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そんなことあるわけないのにね

「ねえ、パワプロさん。もし僕がいなくなったら、どうしますか?」
「えー、なにそれ」
 休日の朝。二人揃って寝坊して、二度寝したり微睡んだり、布団の中でごろごろしながら贅沢な時間を楽しんでいるひととき。こちらを見上げるように見る進くんを捕まえて、腕の中に閉じ込める。そのまま顔を埋めると、髪がくすぐったいのか、彼はくすくすと笑っている。
「なんでそんなこと言うのー」
「もしもの話ですよ」
「進くんがいなくなったらイヤだから、この話はもうおしまい」
 くるりと大きな目が、こちらを見る。
「たとえばの話ですよ。僕が病気とか、なんでもいいんですけど動けなくなって、そのときにパワプロさん好みの、かわいくて、きれいな女の人に好きですって言われたら、どうしますか?」
「なーに、それ!」
 腕の中の彼をぎゅうと抱きしめて笑う。
「だってパワプロさん、かわいくて、きれいな人が好きでしょう?」
「それはそうだけど、オレが好きなのは進くんだよ」
 進くんは、かわいくてきれい。そう言うと進くんは黙ってしまって目を逸らした。かわいい。
「じゃあ、今度は進くんの番だからね。進くんの好きなもの」
「なんですか?」
「進くんが好きなのは……えー、野球?」
「それは、パワプロさんでしょ」
「それはもちろんそうなんだけど。でも進くんって、本当に野球が好きだよね。見てれば分かるよ」
「そうですか?」
「うん。じゃあさ、たとえばここに悪魔が来てさ」
「悪魔?」
「悪魔に魂を渡さないと野球ができないぞーって言われたら、どうする?」
「そんなの、どうもしないですよ」
「魂渡さない?」
「もちろんです」
「ほんと?」
「なんでそんなこと聞くんですか?」
「さっき進くんがオレのこと困らせたから、おかえし。困った?」
「はい」
 魂、あげちゃだめだからね。念を押すように言うと、進くんはふきだすように笑った。



「進!自分の足で、ここまでこい。ピッチャーとしてマウンドをまかされたからには最後までしっかりしろ!」

そんなことあるわけないのにね 2024.8.22


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もう一生こういうの書いてたい

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愛の矢の弓

愛の矢の弓

「じゃあ、そういうことだから」
 目の前の彼女はそう言うと、進に背を向けて行ってしまった。そういうことだから。それは要するに「さようなら」という意味を指していて、別れ話、つまり自分はたった今振られたようだった。予鈴のチャイムが鳴って、昼休みがあと五分で終了することを知らせている。呼び出されて指定の場所までやって来たものの、相手がなかなか話を始めないものだから、まだ昼も食べていなかった。階段をゆっくり降りながら、息をつく。
 進は、いつもこうだった。付き合ってと言われたから付き合って、そのうちにもういいと言われて関係が終わる。今回の幕引きの言葉は、「そういうことだから」だった。相手に望まれて、その通りのことを受け入れて接しているのに、相手はいつも決まって必ず、まるでそうすることが礼儀であるかのように、最後はがっかりした顔で進の前から去っていく。
「あれ、進くん?」
「先輩」
 見知った顔に呼び掛けられてぺこりと頭を下げると、その人はいつもと同じ顔で笑って、こんなところにいるの珍しいねと言って進を見た。彼の言う通りで、ここは三年生の教室のある階だったから、学年の違う進は、用事がなければ立ち寄る必要のない場所だった。
「進くん、何かあった?」
「なにもないですよ」
 答えながら、進はにこりと微笑んだ。強がっているわけでも、隠しているわけでもなく、ほんとうに何もない。正確に言うなら、なくなったと言うのが正しい。それでも、目の前の善良な彼の目には進の様子が普段とは違って見えるのか、気に掛けてくれているのが分かった。よく、見ているんだな。進は感心するばかりだ。ただの後輩である自分のことを、彼は本気で心配して、声を掛けてくれている。彼は出会ったその時から今この瞬間まで、誠実で優しかった。
「先輩、実は僕、ちょっと落ち込んでいるんです」
「やっぱり、何かあったの?」
 何もないから、落ち込んでいるんです。自分の心は空っぽで、もしかしたらどこか欠陥があるのかも。そんなことをまさか口にするわけもないから、代わりに進は意味ありげに困った顔で笑ってみせた。
「オレに出来ることがあったら、なんでも言ってよ」
 あ、でも、勉強教えてとか、お金貸してとか、そういうのはなしで。そんな冗談を言って、目の前で両手を合わせてごめんねのポーズを取ってみせる彼は、どこまでも進のことを労ってくれていた。あたたかくて、やわらかい。胸の奥で、思い付きが仄かな明かりとなって灯る。
「ねえ、先輩」
 僕と、付き合ってください。言葉は音になって、進と相手の鼓膜を震わせた。



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進、めちゃくちゃ幸せになってほしい

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あのこがきらい

あっ、触った。その瞬間、今まで我慢していたものが一気に弾けた気がした。三階の教室、自分の学年の階ではない廊下で、進は自分の顔が歪んでいくのを自覚していた。野球部内での伝令を、キャプテンであるその人に伝えるため教室を覗き込むと、彼は女生徒と話をしていた。随分と盛り上がっているようで、楽しそうだ。瞬時に胸の内を黒いものが渦巻いていったが、そんなことでいちいち腹を立てていては仕方ない。男であるというハンデを負っている以上、自分は人並み以上に品行方正で良い子でいなくてはならない。彼の気を引けるよう、あくまでかわいらしく、慎ましく。
 さっきまでそんなことを考えていたのが嘘のように、煮えたはらわたがひっくり返るようだった。べったりと耳につく高い声を上げた後で、女生徒が先輩の肩に触れたのだ。それに嫌がる素振りどころか、初心な先輩は困ったように顔を赤くしてみせるものだから、進は舌打ちしたい気分だった。こんなことなら、さっさと声を掛けてしまうべきだった。女特有の高い声は、いつまでも耳に纏わりついて気に障る。女が、彼の名前を呼んだ。もう一度。何がそんなに楽しいのか、女は嬉しそうに笑ってみせた。
「パワプロさん」
「あ、進くん」
 自分の顔を見つけた彼の表情が綻ぶのを見て、進は優越感に笑みを浮かべていた。そうだ、もっとよく見ておいた方がいい。お前といる時に、彼が一度でもこんな顔をしたことがあるものか。後輩の訪れを察したらしい女は、またねと手を振って自分の席に戻っていった。その言葉のなんと苦々しいこと。それでも進は良い子に振る舞う方の自分になって、女にぺこりと頭を下げた。もちろん、かわいらしい後輩の顔でだ。彼の前では、誰よりも健気で慎ましい後輩でいなければならない。
「進くん、どうしたの?」
「さっきたまたま廊下で監督と会って、先輩にも伝えてほしいと頼まれたんです」
 本当のことだった。上級生にも伝えてほしいということだったので、もちろん兄のところへ行っても良かったのだが、これ以上の口実はないと思ってここにやって来た。部活動以外の時間に彼と会える機会は貴重だった。
「そっか。わざわざありがとう」
 伝言を伝え終わると、彼は子供のような屈託のない顔で笑った。教室で見る彼の笑顔はいつもより眩しくて、進は単純に胸を高鳴らせる。好きだと思った。思わず見つめていると、彼の方が首を捻る。どうかした?答える代わりに、進は試しに彼の頬をつつくように指で押し返してみた。直接触れた頬は想像していたよりもずっと柔らかくて、進は自らが高揚しているのを隠すことができなかった。
「ど、どうしたの?」
「いえ、柔らかそうだなあって思って」
 くすくすと笑うと、彼は参ったなあと言って後ろ手で頭をかいた。こんなことで簡単に顔を赤くする彼こそが誰よりもかわいらしかったが、進はそんなことをおくびにも出さずに微笑んでみせる。もちろん、彼にいちばんかわいいと思ってもらえる表情で。案の定満更でもないという顔をした彼に満足して、進は笑みを深めた。自分の容姿が他者よりも優れていることは幼い頃から承知していた。
「じゃあ、また部活で」
 手を振って彼と別れる。教室を出る時、さっきの女が目に入った。べつにこの女だけではない、彼に害を為すものはすべて嫌いだ。だから、安心してくださいね。女と目の合った進はにっこりと微笑み、上機嫌で廊下を歩いていった。




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信じてほしいんですが、私は進くんのことが大好きです。

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今夜、真綿のベッドで

今夜、真綿のベッドで(R18)

 進は、セックスが好きではない。学生の頃、付き合っていた女性と初めて行為に至ったときには、こんなもんかと思った。もちろん射精したときには快感が得られたが、それで満たされるのならばマスターベーションとなんら変わりがない。そうではない、セックスからしか得られないものが、進には見出せなかった。

 そして現在、進が交際している相手は男性であり、自分は抱かれる側に回ったわけであるが、それでもやはりセックスを好きだとは思えなかった。相手は随分進に尽くしてくれていたし、少しでも身体に負担を掛けたくないという気遣いから前戯も大層丁寧で優しかった。しかし進からしてみれば、何度胸を触られたところで気持ちいいというよりはくすぐったいだけだったし、陰茎を擦って射精をするだけならば肌を重ねる必要性も感じなかったし、そもそも男同士で行為に至るまでの準備が面倒であった。準備は無論のこと、ローションや体液で濡れたシーツや下着を洗うのも手間であるし、本来排泄を行う身体の器官を用途以外に使えばどれだけ備えたところで違和感や疲れが残った。男のそこは、女のように自然には濡れないのだ。
 そうであるのに。
「進くん、好き、すき……進くんも、気持ちいい?」
 そうやって自分を抱く彼を見ていると、進は濡れるはずのないそこがじくじくと疼いて、胸の内に今まで感じたことのない感情でいっぱいに満たされていくのを実感していた。気持ち良くないはずなのに、気持ちがいい。あなたが僕を求めて、気持ち良さそうにしている姿を見るのが好きだった。特に好きではないセックスをする理由があるとすれば、進にはこれこそが唯一無二であった。
「恥ずかしいので、そんなこと聞かないでください……」
「ん、ごめんね。でも、そうやって恥ずかしがってる進くんもかわいい」
 彼にかわいいと言われれば、進は自分のことをかわいいと思うことが出来た。彼が気持ち良いのならば、進も気持ち良いと思うことが出来た。その証拠に、進の陰茎は先ほどから限界を知らせるように膨れて、先走りの液がひっきりなしに溢れて垂れている。そういう自分の姿を冷静に観察していると本当に恥ずかしくなってきて、進は顔に熱が集まるのを感じた。
「進くん、本当に好き」
「僕も、好きです、」
 唇を攫われる。息つく間もない激しいキスは、いつも優しい彼が唯一見せる粗暴な行為で、進はこれをされると弱かった。頭の芯から痺れるように興奮して、唇も陰茎も繋がっている部分も、彼が触れるところはすべて溶けてしまいそうなほど熱かった。このままふたり溶けてしまえればどんなに楽かと思いながら、達した彼に少し遅れて、進も熱を吐き出した。息を整え、抱き締められた腕の中で彼を見る。
「どうしたの?」
「もう、終わり、ですか?」
「!」
 夜はまだ、終わらない。




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こういう進が好きすぎるので、主人公ちゃん、頼んだぞ

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いつかくるお別れに向けて

「あ、このマグカップかわいいですね」
「ほんとだ。いいね、買っちゃおっか」
 そう言ったパワプロさんは嬉しそうに笑って、僕の指したカップを手に取った。いかにも恋人らしいペアカップだ。僕は元々、こういうものが特に好きではないし、あまり欲しいとも思わない。だって、家に帰ればまだ使えるマグカップはちゃんとあるし、おそろいで揃える必要性も別段感じない。いっそ無駄遣いと言って差し支えのない支出に思える。それでも僕は欲しがった。いつかくるお別れに向けて。
「あ、進くん。見てみて、これ」
「どれですか?わ、いいですね」
 二人並んで買い物をする穏やかなひと時は、どこをどう切り取っても幸せなものだ。最愛の恋人と過ごす休日、幸せな時間。だけど僕は知っている、これが永遠には続かないということを。
「そうだ、柔軟剤が切れそうだったから、あれも買っていかないと」
 隣で笑うこの人のことが、僕は確かに今日も好きだった。だけど、それがずっと続くなんてことは、絶対にない。生きている限りはいつか必ず死ぬことになるし、彼が僕のことを好きでなくなるかもしれないし、もちろん僕が彼のことを好きでなくなる日が来るかもしれない。ほかにも、想像もしないような理由で一緒にいられなくなる可能性だってある。だから、これは、始めたときから期間限定なのだ。そう思うと、このマグカップも、会話も、景色も、そのための準備だ。いつかくる別れのために。
「ふふ」
「どうしたの?」
「僕、パワプロさんのことが好きです」
「急にどうしたの?」
 振り返って、笑う。これもすべて。
「愛しています」

いつかくるお別れに向けて



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かなしいね

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かわいいね

かわいいね

 女の子と付き合っていた学生の頃、その言葉をよく使った。かわいいね。言われた女の子たちは決まって頬を赤らめて、嬉しいと口に出して言う子もいれば、恥ずかしそうに俯いてしまう子もいた。それを見て、自分は同じ言葉を繰り返す。かわいいね。
 そういう過去の出来事を、進は隣にいる先輩を見ながら思い出していた。学生の頃は告白されるまま女の子と付き合っていたが、いま自分が付き合っているのは、同じ球団に所属するプロ野球選手の先輩であり、兄の同級生でもあり、つまりどこからどう見ても男だった。
 付き合う理由は、以前と変わらない。向こうが告白して来たから、進はそれに頷いたまで。昔から変わらない自身の主体性のなさに思わず笑ってしまうと、こちらを見ていたらしい彼は何度か瞬きを繰り返してから、視線を彷徨わせた。ここは街中だ、知っている人でも見つけて気まずくなったのだろうか。そういう進の仕草に気付いた彼は何事か口にしたが、人混み、雑踏、店頭から流れる広告、あらゆる雑音にかき消されて、進の耳までは届かなかった。
「どうかしましたか?」
「うん、いや、進くんって、笑った顔がほんとうにかわいいね」
 信号が青に変わった。スクランブル交差点になっているそこは、多くの人が一斉に歩き出すことで雑音がさらに増す。それにも関わらずその音は妙に耳に残って、進の胸の内に沈澱していった。かわいいね。自分が女の子たちにそう言っていたのは、そう言えば相手が喜ぶことを知っていたからだ。先輩も、同じ気持ちで言っているのだろうか。
「進くん?」
 呼ぶ声に振り返って、進はその手を取った。あ、という声は雑踏に溶けて、進は彼がかわいいと言った顔でにっこりと微笑んでみせた。





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私の書く進は性格が悪い!大変申し訳ございません。進くん大好きです。

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ごめんなさい

ごめんなさい

 初めは、あなたを利用するために近付きました。我ながら浅はかで軽率で救いのない理由です。僕、猪狩進という人間は、幸も不幸も、良くも悪くも、兄の猪狩守に多大な影響を受けてここまで大きくなりました。兄のことが好きなのか、嫌いなのか、大人になった今でも未だに判然としません。誰より憎んでいるような気もするし、それでいて誰より愛しいような気もするのです。兄から離れたいような、離れたくないような、とにかく僕の人生にとって兄とはそういう人でした。
 そういった折、僕の人生にひとつの転機が訪れました。父があるプロ野球球団を買収して、自分の名前を付けてしまったのです。猪狩カイザース。その日から僕と兄はチームメイトとなり、いつだったか学生の時のように共に励むようになりました。
 そのときに現れたのが、あなたです。僕にとって、あなたの存在は異質で、衝撃を与えるに十分なものでした。だって、あの兄が、野球に関しては人一倍厳しい兄が、お世辞にも実力があるとは思えないあなたに、妙に突っかかっていっては構うものですから。そもそも僕は、兄のあんな顔を今までに見たことがありません。あなたに対する態度も声も仕草も、僕にとってはセンセーショナルでした。兄が、僕を差し置いてあなたに構うことが、にわかには信じられなかったのです(兄は昔から重度のブラコンだったのですよ)。
 だからあなたに興味を持ちました。兄の気を引くために、あなたを利用しようと考えました。残念ながら僕も、極度のブラザーコンプレックスの持ち主なのです。兄が好きなあなたを好きだと言って、僕は笑いました。

「今日は、ケーキを焼いたんですよ」
「わあ、すごい!進くんって本当になんでも出来るんだね」
「大袈裟ですよ」
 恋人であるパワプロさんがそう言ったのを聞きながら、僕は淹れたばかりの紅茶を差し出しました。昼下がり、いつものように僕の家に遊びに来た彼と、穏やかなティータイムを過ごしていました。信じられないことに彼はまんまるのケーキをひとつぺろりと平らげてしまいました。だって、進くんの作ったケーキが美味しすぎるんだもん。子供のような口ぶりに、僕は笑います。
「さすがにちょっと苦しいかも……」
「ふふ、食べすぎですよ」
「生クリームがほんとに美味しかったー」
 ソファに腰掛けた彼は、お腹をさすりながら、今も僕の焼いたケーキのことを褒めてくれています。世界一美味しいなんて、あまりに大袈裟なリップサービスのように聞こえますが、彼は本気で言っているのです。そういう人でした。胸の奥が温かくなる感覚。自然と、口をついて出ていました。
「僕、あなたのことが好きです」
「うん、知ってるよ」
 柔らかく笑うその顔に、僕は違うと叫び出したくなりました。違う。違うんです。僕は本当にあなたのことが好きなんです。
「僕、パワプロさんのことが好きです」
「オレも進くんが好きだよ」
 その言葉を聞くたびに、僕はなんて馬鹿なことをしてしまったんだろうと思いました。自責の念に駆られるなどとどの口が言うのかと、深い後悔が胸を突き刺します。あなたと過ごすたび、あなたを知るたび、僕は本当にあなたのことを好きになってしまったんです。そんなこと、言えるわけがないのに。だってそんなことを言えば、あなたは僕のことを嫌いになるでしょう。あなたに嫌われる僕が、僕は嫌いです。だから言ってはいけない。なのに、あなたの顔を見ていたら、これ以上嘘をつくのはもう無理だとも思いました。
「違うんです」
僕は、
「うん?」
「僕、本当にあなたのことが好きなんです」
 やっぱりほんとのことなんて言えない卑怯な僕は、さっきと似たような言葉を繰り返しました。きょとんとした後で、パワプロさんが、優しく笑います。
「うん、知ってるよ」
 それはさっきと同じ返事でしたが、さっきとはまるで違う意味の返事でした。ああ。パワプロさんは、最初から、ぜんぶ、ぜんぶ知っていたんですね。それなのに、一度も僕のことを責めないで、僕の好きにさせてくれていたんですね。ああ。
「好きです」
 ごめんなさいと言ったつもりの僕の言葉にパワプロさんはやっぱり笑って、頭を撫でてくれました。思わず泣いてしまった僕に、パワプロさんはさっきと同じ言葉をもう一度だけ繰り返して、優しいキスをひとつ、くれました。





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屈折した進が好きだからすぐこういうの書くけどまじのまじのまじに好きです
ごめんなさいする進くん超゛かわいいよ
好き

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浅い眠り

浅い眠り(主人公と猪狩進と神童)

 窓から入る春風が頬を撫でていく、午後の昼下がり。初めて上がるその部屋は広くてきれいで、その居心地の良さに僕は完全に気が緩んでしまっていた。
 お茶を淹れてくると言ったその人の背中を眺めながら、奥にある広々としたキッチンを見て、いつかここで得意な手料理を振る舞って、一緒に食卓を囲むことが出来たらどんなにいいだろうかと夢想した。彼はチームメイトで、僕はただの後輩で、今日だって「昨日の投球内容を確認したい」なんて適当な理由を付けて家に上げてもらっただけだ。
 初めは、利用するために近付いた。それこそが、わざわざ逆指名でオリックスに入団した理由のすべてだ。兄と同じ投球スタイルの彼を見て、「これ」なら上手くいけば兄を倒せる、この投手を使って、僕のリードで、そう、僕の力で、ようやく兄に打ち勝つことが出来る。僕にとってそれはもはや勝ち負けというよりも、呪いからの解放といった意味合いに近しい。幼少期からついて回った兄の影を、ここで断ち切る。兄の弟ではない、猪狩二号ではなく、ひとりのプロ野球選手として、胸を張って立つために。
 そう思っていたのに、いつの間にか状況はずいぶんと変わってしまった。いつの間にかどころではない、自分でも自覚するほど明確に、この人に惹かれていた。そうでなければ、オフの日に理由を付けて、人の家に上がり込むような真似などするわけがない。
 利用するためにこの人のことが知りたかったはずなのに、今はただ、この人のことをひとつでも多く知れることが単純に嬉しい。そして、僕のことも知ってほしい。僕のことを見てほしい。僕が、この人のことを見ているように。

「進くん、起きた?」
 撫でる手の平の感覚に、目が覚めた。いつの間にかうたた寝をしていたらしい。ソファから身体を起こすと、目の前のその人は柔らかい笑顔を見せて笑った。
「ごめんなさい。僕、寝てたみたいで……」
「いいよいいよ、気にしないで」
 紅茶の匂いがする。僕が好んでよく飲むアールグレイティーに違いなかった。爽やかなベルガモットの香りが鼻をくすぐる。開いた窓から入り込んだ風はカーテンを揺らして、春風が一陣吹き抜けた。
 頭は、まだぼんやりしていた。ここは夢の中でみた「あの人」の部屋ではない。僕の「恋人」の部屋だった。
「進くんみたいにまだ上手く淹れらんないんだけど。良かったら、どうぞ」
「ありがとうございます」
 照れ臭そうにして頬をかくのは、この先輩の癖だった。見慣れた仕草に僕はいつもの顔で笑ってみせて、ティーカップを持ち上げる。前に僕が遊びに来たときに持って来た紅茶だった。
「おいしいです」
「よかったー」
 僕と違って砂糖とミルクをたくさん入れて飲むその先輩は、無邪気に笑いながら自分もカップを傾けた。それを見ながら、あの人は僕と同じでストレートで飲むのだったなと、そんなことを思い出していた。
 先輩は兄と同級生で、学生時代には甲子園行きの切符をかけて戦ったこともある。僕は猪狩守の弟として、この人と対峙していた。今は、チームメイトであり、よき先輩、よき後輩の仲である……というのは世間体としての建前で、僕たち二人は少し前から交際関係が始まっていた。告白したのは、僕だ。
「今日はどうする?進くん疲れてるみたいだし、ゆっくりしようか」
「いえ、予定通り買い物に行きましょう。久しぶりに、スポーツショップの新商品も見たいですし」
 そうだねと答えた先輩の手の平に自分のそれを重ねると、先輩はほんのり頬を染めて、静かになってしまった。黙ってしまった先輩にもたれかかり、その肩口に頭を乗せる。
 あの人のことを忘れるために付き合い始めたのに、一人でいるときよりも多く思い出すようになっている。目を閉じると、今でもあの人の笑っている顔を鮮明に思い出すことが出来た。神童さんは、こんなふうに優しく頭を撫でてくれたことなんて、一度もなかったのに。




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騙されたと思って進くんのWikipedia頁を一度読んでみてほしい。こういうことが書いてあるので、マジで

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あなたころしすぎたのね

こういうとき、自分はどうすればいいのか、分からなかった。
「オレ、進くんのことが好きなんだ」
 一緒に居残り練習をした帰り道、もうすぐ別れることになる交差点へ差し掛かる前に、彼は言った。部活動の先輩で、歳はひとつ上。兄の同級生で、兄とはずいぶん親しくしているように見えた。
 並んで歩いていた足を止めて、彼の方を見る。自分よりも体格に恵まれていて背が高いので、少しだけ見上げるような格好になる。僕の視線を受けて恥ずかしそうに、それでいて真っ直ぐとこちらを向いたまま背筋を伸ばすその姿は、彼の人となりを表しているようだった。誠実さと実直さ、そして素朴な温かさ。はにかんで、笑う。その次に来る言葉が予想されて、僕は息を詰めた。
「オレと、付き合ってください」
 彼の言う付き合うというものが、例えば今日のように居残り練習を共にすることだとか、次の週末に一緒にミットを見に行くことだとか、そういう類のものではないことは勿論分かっている。同性だからという偏見や嫌悪感も特にない。だって、彼は兄のことが好きなのだろうと思っていたのだから。
 だから僕は猪狩守の弟として、彼にとっての「進くん」であるように努めて接してきた。兄とは違って素直で従順な、礼儀の正しい弟。求められている自分の役割をいつも通りに果たしてきたつもりだった。それで僕たちは、僕の周りは上手く回っていたし、兄も彼もそれで楽しそうにしていた。
 もちろん、すべてが嘘や演技というわけではない。僕は僕なりにこの先輩のことを好ましいと思っていて、ただそれは兄を好きな先輩として見ていたからという可能性が捨てきれないだけであり、突然それらが兄ではなく自分に向いたとき、どうしたらいいのか分からないだけだった。兄の弟としての「進くん」がどうすればいいのかは分かるのに、進として自分がどうしたいのか、分からなかった。
「進くん」
 あなたのことが好きです。でも、どうしたらいいのか分からない。兄なら、こういうときにどうするだろうか。そういうことを考えた自分に心底嫌気が差して、僕は少しの間、目を閉じた。もう一度目を開けたところで、世界が変わっているなんてことはないのに。

あなた殺しすぎたのね





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ほしいが言えない進くんのはなし
自分をころし続けてずっといい子でいたからわかんなくなっちゃった
これからは主人公ちゃんがその手を取って一緒に考えてくれるね……

頭に浮かぶ言葉にこのタイトルがあって、いつか書いてみたいと思っていたらさすが進くん、書かせてくれました。ありがとう。

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ぜんぶ食べるまで

ぜんぶ食べるまで

 とんでもないことになった。
 想像もしていなかった不測の自体に、猪狩進は頭も身体もすっかり停止してしまって、固まっていた。やけに鼻につく、焦げ付いた甘い匂い。オーブンから取り出したケーキは、見事に爆発していた。チョコレートケーキだったため、より臨場感のある爆ぜ方をしている。まるで爆弾が飛び散ったかのような有り様だ。
「ど、どうしよう……」
 頭の回転が早く聡い進は、普段であれば大抵の困難は機転を利かせて乗り越えてきたが、よもや制作していたチョコレートケーキが爆発するとは思いもせず、動揺していた。キッチンの周りをうろうろと歩き回る。料理は自分の得意分野であり、そもそも先週練習として作った分は、完璧に近いものが出来ていたのだ。それが、どうしてこうなった。
 もうもうと黒い煙まで出して爆ぜているそれを見ながら、進はかつての兄が自らの髪をアフロヘアーに弾けさせていたときのことを思い出していた。あれも見事に爆発していた。いや、こんなことを考えている場合ではない。一刻も早く、焼き直さなければ間に合わない。今日は大切な彼と、約束をしているのだ。
「もしもし、進くん?」
「あの、パワプロさん」
 ひったくるように携帯を掴み、約束の時間をずらして貰えないかと進は頼むつもりだった。随分と機嫌の良さそうな彼が、そう言うまでは。
「丁度よかった!実はオレ、楽しみすぎてかなり早く着いちゃったんだよ。今ね、進くんちのマンションの下」
「え!?」
 窓に寄りカーテンを開けると、眼下で嬉しそうにこちらに手を振る彼の姿が見て取れた。今日は天気が悪く氷点下まで冷え込むこともあると天気予報は告げていた。そんな寒空の下、にこにこと微笑む恋人に帰れなどと言えるはずもなく、進は観念して彼を自室に招き入れた。
「あの、本当に、ごめんなさい」
「いや、オレこそ早く来ちゃってごめんね。ケーキ爆発したって言ってたけど、怪我とかしなかった?」
 静かに頷く。事情を話した進はしきりにごめんなさいと繰り返して、付けたまま外すのも忘れていたエプロンの裾を握りしめた。自分の誕生日を祝いに来てくれる彼のために、とびきり美味しいケーキを用意しておくつもりだったのに、不甲斐ない。優しくされればされるほど、進はどうしたら良いのか分からなくなって、キッチンの隅で小さくなっていた。下ごしらえは昨晩すべて済ませておいたご馳走の用意も、この後しなければならないのに。
「あのさ、これ食べてもいい?」
「だ、ダメですよ、こんなの。まずいですから!」
「うん、真ん中のところはそんなに焦げてないし、美味しいよ」
 彼は優しい。いつも通り底抜けに優しい彼の笑顔に力が抜けて、進はようやく落ち着いてきた。あとで無事なところを食べるから捨てちゃだめだよと何度も言い含める彼に、進は素直に頷いて少しだけ笑った。
「あ、そうだ!オレも進くんに、バレンタインのチョコレートと、誕生日にワイン買ってきたんだ。ふふ、ちょっと奮発しちゃったから、楽しみにしててよ」
 進が精一杯の笑顔で応えてみせると、彼は進の髪をくしゃりとかき混ぜて、また笑った。
「誕生日にも頑張り屋さんの進くんには、オレが今日一日めいっぱい甘やかしてあげるから、覚悟してて」
「ふふ、なんですか、それ」
「なんでもいうこと聞いてあげるよ」
「ほんとうに?」
「うん」
「なんでも?」
「うん」
「じゃあ、チョコレート食べさせてください」
 彼の持ってきたチョコレートの包みを指差して、進は言う。そんなことでいいのと瞳で問う彼に進はゆっくり頷いて、きれいな包装紙が剥がされていくのを黙って見つめていた。いかにも高級そうなその一粒を摘み、彼が進の口元に持っていく。あーん、と言って口を開けた進はしかし、その手を取ってそのまま彼の口の中にチョコレートを入れてしまった。
「オレが食べたら……ん」
 少しだけ背伸びをして、ちょこんと唇を合わせた進は、彼の瞳を静かに見つめ返した。ようやく合点がいったらしい彼に腰を抱き寄せられ、進はうっとりと目を閉じる。それはこちらの好みに合わせたビターチョコレートで、甘い甘いそれに進はくすくすと笑った。
「もう、食べさせてくれないんですか?」
 首の後ろに手を回して、催促する。チョコレートをねだったのに、降ってきたのは柔らかい彼の唇と温かな包容だった。進は心から満足して、幸せを噛み締めながらチョコレートを飲み込んだ。
「進くん、誕生日おめでとう!」




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Happy birthday & Valentine´s day!
久しぶりに進くんおたおめバレンタイン書けて嬉しい〜!!!おめでとう〜!!!
進くん幸せであってくれ

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