ファーストキッスはレモン味
ファーストキッスはレモン味 (主友)
事実として、ファーストキスはレモン味ではなかった。というより、味なんて全然分からなかった。
友沢と居残り練習をした帰り、部室で着替えていた。他の部員はとっくに帰宅してしまっているから、二人きりだ。アンダーを脱ぎながら友沢が何か言って振り返る、首筋から汗が一筋流れて、オレはその腕を掴んだ。ほんの一瞬目が合って、唇を押し付けた。
オレは、友沢にキスをした。友沢は何も言わなかった。嫌がるどころかそのまま瞼を下ろすものだから、絶対拒否されるだろうと思っていたオレは逆に面食らってしまう。合わさる唇、重なる吐息、どれだけそうしていたのか、オレは唇を離して友沢を見た。
「もう、終わりか」
そんなことを言う。オレが黙っていると今度は友沢の方から近づいてきて、蛍光灯の下で影が重なった。おい、胸ぐらを掴むな。そう言いたかった声は友沢の口の中に呑まれて、オレも黙って目を閉じるしかなかった。
「友沢、怒んないの」
「なにを」
そのあとは二人黙って着替えをして、そっと部室を後にした。練習後の火照った身体に夜風が気持ち良い。しかし今日に限っては、火照っている原因はそれだけではなかった。秋深まり季節はまもなく冬になる、冷たい風に吹かれてもオレの顔は熱いままだった。
「いきなり、ごめん」
「謝るくらいなら、するな」
確かに。どうやら友沢は、あんまり気にしていないようだ。変なやつ。オレだったら、いきなりチームメイトからキスなんてされた日には、びっくりしちゃうけどな。
「ところでさ、友沢」
「なんだ」
「さっきは全然分かんなかったから、今度はゆっくり確認してもいい?」
「何を?」
ファーストキスはレモン味って、ほんとなのかな。笑う友沢の手を引いて、オレは慎んで交際を申し込んだ。
了
ーーーーーー
しゅ〜とも〜
事実として、ファーストキスはレモン味ではなかった。というより、味なんて全然分からなかった。
友沢と居残り練習をした帰り、部室で着替えていた。他の部員はとっくに帰宅してしまっているから、二人きりだ。アンダーを脱ぎながら友沢が何か言って振り返る、首筋から汗が一筋流れて、オレはその腕を掴んだ。ほんの一瞬目が合って、唇を押し付けた。
オレは、友沢にキスをした。友沢は何も言わなかった。嫌がるどころかそのまま瞼を下ろすものだから、絶対拒否されるだろうと思っていたオレは逆に面食らってしまう。合わさる唇、重なる吐息、どれだけそうしていたのか、オレは唇を離して友沢を見た。
「もう、終わりか」
そんなことを言う。オレが黙っていると今度は友沢の方から近づいてきて、蛍光灯の下で影が重なった。おい、胸ぐらを掴むな。そう言いたかった声は友沢の口の中に呑まれて、オレも黙って目を閉じるしかなかった。
「友沢、怒んないの」
「なにを」
そのあとは二人黙って着替えをして、そっと部室を後にした。練習後の火照った身体に夜風が気持ち良い。しかし今日に限っては、火照っている原因はそれだけではなかった。秋深まり季節はまもなく冬になる、冷たい風に吹かれてもオレの顔は熱いままだった。
「いきなり、ごめん」
「謝るくらいなら、するな」
確かに。どうやら友沢は、あんまり気にしていないようだ。変なやつ。オレだったら、いきなりチームメイトからキスなんてされた日には、びっくりしちゃうけどな。
「ところでさ、友沢」
「なんだ」
「さっきは全然分かんなかったから、今度はゆっくり確認してもいい?」
「何を?」
ファーストキスはレモン味って、ほんとなのかな。笑う友沢の手を引いて、オレは慎んで交際を申し込んだ。
了
ーーーーーー
しゅ〜とも〜
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幻想
幻想 (主人公×友沢亮)
例えばの話だ。友沢は、考える。例えば、自分が念願のプロ入りを果たしたとしたら、契約金が入るだろう。その後もプロ野球選手として活躍すれば、まとまったお金を稼ぐことが出来る。そうすれば、家族が助かる。病気を患う母はこれでようやく手術を受けることが出来て、幼い弟妹たちの食い扶持を心配する必要もなくなり、安心して進学することが出来るだろう。
そのためには、幾多にも数多にも渡る苦難、試練が待っている。人生、そう上手くはいかないものだ。実際、友沢は高校生のタイミングでプロ入りの機会を逃した。理由はもちろん分かっていたが、そんなことで簡単に諦められるものならば、友沢は今日までこんな思いを抱いていない。
プロ入りと一口に言っても、そこには様々な要素が交錯する。才能だけでやっていける世界でないことはもちろん、そうかといって努力すれば足りるのかと言ったらそんなことは断じてない。才能、努力、そして、運。友沢はそのどれか、どこかがきっと欠けていて、プロ入りを逃した。大学に通いながら、友沢はようやくそんな風に自分の境遇について考えることができるようになった。
これは常に、「例えば」の話である。例えば、活躍してスカウトの目に留まりたい。そう考えたとき、チームメイトの力は必要不可欠ということになってくる。チームメイトに恵まれて試合に勝つことが出来れば、その分自分の活躍する場も増えるだろうし、そういった目に留まる機会もぐっと増すであろう。やっかいなことに、野球は一人では出来ないのだ。
だから、例えば、もしも同じ方向を向いて努力出来る友人、切磋琢磨し合えるライバルなんかがいたとしたら、それは素晴らしいことだ。互いに発奮し合い、技術を磨き合う。負けたくない、そういう気持ちが自分ではなく他者に向くことで得られるメリットを、友沢は知らなかった。友沢の世界は今までずっと閉ざされていたものだから、それが半ば無理矢理こじ開けられたときの景色など、想像も及ばなかったのだ。
だから、これは、例えばの話だ。例えば友沢が高校生の時にプロ入りを決めていたら、大学に通っていなかったら、別の学校を選んでいたら、もしくは野球を諦めていたら。まるで幻想のように浮かんでは消える世迷い事だった。
「友沢、どうした?ぼんやりして」
そう言って友沢の顔を覗き込むのは、かつてのチームメイトだった男で、そして今もまた友沢と同じチームで野球をしているのだった。今日は久々のオフで、二人して買い物に出掛けた帰り道であった。
「しょうもないこと考えてた」
「なんだよ、それ」
その笑い顔は学生の頃から変わらないもので、この男は笑うと妙に幼い顔付きになるのだった。口には出さないが、友沢はその顔を結構気に入っていた。
「休みって終わるの早いよなあ」
男の横顔を、夕焼けが照らしている。二人分の影が並んで揺らめいた。友沢は、プロになった。隣を歩く男と一緒に、念願のプロ入りを果たしたのだった。それは今まで描いてきた甘い幻想そのもので、それを思うと友沢は今でも不思議な気持ちになる。友沢が手を差し伸べると、隣の男は何も言わず握り返した。
「パワプロ」
「ん、なに?」
「なんでもない」
口にすると消えてしまいそうになる甘い気持ちを、友沢は今日も胸に秘めて黙っている。友沢の夢の続きは、今日もこの手の中にある。
了
ーーーーーーー
主友しゅげーーしゅき
例えばの話だ。友沢は、考える。例えば、自分が念願のプロ入りを果たしたとしたら、契約金が入るだろう。その後もプロ野球選手として活躍すれば、まとまったお金を稼ぐことが出来る。そうすれば、家族が助かる。病気を患う母はこれでようやく手術を受けることが出来て、幼い弟妹たちの食い扶持を心配する必要もなくなり、安心して進学することが出来るだろう。
そのためには、幾多にも数多にも渡る苦難、試練が待っている。人生、そう上手くはいかないものだ。実際、友沢は高校生のタイミングでプロ入りの機会を逃した。理由はもちろん分かっていたが、そんなことで簡単に諦められるものならば、友沢は今日までこんな思いを抱いていない。
プロ入りと一口に言っても、そこには様々な要素が交錯する。才能だけでやっていける世界でないことはもちろん、そうかといって努力すれば足りるのかと言ったらそんなことは断じてない。才能、努力、そして、運。友沢はそのどれか、どこかがきっと欠けていて、プロ入りを逃した。大学に通いながら、友沢はようやくそんな風に自分の境遇について考えることができるようになった。
これは常に、「例えば」の話である。例えば、活躍してスカウトの目に留まりたい。そう考えたとき、チームメイトの力は必要不可欠ということになってくる。チームメイトに恵まれて試合に勝つことが出来れば、その分自分の活躍する場も増えるだろうし、そういった目に留まる機会もぐっと増すであろう。やっかいなことに、野球は一人では出来ないのだ。
だから、例えば、もしも同じ方向を向いて努力出来る友人、切磋琢磨し合えるライバルなんかがいたとしたら、それは素晴らしいことだ。互いに発奮し合い、技術を磨き合う。負けたくない、そういう気持ちが自分ではなく他者に向くことで得られるメリットを、友沢は知らなかった。友沢の世界は今までずっと閉ざされていたものだから、それが半ば無理矢理こじ開けられたときの景色など、想像も及ばなかったのだ。
だから、これは、例えばの話だ。例えば友沢が高校生の時にプロ入りを決めていたら、大学に通っていなかったら、別の学校を選んでいたら、もしくは野球を諦めていたら。まるで幻想のように浮かんでは消える世迷い事だった。
「友沢、どうした?ぼんやりして」
そう言って友沢の顔を覗き込むのは、かつてのチームメイトだった男で、そして今もまた友沢と同じチームで野球をしているのだった。今日は久々のオフで、二人して買い物に出掛けた帰り道であった。
「しょうもないこと考えてた」
「なんだよ、それ」
その笑い顔は学生の頃から変わらないもので、この男は笑うと妙に幼い顔付きになるのだった。口には出さないが、友沢はその顔を結構気に入っていた。
「休みって終わるの早いよなあ」
男の横顔を、夕焼けが照らしている。二人分の影が並んで揺らめいた。友沢は、プロになった。隣を歩く男と一緒に、念願のプロ入りを果たしたのだった。それは今まで描いてきた甘い幻想そのもので、それを思うと友沢は今でも不思議な気持ちになる。友沢が手を差し伸べると、隣の男は何も言わず握り返した。
「パワプロ」
「ん、なに?」
「なんでもない」
口にすると消えてしまいそうになる甘い気持ちを、友沢は今日も胸に秘めて黙っている。友沢の夢の続きは、今日もこの手の中にある。
了
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主友しゅげーーしゅき
出来レース
出来レース (主人公×猪狩守)
猪狩とケンカをした。その理由は結構くだらなくて、説明するのも憚られるほどだ。世間一般的には「痴話喧嘩」などと称されるのかもしれなかった。
ことの発端はやはり猪狩で、珍しく機嫌の良い猪狩が、テレビを見ていたオレに問いかけたのが始まりだった。
「キミは、ボクのどこが好きなんだい」
なんだその質問。いったいどこで、なにを、どんな風に影響されてきたのか、猪狩の顔はどこか嬉しそうでもあった。気分屋の猪狩は、きっと今日は甘えたい気分なんだろう。オレの返答に期待するその眼差しはかわいらしくもあった。しかしながら、そこまで理解しているにも関わらずオレの口からこぼれたのはとんでもない回答であった。なんでそんなことを言ってしまったのか、分からない。
「え…顔かな」
猪狩の表情がぴしりと固まる。変な沈黙が降りたあと、さっきまで上機嫌だった猪狩は一転して不機嫌を露わにしていた。
「確かにボクはキミと違って見目麗しいから、それをキミが好ましいと思うのは当然のことだろう、だが、それ以外にもあるだろう」
「んー…」
こういうときに限って、何も言葉が出てこない。なんと言っていいのか分からなくて黙っている時間と、それに比例するように猪狩の機嫌はどんどん悪くなっていく。最終的に、猪狩は踵を返してそのまま寝室の方へ引っ込んでいってしまった。
それは、面白くないときの猪狩がよくする癖のような動作だった。やってしまった。リモコンを手に取り、テレビを消す。寝室まで追い掛けると、猪狩は分かりやすく不貞腐れて、布団を被って丸まっていた。ベッドに腰かけると、上質なシルクが手触りよく心地良い。さらりとしたそれを一撫でしてから、オレは布団越しの猪狩に声を掛けた。
「猪狩」
「……」
「そんなことで、怒るなよ」
「キミにとっては「そんなこと」なんだな。よく分かったよ」
「だって「全部」とか言ったらお前怒るだろ」
沈黙。背を向ける猪狩が、思考しているのが分かった。オレは静かに猪狩の言葉を待つ。
「…当たり前だ。適当なことを言ってごまかそうとするな」
「だよな。でも、それ以外になんて言えばいいのか分かんないよ。考えても、出てこないんだよ」
「……」
「考えても、分かんない。お前の好きなところ、それどころかイヤなところも嫌いなところも浮かばない」
「それは、ボクに興味がないということか」
「違うよ。お前の自信過剰すぎるところはどうかと思うし、高飛車な発言も控えた方がいいと思うし、いまだに料理のひとつも出来ないし、ほかの家事だってとんでもない失敗するし、この前は電子レンジ壊したし、そもそもワガママだし、気まぐれで気分屋だし、全然素直じゃないし、人の話は聞かないし」
「おい。そろそろ本気で怒っていいかい」
「でもな」
「……」
「そういうところも含めてお前だと思うと、嫌いじゃないっていうか、結局全部好きなんだよな〜とか思っちゃうわけ」
「……」
「だから、いまさら「どこ」が好きとか聞かれても、困るよ。お前だったら、オレはなんでもいいみたいなんだよ。オレの言いたいこと、分かる?」
「分かるもんか…」
消えるようにして小さくなる語尾を追い掛けて、オレは後ろから覆い被さるようにして猪狩を覗き込む。予想通りの顔をしていた猪狩に、オレは問いかけた。
「それで?今度は猪狩が聞かせてくれる番だろ。猪狩は、オレのどこが好きなんだ?」
緩む頬を我慢もしないでそう言うと、猪狩は怒ったように一言だけ答えるのだった。
「キミと同じだよ!」
おあとがよろしいようで。
了
ーーーーーーーー
きみたちは本当に恥ずかしいな 好きだ
猪狩とケンカをした。その理由は結構くだらなくて、説明するのも憚られるほどだ。世間一般的には「痴話喧嘩」などと称されるのかもしれなかった。
ことの発端はやはり猪狩で、珍しく機嫌の良い猪狩が、テレビを見ていたオレに問いかけたのが始まりだった。
「キミは、ボクのどこが好きなんだい」
なんだその質問。いったいどこで、なにを、どんな風に影響されてきたのか、猪狩の顔はどこか嬉しそうでもあった。気分屋の猪狩は、きっと今日は甘えたい気分なんだろう。オレの返答に期待するその眼差しはかわいらしくもあった。しかしながら、そこまで理解しているにも関わらずオレの口からこぼれたのはとんでもない回答であった。なんでそんなことを言ってしまったのか、分からない。
「え…顔かな」
猪狩の表情がぴしりと固まる。変な沈黙が降りたあと、さっきまで上機嫌だった猪狩は一転して不機嫌を露わにしていた。
「確かにボクはキミと違って見目麗しいから、それをキミが好ましいと思うのは当然のことだろう、だが、それ以外にもあるだろう」
「んー…」
こういうときに限って、何も言葉が出てこない。なんと言っていいのか分からなくて黙っている時間と、それに比例するように猪狩の機嫌はどんどん悪くなっていく。最終的に、猪狩は踵を返してそのまま寝室の方へ引っ込んでいってしまった。
それは、面白くないときの猪狩がよくする癖のような動作だった。やってしまった。リモコンを手に取り、テレビを消す。寝室まで追い掛けると、猪狩は分かりやすく不貞腐れて、布団を被って丸まっていた。ベッドに腰かけると、上質なシルクが手触りよく心地良い。さらりとしたそれを一撫でしてから、オレは布団越しの猪狩に声を掛けた。
「猪狩」
「……」
「そんなことで、怒るなよ」
「キミにとっては「そんなこと」なんだな。よく分かったよ」
「だって「全部」とか言ったらお前怒るだろ」
沈黙。背を向ける猪狩が、思考しているのが分かった。オレは静かに猪狩の言葉を待つ。
「…当たり前だ。適当なことを言ってごまかそうとするな」
「だよな。でも、それ以外になんて言えばいいのか分かんないよ。考えても、出てこないんだよ」
「……」
「考えても、分かんない。お前の好きなところ、それどころかイヤなところも嫌いなところも浮かばない」
「それは、ボクに興味がないということか」
「違うよ。お前の自信過剰すぎるところはどうかと思うし、高飛車な発言も控えた方がいいと思うし、いまだに料理のひとつも出来ないし、ほかの家事だってとんでもない失敗するし、この前は電子レンジ壊したし、そもそもワガママだし、気まぐれで気分屋だし、全然素直じゃないし、人の話は聞かないし」
「おい。そろそろ本気で怒っていいかい」
「でもな」
「……」
「そういうところも含めてお前だと思うと、嫌いじゃないっていうか、結局全部好きなんだよな〜とか思っちゃうわけ」
「……」
「だから、いまさら「どこ」が好きとか聞かれても、困るよ。お前だったら、オレはなんでもいいみたいなんだよ。オレの言いたいこと、分かる?」
「分かるもんか…」
消えるようにして小さくなる語尾を追い掛けて、オレは後ろから覆い被さるようにして猪狩を覗き込む。予想通りの顔をしていた猪狩に、オレは問いかけた。
「それで?今度は猪狩が聞かせてくれる番だろ。猪狩は、オレのどこが好きなんだ?」
緩む頬を我慢もしないでそう言うと、猪狩は怒ったように一言だけ答えるのだった。
「キミと同じだよ!」
おあとがよろしいようで。
了
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きみたちは本当に恥ずかしいな 好きだ
リング
リング (主人公×猪狩守)
「猪狩。オレと結婚してくれ」
場所は、夜景の見える高級レストラン。右手に夜景、正面に猪狩を見ながら、オレは左手でそれを差し出した。清水の舞台から飛び降りる、とはきっとこういうことを言うのだろう。手元に視線を落とした猪狩は、差し出された小さな箱を見つめて黙っていた。音もなく開いたそこから見えるのは、シンプルなシルバーリング。それを見てなお、猪狩は黙っていた。心臓がひっくり返りそうなほど暴れてドキドキとうるさかった。
「それより、ボクからもキミに渡したいものがあるんだが」
ようやく口を開いたと思ったら、猪狩はそんなことを言う。それより。オレの決死のプロポーズを流してまで、今渡さなきゃいけないものって一体なんなんだ。小さな箱を持ったまま、オレの心は宙ぶらりんのまま固まっていた。慣れない高級レストランも、正装も、指輪も、恥ずかしいプロポーズの言葉も、みんなみんなお前のために用意したというのに!
「これが、」
これというのは、オレが差し出した指輪のことだ。猪狩は指輪の箱を右手でつつきながら、もう片方の手で何かを取り出した。
「どのくらいしたのか知らないけど、たぶんキミのものより十倍、下手したら百倍くらいはするかもね」
そんなことを言って猪狩が取り出したのは、やっぱり小さな箱だった。ぱかり、開けられた箱から覗いたのは、照明の光を受けて燦然と瞬くシルバーリング。あまりのことに、オレは何も言えない。猪狩は自分の差し出した指輪をオレの方に押し付けながら、目の前の箱を手に取った。
「もらってあげてもいいけど、ボクは付けないぞ。野球をするときには、必要ないものだからね」
「……」
「キミは、きっとこの先こんなものには一生縁がないだろうから、ありがたく受け取るといいよ」
「お、まえ、なあ…」
とんでもない憎まれ口を叩きながら、猪狩はふてぶてしく笑っていた。一気に脱力したオレは、猪狩からの指輪を受け取って笑った。猪狩も、オレから贈った指輪を大切そうに指でなぞっていた。
「猪狩、結婚しよう」
「いいよ」
「軽っ」
「そんなこと、わざわざ口にしなくても、分かるだろう」
そう言う猪狩の顔は信じられないほど赤かったので、オレは最後に食べたりんごのデザートを思い出していたのだった。
***
「なんてことも、あったよなあ〜。懐かしいな〜」
「そんなことより、早く支度しないかい。今日はキミから出掛けると言い出したんだろう」
探し物が見当たらず、引き出しという引き出しを探し回っていたところ、懐かしいことを思い出していたのだった。猪狩からもらった指輪は、無論今日までもこれからも大切に保管されている。
「でもオレ、結局一回も付けてないや。うっかり失くしたりしたら怖すぎるし」
「ふうん。ボクはたまに付けてるけどね」
「えっ、見たことないけど」
「鈍感で間抜けなキミは気付きもしないだろうけど、オフの日なんかは時々付けてるよ」
「まじで、いつ??」
スッと差し出された左手に、オレは心底驚いた。
「マジじゃん!!えっうそだってお前付けないって言ってたじゃん、てかそんなそぶり今まで全く、えええー!!」
「うるさいな。指輪は、身に付けるものだろう」
「そりゃそうだけど、だってお前練習の邪魔になるし左手なんて絶対付けないって言ってたし」
「だから、オフの日だけだよ」
「全然知らなかった…」
「だろうね」
猪狩はころころ笑っている。機嫌が良さそうだったので、オレはその左手を掴んで、指輪のはめられた薬指をなぞってみた。
「そういえばさ、お前どうやってオレの指のサイズ知ったの?」
「寝てる間に測った」
「古典的だなあ」
「そういうキミこそ、どうしたんだい」
「進くんに聞いた」
「進!?」
本気で驚いているらしい猪狩に、オレは笑いながらかいつまんで説明をした。猪狩のところには驚くべきことに昔から専属のトレーナーが何人もいて、身長だの体重だのあらゆるパーソナルデータを記録していることを知っていた。だから、一か八かで弟である進くんに聞いてみたのだった。予想は大当たりで、猪狩の利き手である左手のデータはとくに事細かにデータベース化されていた。これによって、投げるのに適している変化球やら猪狩の持つ独特の癖なんかが分かるそうな。今更ながら、本当だろうか。
「進くんにさ、理由は特に聞かれなかったけど、さいごに「がんばってくださいね」なんて言われちゃってさ。はは、バレバレ」
「……」
「猪狩?」
「…キミも」
猪狩の言わんとすることが分かったオレは、大切にしまわれていたそれを取り出して来て、目の前で薬指にはめた。ぴたりと収まったそれを見て嬉しそうに笑う猪狩を、オレはぎゅうと抱きしめる。
「もう今日は、出掛けるのやめた」
抗議の声は重ねた猪狩の唇ごと飲み込んでしまったので、オレの耳にはあいにく聞こえてはこないのだった。
了
ーーーーーー
一生イチャイチャしててくれ ただそれだけだ
「猪狩。オレと結婚してくれ」
場所は、夜景の見える高級レストラン。右手に夜景、正面に猪狩を見ながら、オレは左手でそれを差し出した。清水の舞台から飛び降りる、とはきっとこういうことを言うのだろう。手元に視線を落とした猪狩は、差し出された小さな箱を見つめて黙っていた。音もなく開いたそこから見えるのは、シンプルなシルバーリング。それを見てなお、猪狩は黙っていた。心臓がひっくり返りそうなほど暴れてドキドキとうるさかった。
「それより、ボクからもキミに渡したいものがあるんだが」
ようやく口を開いたと思ったら、猪狩はそんなことを言う。それより。オレの決死のプロポーズを流してまで、今渡さなきゃいけないものって一体なんなんだ。小さな箱を持ったまま、オレの心は宙ぶらりんのまま固まっていた。慣れない高級レストランも、正装も、指輪も、恥ずかしいプロポーズの言葉も、みんなみんなお前のために用意したというのに!
「これが、」
これというのは、オレが差し出した指輪のことだ。猪狩は指輪の箱を右手でつつきながら、もう片方の手で何かを取り出した。
「どのくらいしたのか知らないけど、たぶんキミのものより十倍、下手したら百倍くらいはするかもね」
そんなことを言って猪狩が取り出したのは、やっぱり小さな箱だった。ぱかり、開けられた箱から覗いたのは、照明の光を受けて燦然と瞬くシルバーリング。あまりのことに、オレは何も言えない。猪狩は自分の差し出した指輪をオレの方に押し付けながら、目の前の箱を手に取った。
「もらってあげてもいいけど、ボクは付けないぞ。野球をするときには、必要ないものだからね」
「……」
「キミは、きっとこの先こんなものには一生縁がないだろうから、ありがたく受け取るといいよ」
「お、まえ、なあ…」
とんでもない憎まれ口を叩きながら、猪狩はふてぶてしく笑っていた。一気に脱力したオレは、猪狩からの指輪を受け取って笑った。猪狩も、オレから贈った指輪を大切そうに指でなぞっていた。
「猪狩、結婚しよう」
「いいよ」
「軽っ」
「そんなこと、わざわざ口にしなくても、分かるだろう」
そう言う猪狩の顔は信じられないほど赤かったので、オレは最後に食べたりんごのデザートを思い出していたのだった。
***
「なんてことも、あったよなあ〜。懐かしいな〜」
「そんなことより、早く支度しないかい。今日はキミから出掛けると言い出したんだろう」
探し物が見当たらず、引き出しという引き出しを探し回っていたところ、懐かしいことを思い出していたのだった。猪狩からもらった指輪は、無論今日までもこれからも大切に保管されている。
「でもオレ、結局一回も付けてないや。うっかり失くしたりしたら怖すぎるし」
「ふうん。ボクはたまに付けてるけどね」
「えっ、見たことないけど」
「鈍感で間抜けなキミは気付きもしないだろうけど、オフの日なんかは時々付けてるよ」
「まじで、いつ??」
スッと差し出された左手に、オレは心底驚いた。
「マジじゃん!!えっうそだってお前付けないって言ってたじゃん、てかそんなそぶり今まで全く、えええー!!」
「うるさいな。指輪は、身に付けるものだろう」
「そりゃそうだけど、だってお前練習の邪魔になるし左手なんて絶対付けないって言ってたし」
「だから、オフの日だけだよ」
「全然知らなかった…」
「だろうね」
猪狩はころころ笑っている。機嫌が良さそうだったので、オレはその左手を掴んで、指輪のはめられた薬指をなぞってみた。
「そういえばさ、お前どうやってオレの指のサイズ知ったの?」
「寝てる間に測った」
「古典的だなあ」
「そういうキミこそ、どうしたんだい」
「進くんに聞いた」
「進!?」
本気で驚いているらしい猪狩に、オレは笑いながらかいつまんで説明をした。猪狩のところには驚くべきことに昔から専属のトレーナーが何人もいて、身長だの体重だのあらゆるパーソナルデータを記録していることを知っていた。だから、一か八かで弟である進くんに聞いてみたのだった。予想は大当たりで、猪狩の利き手である左手のデータはとくに事細かにデータベース化されていた。これによって、投げるのに適している変化球やら猪狩の持つ独特の癖なんかが分かるそうな。今更ながら、本当だろうか。
「進くんにさ、理由は特に聞かれなかったけど、さいごに「がんばってくださいね」なんて言われちゃってさ。はは、バレバレ」
「……」
「猪狩?」
「…キミも」
猪狩の言わんとすることが分かったオレは、大切にしまわれていたそれを取り出して来て、目の前で薬指にはめた。ぴたりと収まったそれを見て嬉しそうに笑う猪狩を、オレはぎゅうと抱きしめる。
「もう今日は、出掛けるのやめた」
抗議の声は重ねた猪狩の唇ごと飲み込んでしまったので、オレの耳にはあいにく聞こえてはこないのだった。
了
ーーーーーー
一生イチャイチャしててくれ ただそれだけだ
初恋のソーダ割り
初恋のソーダ割り (主人公×猪狩守)
「これは夢だ」
思わず口に出していた。朝起きたら、裸だった。おそるおそる布団をめくると、かろうじて下着は付けているようだ。良かった。いや、よくない。そもそも、全く身に覚えのないここは、一体どこなのだろう。きちんと考えたいのに、未だかつて経験したことのない倦怠感と頭痛がそれを許さなかった。
曖昧な記憶、見慣れない部屋、裸で眠っている自分、ここまで自分の預かり知らぬことばかりだというのに、隣に転がっている男のことだけはよく知っているというのがまた恐ろしい事実であった。しかも、布団からはみ出しているその姿を見るに、どうやら自分と同じく服を着ていないではないか。
引かれたカーテンの向こうから差し込む朝の日差しが眩しかった。その向こうで雀が鳴いている。心なしか、身体のあちこちが痛い。ボクは呑気に寝ている隣の男の頭を引っ叩いた。
「おい」
「んう!?」
「起きろ」
「まだ眠いって…」
「起きろパワプロ」
「ああ、猪狩起きたのか…」
そう言いながらまた布団の中にもぐっていこうとする男は、チームメイトのパワプロだ。ボクが隣に寝ていることに動じていないその様子を見るに、どうやら「こうなった」事情を知っているに違いなかった。
「おい、なんなんだこれは」
「は?猪狩覚えてないの」
「ああ」
「なんにも?」
「ああ…」
「お前、マジでなんにも覚えてないの?ほんとに?昨日はすごかったんだぞ」
それは見ればなんとなく分かる。口には出さずにパワプロの方を見ると、やつは意味ありげに溜息をついてみせるのだった。
「猪狩、どこまで覚えてる?」
「……」
「まさか、なんにも覚えてないの?」
「練習後、一緒に食事に行ったところまでは記憶しているが」
「そうだよ、そこでお前ベロベロに酔っ払ってさあ、帰れないっていうからオレの家まで連れてきたんじゃん!」
「…そうかい、それは悪かったね」
「そんで、なんとか家まで連れて帰って来たと思ったら、お前いきなり玄関でさー」
「げ、玄関…?」
「そうだよお前オレのこと全然離さないし、いきなりだし、しがみついたまますげー激しいし」
「……」
「オレ、あんなの初めてだよ」
「……」
「お前、酔うとあんな風になるんだな」
「……」
ボクが黙るとパワプロも黙ってしまって、妙な沈黙が下りた。果たして何を言うべきなのか、ボクは布団をかき抱いて言葉に詰まった。これはつまり、そういうことで間違いないのだろうか。こんなとき、どんな顔をしたら良いのか分からない。
「あのさあ」
「なんだい…?」
「猪狩、なんか勘違いしてない?」
「かんちがい?」
「いや、なんていうか、そんな顔されると余計困るんだけど…」
ボクはいまどんな顔をしているんだろう。分からない。顔が熱かった。パワプロは、こんなに格好良かっただろうか。いつもの間抜け面が嘘のように真剣な表情をしている。ドキドキして胸が痛かった。ボクは昨日のことを覚えていないのを心底後悔していた。
「いや、あのな猪狩」
「うん」
「オレたち服着てないだろ」
「ああ…」
「それは汚しちゃったから仕方なくこうなったからで…ああなんだろうこの話せば話すほど勘違いが深まる感じ!?あのな、昨日…」
パワプロが話す内容は、確かにボクにとって衝撃的なものだった。
「昨日、お前を担いでなんとか家に帰ったら、酔ったお前がそのままもどしちゃって、玄関でいきなり、しかもオレに抱きついたまま離れないから二人して上も下もめちゃくちゃになって、よっぽど気持ち悪かったのかお前すげー激しく吐いてたし、とにかく汚れた服を脱がせて洗濯に突っ込んで、洗面所で顔やら口やらキレイに洗って、そんでようやく布団まで連れてったところでお前がオレを掴んだまま離さないから、もう疲れてたしめんどいしそのまま寝たの!そんだけ!」
「それだけ?本当に?」
「そうだよ」
「じゃあ、身体のあちこちが痛いのは」
「えっ、痛いのか?玄関で転んだときにどっか打ったのかも、洗面所でも一回転んでたし」
「……、…」
「おい、大丈夫か?見せてみろよ」
パワプロの心配そうにする顔を見たその瞬間、未だかつて経験のない前代未聞の感情が押し寄せて、ボクは身体中の熱が顔に集まるのを感じた。なんなら、耳まで熱い。首も熱い。特大の羞恥。極大の勘違い。
「猪狩、おーい」
「……」
「まあ、そんな日もあるって」
「……」
「猪狩」
「これは、夢だ」
なんなら、正夢にする?少しの間の後、笑ったパワプロはそう言ってこちらに唇を寄せた。重なるそれ。キス。ボクは何が何やら、もう収集が付かなくなっていた。そのあとパワプロの告げた言葉に、ボクはもう一度だけ、同じ言葉を呟いた。
了
ーーーーーーー
しゅ〜まも〜
「これは夢だ」
思わず口に出していた。朝起きたら、裸だった。おそるおそる布団をめくると、かろうじて下着は付けているようだ。良かった。いや、よくない。そもそも、全く身に覚えのないここは、一体どこなのだろう。きちんと考えたいのに、未だかつて経験したことのない倦怠感と頭痛がそれを許さなかった。
曖昧な記憶、見慣れない部屋、裸で眠っている自分、ここまで自分の預かり知らぬことばかりだというのに、隣に転がっている男のことだけはよく知っているというのがまた恐ろしい事実であった。しかも、布団からはみ出しているその姿を見るに、どうやら自分と同じく服を着ていないではないか。
引かれたカーテンの向こうから差し込む朝の日差しが眩しかった。その向こうで雀が鳴いている。心なしか、身体のあちこちが痛い。ボクは呑気に寝ている隣の男の頭を引っ叩いた。
「おい」
「んう!?」
「起きろ」
「まだ眠いって…」
「起きろパワプロ」
「ああ、猪狩起きたのか…」
そう言いながらまた布団の中にもぐっていこうとする男は、チームメイトのパワプロだ。ボクが隣に寝ていることに動じていないその様子を見るに、どうやら「こうなった」事情を知っているに違いなかった。
「おい、なんなんだこれは」
「は?猪狩覚えてないの」
「ああ」
「なんにも?」
「ああ…」
「お前、マジでなんにも覚えてないの?ほんとに?昨日はすごかったんだぞ」
それは見ればなんとなく分かる。口には出さずにパワプロの方を見ると、やつは意味ありげに溜息をついてみせるのだった。
「猪狩、どこまで覚えてる?」
「……」
「まさか、なんにも覚えてないの?」
「練習後、一緒に食事に行ったところまでは記憶しているが」
「そうだよ、そこでお前ベロベロに酔っ払ってさあ、帰れないっていうからオレの家まで連れてきたんじゃん!」
「…そうかい、それは悪かったね」
「そんで、なんとか家まで連れて帰って来たと思ったら、お前いきなり玄関でさー」
「げ、玄関…?」
「そうだよお前オレのこと全然離さないし、いきなりだし、しがみついたまますげー激しいし」
「……」
「オレ、あんなの初めてだよ」
「……」
「お前、酔うとあんな風になるんだな」
「……」
ボクが黙るとパワプロも黙ってしまって、妙な沈黙が下りた。果たして何を言うべきなのか、ボクは布団をかき抱いて言葉に詰まった。これはつまり、そういうことで間違いないのだろうか。こんなとき、どんな顔をしたら良いのか分からない。
「あのさあ」
「なんだい…?」
「猪狩、なんか勘違いしてない?」
「かんちがい?」
「いや、なんていうか、そんな顔されると余計困るんだけど…」
ボクはいまどんな顔をしているんだろう。分からない。顔が熱かった。パワプロは、こんなに格好良かっただろうか。いつもの間抜け面が嘘のように真剣な表情をしている。ドキドキして胸が痛かった。ボクは昨日のことを覚えていないのを心底後悔していた。
「いや、あのな猪狩」
「うん」
「オレたち服着てないだろ」
「ああ…」
「それは汚しちゃったから仕方なくこうなったからで…ああなんだろうこの話せば話すほど勘違いが深まる感じ!?あのな、昨日…」
パワプロが話す内容は、確かにボクにとって衝撃的なものだった。
「昨日、お前を担いでなんとか家に帰ったら、酔ったお前がそのままもどしちゃって、玄関でいきなり、しかもオレに抱きついたまま離れないから二人して上も下もめちゃくちゃになって、よっぽど気持ち悪かったのかお前すげー激しく吐いてたし、とにかく汚れた服を脱がせて洗濯に突っ込んで、洗面所で顔やら口やらキレイに洗って、そんでようやく布団まで連れてったところでお前がオレを掴んだまま離さないから、もう疲れてたしめんどいしそのまま寝たの!そんだけ!」
「それだけ?本当に?」
「そうだよ」
「じゃあ、身体のあちこちが痛いのは」
「えっ、痛いのか?玄関で転んだときにどっか打ったのかも、洗面所でも一回転んでたし」
「……、…」
「おい、大丈夫か?見せてみろよ」
パワプロの心配そうにする顔を見たその瞬間、未だかつて経験のない前代未聞の感情が押し寄せて、ボクは身体中の熱が顔に集まるのを感じた。なんなら、耳まで熱い。首も熱い。特大の羞恥。極大の勘違い。
「猪狩、おーい」
「……」
「まあ、そんな日もあるって」
「……」
「猪狩」
「これは、夢だ」
なんなら、正夢にする?少しの間の後、笑ったパワプロはそう言ってこちらに唇を寄せた。重なるそれ。キス。ボクは何が何やら、もう収集が付かなくなっていた。そのあとパワプロの告げた言葉に、ボクはもう一度だけ、同じ言葉を呟いた。
了
ーーーーーーー
しゅ〜まも〜
僕の名前は
僕の名前は(猪狩進)
僕は野球が好きだった。そういうことに気が付いたのは、自分が野球を出来ない身体になってしまってからのことだ。ある日大型トラックに轢かれ、交通事故に巻き込まれた僕は、今まで日常として過ごしていた一切のことを失った。野球どころか、入院当初は日常生活すらままならなかったし、当然学校にも通えなくなり、一向に回復の兆候をみせないリハビリは長い入院生活を思わせた。
そういう僕の名前を猪狩進といって、高校野球界の中ではそれなりに存在を知られていた方であったと思う。それは僕自身にまつわることではなく、あかつき高校の猪狩守の弟、兄弟バッテリーを組んでいるキャッチャーの方、という意味での風聞である。そういう意味において、僕の名前は「猪狩の弟」であると言っておおむね差し支えがないだろう。
兄は何に対しても真っ直ぐな人で、それは野球にしても僕にしてもそうであったので、事故に遭った僕のことをそれはもう心配していた。見舞いに来たところで容態などたいして変わらぬというのに、兄は忙しい練習の合間を縫って毎日僕の顔を見に病院へやって来た。
そんな日々を繰り返していたある日、僕は気が付いた。もう本当に野球が出来ないのだな。知っていたけれど、ようやく理解として腑に落ちたのだった。不思議な感覚だった。
今にして思い返してみれば、僕はそれほど野球が好きではなかったように思う。始めたきっかけはやはり兄で、キャッチボールの相手として選定されたのが弟の僕であったというだけのことだ。それからは成り行きで、いつの間にか野球をすることが当たり前になっていたけれど、自分から特別に執着することはなかった。猪狩兄弟バッテリーなどと広く呼ばれるようになってからは、そうすることが一番自然である気がして、何の疑問も抱かずに野球をしていた。
それが、どうだろう。野球が出来ない、そう気が付いたいま、自分の中で何かが弾ける感覚があった。僕は、野球がしたい。好きとか嫌いとかそういうことではなくて、ただ野球がしたかった。それは、他の何を犠牲にしたとしても、最優先すべき感情に思えた。いま、そうだ、いま野球が出来なければ、自分が生きている意味はないとまで思った。
だから僕は、その誘いに乗ったのだろう。プロペラ団、世界最大のプロモーター、甲子園のスター発掘、ピッチャーへの転向、それに伴うリスクと待遇、事情は何でも良かった。聞かされた話の大半は右から左に流れ、僕が求めたのはただ一点のみだった。この誘いに乗れば、僕は野球が出来る。
名前を捨てたつもりも、兄へのコンプレックスへの当て付けのつもりもなかったけれど、その日から僕は猪狩進ではなくなった。何者でもなく、ただ野球がしたいだけの一人の人間。
僕の名前は、野球マスク。
了
ーーーーーーー
唐突にやきゅますのこと考えてのたうち回るの、あるあるnightですね
僕は野球が好きだった。そういうことに気が付いたのは、自分が野球を出来ない身体になってしまってからのことだ。ある日大型トラックに轢かれ、交通事故に巻き込まれた僕は、今まで日常として過ごしていた一切のことを失った。野球どころか、入院当初は日常生活すらままならなかったし、当然学校にも通えなくなり、一向に回復の兆候をみせないリハビリは長い入院生活を思わせた。
そういう僕の名前を猪狩進といって、高校野球界の中ではそれなりに存在を知られていた方であったと思う。それは僕自身にまつわることではなく、あかつき高校の猪狩守の弟、兄弟バッテリーを組んでいるキャッチャーの方、という意味での風聞である。そういう意味において、僕の名前は「猪狩の弟」であると言っておおむね差し支えがないだろう。
兄は何に対しても真っ直ぐな人で、それは野球にしても僕にしてもそうであったので、事故に遭った僕のことをそれはもう心配していた。見舞いに来たところで容態などたいして変わらぬというのに、兄は忙しい練習の合間を縫って毎日僕の顔を見に病院へやって来た。
そんな日々を繰り返していたある日、僕は気が付いた。もう本当に野球が出来ないのだな。知っていたけれど、ようやく理解として腑に落ちたのだった。不思議な感覚だった。
今にして思い返してみれば、僕はそれほど野球が好きではなかったように思う。始めたきっかけはやはり兄で、キャッチボールの相手として選定されたのが弟の僕であったというだけのことだ。それからは成り行きで、いつの間にか野球をすることが当たり前になっていたけれど、自分から特別に執着することはなかった。猪狩兄弟バッテリーなどと広く呼ばれるようになってからは、そうすることが一番自然である気がして、何の疑問も抱かずに野球をしていた。
それが、どうだろう。野球が出来ない、そう気が付いたいま、自分の中で何かが弾ける感覚があった。僕は、野球がしたい。好きとか嫌いとかそういうことではなくて、ただ野球がしたかった。それは、他の何を犠牲にしたとしても、最優先すべき感情に思えた。いま、そうだ、いま野球が出来なければ、自分が生きている意味はないとまで思った。
だから僕は、その誘いに乗ったのだろう。プロペラ団、世界最大のプロモーター、甲子園のスター発掘、ピッチャーへの転向、それに伴うリスクと待遇、事情は何でも良かった。聞かされた話の大半は右から左に流れ、僕が求めたのはただ一点のみだった。この誘いに乗れば、僕は野球が出来る。
名前を捨てたつもりも、兄へのコンプレックスへの当て付けのつもりもなかったけれど、その日から僕は猪狩進ではなくなった。何者でもなく、ただ野球がしたいだけの一人の人間。
僕の名前は、野球マスク。
了
ーーーーーーー
唐突にやきゅますのこと考えてのたうち回るの、あるあるnightですね
ひとりでできるもん!
ひとりでできるもん! (主守)
家に帰ると、玄関に猪狩の靴があった。オレのように適当に脱ぎ散らかしたりせず、きちんと揃えてある様はいかにも猪狩の所作であった。合鍵を渡してあるので別にいつ来てもいいのだが、それにしても猪狩は気まぐれだ。確か、今日は誘いの連絡を入れたら断られたのではなかったっけ。だから他の友人と飲んで来た帰りなわけであるが、結果として二軒目には行ずに直帰したのは正解だったようだ。待たされたことにヘソを曲げる猪狩の顔は安易に想像が出来た。オレの誘いを初めに断ったのは自分の方であるにも関わらず、だ。猪狩のわがままは昔からであるので、オレはもうたいして気にもならない。
猪狩とは、これでもう結構な付き合いになる。高校生の頃から続くこの関係は、果たしてなんという名前を付ければ良いのやら。猪狩とは友人で、ライバルで、チームメイトで、いつの間にかそういう関係になっていて、そういう関係というのはつまり、そういう関係のことだ。淡白な猪狩は自分から求めるようなことはなかったが、オレからの誘いを断ることもまた、ないのだった。天才というのは、性欲もないものなのか。猪狩は昔から色恋に疎く、野球が恋人といった風情があった。猪狩とするときは、いつもオレから誘うのがお決まりのパターンであった。
「おーい、猪狩」
リビングの戸を開けると明かりは付いていたが、そこに猪狩の姿はなかった。洗面所にはいないようだったので、あとは寝室の方だろうか。時間も時間なので、寝ているのかもしれない。
プロ入り後、しばらくは寮暮らしだったが、オレは少し前から一人暮らしを始めたのだった。猪狩は相変わらずの実家暮らしであったので、たびたびオレの部屋にやって来るのだった。どうやらオレの様子を見て一人暮らしの気ままさに惹かれている節もあるようだったが、猪狩が一人暮らしをするなど言語道断である。一体何が起こるのか、想像するだけで恐ろしい。だったらもう一緒に住んでしまえばいいような気もするのだが、なんとなく言う機会を逃し続けて今日まで来ている。だって、同居の提案なんて、それはつまり同棲ということになる。恋人に向かって同棲を提案すること、それすなわち。
「猪狩」
やはり猪狩は寝室にいるのだった。戸を開けると、ベッドへ横になる猪狩が背を向けている。オレが声を掛けても全く気が付かないらしい。なんだか様子がおかしいと思ってオレは猪狩の方へ近付こうとして、足を止めた。背を向ける猪狩は、浅い息をついて時折鼻から抜けるような声を出しているのだった。それはまるで、喘ぎ声のような。さらに、もぞもぞと動く左手は、どうやら下半身へ伸ばされている。これは、まさか。まさか。
猪狩が、オレの部屋でオナニーしてる!!
声にならない叫びが頭の中を駆け巡る。猪狩は気付かない。オレが帰ってきたことにも、部屋に入ってきたことにも気が付かないほど、集中しているのだろうか。どうしたものか、呆然と立ち尽くしたまま、それでも視線は猪狩から逸らせない。猪狩は左利きだから、ナニも左でするんだなあ。そんな馬鹿なことを考えている。もはや思考停止だ。これは本当に現実だろうか。
しかも、猪狩が右手で掴んでいるのは、どうやらオレが寝巻きに着ているスウェットらしかった。脱ぎっぱなしでほかってあったそれを、猪狩は掴んだまま顔を埋めていた。それを認めた瞬間、オレは一気に顔に熱が集まって、火が出そうな思いであった。あれっていつから洗濯してないんだっけ、洗濯してないオレのスウェットをオカズにしている猪狩、もはや恥ずかしいのやら興奮しているのやら、めちゃくちゃだ。もう何も考えられない。だから、気が付いたら手が伸びていた。ジーンズのジッパーを下ろし、自らのものを手を伸ばす。そこは何もしていないのにすっかり立ち上がっていて、オレはそのまま上下にしごいた。それでも猪狩はまだ、気付かない。
オナニーしている猪狩、それを見て、オナニーしているオレ。全くの非日常、ある種の異様な状況にオレはどうしようもなく興奮していた。オレは変態だったのかもしれない。だが、恋人のあらぬ痴態を前にして、欲情しない男などいるのだろうか。
猪狩の浅い息遣いと、密やかな、それでいていやらしい音が響いていた。猪狩は先走りでねっとりと濡れるタチであったので、きっと今もそこはぬるぬるしていて気持ちがいいのだろう。そんなことを思うだけで、オレは今にも暴発してしまいそうだった。猪狩も、オナニーするんだな。性欲、あるんじゃん。オレのスウェットがオカズって、どうなの。猪狩、気持ちいいのか。
そんなことを考えながら、オレは一歩、また一歩と猪狩の方へ近付いていく。猪狩。猪狩。
「猪狩」
いつの間にか、声に出ていた。さすがに気が付いた猪狩が、勢い良く振り返って顔を上げる。その顔を見た瞬間、オレは限界まで高まっていた熱を一気に解き放っていた。
………
「猪狩」
「……」
「いーかーり」
「……」
「ごめんって。なあ。悪かったよ」
「……」
オナニーを見られた上、いきなり顔面にぶっかけられた猪狩は、あまりのことに初めは放心状態であったが、状況を理解した途端固まって一切動かなくなってしまった。お決まりのイヤミも小言も出てこない。これは大変だ、オレは慌ててタオルを引っ掴んで猪狩の顔を綺麗に拭いて、丁寧に謝罪をした上で話し掛けているのだが、猪狩は布団の中で丸まったまま出てこない。天の岩戸状態である。もうかれこれ十数分、膠着状態だ。
「猪狩」
「……」
「ごめんって、ほんと」
「それは何に対して謝っているんだ」
「あ、やっと喋った」
「……」
「猪狩、オナニーの邪魔してごめんな」
「キミは、本当にデリカシーがないな!」
がばり、布団から飛び出した猪狩は、怒っているようだったが、それにしてはあまりに迫力がない。いつもきりりと上がっている凛々しい眉は、ふにゃんと曲がっていた。
「ほんっとう、ごめん!」
「……」
「あれ、猪狩のもうおさまってる」
「バカ、触るな!」
目の前にあったので、猪狩の下着の上からそれを触ると、すっかり萎えてしまっているようだった。柔らかいそこを布の上から扱くと、猪狩はまた静かになってしまった。寸止めされた苦しさを、オレは同じ男としてイヤというほど理解するのだった。
「猪狩」
「……」
「猪狩…」
お詫びの気持ちも込めて、オレは猪狩に口付けた。ぴったりと唇を合わせ、そのまま舌を差し入れると、猪狩は素直に応じるのだった。キスをしながら、手は猪狩のものを揉みしだいている。柔らかかったそこはすぐに芯を持って固くなり、オレは猪狩のものを手の平で優しく扱いた。
「ごめんな。今度は一緒に、いっぱい気持ち良くなろうな」
「ん…」
いつにもなく素直に身を預けてきた猪狩が嬉しくて、オレは大きな声で言った。
「よし、まずは一発、猪狩のを抜いてやるからな!」
直後、ものすごい勢いでビンタが飛んできたのは、言うまでもない。夜はまだ、これからだ。
了
ーーーーーーーーー
趣味は丸出しにしていくものだ
久々にえっちなの書きました 主守〜
家に帰ると、玄関に猪狩の靴があった。オレのように適当に脱ぎ散らかしたりせず、きちんと揃えてある様はいかにも猪狩の所作であった。合鍵を渡してあるので別にいつ来てもいいのだが、それにしても猪狩は気まぐれだ。確か、今日は誘いの連絡を入れたら断られたのではなかったっけ。だから他の友人と飲んで来た帰りなわけであるが、結果として二軒目には行ずに直帰したのは正解だったようだ。待たされたことにヘソを曲げる猪狩の顔は安易に想像が出来た。オレの誘いを初めに断ったのは自分の方であるにも関わらず、だ。猪狩のわがままは昔からであるので、オレはもうたいして気にもならない。
猪狩とは、これでもう結構な付き合いになる。高校生の頃から続くこの関係は、果たしてなんという名前を付ければ良いのやら。猪狩とは友人で、ライバルで、チームメイトで、いつの間にかそういう関係になっていて、そういう関係というのはつまり、そういう関係のことだ。淡白な猪狩は自分から求めるようなことはなかったが、オレからの誘いを断ることもまた、ないのだった。天才というのは、性欲もないものなのか。猪狩は昔から色恋に疎く、野球が恋人といった風情があった。猪狩とするときは、いつもオレから誘うのがお決まりのパターンであった。
「おーい、猪狩」
リビングの戸を開けると明かりは付いていたが、そこに猪狩の姿はなかった。洗面所にはいないようだったので、あとは寝室の方だろうか。時間も時間なので、寝ているのかもしれない。
プロ入り後、しばらくは寮暮らしだったが、オレは少し前から一人暮らしを始めたのだった。猪狩は相変わらずの実家暮らしであったので、たびたびオレの部屋にやって来るのだった。どうやらオレの様子を見て一人暮らしの気ままさに惹かれている節もあるようだったが、猪狩が一人暮らしをするなど言語道断である。一体何が起こるのか、想像するだけで恐ろしい。だったらもう一緒に住んでしまえばいいような気もするのだが、なんとなく言う機会を逃し続けて今日まで来ている。だって、同居の提案なんて、それはつまり同棲ということになる。恋人に向かって同棲を提案すること、それすなわち。
「猪狩」
やはり猪狩は寝室にいるのだった。戸を開けると、ベッドへ横になる猪狩が背を向けている。オレが声を掛けても全く気が付かないらしい。なんだか様子がおかしいと思ってオレは猪狩の方へ近付こうとして、足を止めた。背を向ける猪狩は、浅い息をついて時折鼻から抜けるような声を出しているのだった。それはまるで、喘ぎ声のような。さらに、もぞもぞと動く左手は、どうやら下半身へ伸ばされている。これは、まさか。まさか。
猪狩が、オレの部屋でオナニーしてる!!
声にならない叫びが頭の中を駆け巡る。猪狩は気付かない。オレが帰ってきたことにも、部屋に入ってきたことにも気が付かないほど、集中しているのだろうか。どうしたものか、呆然と立ち尽くしたまま、それでも視線は猪狩から逸らせない。猪狩は左利きだから、ナニも左でするんだなあ。そんな馬鹿なことを考えている。もはや思考停止だ。これは本当に現実だろうか。
しかも、猪狩が右手で掴んでいるのは、どうやらオレが寝巻きに着ているスウェットらしかった。脱ぎっぱなしでほかってあったそれを、猪狩は掴んだまま顔を埋めていた。それを認めた瞬間、オレは一気に顔に熱が集まって、火が出そうな思いであった。あれっていつから洗濯してないんだっけ、洗濯してないオレのスウェットをオカズにしている猪狩、もはや恥ずかしいのやら興奮しているのやら、めちゃくちゃだ。もう何も考えられない。だから、気が付いたら手が伸びていた。ジーンズのジッパーを下ろし、自らのものを手を伸ばす。そこは何もしていないのにすっかり立ち上がっていて、オレはそのまま上下にしごいた。それでも猪狩はまだ、気付かない。
オナニーしている猪狩、それを見て、オナニーしているオレ。全くの非日常、ある種の異様な状況にオレはどうしようもなく興奮していた。オレは変態だったのかもしれない。だが、恋人のあらぬ痴態を前にして、欲情しない男などいるのだろうか。
猪狩の浅い息遣いと、密やかな、それでいていやらしい音が響いていた。猪狩は先走りでねっとりと濡れるタチであったので、きっと今もそこはぬるぬるしていて気持ちがいいのだろう。そんなことを思うだけで、オレは今にも暴発してしまいそうだった。猪狩も、オナニーするんだな。性欲、あるんじゃん。オレのスウェットがオカズって、どうなの。猪狩、気持ちいいのか。
そんなことを考えながら、オレは一歩、また一歩と猪狩の方へ近付いていく。猪狩。猪狩。
「猪狩」
いつの間にか、声に出ていた。さすがに気が付いた猪狩が、勢い良く振り返って顔を上げる。その顔を見た瞬間、オレは限界まで高まっていた熱を一気に解き放っていた。
………
「猪狩」
「……」
「いーかーり」
「……」
「ごめんって。なあ。悪かったよ」
「……」
オナニーを見られた上、いきなり顔面にぶっかけられた猪狩は、あまりのことに初めは放心状態であったが、状況を理解した途端固まって一切動かなくなってしまった。お決まりのイヤミも小言も出てこない。これは大変だ、オレは慌ててタオルを引っ掴んで猪狩の顔を綺麗に拭いて、丁寧に謝罪をした上で話し掛けているのだが、猪狩は布団の中で丸まったまま出てこない。天の岩戸状態である。もうかれこれ十数分、膠着状態だ。
「猪狩」
「……」
「ごめんって、ほんと」
「それは何に対して謝っているんだ」
「あ、やっと喋った」
「……」
「猪狩、オナニーの邪魔してごめんな」
「キミは、本当にデリカシーがないな!」
がばり、布団から飛び出した猪狩は、怒っているようだったが、それにしてはあまりに迫力がない。いつもきりりと上がっている凛々しい眉は、ふにゃんと曲がっていた。
「ほんっとう、ごめん!」
「……」
「あれ、猪狩のもうおさまってる」
「バカ、触るな!」
目の前にあったので、猪狩の下着の上からそれを触ると、すっかり萎えてしまっているようだった。柔らかいそこを布の上から扱くと、猪狩はまた静かになってしまった。寸止めされた苦しさを、オレは同じ男としてイヤというほど理解するのだった。
「猪狩」
「……」
「猪狩…」
お詫びの気持ちも込めて、オレは猪狩に口付けた。ぴったりと唇を合わせ、そのまま舌を差し入れると、猪狩は素直に応じるのだった。キスをしながら、手は猪狩のものを揉みしだいている。柔らかかったそこはすぐに芯を持って固くなり、オレは猪狩のものを手の平で優しく扱いた。
「ごめんな。今度は一緒に、いっぱい気持ち良くなろうな」
「ん…」
いつにもなく素直に身を預けてきた猪狩が嬉しくて、オレは大きな声で言った。
「よし、まずは一発、猪狩のを抜いてやるからな!」
直後、ものすごい勢いでビンタが飛んできたのは、言うまでもない。夜はまだ、これからだ。
了
ーーーーーーーーー
趣味は丸出しにしていくものだ
久々にえっちなの書きました 主守〜
Happy Yellow
Happy Yellow (友沢亮)
「えっ。友沢の髪って地毛なの!?」
「そうだよ。なんだと思ってたんだ」
「てっきり、染めてるもんだと」
「どこにそんな金と時間があるんだよ」
「確かに…」
パワプロは得心顔をしながら、まじまじと自分の頭を眺めている。真剣な眼差しは友沢を落ち着かない気分にさせ、手持ち無沙汰に視線を泳がせた。逸らされることのない真っ直ぐな視線が、普段余計なことを言わない友沢の口をさらに開かせる。
「お前、朋恵や翔太も見てるだろ」
「確かに!朋恵ちゃんも翔太くんも、きれいな髪だもんな」
羨ましいなあ。隣を歩く男はそんな呑気なことを言っている。「羨ましい」、その言葉がどの意味に掛かるものなのか友沢は考える。一人っ子ゆえに兄妹が羨ましいという意味なのか、それともこの髪色のことなのか。友沢は毎日幼い兄妹の迎えに行くのだが、パワプロもたびたび幼稚園まで着いて来るのだった。今では朋恵も翔太もすっかり懐いてしまった。
それにしても、この髪で良かったことなんて今までにひとつもなかった。大袈裟に言えば、苦労の連続だ。教師や上級生には真っ先に目を付けられたし、時には不良に絡まれることもあった。あんまりそんなことが続いたので、友沢は一時期合気道を習っていたほどだ。
父も母も色素が薄く、特に髪の色は黄色に近い茶であった。その遺伝子を特に強く受け継いだらしい自分の髪は日本人離れした明るい色だ。太陽の下、日に当たるとそれはまるで金色のようにも見えた。
「いいなあ」
「何が」
「友沢の髪」
「どこが」
「だって、めっちゃ綺麗じゃん!」
真っ直ぐこちらを見て、あんまりきらきらした目で言うものだから、友沢はつい、笑ってしまった。笑われた男は、憮然とした顔で唇を突き出してみせた。
「なんで笑うの」
「いや、悪い。面白くて」
監督の都合で、早く終わった部活動の帰り道。たまの休みにお互い浮かれているのか、妙に賑やかな帰路だった。だから友沢は思わず「触ってみるか」などと言ってしまったに違いない。それに嬉々として応えた男に、友沢は自分の髪を誇らしく、幸運だと思うのだった。
了
ーーーーーーー
イエローイエローハッピー!
「えっ。友沢の髪って地毛なの!?」
「そうだよ。なんだと思ってたんだ」
「てっきり、染めてるもんだと」
「どこにそんな金と時間があるんだよ」
「確かに…」
パワプロは得心顔をしながら、まじまじと自分の頭を眺めている。真剣な眼差しは友沢を落ち着かない気分にさせ、手持ち無沙汰に視線を泳がせた。逸らされることのない真っ直ぐな視線が、普段余計なことを言わない友沢の口をさらに開かせる。
「お前、朋恵や翔太も見てるだろ」
「確かに!朋恵ちゃんも翔太くんも、きれいな髪だもんな」
羨ましいなあ。隣を歩く男はそんな呑気なことを言っている。「羨ましい」、その言葉がどの意味に掛かるものなのか友沢は考える。一人っ子ゆえに兄妹が羨ましいという意味なのか、それともこの髪色のことなのか。友沢は毎日幼い兄妹の迎えに行くのだが、パワプロもたびたび幼稚園まで着いて来るのだった。今では朋恵も翔太もすっかり懐いてしまった。
それにしても、この髪で良かったことなんて今までにひとつもなかった。大袈裟に言えば、苦労の連続だ。教師や上級生には真っ先に目を付けられたし、時には不良に絡まれることもあった。あんまりそんなことが続いたので、友沢は一時期合気道を習っていたほどだ。
父も母も色素が薄く、特に髪の色は黄色に近い茶であった。その遺伝子を特に強く受け継いだらしい自分の髪は日本人離れした明るい色だ。太陽の下、日に当たるとそれはまるで金色のようにも見えた。
「いいなあ」
「何が」
「友沢の髪」
「どこが」
「だって、めっちゃ綺麗じゃん!」
真っ直ぐこちらを見て、あんまりきらきらした目で言うものだから、友沢はつい、笑ってしまった。笑われた男は、憮然とした顔で唇を突き出してみせた。
「なんで笑うの」
「いや、悪い。面白くて」
監督の都合で、早く終わった部活動の帰り道。たまの休みにお互い浮かれているのか、妙に賑やかな帰路だった。だから友沢は思わず「触ってみるか」などと言ってしまったに違いない。それに嬉々として応えた男に、友沢は自分の髪を誇らしく、幸運だと思うのだった。
了
ーーーーーーー
イエローイエローハッピー!
空が青すぎて
空が青すぎて (主人公×友沢亮)
友沢の髪は、見た目よりも意外と柔らかい。そういうことに気付いたのは、最近になってからだ。髪が立っているのは、寝癖を直していないだけなのだということも知った。イケメンというのはこんなところまでずるいのだ、寝癖がそのまま丁寧にセットされた髪型のように見えるのだから。そんなことを考えながらこねくり回していると、うっとうしそうな顔をした友沢が言う。
「やめろ」
しかし、その声には存外に迫力がない。これも最近のオレが知ったこと。友沢は、触られることがきらいではない。むしろ、こういったスキンシップを好ましく思っているようだ。かわいいなあ。思わず、グラウンドでよく見かける犬にするみたいに顎の辺りを撫でると、さすがに友沢から抗議の声が上がった。
「やめろ。オレは犬じゃない」
でもオレは知っている。オレが犬の首元を撫でて一緒に遊んでいるとき、友沢がもの欲しそうな目でこちらを見ていることを。だからオレは、友沢に何を言われてもにこにこするほかないのだ。
髪を触って顎を撫でてその首元に手を置いたその瞬間、オレは勢いよく引っ張られて驚いた。瞬きするうちに唇が重なっている。すぐに離れて、もう一度。犬に噛まれたようなキスに、オレは目を白黒させる。
「友沢、ここ、外だぞ。あと、部活の休憩中」
友沢は知らん顔している。二人して地べたに座っているから、さながらお座りのポーズだ。オレは躾がなっていないので、そっぽを向く友沢の顔を捕まえて、その唇に噛み付いた。
了
ーーーーーー
私の書く友沢くん堪え性なさすぎるな
友沢の髪は、見た目よりも意外と柔らかい。そういうことに気付いたのは、最近になってからだ。髪が立っているのは、寝癖を直していないだけなのだということも知った。イケメンというのはこんなところまでずるいのだ、寝癖がそのまま丁寧にセットされた髪型のように見えるのだから。そんなことを考えながらこねくり回していると、うっとうしそうな顔をした友沢が言う。
「やめろ」
しかし、その声には存外に迫力がない。これも最近のオレが知ったこと。友沢は、触られることがきらいではない。むしろ、こういったスキンシップを好ましく思っているようだ。かわいいなあ。思わず、グラウンドでよく見かける犬にするみたいに顎の辺りを撫でると、さすがに友沢から抗議の声が上がった。
「やめろ。オレは犬じゃない」
でもオレは知っている。オレが犬の首元を撫でて一緒に遊んでいるとき、友沢がもの欲しそうな目でこちらを見ていることを。だからオレは、友沢に何を言われてもにこにこするほかないのだ。
髪を触って顎を撫でてその首元に手を置いたその瞬間、オレは勢いよく引っ張られて驚いた。瞬きするうちに唇が重なっている。すぐに離れて、もう一度。犬に噛まれたようなキスに、オレは目を白黒させる。
「友沢、ここ、外だぞ。あと、部活の休憩中」
友沢は知らん顔している。二人して地べたに座っているから、さながらお座りのポーズだ。オレは躾がなっていないので、そっぽを向く友沢の顔を捕まえて、その唇に噛み付いた。
了
ーーーーーー
私の書く友沢くん堪え性なさすぎるな
おやすみはもう少し後で
おやすみはもう少し後で
「猪狩。野球とオレどっちが好き?」
グラブの手入れをしていたところ、後ろから声を掛けられた。顔を上げると、いつの間に風呂から上がったのか、冷蔵庫を開けながらパワプロがこちらを見ている。こいつの入浴はいつだって烏の行水だ。
手元のグラブに視線を戻しながら、どうやら先程のテレビドラマの真似をしているに違いないと思い付いた。毎週月曜日、録画してまでパワプロが熱心に見ているそれ、今週は主人公とその恋人との仲が険悪になるシーンがあった。仕事と私、どっちが大切なの?ドラマの中で使われた台詞が反芻される。オイルを手に取りながら、ボクは答えた。
「野球」
「だよな〜」
そう言ったパワプロは、なぜだか嬉しそうにしながら牛乳を一気に飲み干すのだった。パックに口を付けてそのまま飲むなと何度も言っているのに、こいつは聞きもしない。飲み終えた牛乳パックを洗っているのか、ざあざあと水音がする。こういうところだけは昔からきちんとしているのだ。キュ、と蛇口の閉まる音がして、再び呼ばれる。
「猪狩」
その声色に含まれた意味を分かってしまう自分に息をつきながら、ボクは手入れの終わったグラブを置いて立ち上がった。
了
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野球が好きな猪狩守が好きな主人公
タイトル思い付かないやつぜんぶ無題にしたいし解説入れないと成り立たないポエムはマジのポエム
「猪狩。野球とオレどっちが好き?」
グラブの手入れをしていたところ、後ろから声を掛けられた。顔を上げると、いつの間に風呂から上がったのか、冷蔵庫を開けながらパワプロがこちらを見ている。こいつの入浴はいつだって烏の行水だ。
手元のグラブに視線を戻しながら、どうやら先程のテレビドラマの真似をしているに違いないと思い付いた。毎週月曜日、録画してまでパワプロが熱心に見ているそれ、今週は主人公とその恋人との仲が険悪になるシーンがあった。仕事と私、どっちが大切なの?ドラマの中で使われた台詞が反芻される。オイルを手に取りながら、ボクは答えた。
「野球」
「だよな〜」
そう言ったパワプロは、なぜだか嬉しそうにしながら牛乳を一気に飲み干すのだった。パックに口を付けてそのまま飲むなと何度も言っているのに、こいつは聞きもしない。飲み終えた牛乳パックを洗っているのか、ざあざあと水音がする。こういうところだけは昔からきちんとしているのだ。キュ、と蛇口の閉まる音がして、再び呼ばれる。
「猪狩」
その声色に含まれた意味を分かってしまう自分に息をつきながら、ボクは手入れの終わったグラブを置いて立ち上がった。
了
ーーーーーーーーー
野球が好きな猪狩守が好きな主人公
タイトル思い付かないやつぜんぶ無題にしたいし解説入れないと成り立たないポエムはマジのポエム

