと付き合っているんだろう」
「明日が久しぶりのオフだから?」
「そういうことじゃない」
がやがやと周りがうるさいここは大衆居酒屋だ。パワプロと一緒でなければ、猪狩には縁のない、もしかしたら一生来ることのなかったかもしれない場所だった。それが今ではこうして当たり前のように飲みに来ているのだから、不思議なものだ。パワプロは好物の焼き鳥を美味そうに頬張っている。塩はパワプロ、タレは猪狩の分だ。
「猪狩、どうした?」
「天才の気持ちは、キミには分からないよ」
「はいはい、始まった」
「キミと一緒にいるようになって、もう随分と経つな」
「まあ、学生の頃からだしなあ」
「ボクとしたことが、流されるまま今日まで来てしまったわけだが」
「よく言う」
「キミはデリカシーがないし、人の話を聞かないし、だらしないし」
「だらしない?」
「何度言っても脱いだ服はハンガーにかけないし、牛乳パックに口を付けてそのまま飲むし、風呂上がりに髪を乾かさない」
「最後のは、個人の自由だろ」
「キミ、そのまま布団に入るだろう、冷たいんだよ。あと、しつこい」
「しつこいって」
「覚えがないのか?この前も、もういいって言ってるのに、キミは何度も…」
「あー。でも、気持ち良かっただろ?」
「本当にデリカシーがないなキミは!ボクの話を聞け!」
「そんなに怒るなって」
「怒らせてるのは誰だ」
「昔からだけど、猪狩って、急に怒り出すことあるよな。カルシウム不足?」
「キ、ミ、が、怒らせるんだ」
「ふふ、でもさ」
「なんだ」
「オレはお前のそういうところも、好きだけどな」
にこにこと微笑むパワプロに猪狩は何も言えなくなってしまって、誤魔化すようにグラスを掴んだ。ぐいと飲み干すと、パワプロが慌てて止めに入る。お前酒が弱いんだから、無理するなよ。そう言って追加の水を頼むパワプロに、猪狩はひとり息をついた。
どうして一緒にいるのか分からなくなるくらい、その全部が好ましいと思っているなんて、口が裂けても言えるわけがない。実はとっくにばれてしまっている秘密を胸に、猪狩は追加でやって来た水を一気に飲み干した。酔いは、醒めそうにもない。
了
ーーーーーーーーーーーー
没にするつもりだったけど貧乏性なので供養
主守ひたすらイチャイチャしてるばっかでオチないよ
この文面百回見たなって感じの既視感
檸檬と苺
檸檬と苺 (主人公×猪狩守)
「猪狩、飴たべる?」
本を読んでいた手元から顔を上げると、すぐ後ろにパワプロが立っていた。昨日は練習が終わった後に一緒に食事をして、そのあとはパワプロのマンションに泊まったのだった。今日は久しぶりのオフだ。
「いらない」
「フルーツのど飴だけど」
「のど飴か。それなら一つ貰おう」
朝起きてボクがシャワーを浴びている間に、パワプロはコンビニにでも行っていたらしい。右手に下げたビニールからのど飴の袋を取り出す。
「何味がいい?レモン、イチゴ、メロン」
「イチゴ」
袋から飴をひとつ取り出すと、パワプロはそれを自分の口の中に入れてしまった。わざわざ味を尋ねたのは、ボクにくれるためではなかったのか。こいつのやることは時々よく分からない。
「ボクもひとつ貰うぞ」
飴を取るために伸ばした手を掴まれて、なんだと思って顔を上げたところに唇を押し当てられる。口の中に残るのは、レモンの味。
「…普通にくれないか」
「いいじゃん、たまには」
「しかも、イチゴじゃない」
「ほら、キスと言ったらレモン味だろ」
意味不明なことを言ったパワプロは、もうひとつ飴の袋を開けて、自分の口の中に放り込んだ。それをころころと転がしながら機嫌が良さそうに笑っている。
「猪狩、お前、シャワー行く前にのど飴探してただろ」
「よく分かったな」
「いやあ、昨日は久々だったし、ちょっと無理させちゃったからさ。あんだけ声出してたら、喉も痛いかなって」
台詞の意味を反芻し、一拍置いてようやく理解したボクは、果たしてどんな顔をしていたのだろう。顔に熱が集まっているのが、自分でもよく分かった。その証拠に、パワプロは「イチゴみたいな顔してるぞ」などと、またしても馬鹿なことを言っている。その間抜けな顔を睨め付けてみても、パワプロはどこ吹く風で笑うばかりだ。
「ほら、イチゴもやるから機嫌直せよ」
イチゴなのかレモンなのか、絡まるうちに分からなくなるそれに、ボクは観念したように目を閉じた。
了
ーーーーーーー
安定の純ポエムですね
主守はいいものだ
「猪狩、飴たべる?」
本を読んでいた手元から顔を上げると、すぐ後ろにパワプロが立っていた。昨日は練習が終わった後に一緒に食事をして、そのあとはパワプロのマンションに泊まったのだった。今日は久しぶりのオフだ。
「いらない」
「フルーツのど飴だけど」
「のど飴か。それなら一つ貰おう」
朝起きてボクがシャワーを浴びている間に、パワプロはコンビニにでも行っていたらしい。右手に下げたビニールからのど飴の袋を取り出す。
「何味がいい?レモン、イチゴ、メロン」
「イチゴ」
袋から飴をひとつ取り出すと、パワプロはそれを自分の口の中に入れてしまった。わざわざ味を尋ねたのは、ボクにくれるためではなかったのか。こいつのやることは時々よく分からない。
「ボクもひとつ貰うぞ」
飴を取るために伸ばした手を掴まれて、なんだと思って顔を上げたところに唇を押し当てられる。口の中に残るのは、レモンの味。
「…普通にくれないか」
「いいじゃん、たまには」
「しかも、イチゴじゃない」
「ほら、キスと言ったらレモン味だろ」
意味不明なことを言ったパワプロは、もうひとつ飴の袋を開けて、自分の口の中に放り込んだ。それをころころと転がしながら機嫌が良さそうに笑っている。
「猪狩、お前、シャワー行く前にのど飴探してただろ」
「よく分かったな」
「いやあ、昨日は久々だったし、ちょっと無理させちゃったからさ。あんだけ声出してたら、喉も痛いかなって」
台詞の意味を反芻し、一拍置いてようやく理解したボクは、果たしてどんな顔をしていたのだろう。顔に熱が集まっているのが、自分でもよく分かった。その証拠に、パワプロは「イチゴみたいな顔してるぞ」などと、またしても馬鹿なことを言っている。その間抜けな顔を睨め付けてみても、パワプロはどこ吹く風で笑うばかりだ。
「ほら、イチゴもやるから機嫌直せよ」
イチゴなのかレモンなのか、絡まるうちに分からなくなるそれに、ボクは観念したように目を閉じた。
了
ーーーーーーー
安定の純ポエムですね
主守はいいものだ
忘れてしまうよ
忘れてしまうよ (主守)
ソファに座るパワプロを捕まえて、抱きしめて、キスをして、驚いた顔をしているうちにそのまま雪崩れ込むようにしてのしかかった。唇と唇が触れ合うのは気持ちがいい。自分よりも体温が高いパワプロは口内も熱い。好ましいと思う。舌を這わせて好き勝手なぞりあげると、変な声を上げている。なんだその声は。離れた唇、しっとりと濡れたそこは明かりの下で艶かしかった。もう一度覆い被さるように口付けると、今度こそパワプロから明確な抗議の声が上がった。
「待て猪狩!待て、おい!」
「うるさいぞ」
「お前が、今日はしたくないって言ったんだろ!」
「それがどうした」
「どうしたじゃないだろ、ほんとお前って自分勝手というかわがままというか意味分か…だから、待てって!」
「いやだね」
そう言うパワプロも、再び重ねた唇にはちゃんと応えるように舌を絡ませたりしてきて、笑ってしまう。縺れ合いながら、衣服をまさぐる。パワプロのシャツのボタンに手をかけたところで、形勢逆転とばかりに今度はひっくり返されて組み敷かれる。パワプロは困ったように眉を下げながら、ボクの髪を弄んでいる。しゃくしゃに掻き混ぜながら指に引っ掛けて触るのは、我慢ができない時、そして期待している時の合図でもあった。
「ほんとお前って、いつまで経っても全然分かんない」
「そうかな」
「そうだよ」
もう言葉はいらないとばかりに唇を塞がれる。自分からするのも好きだけれど、やっぱりパワプロの方からされるそれは特別に気持ち良かった。背筋を這う快感に目を閉じる。
「猪狩」
自分を呼ぶその声が、好きだ。何より好ましいと思う。だから、先ほどまで感じていたつまらぬ嫉妬も意地も、ボクはみんな忘れてしまった。キミのことが好きだから、今日もボクは忘れてしまうんだ。
了
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テレビ見ながら、主人公ちゃんが「あのアイドルかわいいなー」とか言ったんだと思います
ソファに座るパワプロを捕まえて、抱きしめて、キスをして、驚いた顔をしているうちにそのまま雪崩れ込むようにしてのしかかった。唇と唇が触れ合うのは気持ちがいい。自分よりも体温が高いパワプロは口内も熱い。好ましいと思う。舌を這わせて好き勝手なぞりあげると、変な声を上げている。なんだその声は。離れた唇、しっとりと濡れたそこは明かりの下で艶かしかった。もう一度覆い被さるように口付けると、今度こそパワプロから明確な抗議の声が上がった。
「待て猪狩!待て、おい!」
「うるさいぞ」
「お前が、今日はしたくないって言ったんだろ!」
「それがどうした」
「どうしたじゃないだろ、ほんとお前って自分勝手というかわがままというか意味分か…だから、待てって!」
「いやだね」
そう言うパワプロも、再び重ねた唇にはちゃんと応えるように舌を絡ませたりしてきて、笑ってしまう。縺れ合いながら、衣服をまさぐる。パワプロのシャツのボタンに手をかけたところで、形勢逆転とばかりに今度はひっくり返されて組み敷かれる。パワプロは困ったように眉を下げながら、ボクの髪を弄んでいる。しゃくしゃに掻き混ぜながら指に引っ掛けて触るのは、我慢ができない時、そして期待している時の合図でもあった。
「ほんとお前って、いつまで経っても全然分かんない」
「そうかな」
「そうだよ」
もう言葉はいらないとばかりに唇を塞がれる。自分からするのも好きだけれど、やっぱりパワプロの方からされるそれは特別に気持ち良かった。背筋を這う快感に目を閉じる。
「猪狩」
自分を呼ぶその声が、好きだ。何より好ましいと思う。だから、先ほどまで感じていたつまらぬ嫉妬も意地も、ボクはみんな忘れてしまった。キミのことが好きだから、今日もボクは忘れてしまうんだ。
了
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テレビ見ながら、主人公ちゃんが「あのアイドルかわいいなー」とか言ったんだと思います

