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酔っぱらい賛歌

酔っぱらい賛歌(主守)

「猪狩ってキスしたことあるのかなあ」
「キミ、聞こえてるぞ」
 ざわざわと騒がしい、大衆居酒屋の一席。向かいに座る猪狩の真っ赤な顔を眺めながら、オレはけらけらと笑った。
「聞こえるように言ってんだよお」
「そうかい」
 答えた猪狩が唇の端を持ち上げて不敵に微笑んでみせるものだから、なに格好付けてんだよとオレはまた面白くなってしまって、ゲラゲラと笑い声を上げた。酔っている。二人して、めちゃくちゃに酔っ払っている。傾けた猪狩のグラス、もうやめろよと止めてやらないといけないのに、オレもこれ以上飲めば潰れてしまいそうなのに、今夜は止める気にならなかった。
 他の友人といてもチームメイトといても、いつの間にかオレが猪狩を介抱する係になっていたのは、いつからだろうか。この頃では当人である猪狩ですら、それが当然といった風情なのだからおかしなものだ。ゴクゴクと喉を鳴らしてビールを飲む猪狩を横目に、オレは追加の酒を注文した。

「おい猪狩、ほんとに歩けるのか?」
「当然だろ」
 しっかりとした声とは裏腹に、猪狩の足つきはおぼつかないように見えた。よろけた身体を支えると、猪狩は必要ないといったようにしりぞけて、歩き出してしまった。仕方がないので、オレもその後に続く。
 頬を撫でる夜風が気持ち良かった。春先の、まだ少し冷たい風が火照った身体に染み渡る。真冬のように寒いわけではないので、このくらいがちょうど良いように思えた。店から出て風に当たるとほどよく酔いも醒めてきて、オレは上機嫌に鼻歌なんかを歌ってしまう。飯が美味かった。酒も美味かった。隣に猪狩がいる。オレにはそれだけで十分だった。
「ここ、もう桜が咲き始めてる」
 適当に歩く猪狩について行くと、いつもは歩かない川べりにでた。街灯の頼りないあかりでもくっきりと見えるほど、今夜の月はまんまるで明るかった。今年の桜が早咲きなのか、ここの桜が早いのか、それとも酔っ払いの見間違いか。なんでもいいけれど、それはとてもきれいで、オレも猪狩も自然と足を止めていた。もう、そんな時期なのだ。猪狩と過ごすようになって、何度目の春が来たことだろう。目が合った猪狩は、なんとなく、オレと同じことを考えているような気がした。
「なあ」
「なんだい」
「猪狩ってキスしたことあるのかな」
 さっきと同じ質問だった。違うのは、猪狩の回答。
「キミなら知っているんじゃないのかい」
「えっ」
 猪狩は笑っている。オレは、変な声が出た。それを見てころころと笑う猪狩は、いかにも酔っ払いのそれであった。笑う猪狩を尻目に、オレは泥酔した頭をフル回転させて考えていた。猪狩は、どれのことを言っているのだろう。高校生の頃、猪狩の家へ泊まったときのことだろうか。それとも、プロ入り後、初めて二人で飲みに行った日の帰りのことだろうか。もしかして、ついこの間のあれだろうか。いや、でも、どれも絶対に気付かれていないはずだ。それは、絶対、断固、間違いなく。
「フッ」
「な、なんだよ」
「そんなにボクとキスがしたいなら、してあげるよ」
「えっ?」
 瞬きしたときにはもう、唇が重なっている。口と口がくっ付いて、そして離れていった。ぼんやりしていると、猪狩が不満そうな顔で言う。
「ボクがしたのに、キミからしないのは、不公平だろう」
 そういうものだろうか。猪狩が言うのだから、そうなのかもしれない。いや、そうなんだろう。そうにちがいない。そういうことにして、オレは猪狩の口に自分の口をくっ付けた。初めて互いに意識して重ねた唇はふわふわと夢心地で、どこか現実味がない。猪狩もそうなのか、大きな目でじっとこちらを見つめていた。見つめ合い、黙って、どちらからともなく瞼を下ろした時には、もう一度重なっていた。猪狩だ。そう思うと、嬉しくなった。腕の中に猪狩を抱く。
「オレ、猪狩が好きだよ」
「知っていたよ」
 嬉しくなって、オレは腕の中の猪狩にもう一度、キスをした。





ーーーーーー
パワプロアニメ化おめでとう!
びっくりしたよ。急だもん。
ほんとうにおめでとう!!!!!

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両思いをなぞって

両思いをなぞって(主友)

「友沢、キスしてもいい?」
 昼食後、隣に座るパワプロが大真面目な顔で尋ねた。パックの牛乳を飲み干した友沢は、その顔をまじまじと見返す。昼の時間帯より少し外れているからか、屋上には自分たち以外に誰もいないようだ。傍目からはいつも通りにしか見えない友沢だったが、内心ではパワプロの言葉に怒りを覚えていた。正直、めちゃくちゃ腹を立てていた。
 勝手にしろ、そんなもん。付き合うようになってそこそこ経つというのに、パワプロはキスをするたびにいちいち友沢の許可を取った。それが気に入らない。気に食わない。したければ、すればいいのだ。
「したいなら、すれば」
「友沢が嫌なら、しない」
 嫌なものか。自分が今までに、一度でも、嫌がる素振りを見せたことがあっただろうか。そもそも好きでもない人間と一緒になどいないだろうし、付き合うなど以ての外である。だいたいこれで何度目だと言うのだ、このやり取りも。
 急転直下する友沢の機嫌悪さも、パワプロから見れば普段と何ら変わりないポーカーフェイスであったので、何も伝わらない。そう、何も。友沢は感情が表に出ない方であったし、それは都合の良い事も多かったが、ことパワプロに対しては毎度悪い方へ働いていた。友沢は、口数が少ない。余計なことは喋らない。そんなの、見ていれば分かるだろうと思ってしまう。
 友沢は、パワプロのことが好きだ。うんと好きだった。かつて、監督に口答えをした自分を庇って、身代わりにパワプロが野球部を退部になったことがある。それだけでも恩があるのに、パワプロたちが所属していた第二野球部のおかげで、自分たちは本当のチームになれた。今自分がこうして野球に専念出来ているのは、パワプロのおかげと言っても過言ではない。
 加えて、昼食のことや、家族のこと、バイトのこと、パワプロには並々ならぬ恩がある。パワプロはお人好しで、愛情深い。そういうパワプロのことを友沢が好きになるまで、そう時間はかからなかった。交際が始まったのも、自然のことのように思えた。
 だからこそ、友沢は理解が出来ない。なぜいちいち、口と口を付けるために、許可が必要であるのか、その理由が。自分が嫌がるからかもしれないとはパワプロの言であるが、それは本気で言っているのだろうか。
「もしかして友沢、怒ってる?」
 ああ、怒っている。声には出さない。おそらく、顔にも出ていない。友沢はもう、何に怒っているのかよく分からなくなっていた。キスひとつでわざわざ許可を取るパワプロには、自分の気持ちなど何一つ伝わっていないということなのだろうか。それは怒りというよりも、悲しみにも近い感情であった。
「友沢?」
 友沢の怒りは続く。パワプロがあんまりにも優しくてあんまりにも気遣いをするせいで、友沢は妙な願望を持つようになってしまった。乱暴をされたいなどとは言わないが、しかし、もっと欲望に任せて、好きに振る舞って欲しいと思う。お前がしたければ、すればいい。お前がくれるものを、オレは全部欲しいと思う。そうだ、オレはお前の全部が欲しい。
 顔を上げた友沢が噛み付くようなキスをして、驚いたパワプロは為す術もなくされるがままであった。口の端から垂れる唾液を舐め取ると、ようやく我に返ったらしいパワプロと目が合う。今度は向こうから重ねられた唇に満足をして、友沢はその首に腕を絡ませながら目を閉じた。




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友沢くんは主人公ちゃんのことめっちゃ好き
もちろん主人公ちゃんもね

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無題(主守)

(主守)

 猪狩がわざとらしく溜息をついてみせたとき、パワプロは本日何杯目かのビールを飲み干し、さらにおかわりを注文していた。揚げ出し豆腐に箸を入れながら、猪狩は呟く。
「ボクは、どうしてキミと付き合っているんだろう」
「明日が久しぶりのオフだから?」
「そういうことじゃない」
 がやがやと周りがうるさいここは大衆居酒屋だ。パワプロと一緒でなければ、猪狩には縁のない、もしかしたら一生来ることのなかったかもしれない場所だった。それが今ではこうして当たり前のように飲みに来ているのだから、不思議なものだ。パワプロは好物の焼き鳥を美味そうに頬張っている。塩はパワプロ、タレは猪狩の分だ。
「猪狩、どうした?」
「天才の気持ちは、キミには分からないよ」
「はいはい、始まった」
「キミと一緒にいるようになって、もう随分と経つな」
「まあ、学生の頃からだしなあ」
「ボクとしたことが、流されるまま今日まで来てしまったわけだが」
「よく言う」
「キミはデリカシーがないし、人の話を聞かないし、だらしないし」
「だらしない?」
「何度言っても脱いだ服はハンガーにかけないし、牛乳パックに口を付けてそのまま飲むし、風呂上がりに髪を乾かさない」
「最後のは、個人の自由だろ」
「キミ、そのまま布団に入るだろう、冷たいんだよ。あと、しつこい」
「しつこいって」
「覚えがないのか?この前も、もういいって言ってるのに、キミは何度も…」
「あー。でも、気持ち良かっただろ?」
「本当にデリカシーがないなキミは!ボクの話を聞け!」
「そんなに怒るなって」
「怒らせてるのは誰だ」
「昔からだけど、猪狩って、急に怒り出すことあるよな。カルシウム不足?」
「キ、ミ、が、怒らせるんだ」
「ふふ、でもさ」
「なんだ」
「オレはお前のそういうところも、好きだけどな」
 にこにこと微笑むパワプロに猪狩は何も言えなくなってしまって、誤魔化すようにグラスを掴んだ。ぐいと飲み干すと、パワプロが慌てて止めに入る。お前酒が弱いんだから、無理するなよ。そう言って追加の水を頼むパワプロに、猪狩はひとり息をついた。
 どうして一緒にいるのか分からなくなるくらい、その全部が好ましいと思っているなんて、口が裂けても言えるわけがない。実はとっくにばれてしまっている秘密を胸に、猪狩は追加でやって来た水を一気に飲み干した。酔いは、醒めそうにもない。




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没にするつもりだったけど貧乏性なので供養
主守ひたすらイチャイチャしてるばっかでオチないよ
この文面百回見たなって感じの既視感

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檸檬と苺

檸檬と苺 (主人公×猪狩守)

「猪狩、飴たべる?」
 本を読んでいた手元から顔を上げると、すぐ後ろにパワプロが立っていた。昨日は練習が終わった後に一緒に食事をして、そのあとはパワプロのマンションに泊まったのだった。今日は久しぶりのオフだ。
「いらない」
「フルーツのど飴だけど」
「のど飴か。それなら一つ貰おう」
 朝起きてボクがシャワーを浴びている間に、パワプロはコンビニにでも行っていたらしい。右手に下げたビニールからのど飴の袋を取り出す。
「何味がいい?レモン、イチゴ、メロン」
「イチゴ」
 袋から飴をひとつ取り出すと、パワプロはそれを自分の口の中に入れてしまった。わざわざ味を尋ねたのは、ボクにくれるためではなかったのか。こいつのやることは時々よく分からない。
「ボクもひとつ貰うぞ」
 飴を取るために伸ばした手を掴まれて、なんだと思って顔を上げたところに唇を押し当てられる。口の中に残るのは、レモンの味。
「…普通にくれないか」
「いいじゃん、たまには」
「しかも、イチゴじゃない」
「ほら、キスと言ったらレモン味だろ」
 意味不明なことを言ったパワプロは、もうひとつ飴の袋を開けて、自分の口の中に放り込んだ。それをころころと転がしながら機嫌が良さそうに笑っている。
「猪狩、お前、シャワー行く前にのど飴探してただろ」
「よく分かったな」
「いやあ、昨日は久々だったし、ちょっと無理させちゃったからさ。あんだけ声出してたら、喉も痛いかなって」
 台詞の意味を反芻し、一拍置いてようやく理解したボクは、果たしてどんな顔をしていたのだろう。顔に熱が集まっているのが、自分でもよく分かった。その証拠に、パワプロは「イチゴみたいな顔してるぞ」などと、またしても馬鹿なことを言っている。その間抜けな顔を睨め付けてみても、パワプロはどこ吹く風で笑うばかりだ。
「ほら、イチゴもやるから機嫌直せよ」
 イチゴなのかレモンなのか、絡まるうちに分からなくなるそれに、ボクは観念したように目を閉じた。




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安定の純ポエムですね
主守はいいものだ

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jealousy

jealousy (5 /猪狩進と猪狩守と主人公)

「兄さん、何か良いことでもありましたか?」
 声を掛けながら、兄の機嫌が良い理由についてはすでに思い当たることがあった。いつものようにランニングを終えて帰ってきた兄は足取りが軽く、ともすれば鼻歌でも歌いだしそうなほど上機嫌だった。
「べつに、たいしたことじゃない」
「パワプロさんに会ったんですか?」
 冷蔵庫から取り出したスポーツドリンクを手渡しながらにっこりと尋ねる。受け取った兄は、さも驚いたように瞳を瞬いてから一口だけドリンクを飲んだ。どことなくばつが悪そうに視線を泳がせている。
「どうして、進が知ってるんだ」
「偶然ですね。僕も、今日パワプロさんに会ったんですよ」
 へえ、とだけ声を漏らした兄は、興味がなさそうなふりをしている。何も言わずにいると、結局は我慢できなかったらしい兄の方から口を開いた。
「それで?」
「それでって?」
「パワプロのやつは、何か言っていたか。あいつ、今日はボクと勝負もせずに帰ってしまったんだ」
 全く、せっかくこの天才猪狩守と勝負ができるチャンスだというのに。ぶつぶつと言いながら、兄は一気にスポーツドリンクを飲み干した。
「進は、どこで会ったんだ」
「街中ですよ。あの、新しくゲームセンターができた辺り。ついでにそのまま一緒に遊んできたんです」
「ゲームセンターで?」
「ええ」
 兄は変な顔をしたまま固まっている。どうしてお前とパワプロが、とでも言い出しそうな雰囲気だ。
「勝負のつもりでお手合わせをお願いしたのに、結局は遊んでもらうだけになっちゃいました。パワプロさん、新しいゲームにも詳しくって」
「そんなところで遊んでいる暇があったら、練習でもしたらどうだ」
「でも、この前は一緒にバッティングセンターに行きましたからね。今日のはちょっとした息抜きですよ。今度会った時には、一緒に練習してもらえないかお願いしてみます」
 ぽかんとした兄の顔。予想もしていなかったことを言われたとき、兄はこんな顔をするのか。半ば観察するような視点で、僕は兄を見ていた。なにせ、近頃の兄ときたら、彼の話ばかりするのだ。パワフル高校のパワプロさんと兄とは、たまたま道端でぶつかったことがきっかけで、河原で三球勝負をしてからの縁らしい。肩がぶつかっただけの初対面の人間と一体何をしているのか、初めは兄の言うことに懐疑的であったが、なるほど自分も実際に彼と会ってみてからは納得のいくところがあった。彼には、また会いたいと思わせる不思議な魅力があった。
 それでも、兄が特定の人物について話をするのは珍しいことだ。兄は、他人のことなど全く構わない。さらに、野球に関することで誰かに興味を持つということは、僕にとっても興味深いことだった。
 僕が彼に初めて会ったのは、兄とのロードワーク中のことだ。確かに、うっかり自転車でパワプロさんを轢いてしまったのは自分だったが、兄ときたらわざわざ戻って来てパワプロさんを踏んづけていったのだった。踏まれたパワプロさんはもちろん怒っていたが、兄は今までに見たことのない顔で嬉しそうに笑っていた。他人に対してあんな風に笑う兄を、僕は知らない。
 それからというもの、不思議な縁で、僕もパワプロさんとはちょくちょく道端で出くわした。今日は進くんか、そんなことを言われる日もあったので、どうやら兄とも頻繁に出くわしているらしい。パワプロさんと兄がいつ会っているのかは、兄の様子を見ていれば一目瞭然だった。その日の兄は誰が見ても分かるほどの上機嫌だったし、何よりよく喋った。ただ、プライドの高い兄のこと、パワプロさんに会ったなどとは一言も言わなかった。
 兄の視線を受けとめながら、僕は微笑む。じっと僕の顔を見ていただけの兄が、耐えられなくなったのかぽつりと一言だけ漏らした。
「よく、一緒にどこかへ行くのか」
「そうですね。次は別のところに遊びに行く約束をしました」
 兄は複雑そうな顔をして、開きかけた口を結局そのまま閉じるのだった。パワプロさんは、いい人だ。それは、間違いない。一緒にいて楽しいし、今日までに彼の人の好さは十分すぎるほど伝わってきた。だけど、と思う。兄が気に掛けるに値するほど、果たしてそこまで価値のある人だろうか。兄の気を惹く魅力とは、一体どこにあるのだろう。兄があの人のどこをそんなに評価しているのか、僕にはまだ分からない。
「兄さん、僕、今日は先に休みますね」
 まだ何か言いたそうな顔をしている兄を置いて、僕は踵を返して部屋へと戻った。初めは、ただ単に二人が一緒にいるのが面白くなかった。兄に妬いているのか、パワプロさんに妬いているのか、今ではもう分からない。そもそも妬く必要などあるのだろうか。分からない。後ろ手にドアを閉めて、僕はほんのひととき目を閉じた。




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7年前に書いたやつをリメイクしてみたらこうなりました
7年て!
結局好きなツボは変わらんのだなと思いました

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誰も知らない

誰も知らない (主人公と猪狩進と猪狩守)

 体育の授業のあと、教室に戻る途中で見知った顔を見かけた。部活動の先輩、パワプロさんだった。挨拶をするべきか、どうしようか、そんなことを廊下の端で悩んでいる間に、彼の方が僕を見つけた。目が合った瞬間、満面の笑みでこちらに手を振る。進くん、声には出さず、唇の動きで名前を呼ばれる。気さくなその様子に思わず自分も笑って手を振ってしまってから、先輩に対して失礼な態度だったかもしれないと思い直した。無論、彼はそんなことなんてこれっぽっちも気にしていないだろうけれど。
 パワプロさんは、誰にでも優しい。僕は手を振って別れた後、こっそりと振り返って彼を目で追った。
 だから僕は、彼の視線の先に兄がいることに気付いてしまった。兄はまだ、僕にもパワプロさんにも気付いていない。兄にも同じように手を振るのだろうな、そう思いながら僕はそれを見ていた。
 パワプロさんは、一緒に歩いていた友人たちの輪からそっと外れると、ひとり兄を追い掛けた。人を掻き分けるようにして進み、その肩を叩く。急に声を掛けられた兄は、驚いた顔をして彼を見た。しかしそれも一瞬のことで、すぐにその表情はほどけるように柔らかくなった。蕾がほころぶようなそれに、僕は目が離せない。兄の顔。パワプロさんの顔。そのどちらも、僕には見せたことのないものだ。
 踵を返し、僕は二人に背を向けて歩き出す。僕が見ていなければ、知らなければ、何もなかったのと同じことだ。僕は僕の感情に、今日も見て見ぬ振りをする。だからこれは、誰も知らない。兄も、あの人も、僕自身でさえも、誰も知らないことだ。





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進くん幸せになってほしい(ってまじで思ってます)

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創傷被覆材

創傷被覆材 (主進)

「あ、進くん絆創膏とれそうだよ」
 言われて、左頬を触る。いつも付けている絆創膏が、汗で取れかかっているようだった。確かに、今日は蒸し暑くて一段と汗をかいていた。
「それにしても、今日はちょっと張り切りすぎたかも。オレ、もう一歩も動けない」
「はは、僕もです」
 神社の境内、地面にひっくり返ったままパワプロさんが笑う。部活動が終わったあと、二人でこっそり神社で練習をするようになって、しばらくが経った。僕が一人でバットを振っているのを、たまたまパワプロさんが見かけたのがきっかけで始まった習慣だった。今では約束をしていなくても、二人とも自然と足が向くようになっていた。だから、この人の前でならいいかと思った。とれかけている絆創膏を剥がして、僕はポケットに突っ込んだ。
「新しいの、ある?確かオレ、鞄の中に入れっぱなしになってるやつが」
「いいんです。怪我をしているわけではないですから」
「ん?」
「昔から、あんまり兄と間違えられるものですから」
「それって」
 日の落ちた境内、蛍光灯の明かりの下でパワプロさんが訝しげな顔をしている。大の字になって寝転んでいた格好から、起き上がって僕の顔をまじまじと見る。しかし、明かりがあってもなくても、僕の頬には傷も怪我もない。僕は自然と笑っていた。にこにこといつも通り、笑っているはずだった。
「昔は、本当によく兄と間違えられたんです。同じ野球のユニフォームを着ていると、特に。だから、髪を伸ばしてみたり、帽子を後ろ向きに被ってみたり、子供なりにいろいろ試したんですよ」
「……」
「ある日、うっかり転んでしまったときに、鼻の頭を擦りむいてしまって。絆創膏を貼った顔を見て、これだと思ったんですよね」
 起き上がって僕を見るパワプロさんは、ちょうど明かりの真下にいるせいでその表情はよく分からなかった。何か言いたそうにもごもごと口を動かしていたが、それを遮るように僕は続ける。
「兄さんや、他の人には内緒ですよ。今までずっと秘密にしてきたんですから」
 軽口に聞こえるように、ただの冗談だと分かるように、僕はパチリとウインクをしてみせた。こんなのは、つまらないただの世間話。僕は後輩として、部活動の先輩と他愛のない話をしているだけだ。だから、僕は後輩らしく先輩の方へ尋ねてみせた。
「ね、パワプロさんの秘密も教えてください」
「えっ?」
「どんな些細なことでもいいので、僕が初めてになる秘密がいいな、なんて」
「……」
 僕の言葉を受けて思案顔をするパワプロさんは、真面目で誠実で、そしてとても優しい。この人は、いつもちゃんと考えてくれる。僕の話を聞いてくれる。だから、少し困らせてみたかっただけ。もう十分ですよ。そう言おうと口を開いたところで、彼の身体が動いて影が重なった。それはほんの一瞬のことで、僕は何が起きたのかよく分からなかった。
「今の、ちゃんと秘密にしといてね」
 明後日の方を向いた彼の頬は、赤かった。おそらく、絆創膏を剥がした僕の頬も同じように。彼がこんな風に触れてくれるなら、もう絆創膏はいらないかもしれないなあ。そんなことを考えながら、僕は左の頬に触れて、もう一度笑った。




ーーーーーーーーーーーー
進くんってさあ………
猪狩進くんの二次創作をしたことがある人なら皆一度は彼のそれについて考えたことがあるはずだ
絆創膏には愛も夢も詰まってる

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忘れてしまうよ

忘れてしまうよ (主守)

 ソファに座るパワプロを捕まえて、抱きしめて、キスをして、驚いた顔をしているうちにそのまま雪崩れ込むようにしてのしかかった。唇と唇が触れ合うのは気持ちがいい。自分よりも体温が高いパワプロは口内も熱い。好ましいと思う。舌を這わせて好き勝手なぞりあげると、変な声を上げている。なんだその声は。離れた唇、しっとりと濡れたそこは明かりの下で艶かしかった。もう一度覆い被さるように口付けると、今度こそパワプロから明確な抗議の声が上がった。
「待て猪狩!待て、おい!」
「うるさいぞ」
「お前が、今日はしたくないって言ったんだろ!」
「それがどうした」
「どうしたじゃないだろ、ほんとお前って自分勝手というかわがままというか意味分か…だから、待てって!」
「いやだね」
 そう言うパワプロも、再び重ねた唇にはちゃんと応えるように舌を絡ませたりしてきて、笑ってしまう。縺れ合いながら、衣服をまさぐる。パワプロのシャツのボタンに手をかけたところで、形勢逆転とばかりに今度はひっくり返されて組み敷かれる。パワプロは困ったように眉を下げながら、ボクの髪を弄んでいる。しゃくしゃに掻き混ぜながら指に引っ掛けて触るのは、我慢ができない時、そして期待している時の合図でもあった。
「ほんとお前って、いつまで経っても全然分かんない」
「そうかな」
「そうだよ」
 もう言葉はいらないとばかりに唇を塞がれる。自分からするのも好きだけれど、やっぱりパワプロの方からされるそれは特別に気持ち良かった。背筋を這う快感に目を閉じる。
「猪狩」
 自分を呼ぶその声が、好きだ。何より好ましいと思う。だから、先ほどまで感じていたつまらぬ嫉妬も意地も、ボクはみんな忘れてしまった。キミのことが好きだから、今日もボクは忘れてしまうんだ。




ーーーーーーー
テレビ見ながら、主人公ちゃんが「あのアイドルかわいいなー」とか言ったんだと思います

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I want

I want (主守)

 例えるならそれは、喉の渇きに似ている。猪狩にとっての野球とは、おそらくそういうものであった。目指すべき地点に到達したと思ったそのときにはもう、足りなくなっている。もっと、もっと、どれだけ練習しても足りない。どんなにボールを投げても、いくらバットを振っても、満たされることはない。だからこそ、猪狩は野球が好きだった。さらなる高みへ。今日も喉が渇く。

「猪狩、帰りにラーメン食べて行かない?」
 練習後、シャワーを浴びたあとはわざわざ新しいユニフォームに着替える男が言った。こいつは一年中、場所も季節も問わずにユニフォームを着ている。名前をパワプロと言って、猪狩とは高校時代のライバルであり、今ではチームメイトの男でもあった。
「またラーメンかい」
 飽きれた口調を隠しもせずに言うと、万年ユニフォーム男はいいじゃん別になどと口を尖らせてみせた。こういう態度も物言いも、学生の頃から変わらない。野球にしか興味のない猪狩に、このように話しかけて来るのは今も昔もパワプロだけだった。
 どうやらラーメンを食べに行くのは決定事項となってしまったようで、パワプロは上機嫌で鞄の中に荷物を放り込んでいる。適当に詰め込んでチャックを閉めたら完了だ。早く行こうぜ猪狩、そんなことを言う。いつの間にか当たり前になってしまった光景を見ながら、猪狩は手元のドリンクを一気に飲み干した。
 パワプロと一緒にいると、喉が渇く。それは自分にとっての野球との関係性に似ていた。求めれば求めるほど足りない気がして、喉の渇きを感じる。それをなんと言うべきなのか、猪狩は一巡して、思ったことをそのまま口に出して言った。
「キミは、ボクに欲情しないのか」
「は!?」
「べつにおかしなことではないだろう。キミとボクは、恋人同士なのだから」
 パワプロは目を白黒させて慌てている。変なやつだ、そう思いながら猪狩は続けた。
「そもそもボクたちがこうなって変わったことと言えば、せいぜい食事に行く回数が増えたくらいで、だいたいキミはいつもラーメンばかりだし、恋人らしいことどころか半年経ってもなんの進展もないし」
「猪狩、急にどうしたんだよ!?」
「キミがそんなだから、ボクは喉が渇いて仕方ないんだよ」
 蛍光灯の下、ふたつの影がひとつになる。キス。唇と唇が触れるだけの、まるで羽のようなそれであった。猪狩がそっと離れると、パワプロはまだ状況が掴めていないように固まっていた。
「キスのときくらい目を閉じたらどうだい」
「い、い、い、猪狩」
「なんだ」
「もう一回!」
 あんまり勢いよく言うものだから、猪狩は思わず吹き出してしまった。笑っているところをパワプロに肩を掴まれる。今度は向こうから重なるそれに、猪狩はそっと目を閉じた。
「なあ、猪狩」
「うん?」
「好きだ」
「……」
「なんで笑うんだよ」
 吐息を交わしながら笑って、今度は二人揃って目を閉じた。腰を抱くパワプロに、猪狩は両手を背に回して返事をするのだった。




ーーーーーーーー
いつものやつーだけど、手を出されたい守さんは国宝なので

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天才猪狩守の憂鬱

天才猪狩守の憂鬱 (主守)

「猪狩、水飲む?」
 行為の後、ベッドの端に腰掛けながらパワプロが言った。ボクが答えないで黙っていても特に気にした様子はなく、パワプロはそのままペットボトルの水を飲み干した。空になったそれをくずかごに向かって放り投げる。役目を終えたペットボトルは、乾いた音を立てて静かにそこへ収まった。
「ボクたち、もう別れようか」
「へあ!?」
 パワプロがわざわざ聞き返して来るものだから、ボクはもう一度、同じ言葉を一言一句違わずに口にした。パワプロは、なんで急に、などと言って騒いでいる。急な、ものか。そんなのはお前がいちばんよく分かっているだろうに。
「キミは、ボクのことを好きじゃないだろう」
「なんで!?」
「なんで、なんでとうるさい奴だな。そんなことまでボクに言わせるつもりか」
「急にそんなこと!」
「急じゃないよ」
「猪狩、オレのことが嫌になったのか?」
「……」
「今までずっと上手くいってたのに…」
「……」
「あっ、他に好きな人が出来たとか」
 それは、キミの方だろう。よっぽど喉元まで出かかった声をボクは飲み込んだ。ボクに対して興味がなくなったのも、もしかしたら他に好意を寄せる相手がいるかもしれないのも、ぜんぶぜんぶ、キミの方じゃないか。馬鹿馬鹿しい。そう思うと、今まで我慢していた言葉が一気にこぼれ落ちた。
「キミは、ボクのことなんてもう飽きたんだろう。知っているよ。だいたい、キミは元々女性が好きだったしね。学生の頃から女生徒からモテたいモテたいと言って騒いでいたじゃないか。それがどういうつもりなのか知らないが、いっときの気まぐれでボクと付き合っていたのかもしれないけど、もう飽きたんだろう。もうボクに興味がなくなったんだろう。それなのにボクとまだこんなことをするのは、気まぐれの延長か、それとも」
「……」
「何も言えないか。そうだろうね」
「猪狩は、なんでそう思ったの」
「……」
 言いたくなかった。くだらない。くだらないが、決定的なことでもあった。
「言いたくない」
「言ってよ」
「いやだ」
「猪狩」
「うるさい」
「猪狩」
「はあ」
「猪狩」
「…だって、キミ。一回しか、しなくなったじゃないか」
「へ?一回?」
「ボクが!疲れているときだって、やめろと言ったって、昔は何度も何度も好き勝手に抱いていたくせに、最近は、一度しかしないじゃないか、義務みたいに!」
「……、…」
「もういいよ。キミは元々女性が好きなんだし、男なんて抱けなくなったんだろ。別れよう。別れてやるよ」
「……」
 なにも言わないのはつまり、図星なのだろう。ああ、終わってしまった。なにもかも。今日、言わなければ、おそらく次もまた、パワプロとこうしていたのだろう。そう考えると、余計に惨めだった。
「帰る」
「……」
「離してくれ」
「……」
「離せ!」
 強く腕を引かれ、起き上がった身体が再びベッドに縫い付けられる。明かりが逆光になって、パワプロの表情はうかがえない。
「猪狩お前さあ、そんなことずっと考えてたの」
「……」
「馬鹿だな」
「ああ、バカだね。我ながら」
「ほんと、馬鹿だよ。ばかばか、大馬鹿」
「キミ、あんまり調子に乗って…」
「心配して損した。てっきり、他に好きな人が出来たとか、オレのこと嫌いになったとか、抱かれるのが嫌になったとか、そういうのかと思った。振られるかと思った。あー心配して損した。心臓止まった。死ぬかと思った。オレがお前のこと一回しか抱かなくなった?昔はもっとしてた?あーそうだねそうだなあの時は高校生だったし我慢も効かなかったしでも今ってオレら、プロだろ、大人だろ、オレだってもうそのくらい考えられるようになったし我慢も覚えたし、何よりあの頃より、むしろ付き合い長くなればなるほどお前のことが大事で、大切で、好きで、なんとか明日のトレーニングとか試合とかに影響出ないように一回だけに我慢してるんだよ。分かる?分かんないよなあ、猪狩には、ああ、猪狩には馬鹿なオレの気持ちなんて分かんないよなあ!あーあ!我慢するくらい、オレはお前が好きなんだよ。分かれよ。ばか猪狩。好きだけど。そういうとこも」
「……」
「猪狩、聞いてる?」
「…聞いてない」
 顔を見ていられなくて、枕に押し付けるようにして逃れると、枕ごと奪われてしまった。逃げ場がない。ボクはいったい、今どんな顔をしているんだ。
「で、猪狩はつまり、オレにめちゃくちゃになるまで抱かれたいと、そう御所望しているわけだ」
「そんなこと言ってない」
「ごめんな、気付かなくて」
「……」
「これから猪狩のして欲しかったこと、ぜんぶしてあげる」
「…せいぜい、お手柔らかにたのむよ」
「仰せのままに、陛下」
 どこでそんな悪ふざけを覚えてきたのか、パワプロはわざと大袈裟にボクの手を取って、その甲に口付けしてみせた。
「いやだって言っても、今日はやめてやれないからな」
「言わないよ、そんなこと」
「…これ以上、煽るな」
 いつにない真剣な眼差しをボクは黙って受け止める。長い夜を思わせる熱い口付けに、ボクはうっとりと目を閉じた。

happy end!!



ーーーーーー
主守いい加減にしてくれ
(もっと)手を出されたい受けが好き好き侍

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