これは、慈愛
これは、慈愛(カイザース/主人公と猪狩進・猪狩守・友沢亮)
いつも朗らかに微笑んでいるその顔が、どこか陰りを帯びているように感じられたのは、いつのことだろう。その子の名前を進くんと言って、学生の頃からよく知っている猪狩の弟であった。猪狩と違って、進くんはかわいい。素直だ。料理も上手で、気立てもいい。そう言うと進くんは決まってほんのり頬を染めながら、そんなんじゃあないですよ、と謙遜する。そういうところだよ。そういう風に過ごして来たから、進くんの口からその名前を聞くようになったのも自然の成り行きであった。神童裕二郎。「日本が生んだ、世界のエース」とまで言われている人で、野球をしていて彼のことを知らない人はいない。そういう人と進くんが、バッテリーを組んでいたのも当然、知っていた。黄金バッテリーが解消されたのは、神童さんが渡米したためであった。その時のことを、進くんがぽつりぽつりと話したとき、ぽたりぽたり、一粒また一粒と涙が落ちていった。今まで誰にも言えなかった、もしかしたら進くん自身も気付いていなかった気持ちを一言ずつ絞り出すように話す声は、胸に痛かった。しばらくして落ち着いたあと、泣き腫らした目を恥ずかしがる進くんがまたいじらしかった。
ボクは天才だから、キミみたいな凡人とは一緒に練習なんてしたくないね。いつものようにそういうことを言っているのは、もちろん猪狩だ。こいつのことは学生の頃からよく知っている。縁というよりはもはや因縁めいていて、初めて会ったのは、通っていた高校近くの河原だ。ランニングしていたらしい猪狩の方からぶつかってきたのに謝りもしないから、腹が立った。ランニング中であるのにボールを持っていた猪狩と、バットを背負っていたオレがやることはひとつ。一打席勝負で、白黒つける。それ以来、猪狩とはたびたび顔を合わせることになった。後に、同じ地区の強豪校に所属していることが分かった猪狩とは、甲子園の切符をかけて戦ったこともある。互いにプロ入りをしてからも、猪狩は良くも悪くも目立っていたから、別のチームに所属していても話はよく聞いていた。それがひょんなことからチームメイトになったのだから、驚きだ。猪狩が、学生の頃から物言いや態度が全く変わっていないことも驚きである。猪狩は、今も昔も大層な努力家で、信じられないほどの練習量をこなしていた。一人がいいなんて言いながら、一人きりで居残り練習をする猪狩と共に時間を過ごすようになるまで、そう時間はかからなかった。
第一印象は、あんまり関わらない方がいいかもな、だった。それを言えばきっと、友沢は臍を曲げて不貞腐れるのだろう。ポーカーフェイスなどと評される彼の表情はあれで随分と分かりやすいものがあるのだが、世間と自分の評価は一致しない。入団してすぐにエースたる猪狩に喧嘩を売ったところや、生意気そうに見られがちな態度や振る舞い。その全部、一生懸命すぎるゆえの余裕のなさから来ているのだとオレが気付いたのは、友沢と出会って少し経った頃だった。普段は付き合いの悪い友沢だったが、飯を奢ると言うと目を輝かせて付いてくるものだから、初めはそれが少し面白くて、かわいらしかった。年相応のルーキーらしく、微笑ましい。しかし、食事を共にする時間の中で、彼が何を大切にしているのか、今までどんな経験をしてきたのか、断片的ではあるが、分るようになった。友沢は、誰よりも何よりも優しくて、家族思いだった。野球をしている理由もそうだと知ったとき、オレは彼に対する第一印象を詫びた。それを口にすると、友沢は分かりやすく口を尖らせて不貞腐れるものだから、オレは想像通りのそれに、思わず笑ってしまった。
「あの、パワプロさん」
「おい、パワプロ」
「ねえ、先輩」
呼ぶ声は見事に重なっていて、オレはどうしたのと笑って、三人を振り返った。
2022.12.20「これは、慈愛」
ーーーーーーーーー
地獄をイメージしながらしっぽりと書き上げました
ハッピーセットだね
いつも朗らかに微笑んでいるその顔が、どこか陰りを帯びているように感じられたのは、いつのことだろう。その子の名前を進くんと言って、学生の頃からよく知っている猪狩の弟であった。猪狩と違って、進くんはかわいい。素直だ。料理も上手で、気立てもいい。そう言うと進くんは決まってほんのり頬を染めながら、そんなんじゃあないですよ、と謙遜する。そういうところだよ。そういう風に過ごして来たから、進くんの口からその名前を聞くようになったのも自然の成り行きであった。神童裕二郎。「日本が生んだ、世界のエース」とまで言われている人で、野球をしていて彼のことを知らない人はいない。そういう人と進くんが、バッテリーを組んでいたのも当然、知っていた。黄金バッテリーが解消されたのは、神童さんが渡米したためであった。その時のことを、進くんがぽつりぽつりと話したとき、ぽたりぽたり、一粒また一粒と涙が落ちていった。今まで誰にも言えなかった、もしかしたら進くん自身も気付いていなかった気持ちを一言ずつ絞り出すように話す声は、胸に痛かった。しばらくして落ち着いたあと、泣き腫らした目を恥ずかしがる進くんがまたいじらしかった。
ボクは天才だから、キミみたいな凡人とは一緒に練習なんてしたくないね。いつものようにそういうことを言っているのは、もちろん猪狩だ。こいつのことは学生の頃からよく知っている。縁というよりはもはや因縁めいていて、初めて会ったのは、通っていた高校近くの河原だ。ランニングしていたらしい猪狩の方からぶつかってきたのに謝りもしないから、腹が立った。ランニング中であるのにボールを持っていた猪狩と、バットを背負っていたオレがやることはひとつ。一打席勝負で、白黒つける。それ以来、猪狩とはたびたび顔を合わせることになった。後に、同じ地区の強豪校に所属していることが分かった猪狩とは、甲子園の切符をかけて戦ったこともある。互いにプロ入りをしてからも、猪狩は良くも悪くも目立っていたから、別のチームに所属していても話はよく聞いていた。それがひょんなことからチームメイトになったのだから、驚きだ。猪狩が、学生の頃から物言いや態度が全く変わっていないことも驚きである。猪狩は、今も昔も大層な努力家で、信じられないほどの練習量をこなしていた。一人がいいなんて言いながら、一人きりで居残り練習をする猪狩と共に時間を過ごすようになるまで、そう時間はかからなかった。
第一印象は、あんまり関わらない方がいいかもな、だった。それを言えばきっと、友沢は臍を曲げて不貞腐れるのだろう。ポーカーフェイスなどと評される彼の表情はあれで随分と分かりやすいものがあるのだが、世間と自分の評価は一致しない。入団してすぐにエースたる猪狩に喧嘩を売ったところや、生意気そうに見られがちな態度や振る舞い。その全部、一生懸命すぎるゆえの余裕のなさから来ているのだとオレが気付いたのは、友沢と出会って少し経った頃だった。普段は付き合いの悪い友沢だったが、飯を奢ると言うと目を輝かせて付いてくるものだから、初めはそれが少し面白くて、かわいらしかった。年相応のルーキーらしく、微笑ましい。しかし、食事を共にする時間の中で、彼が何を大切にしているのか、今までどんな経験をしてきたのか、断片的ではあるが、分るようになった。友沢は、誰よりも何よりも優しくて、家族思いだった。野球をしている理由もそうだと知ったとき、オレは彼に対する第一印象を詫びた。それを口にすると、友沢は分かりやすく口を尖らせて不貞腐れるものだから、オレは想像通りのそれに、思わず笑ってしまった。
「あの、パワプロさん」
「おい、パワプロ」
「ねえ、先輩」
呼ぶ声は見事に重なっていて、オレはどうしたのと笑って、三人を振り返った。
2022.12.20「これは、慈愛」
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地獄をイメージしながらしっぽりと書き上げました
ハッピーセットだね
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金木犀
金木犀(友沢亮)
自分がうんと幼かった頃、不安や不都合を感じたことがなかった。父と母がいて、そのうち朋恵と翔太が生まれ、家族仲はとても良かった。みんな笑っていて幸せだったが、ある日父親が蒸発していなくなった。自分が、中学生の時の話だ。
そうして高校に上がり、自分は相変わらず野球を続けていた。もともとプロ志望ではあったものの、それはもう夢というより実現すべき課題であった。自分は、プロ入りしなくてはならない。いなくなった父の代わりに、病床に伏す母に代わって、朋恵を、翔太を、家族を養って幸せにしなければならない。そう思うたび投げ込みの量もバイトのシフトも増えていったが、それは大変というよりはむしろ遣り甲斐が大きくなったと感じるばかりで、疲れた身体と裏腹に友沢は誇らしい気持ちであった。
そうした努力がようやく芽吹いて、友沢はプロ入り確実とまで言われるほどのピッチャーに成長した。嬉しかった。努力は身を結ぶということを自分の手で証明出来たことが、何より嬉しかった。それに比例するように、友沢の練習量はさらに増し続けた。肘が壊れて投げられなくなる、その瞬間まで。
蕾がいつか花開くように、努力は必ず実を結ぶ。そんなことは断じてなくて、花が開く前に友沢の芽は呆気なく摘み取られた。それでも、今日が終われば明日がやってくる。絶望しても失望しても泣いていたって腹は減った。友沢はまた、バットを持った。
そうして、血が滲むだの、泥水を啜るだの、月並みな表現の内の努力を以って、友沢はようやくプロ入りの切符を掴み取った。努力に裏切られた友沢は、さらなる努力を重ねた。だから、これでひとまずは安心だと思った気の緩みがいけなかったのかもしれない。プロ入りをしたその球団、チームメイト、もっと正確に言うなら先輩を、友沢は好きになった。
家族に抱くような好意とは全く異なるそれは、時に暴力的なまでに友沢の心を支配した。こんな気持ちは、知らない。知らなかったから、友沢は知っていることで補おうと試みた。幼少期より続けてきた努力という誠意でその人に対峙した。自分には、それしかなかった。だがそれもきっと、近い将来無駄になるのだろう。自分がどれだけ好意を寄せようと、その先輩が振り向いてくれることはありそうになかった。
困難が降りかかった時、壁に当たった時、友沢はいつだってさらなる努力を重ねることでそれを克服して来た。生きている限りそれは続くのだろう。そしてそれが報われない結果に終わることは、これから先もいくらでもあるにちがいない。そんな目にどれだけ遭おうとも、平気な顔をして通り過ぎていけば良いのだ。
そうしていつもの道をランニングしていた友沢の鼻をくすぐるのは、金木犀だった。父と公園でキャッチボールをした帰り道に、よく嗅いだ匂いだった。隣に父はいなくても、季節は巡り、今年も金木犀が咲いている。自分はこれからも生きていく。
嬉しいことも悲しいことも、時間がすべて連れて行ってくれるから。
了
ーーーーーーーーーー
すごく悲しい気持ちになったので、友沢くんに代弁してもらいました。ごめんね。
自分がうんと幼かった頃、不安や不都合を感じたことがなかった。父と母がいて、そのうち朋恵と翔太が生まれ、家族仲はとても良かった。みんな笑っていて幸せだったが、ある日父親が蒸発していなくなった。自分が、中学生の時の話だ。
そうして高校に上がり、自分は相変わらず野球を続けていた。もともとプロ志望ではあったものの、それはもう夢というより実現すべき課題であった。自分は、プロ入りしなくてはならない。いなくなった父の代わりに、病床に伏す母に代わって、朋恵を、翔太を、家族を養って幸せにしなければならない。そう思うたび投げ込みの量もバイトのシフトも増えていったが、それは大変というよりはむしろ遣り甲斐が大きくなったと感じるばかりで、疲れた身体と裏腹に友沢は誇らしい気持ちであった。
そうした努力がようやく芽吹いて、友沢はプロ入り確実とまで言われるほどのピッチャーに成長した。嬉しかった。努力は身を結ぶということを自分の手で証明出来たことが、何より嬉しかった。それに比例するように、友沢の練習量はさらに増し続けた。肘が壊れて投げられなくなる、その瞬間まで。
蕾がいつか花開くように、努力は必ず実を結ぶ。そんなことは断じてなくて、花が開く前に友沢の芽は呆気なく摘み取られた。それでも、今日が終われば明日がやってくる。絶望しても失望しても泣いていたって腹は減った。友沢はまた、バットを持った。
そうして、血が滲むだの、泥水を啜るだの、月並みな表現の内の努力を以って、友沢はようやくプロ入りの切符を掴み取った。努力に裏切られた友沢は、さらなる努力を重ねた。だから、これでひとまずは安心だと思った気の緩みがいけなかったのかもしれない。プロ入りをしたその球団、チームメイト、もっと正確に言うなら先輩を、友沢は好きになった。
家族に抱くような好意とは全く異なるそれは、時に暴力的なまでに友沢の心を支配した。こんな気持ちは、知らない。知らなかったから、友沢は知っていることで補おうと試みた。幼少期より続けてきた努力という誠意でその人に対峙した。自分には、それしかなかった。だがそれもきっと、近い将来無駄になるのだろう。自分がどれだけ好意を寄せようと、その先輩が振り向いてくれることはありそうになかった。
困難が降りかかった時、壁に当たった時、友沢はいつだってさらなる努力を重ねることでそれを克服して来た。生きている限りそれは続くのだろう。そしてそれが報われない結果に終わることは、これから先もいくらでもあるにちがいない。そんな目にどれだけ遭おうとも、平気な顔をして通り過ぎていけば良いのだ。
そうしていつもの道をランニングしていた友沢の鼻をくすぐるのは、金木犀だった。父と公園でキャッチボールをした帰り道に、よく嗅いだ匂いだった。隣に父はいなくても、季節は巡り、今年も金木犀が咲いている。自分はこれからも生きていく。
嬉しいことも悲しいことも、時間がすべて連れて行ってくれるから。
了
ーーーーーーーーーー
すごく悲しい気持ちになったので、友沢くんに代弁してもらいました。ごめんね。
夏のおわりに
夏のおわりに(東條と猛田)
「どうした、食べないのか」
「いや、食うけど」
何食わぬ顔でスプーンを口に運ぶ東條を見ながら、猛田も彼にならってスプーンを手に取った。山盛りの氷に緑色のシロップがたっぷりとかかって、さらに仕上げとばかりにぐるりと練乳が乗っている。ごくりと唾を飲み込んで、大きめのスプーンですくい上げたカキ氷を頬張る。冷たいそれは運動後の火照った体に心地よく、一口食べると目の前の東條のことなんてすぐにどうでも良くなって、猛田は夢中でスプーンを動かした。冷たい氷に頭がキンと痛む。
「そんなに慌てなくても、氷は逃げないぞ」
珍しく穏やかな顔で微笑んでみせた東條に、この頭の痛みは決して氷のせいだけではないだろうと猛田は考えていた。
ことの発端は、偶然居合わせてしまったバッティングセンターから始まる。休日の日課として猛田には毎週通っているバッティングセンターがあるのだが、運悪くそこで東條と出くわしてしまったのだ。予想外の人物にどうすればいいのか分からず、まずはいつもの通り喧嘩を売り、気が付けばそのまま勝負をすることになっていた。どうせ勝負をするのなら何か賭けねば面白くない、そんなことを言いだしたのは一体どちらだったか。売り言葉に買い言葉、今となっては記憶もはっきりしないが、特に思い出す必要もないだろう。
つまり、この氷は猛田が勝利した報酬であった。もちろん代金を払うのは東條である。バッティング勝負に勝った猛田は、分かりやすく何か奢ってもらうことにしたのだった。
「ここにはよく来るのか?」
「ん、ああ」
氷を口に運びながらゆったりとした口調で尋ねてくる東條にどこか居心地の悪さを感じながら、猛田はごまかすように氷を頬張った。思い返してみれば、こんな風に二人でゆっくりと話す機会など今までなかったので、どうしていればいいのか分からない。東條と一緒にいると、猛田はいつも言いたいことの半分も言えなくなってしまうのだった。
だいたい、ここは猛田馴染みの喫茶店であるはずなのに、どうにも落ち着かない。バッティングセンターへ寄った後、ここで甘味を食べて帰るのが猛田の習慣であり、密かな楽しみであった。本来ならば、普段通りパワフルデラックスパフェを食べるつもりだったが、東條の手前やめておいた。べつに東條の財布に気を気を使ったわけではない、男なのにそんなものを頼むのかとからかわれるのがイヤだっただけだ。しかし、東條はそんな猛田の気持ちなど知る由もなく、のんびりと氷を食べている。意外だが、どうやら東條も甘いものが好きなようだ。
「……イチゴ、好きなのかよ」
「ん?」
「やっぱ、なんでもない!」
東條の食べているそれは、赤いシロップがたっぷりかかったイチゴ味だった。東條とイチゴ味、意外だなと、ただ単純にそう思っただけだ。猛田は残りの氷を一気にかきこみながら、東條と赤色の組み合わせは本当に似合わないと一人で納得をした。
「待たせたな」
「べつに」
会計を終えた東條が店から出てきたので、一足先に外で待っていた猛田はさっさと歩き出した。振り返って一言礼を言うと、東條は少しだけ驚いたような顔をしてから笑った。びっくりした猛田は思わず足を止めてしまったのだが、東條が構わず歩いていくのでどぎまぎしながらそれに続いた。
夕焼けに染まる空を見上げていると、なんだか途端に寂しいような不思議な気持ちが胸を満たして、猛田はそんなことあるはずがないと首を振った。東條とここで別れることが寂しいだなんて、そんなことこれっぽっちもあるわけがない。ただもう少し体を動かし足りないと思っただけだ。
「おい、猛田」
ぼんやり歩いているといつの間に隣にいたのか、東條の顔がすぐそばにあった。心底びっくりした猛田は変な声を出して、飛び退いたついでにあやうくひっくり返りそうになった。なんだよとわざと機嫌悪く答えると、なぜだか東條は笑っている。
「お前、この後時間あるか」
「あるけど……なんだよ」
「一緒に練習して帰らないか」
「練習って……じきに日も暮れるぞ」
「まだボールは見えるだろう」
なんだか物足りないような顔をしているしな。どうやらすべてを見透かされているらしい、東條はさらりと言うと猛田のことなど構うことなく再び歩き出した。そんなに自分は分かりやすいだろうか。こいつのこういうところが苦手なのだと猛田は思ったが、確かに体を動かしたいのは本当だったので何も言い返さなかった。
「東條、お前また負けたら奢りだからな」
「問題ない。次に勝つのはオレだ」
「ぜってえ、次も負けねえ!」
二人分の声が夕暮れに溶けていく。猛田が嬉しそうに笑っているのを見て、東條もまた笑っていた。
了
ーーーーーーーー
約九年ほど前に、お世話になった方へ向けてこっそり書かせてもらったものでした。
その節は大変お世話になりました。
あっという間に時間が過ぎてしまいましたが、お元気でいらっしゃいますでしょうか。
当時、楽しくお話させてもらったことを思い出しながら、このたび掲載させていただきました。
またいつかどこかで、一緒に猛田くんのお話が出来たら嬉しいなあと、ささやかな祈りを込めて。
「どうした、食べないのか」
「いや、食うけど」
何食わぬ顔でスプーンを口に運ぶ東條を見ながら、猛田も彼にならってスプーンを手に取った。山盛りの氷に緑色のシロップがたっぷりとかかって、さらに仕上げとばかりにぐるりと練乳が乗っている。ごくりと唾を飲み込んで、大きめのスプーンですくい上げたカキ氷を頬張る。冷たいそれは運動後の火照った体に心地よく、一口食べると目の前の東條のことなんてすぐにどうでも良くなって、猛田は夢中でスプーンを動かした。冷たい氷に頭がキンと痛む。
「そんなに慌てなくても、氷は逃げないぞ」
珍しく穏やかな顔で微笑んでみせた東條に、この頭の痛みは決して氷のせいだけではないだろうと猛田は考えていた。
ことの発端は、偶然居合わせてしまったバッティングセンターから始まる。休日の日課として猛田には毎週通っているバッティングセンターがあるのだが、運悪くそこで東條と出くわしてしまったのだ。予想外の人物にどうすればいいのか分からず、まずはいつもの通り喧嘩を売り、気が付けばそのまま勝負をすることになっていた。どうせ勝負をするのなら何か賭けねば面白くない、そんなことを言いだしたのは一体どちらだったか。売り言葉に買い言葉、今となっては記憶もはっきりしないが、特に思い出す必要もないだろう。
つまり、この氷は猛田が勝利した報酬であった。もちろん代金を払うのは東條である。バッティング勝負に勝った猛田は、分かりやすく何か奢ってもらうことにしたのだった。
「ここにはよく来るのか?」
「ん、ああ」
氷を口に運びながらゆったりとした口調で尋ねてくる東條にどこか居心地の悪さを感じながら、猛田はごまかすように氷を頬張った。思い返してみれば、こんな風に二人でゆっくりと話す機会など今までなかったので、どうしていればいいのか分からない。東條と一緒にいると、猛田はいつも言いたいことの半分も言えなくなってしまうのだった。
だいたい、ここは猛田馴染みの喫茶店であるはずなのに、どうにも落ち着かない。バッティングセンターへ寄った後、ここで甘味を食べて帰るのが猛田の習慣であり、密かな楽しみであった。本来ならば、普段通りパワフルデラックスパフェを食べるつもりだったが、東條の手前やめておいた。べつに東條の財布に気を気を使ったわけではない、男なのにそんなものを頼むのかとからかわれるのがイヤだっただけだ。しかし、東條はそんな猛田の気持ちなど知る由もなく、のんびりと氷を食べている。意外だが、どうやら東條も甘いものが好きなようだ。
「……イチゴ、好きなのかよ」
「ん?」
「やっぱ、なんでもない!」
東條の食べているそれは、赤いシロップがたっぷりかかったイチゴ味だった。東條とイチゴ味、意外だなと、ただ単純にそう思っただけだ。猛田は残りの氷を一気にかきこみながら、東條と赤色の組み合わせは本当に似合わないと一人で納得をした。
「待たせたな」
「べつに」
会計を終えた東條が店から出てきたので、一足先に外で待っていた猛田はさっさと歩き出した。振り返って一言礼を言うと、東條は少しだけ驚いたような顔をしてから笑った。びっくりした猛田は思わず足を止めてしまったのだが、東條が構わず歩いていくのでどぎまぎしながらそれに続いた。
夕焼けに染まる空を見上げていると、なんだか途端に寂しいような不思議な気持ちが胸を満たして、猛田はそんなことあるはずがないと首を振った。東條とここで別れることが寂しいだなんて、そんなことこれっぽっちもあるわけがない。ただもう少し体を動かし足りないと思っただけだ。
「おい、猛田」
ぼんやり歩いているといつの間に隣にいたのか、東條の顔がすぐそばにあった。心底びっくりした猛田は変な声を出して、飛び退いたついでにあやうくひっくり返りそうになった。なんだよとわざと機嫌悪く答えると、なぜだか東條は笑っている。
「お前、この後時間あるか」
「あるけど……なんだよ」
「一緒に練習して帰らないか」
「練習って……じきに日も暮れるぞ」
「まだボールは見えるだろう」
なんだか物足りないような顔をしているしな。どうやらすべてを見透かされているらしい、東條はさらりと言うと猛田のことなど構うことなく再び歩き出した。そんなに自分は分かりやすいだろうか。こいつのこういうところが苦手なのだと猛田は思ったが、確かに体を動かしたいのは本当だったので何も言い返さなかった。
「東條、お前また負けたら奢りだからな」
「問題ない。次に勝つのはオレだ」
「ぜってえ、次も負けねえ!」
二人分の声が夕暮れに溶けていく。猛田が嬉しそうに笑っているのを見て、東條もまた笑っていた。
了
ーーーーーーーー
約九年ほど前に、お世話になった方へ向けてこっそり書かせてもらったものでした。
その節は大変お世話になりました。
あっという間に時間が過ぎてしまいましたが、お元気でいらっしゃいますでしょうか。
当時、楽しくお話させてもらったことを思い出しながら、このたび掲載させていただきました。
またいつかどこかで、一緒に猛田くんのお話が出来たら嬉しいなあと、ささやかな祈りを込めて。
地獄で待っている
地獄で待っている(鋼毅×猪狩進)
夏が来るたび思い出す。いささか大袈裟な言い草だが、本当のことだった。
高校三年の夏、プロペラ団に与していた、あの夏。大東亜学園のエースとして、俺はマウンドに立っていた。今から思えば、ずいぶんと馬鹿なことをしたものだと鼻で笑えるが、当時は本気だった。若かったのだ。プロペラ団に唆され、持て囃され、エースとして甲子園の土を踏むことになんの疑いも抱いていなかった。だから、大東亜の「保険」として用意された聖皇学園のことを今でも忘れられない。野球マスク、いや、猪狩進だったか。お前はいま、どこで何をしている。
野球マスクと名乗るおかしなやつが聖皇のエースだと聞いたとき、オレはらしくもなく声を出して笑ってしまったように記憶している。予備とはいえ、「そんなもの」が大東亜の、自分の代わりとはずいぶんと舐められたものだと思った。だから、一度自分の目で見て確かめてやろうと思って、俺はわざわざ聖皇にまで足を運んだことがある。
目を疑った。ふざけた名前だと思っていた野球マスク、お前は血を吐きながら、比喩ではなく文字通り血反吐を吐きながら練習していた。聞けば、大幅なパワーアップ手術の代償として、身体に相当な負担がかかっているらしい。
それにしても、正気の沙汰ではない。改造手術の弊害か、髪色は緑に変色してしまっていたし、目立つマスクは顔を隠す理由もあるだろうが、大幅な視力の低下を補うためのものだと聞いた。普通の眼鏡などでは、もう碌に見えやしないのだろう。練習の途中で倒れるのは一度や二度ではなかったし、おそらく痛み止めか何かの薬を何度も口にしていた。なんという執着。なんという、執念。あのとき、俺が思わずお前に話しかけてしまったのは、必然とも言えただろう。思えばあれが、最初で最後の会話だった。
俺はいま、火星オクトパスというチームで野球をしている。どんな理由があれ、一度はプロペラ団に加担した身だ、二度とチームに属して野球をすることなどないと思っていたのに、不思議なものだ。俺を誘ったのが、あのとき自分たちを負かしていった極亜久高校のキャプテンだというのだから、つくづく人生というのはどうかしている。
猪狩進。お前も、今もどこかで野球をしているのだろうか。それとも、もう野球なんかとは縁を切ったか。かつての俺のように、もう見たくもないと思っているか。しかし、たとえ今はプレイヤーではなくても、きっといや必ず、お前はまた野球に戻ってくるだろう。なぜなら、俺もお前も、野球なしでは生きてはいけない馬鹿野郎だからだ。
これから自分の進む道に希望が溢れているなんて思っちゃいない。むしろ、その逆だろう。望むところだ。またいつかお前に会える日があるのなら、野球がまたお前と会わせてくれる、そんな気がしている。また会おう。野球という、地獄で待っている。
了
ーーーーーーーーーー
野球マスクが好きなんだよね
ほんとに
それだけ
トルネード投法も火星オクトパスもきっと二人を繋いでくれるものだと信じてる
信じてる
夏が来るたび思い出す。いささか大袈裟な言い草だが、本当のことだった。
高校三年の夏、プロペラ団に与していた、あの夏。大東亜学園のエースとして、俺はマウンドに立っていた。今から思えば、ずいぶんと馬鹿なことをしたものだと鼻で笑えるが、当時は本気だった。若かったのだ。プロペラ団に唆され、持て囃され、エースとして甲子園の土を踏むことになんの疑いも抱いていなかった。だから、大東亜の「保険」として用意された聖皇学園のことを今でも忘れられない。野球マスク、いや、猪狩進だったか。お前はいま、どこで何をしている。
野球マスクと名乗るおかしなやつが聖皇のエースだと聞いたとき、オレはらしくもなく声を出して笑ってしまったように記憶している。予備とはいえ、「そんなもの」が大東亜の、自分の代わりとはずいぶんと舐められたものだと思った。だから、一度自分の目で見て確かめてやろうと思って、俺はわざわざ聖皇にまで足を運んだことがある。
目を疑った。ふざけた名前だと思っていた野球マスク、お前は血を吐きながら、比喩ではなく文字通り血反吐を吐きながら練習していた。聞けば、大幅なパワーアップ手術の代償として、身体に相当な負担がかかっているらしい。
それにしても、正気の沙汰ではない。改造手術の弊害か、髪色は緑に変色してしまっていたし、目立つマスクは顔を隠す理由もあるだろうが、大幅な視力の低下を補うためのものだと聞いた。普通の眼鏡などでは、もう碌に見えやしないのだろう。練習の途中で倒れるのは一度や二度ではなかったし、おそらく痛み止めか何かの薬を何度も口にしていた。なんという執着。なんという、執念。あのとき、俺が思わずお前に話しかけてしまったのは、必然とも言えただろう。思えばあれが、最初で最後の会話だった。
俺はいま、火星オクトパスというチームで野球をしている。どんな理由があれ、一度はプロペラ団に加担した身だ、二度とチームに属して野球をすることなどないと思っていたのに、不思議なものだ。俺を誘ったのが、あのとき自分たちを負かしていった極亜久高校のキャプテンだというのだから、つくづく人生というのはどうかしている。
猪狩進。お前も、今もどこかで野球をしているのだろうか。それとも、もう野球なんかとは縁を切ったか。かつての俺のように、もう見たくもないと思っているか。しかし、たとえ今はプレイヤーではなくても、きっといや必ず、お前はまた野球に戻ってくるだろう。なぜなら、俺もお前も、野球なしでは生きてはいけない馬鹿野郎だからだ。
これから自分の進む道に希望が溢れているなんて思っちゃいない。むしろ、その逆だろう。望むところだ。またいつかお前に会える日があるのなら、野球がまたお前と会わせてくれる、そんな気がしている。また会おう。野球という、地獄で待っている。
了
ーーーーーーーーーー
野球マスクが好きなんだよね
ほんとに
それだけ
トルネード投法も火星オクトパスもきっと二人を繋いでくれるものだと信じてる
信じてる
辻褄
以下の文章は、キャラクターのイメージを著しく損なう可能性がございます。読後の苦情は受け付け出来かねますので、ご承知おきください。
辻褄(友進)
進さんは浮気する。
「友沢、今日泊まっていってもいいかな?」
「いいですよ」
夜遅く、急な来訪を告げるインターホン。当然のように連絡もなくやって来た進さんにそう答えると、彼は嬉しそうに笑ってするりと家に上がるのだった。どうやら酔っているようだったし、水でも持ってこようとキッチンへ向かおうとした背中に、後ろから抱き付かれる。その手は耳を触り、ゆっくりと首筋を撫でていく。
「ねえ、友沢」
「なんですか」
「したいな」
「ここでですか」
「うん」
振り返ったところに唇を押し当てられ、抗議の声を上げようと口を開いたら舌を差し込まれた。彼は自分よりも体格に恵まれていないので、背伸びをした少々無理な格好でキスされる。初めのうちこそ振り解こうと思ったが、一生懸命舌を絡ませて自分をねだる様子にだんだんその気になって来て、気が付いたら抱き込むようにこちらから口付けていた。
一瞬息を継ぐために口を離せば、もっと欲しいと物足りない顔をするものだから、ああそうだこの顔がたまらないんだと思い出して、彼の服をまさぐった。服を脱がせるのも億劫で、たくし上げたシャツの中に手を滑り込ませる。そのまま胸の突起を摘むと我慢できないらしい高い声が上がって、余計に興奮した。しかし、このままいつもの向こうのペースに乗せられているのは少々癪であったので、焦らす意味も含めて一度手を引っ込める。えっ、と分かりやすい不満の声が漏れたことに満足して、友沢はわざと緩慢な動きでシャツのボタンを外していく。露わになった首筋に唇を寄せようとしたところで、途端目が覚めた。キスマーク。
「あんた、浮気してもいいけど、分からないようにやってくれって、オレ言いましたよね」
「ごめん、跡付いてた?」
「帰ってください」
「ごめん友沢、話聞いて」
「帰ってください」
「ねえ友沢ごめん、機嫌直してよ」
謝罪する言葉と、こちらに伸ばされる指の動きはどう考えても辻褄が合っていない。許しを乞うているのは向こうのはずなのに、結局はいつも通りあちらのペースで、友沢はもうどうでも良くなって、その手を振り解くのをやめた。自分よりもひと回り小さい身体を、鍛え抜かれた一流のスポーツ選手の身体を、ゆっくりと抱き締めた。本物のあの人も、こんな感じなのかな。腕の中にいる人と友沢が夢想する人は別人であったが、それは向こうも同じこと。自分たちは利害の一致から付き合っている。それがどれだけ不毛な傷の舐め合いであろうとも。
「ねえ友沢、好きだよ」
「オレも、好きですよ」
今夜も進さんは、浮気する。
ーーーーーーーーー
なんでこんな話書くの………、、、?
分かんない………分かんないけど…好きなので……
友沢と進くんの好きな人ってだれなのよ
本当にこれは友沢亮くんと猪狩進くんですか?大丈夫、幻覚だよ!
辻褄(友進)
進さんは浮気する。
「友沢、今日泊まっていってもいいかな?」
「いいですよ」
夜遅く、急な来訪を告げるインターホン。当然のように連絡もなくやって来た進さんにそう答えると、彼は嬉しそうに笑ってするりと家に上がるのだった。どうやら酔っているようだったし、水でも持ってこようとキッチンへ向かおうとした背中に、後ろから抱き付かれる。その手は耳を触り、ゆっくりと首筋を撫でていく。
「ねえ、友沢」
「なんですか」
「したいな」
「ここでですか」
「うん」
振り返ったところに唇を押し当てられ、抗議の声を上げようと口を開いたら舌を差し込まれた。彼は自分よりも体格に恵まれていないので、背伸びをした少々無理な格好でキスされる。初めのうちこそ振り解こうと思ったが、一生懸命舌を絡ませて自分をねだる様子にだんだんその気になって来て、気が付いたら抱き込むようにこちらから口付けていた。
一瞬息を継ぐために口を離せば、もっと欲しいと物足りない顔をするものだから、ああそうだこの顔がたまらないんだと思い出して、彼の服をまさぐった。服を脱がせるのも億劫で、たくし上げたシャツの中に手を滑り込ませる。そのまま胸の突起を摘むと我慢できないらしい高い声が上がって、余計に興奮した。しかし、このままいつもの向こうのペースに乗せられているのは少々癪であったので、焦らす意味も含めて一度手を引っ込める。えっ、と分かりやすい不満の声が漏れたことに満足して、友沢はわざと緩慢な動きでシャツのボタンを外していく。露わになった首筋に唇を寄せようとしたところで、途端目が覚めた。キスマーク。
「あんた、浮気してもいいけど、分からないようにやってくれって、オレ言いましたよね」
「ごめん、跡付いてた?」
「帰ってください」
「ごめん友沢、話聞いて」
「帰ってください」
「ねえ友沢ごめん、機嫌直してよ」
謝罪する言葉と、こちらに伸ばされる指の動きはどう考えても辻褄が合っていない。許しを乞うているのは向こうのはずなのに、結局はいつも通りあちらのペースで、友沢はもうどうでも良くなって、その手を振り解くのをやめた。自分よりもひと回り小さい身体を、鍛え抜かれた一流のスポーツ選手の身体を、ゆっくりと抱き締めた。本物のあの人も、こんな感じなのかな。腕の中にいる人と友沢が夢想する人は別人であったが、それは向こうも同じこと。自分たちは利害の一致から付き合っている。それがどれだけ不毛な傷の舐め合いであろうとも。
「ねえ友沢、好きだよ」
「オレも、好きですよ」
今夜も進さんは、浮気する。
ーーーーーーーーー
なんでこんな話書くの………、、、?
分かんない………分かんないけど…好きなので……
友沢と進くんの好きな人ってだれなのよ
本当にこれは友沢亮くんと猪狩進くんですか?大丈夫、幻覚だよ!
地獄の季節
地獄の季節(猪狩進)
夏になると眩暈がする。
「さあ、今日のスポーツニュースはプロ野球からです。今夜はエース対決!巨人は先発猪」
ブツンと切れて真っ黒な画面を晒すテレビを見ながら、僕は大きく肩で息をついた。少しは気が紛れるかと電源を入れっぱなしにしていたが、やっぱりテレビなんて見るもんじゃない。だからといって、インターネットはもっと見たくなかった。この季節、野球にまつわる話題、トピックスはどこにでも転がっている。
横になって目を閉じると、瞼の裏にあの夏のマウンドが蘇った。考えたくない。考えたくないのに、網膜に焼き付いてしまったかのようにその光景は自然と頭の中に再生され、あの夏を蒸し返す。甲子園決勝。あのとき、あの場所で、マウンドは自分のものだった。ボールを持つ手の力が徐々に弱くなるのをごまかすように、ロジンを掴んだ。たなびく白煙。延長戦まで縺れ込み、対峙するその人は、かつての友人であり、ライバルであった。暑さのせいで蜃気楼のように映るその先に彼がいる。一球振りかぶって投げるたび、歓声は怒号のように降り注いだ。
気が付くとうずくまるように小さくなって、肩を抱えていた。痛みはもうない。痛くないはずの肩が、肘が、膝が、未だに疼く。あの夏を最後に、僕は野球が出来なくなった。
後悔はないのに、夏が来るたび頭が煮えたように熱くなるのは何故だろう。あの日、あの時、野球が出来ないのなら、僕が生きている意味はないと思った。この試合が終わったら死んでもいいから、どうしてもあのマウンドで投げたかった。後悔なんてあるわけない。
「進!自分の足で、ここまでこい!ピッチャーとしてマウンドを任されたからには、最後までしっかりしろ!」
蒸し暑いのに、背を伝う汗が身体を冷やす。夏になると眩暈がする。
ーーーーーーーーーー
このイベントさ………
進くんはもちろんなんだけど、守さんがほんと守さんなんだよなあ………、、、
好きだ
夏になると眩暈がする。
「さあ、今日のスポーツニュースはプロ野球からです。今夜はエース対決!巨人は先発猪」
ブツンと切れて真っ黒な画面を晒すテレビを見ながら、僕は大きく肩で息をついた。少しは気が紛れるかと電源を入れっぱなしにしていたが、やっぱりテレビなんて見るもんじゃない。だからといって、インターネットはもっと見たくなかった。この季節、野球にまつわる話題、トピックスはどこにでも転がっている。
横になって目を閉じると、瞼の裏にあの夏のマウンドが蘇った。考えたくない。考えたくないのに、網膜に焼き付いてしまったかのようにその光景は自然と頭の中に再生され、あの夏を蒸し返す。甲子園決勝。あのとき、あの場所で、マウンドは自分のものだった。ボールを持つ手の力が徐々に弱くなるのをごまかすように、ロジンを掴んだ。たなびく白煙。延長戦まで縺れ込み、対峙するその人は、かつての友人であり、ライバルであった。暑さのせいで蜃気楼のように映るその先に彼がいる。一球振りかぶって投げるたび、歓声は怒号のように降り注いだ。
気が付くとうずくまるように小さくなって、肩を抱えていた。痛みはもうない。痛くないはずの肩が、肘が、膝が、未だに疼く。あの夏を最後に、僕は野球が出来なくなった。
後悔はないのに、夏が来るたび頭が煮えたように熱くなるのは何故だろう。あの日、あの時、野球が出来ないのなら、僕が生きている意味はないと思った。この試合が終わったら死んでもいいから、どうしてもあのマウンドで投げたかった。後悔なんてあるわけない。
「進!自分の足で、ここまでこい!ピッチャーとしてマウンドを任されたからには、最後までしっかりしろ!」
蒸し暑いのに、背を伝う汗が身体を冷やす。夏になると眩暈がする。
ーーーーーーーーーー
このイベントさ………
進くんはもちろんなんだけど、守さんがほんと守さんなんだよなあ………、、、
好きだ
ささのはさらさら
ささのはさらさら(10/猪狩進)
今日、近くで七夕祭りやってるみたい。
そう言ったのはパワプロさんで、それを横で聞いていた兄さんに集中しろとたしなめられる。そばにいた友沢は、二人の様子を見るともなく眺めていた。どういう風の吹き回しか、ありそうでなかった組み合わせの四人で自主練習をしている。僕は兄さんと兄弟であるし、パワプロさんとも友沢とも親しくしているつもりだったが、このメンバーでわざわざ集まって練習をするのは今日が初めてだ。僕は握っていたバットを下ろして、いいですねと笑った。
「せっかくですから、みんなで行きましょうよ」
「さすが進くん!」
「なに言ってる。そんなことしてる場合か」
「まさかこの四人で行くんスか?」
僕の言葉にパワプロさんは嬉しそうに声を上げて、兄さんが不服そうに眉根を寄せる一方、友沢は意外にも乗り気のように見えた。普段は生意気そうに振る舞っている友沢が、ルーキーらしくかわいらしい一面を持っていることを僕はよく知っていた。そして、いかにも不満そうな顔をしている兄さんが、実のところ一番胸を弾ませていることも分かっている。確かにペナントレースの真っ最中ではあるものの、明日はオフだ。だからこそわざわざ遅くまで居残って練習していたのだ。たまの気分転換くらい、罰も当たらないというものだろう。
「さ、行きましょう」
「友沢、短冊書かないの?」
「や、べつに、オレそういうのいいんで」
「せっかく来たんだから、書きなよ」
せっかく祭りに来たのに、友沢はいつものポーカーフェイスを崩さないで両手をポケットに突っ込んでいる。夜も遅い時間だというのにずいぶん盛況な盛り上がりで、 祭り会場は人で溢れていた。風でたなびく七夕飾りはきらきらと瞬いて、友沢の横顔を照らした。
「ほら、一枚あげる」
手に持った短冊を渡すと、いよいよ観念したのか、先輩の言うことは聞いておくべきとでも思ったのか、友沢は隣に来てペンを持った。前のテーブルでは、兄さんとパワプロさんが仲良く喧嘩しながら短冊を書いている。ああ、あの兄さんの嬉しそうな顔。パワプロさんは心底楽しそうだ。僕は思わず笑ってしまってから、短冊にペンを走らせた。
「友沢、書けた?」
「そんな急かさないでくださいよ」
適当に済ませるものだとばかり思ったのに、友沢は真剣に何を書くか考えているみたいだった。かわいいな。僕もそんな風になれたら良かった。
普段の友沢だったらこんなところに来るはずもないのに、今夜に限ってどうして黙って着いて来たのか、僕にはその理由がよく分かる。だって、好きな人とは一緒にいたいよね。僕と同じ理由だ。
「ほら友沢、結びに行こ!」
「ちょっと進さん、引っ張らないでくださいよ」
子供が、どこかで歌を歌っている。そういえば、昔は七夕になると兄さんと一緒に家の笹に短冊を飾ったっけ。懐かしい記憶は、よく知っているその童謡を口ずさませた。
笹の葉さらさら
軒端に揺れる
お星さまきらきら
金銀砂子
今夜のねがいごとが叶うのは、だあれ
ーーーーーーーーー
いい加減進くんを失恋させる話を書くのはやめるんだと思ったので失恋未遂になりました
進くんは誰が好きなのかな
私は本当に、本当にどの組み合わせも好きなので、もう全員もちろんカップル成立しろって思いますよね
主人公ちゃんはあまねく全人類を幸せにする男だし
守さんと進くん最高だし
守さんと友沢くん筆舌に尽くし難いですよ
進くんと友沢くんの間に流れる空気で飯が食える
なので、カイザースの皆さん、全員付き合ってください
私からの、おねがいごとです
今日、近くで七夕祭りやってるみたい。
そう言ったのはパワプロさんで、それを横で聞いていた兄さんに集中しろとたしなめられる。そばにいた友沢は、二人の様子を見るともなく眺めていた。どういう風の吹き回しか、ありそうでなかった組み合わせの四人で自主練習をしている。僕は兄さんと兄弟であるし、パワプロさんとも友沢とも親しくしているつもりだったが、このメンバーでわざわざ集まって練習をするのは今日が初めてだ。僕は握っていたバットを下ろして、いいですねと笑った。
「せっかくですから、みんなで行きましょうよ」
「さすが進くん!」
「なに言ってる。そんなことしてる場合か」
「まさかこの四人で行くんスか?」
僕の言葉にパワプロさんは嬉しそうに声を上げて、兄さんが不服そうに眉根を寄せる一方、友沢は意外にも乗り気のように見えた。普段は生意気そうに振る舞っている友沢が、ルーキーらしくかわいらしい一面を持っていることを僕はよく知っていた。そして、いかにも不満そうな顔をしている兄さんが、実のところ一番胸を弾ませていることも分かっている。確かにペナントレースの真っ最中ではあるものの、明日はオフだ。だからこそわざわざ遅くまで居残って練習していたのだ。たまの気分転換くらい、罰も当たらないというものだろう。
「さ、行きましょう」
「友沢、短冊書かないの?」
「や、べつに、オレそういうのいいんで」
「せっかく来たんだから、書きなよ」
せっかく祭りに来たのに、友沢はいつものポーカーフェイスを崩さないで両手をポケットに突っ込んでいる。夜も遅い時間だというのにずいぶん盛況な盛り上がりで、 祭り会場は人で溢れていた。風でたなびく七夕飾りはきらきらと瞬いて、友沢の横顔を照らした。
「ほら、一枚あげる」
手に持った短冊を渡すと、いよいよ観念したのか、先輩の言うことは聞いておくべきとでも思ったのか、友沢は隣に来てペンを持った。前のテーブルでは、兄さんとパワプロさんが仲良く喧嘩しながら短冊を書いている。ああ、あの兄さんの嬉しそうな顔。パワプロさんは心底楽しそうだ。僕は思わず笑ってしまってから、短冊にペンを走らせた。
「友沢、書けた?」
「そんな急かさないでくださいよ」
適当に済ませるものだとばかり思ったのに、友沢は真剣に何を書くか考えているみたいだった。かわいいな。僕もそんな風になれたら良かった。
普段の友沢だったらこんなところに来るはずもないのに、今夜に限ってどうして黙って着いて来たのか、僕にはその理由がよく分かる。だって、好きな人とは一緒にいたいよね。僕と同じ理由だ。
「ほら友沢、結びに行こ!」
「ちょっと進さん、引っ張らないでくださいよ」
子供が、どこかで歌を歌っている。そういえば、昔は七夕になると兄さんと一緒に家の笹に短冊を飾ったっけ。懐かしい記憶は、よく知っているその童謡を口ずさませた。
笹の葉さらさら
軒端に揺れる
お星さまきらきら
金銀砂子
今夜のねがいごとが叶うのは、だあれ
ーーーーーーーーー
いい加減進くんを失恋させる話を書くのはやめるんだと思ったので失恋未遂になりました
進くんは誰が好きなのかな
私は本当に、本当にどの組み合わせも好きなので、もう全員もちろんカップル成立しろって思いますよね
主人公ちゃんはあまねく全人類を幸せにする男だし
守さんと進くん最高だし
守さんと友沢くん筆舌に尽くし難いですよ
進くんと友沢くんの間に流れる空気で飯が食える
なので、カイザースの皆さん、全員付き合ってください
私からの、おねがいごとです
讃美歌とエゴイスト
讃美歌とエゴイスト(猪狩進)
誓いの口付け。それを参列者席から遠目に見たとき、僕はようやく目の前の現実が腹の中に落ちたような気がした。正装する新郎の隣に立つのは、白いドレスの人。新郎、神童裕二郎。新婦の名前は、もちろん招待状にも書いてあったはずだが、何度読んでも文字が頭を滑るのみで覚えることが出来なかった。よく晴れた、この春のよき日に、神童さんは結婚する。
神父の前で永遠の愛を誓った新郎が、花嫁のベールを持ち上げる。差し込む柔らかな光がその横顔を照らして、まるで世界が、この世のすべてが、二人を祝福しているような錯覚さえ覚えた。そのくらい美しかった。愛を誓い合った二人は、静かに口付けを交わす。切り取られた絵画のように美しい二人が、幸せを惜しみなく纏って、微笑んだ。
気が付けば、辺りは拍手に包まれていた。温かで、幸せで、柔らかな拍手の雨。僕は無意識に叩いていた手をさらに大きく鳴らして、自分の口角がきちんと上がっていることを確認して安心した。
降り注ぐ拍手のシャワーの中を、新郎に手を引かれた花嫁が歩き出す。神童さんの隣を歩く白いドレスの人。僕はべつに、その人になりたいわけではなかった。悔しいとも悲しいとも思わなかった。湧き上がる感情はひとつだけ。好きになりたくなかった。
ーーーーーーーー
神童さん見てると、××してぇ〜と無性に思う時があるので誰か助けてください
ただの逆恨みです、えへへ
誓いの口付け。それを参列者席から遠目に見たとき、僕はようやく目の前の現実が腹の中に落ちたような気がした。正装する新郎の隣に立つのは、白いドレスの人。新郎、神童裕二郎。新婦の名前は、もちろん招待状にも書いてあったはずだが、何度読んでも文字が頭を滑るのみで覚えることが出来なかった。よく晴れた、この春のよき日に、神童さんは結婚する。
神父の前で永遠の愛を誓った新郎が、花嫁のベールを持ち上げる。差し込む柔らかな光がその横顔を照らして、まるで世界が、この世のすべてが、二人を祝福しているような錯覚さえ覚えた。そのくらい美しかった。愛を誓い合った二人は、静かに口付けを交わす。切り取られた絵画のように美しい二人が、幸せを惜しみなく纏って、微笑んだ。
気が付けば、辺りは拍手に包まれていた。温かで、幸せで、柔らかな拍手の雨。僕は無意識に叩いていた手をさらに大きく鳴らして、自分の口角がきちんと上がっていることを確認して安心した。
降り注ぐ拍手のシャワーの中を、新郎に手を引かれた花嫁が歩き出す。神童さんの隣を歩く白いドレスの人。僕はべつに、その人になりたいわけではなかった。悔しいとも悲しいとも思わなかった。湧き上がる感情はひとつだけ。好きになりたくなかった。
ーーーーーーーー
神童さん見てると、××してぇ〜と無性に思う時があるので誰か助けてください
ただの逆恨みです、えへへ
雨降って
雨降って(野球マスク)
人生は空模様に似ている。さっきまで晴れていたかと思えば突然雲行きが怪しくなって、気が付けば大雨洪水警報。さらに曇天から小康状態、ところにより雨、おおむねは晴れになることでしょうなんて思っていたら、実際には台風に巻き込まれていたなんてことも有り得る。当事者は、台風の目の中にいるうちには、分からないものだ。
そういうわけで、僕の人生はトラックに撥ねられてからというもの、概ね予想通り、今のところは順風満帆と言ったところだ。天気というものは当然ながら、どんなに良くても悪くても、それがずっと続くということはあり得ない。止まない雨がないように、同時に晴れが永遠に続くこともない。
目が覚めて、ベッドから起き上がる。このところ視力が著しく下がったので、眼鏡をかけなければ何も見えない。ベッドサイドに置いてあるそれを手探りで取り上げ、装着する。まだ少しぼんやりする頭のまま、冷蔵庫を開けた。この頃やたらと喉が乾くのは、これも手術の影響なのだろうか。二リットル入りのペットボトルを持ち上げ、グラスに注がずそのまま口を付けて飲む動作は、家にいたときには考えられないことだ。
顔を洗うために洗面所へ向かい、蛇口を捻る。ふと顔を上げると、鏡の中にはまだ見慣れない自分の姿があった。眼鏡はもちろんだが、あまりに目立つのは髪の色だろう。緑色をしている。もちろん好んで脱色をしたわけではない、手術を終え、目が覚めたらこの色になっていただけだ。なんとなく髪に手をやって触ってみるが、手触りは昔のままだから余計に不思議な感じがする。
外した眼鏡を脇に置き、顔を洗う。トラックに轢かれて一時は意識不明の重体で生死さえも彷徨ったらしいのに、こんな風に普通に顔を洗って朝の支度をしているのがおかしかった。交通事故によって僕の日常は大きく変わってしまったが、変わらないこともたくさんあるのだ。それは、自分がまだ野球を続けていることも含まれる。
空模様は、人生に似ている。雨が降ったあとは晴れるし、そのときに虹を見ることだってある。
初めてマウンドから見た空は、青かった。だから僕は今日も、野球をしているんだろう。なんとなくそんなことを考えて、我ながらロマンチシズム溢れる思考に笑ってしまった。僕の名前は、野球マスク。野球をするために、生きている。
了
ーーーーーーーー
何年どころか十年単位で野球マスクのことを考え続けている
こわい!(もちろん私が)
人生は空模様に似ている。さっきまで晴れていたかと思えば突然雲行きが怪しくなって、気が付けば大雨洪水警報。さらに曇天から小康状態、ところにより雨、おおむねは晴れになることでしょうなんて思っていたら、実際には台風に巻き込まれていたなんてことも有り得る。当事者は、台風の目の中にいるうちには、分からないものだ。
そういうわけで、僕の人生はトラックに撥ねられてからというもの、概ね予想通り、今のところは順風満帆と言ったところだ。天気というものは当然ながら、どんなに良くても悪くても、それがずっと続くということはあり得ない。止まない雨がないように、同時に晴れが永遠に続くこともない。
目が覚めて、ベッドから起き上がる。このところ視力が著しく下がったので、眼鏡をかけなければ何も見えない。ベッドサイドに置いてあるそれを手探りで取り上げ、装着する。まだ少しぼんやりする頭のまま、冷蔵庫を開けた。この頃やたらと喉が乾くのは、これも手術の影響なのだろうか。二リットル入りのペットボトルを持ち上げ、グラスに注がずそのまま口を付けて飲む動作は、家にいたときには考えられないことだ。
顔を洗うために洗面所へ向かい、蛇口を捻る。ふと顔を上げると、鏡の中にはまだ見慣れない自分の姿があった。眼鏡はもちろんだが、あまりに目立つのは髪の色だろう。緑色をしている。もちろん好んで脱色をしたわけではない、手術を終え、目が覚めたらこの色になっていただけだ。なんとなく髪に手をやって触ってみるが、手触りは昔のままだから余計に不思議な感じがする。
外した眼鏡を脇に置き、顔を洗う。トラックに轢かれて一時は意識不明の重体で生死さえも彷徨ったらしいのに、こんな風に普通に顔を洗って朝の支度をしているのがおかしかった。交通事故によって僕の日常は大きく変わってしまったが、変わらないこともたくさんあるのだ。それは、自分がまだ野球を続けていることも含まれる。
空模様は、人生に似ている。雨が降ったあとは晴れるし、そのときに虹を見ることだってある。
初めてマウンドから見た空は、青かった。だから僕は今日も、野球をしているんだろう。なんとなくそんなことを考えて、我ながらロマンチシズム溢れる思考に笑ってしまった。僕の名前は、野球マスク。野球をするために、生きている。
了
ーーーーーーーー
何年どころか十年単位で野球マスクのことを考え続けている
こわい!(もちろん私が)
業火
(7/ 猪狩進と神童裕二郎)
僕の行動原理はいつも至ってシンプルで単純明快な人間らしさが招くそれだった。腹の底を焦がす嫉妬、まとわりつく猪狩の名前、弟であることの意味、ぐらぐらと頭の中が煮えて、溶けた答えは極上のスープみたいになって僕の喉を落ちる。
僕、神童さんのことを尊敬しています。本当です。だから利用するつもりでした。兄の、そう兄と僕との間に横たわる何もかも、長い時間をかけて煮詰めた鍋の底で炭みたいになったそれらを。神童さんをナイフとフォークにして、僕の食べやすい大きさにして飲み込んでしまう。そういう手筈だったのに。あれやそれや薪にくべて燃やしていたら真っ黒な炎はいつの間にか別の何かになってしまって、浮かんで消えていくのは、神童さんの笑った顔でした。好きだと気付いたとき、あなたはタキシードを着て、隣には美しいウエディングドレスを身に纏った女性がいました。素晴らしい最高の舞台です。人を愛することがこうも原動力足り得るものだと教えてくれたのは他ならないあなたです。
だから、これから僕がすることを、あなたはどうか黙って見守っていて下さいね。
ーーーーーーーーーーー
進くんと包丁ってすごく似合うよね(お料理が得意なので)
進くんかわいい
僕の行動原理はいつも至ってシンプルで単純明快な人間らしさが招くそれだった。腹の底を焦がす嫉妬、まとわりつく猪狩の名前、弟であることの意味、ぐらぐらと頭の中が煮えて、溶けた答えは極上のスープみたいになって僕の喉を落ちる。
僕、神童さんのことを尊敬しています。本当です。だから利用するつもりでした。兄の、そう兄と僕との間に横たわる何もかも、長い時間をかけて煮詰めた鍋の底で炭みたいになったそれらを。神童さんをナイフとフォークにして、僕の食べやすい大きさにして飲み込んでしまう。そういう手筈だったのに。あれやそれや薪にくべて燃やしていたら真っ黒な炎はいつの間にか別の何かになってしまって、浮かんで消えていくのは、神童さんの笑った顔でした。好きだと気付いたとき、あなたはタキシードを着て、隣には美しいウエディングドレスを身に纏った女性がいました。素晴らしい最高の舞台です。人を愛することがこうも原動力足り得るものだと教えてくれたのは他ならないあなたです。
だから、これから僕がすることを、あなたはどうか黙って見守っていて下さいね。
ーーーーーーーーーーー
進くんと包丁ってすごく似合うよね(お料理が得意なので)
進くんかわいい

